これ迄の男の人生に"失敗"の文字は無かった。

両親は里でも確かな力と地位を持っていてそんな二人の間に産まれた男は同世代の中でも随一の力を持って産まれる。

まるで階段を登るようにトントン拍子に進む男の人生。

周りが一度や二度の失敗で落ち込むなか男はやはりトントンと彼らより上を登っていく。

下忍から中忍へ、

中忍から上忍へ

と易々と人生の階段を登る男はそんなトントン拍子の人生をつまらないと思う事もなくこのままトントン上へ行き続けると信じてた。

そんな男の人生である日転機が訪れる。

里の規模の問題もあり他国との戦争で劣勢にたたされた里に危機を抱いた里の重鎮達は子供の寝話に聴く一人の娘を拐う計画を建てた。
沢山の術を知り、使う娘を使い里の強化を目論む重鎮達の放つ矢は順風満帆な人生を送る男に刺さる。

『今話した娘は身分偽り木ノ葉の里にいる。この娘を木ノ葉から奪い里に連れてまいれ』

その命を受けた男は一、部隊の隊長となり里を出て木ノ葉の里に潜伏する。
寝話に出てくる様な幻に近い娘を探しだすのには手間取るかと思いきややはり簡単に見付かり、自分達と同様に娘を狙い返り討ちにあった他国の忍のおかげで攻略方法も見つけられた。
このまま娘が油断する姿で里の外に連れ出し作戦を決行して娘を里に連れて行けば任務は終了。


なんだ凄く楽じゃないか


男はその時は確かにそう思っていた。
しかし、現実はどうだろう。
せっかく作戦は上手くいっていたのに邪魔が入り娘は奪い返され、男は右腕をぱっくりと斬られてしまった。
斬られた腕はまともに使えず、印は上手く結べず、使える左手に剣を持つも利き手ではない手で持っているので扱いずらい。
そんなハンデを負ってまで追い掛ける相手とはかなりの距離が開いていて、必死に彼らを追い掛ける男の頭には人生初の"失敗"がちらついていた。

｢私があんな女子供相手に"失敗"するなんて｣

男は木の枝を蹴る足に力を込める。
蹴って蹴って蹴って、出せる渾身の力を足に込めて枝を蹴る。


｢カカシ君、敵が近付いて来てる｣

｢くそっ｣

距離はそれなりに離れていた筈なのにじわじわと縮められる距離。
カカシもこのまま追い付かれては不味いと枝を蹴る足の力を込めるのだが、男はその何倍の力を込めて蹴り飛ぶ。

｢お前達なんかに私の人生を滅茶苦茶にされてたまるか！！｣

その気迫を持って一気に距離を縮めた男は一旦剣を腰に戻しクナイを数本掴むと

投げた。

｢アカリさん頭を下げて！｣
クナイに気付いたカカシは抱き上げるアカリに頭を下げさせ、自分も避けようとする。
のだがすかざず男が第二軍に投げたクナイにカカシは避けきれず、何とかアカリだけでも庇おうとしたカカシは足の踏み場にしていた細い枝からずり落ち二人は真っ逆さまに
何か掴もうにもアカリを抱いていて手が出せないカカシは落下の衝撃から彼女を守ろうと強く抱き締めた。


｢忍者も木から落ちる、か｣

男が見つめるなか、勢いよく落ちたアカリとカカシ。
もの凄い衝撃は感じたものの擦り傷程度の怪我で済んだアカリはカカシの腕の中から体を起こした。

気づけばアカリはカカシの上にいて、慌ててそこから下りたアカリは横たわるカカシの体を小さく揺らす。

｢カカシ君、カカシ君！｣

｢アカリさん・・・？

早く、逃げて｣

そこで呻き声を上げたカカシは浅い息を吐きながら生傷だらけの体を起こすと、アカリが逃げるのを急かす様に力ない腕で彼女の体を押した。


｢あの子供、まだ生きてるな｣

剣を再度握った男はカカシ達が落ちた木の枝から飛び降りると着地点にいるカカシを狙い剣を構える。

｢このまま生かしてはおけまい｣

また邪魔されぬよう構えた男の鋭い剣はカカシの体に目掛け落ちた。
カカシも自分を狙う剣には気づいていたがあちこちを骨折していてこれ以上動けない。
剣との距離が縮み、カカシが諦め男が笑った時にアカリが動いた。


カカシを庇うように立ったアカリは男に手を伸ばす。

落下の勢いと男の全体重を乗せて落ちた剣はアカリの胸を貫き、彼女の伸ばした手が男の体に触れる。
瞬間、男の体が爆発したかの様に破裂させたのとカカシを庇い剣を受けたアカリが体勢を崩し倒れたのはほぼ同時だった。