日差しの入らない薄暗い森に動く白光はアカリを抱え走る男を襲った。

｢ぐっ、｣

男が後方の様子ばかりを気にしていたからかもしれない。
右からの気配に気付かず、気付いた時には眼前に白光と白銀が迫っていた。

降り下ろされた刀が肉を裂き、筋を裂き、腱を裂く。
骨までとはいかなかったが力が入らなくなった右腕からアカリがずり落ちる。
重力に引っ張られ真っ逆さまに地面へと落ちるアカリを白銀が受け止めた。

｢まさか仲間がいたとは｣

斬られた腕を押さえながら男はアカリが落ちた場所を見つめる。

｢何としてでもとりかえさなければ｣












皆が私を指差す。

化け物と、

お前は化け物だ

死んでしまえと誰かが石を投げる。

痛い痛い

誰か助けてと、手を伸ばしても誰も掴んでくれない。
此方が掴もうと伸ばした手は強く払われる。

私を囲む輪の中であの子を見付けた。

『・・・ちゃん！助けて』

何とか彼女の側に行って服を掴めた。
瞬間、頬に走る熱。

『・・・ちゃん？』

『っ触るな！この化け物』

世界が暗転した。
文字通り世界は真っ暗で立っている感覚がなくなって自分が今、どうしているかも分からない。

『恐ろしい化け物』

私は何もしていない

『化け物』

違う

『化け物め』

違う！私は


｢アカリさん！｣


そこでアカリは自分を呼ぶ声に目を覚ました。

｢カカシくん？｣

何故自分はカカシに抱えられ森にいるのか気を失う前の記憶を引き出している所でアカリは自分の口の異常事態に気付く。
なにこれ、と口を押さえたアカリは苦し気な声を漏らす。

｢口の中、凄く鉄の味がする｣

口の中に錆びた鉄でも入っているんじゃないかと思える程、アカリの口の中は嫌な鉄の味がした。
｢何で？｣とアカリが不思議そうに呟けばカカシがばつが悪そうに

｢俺が貴女の口に増血丸とかありったけのを入れたから｣

と告白。
もっと詳しく聞けば刀に刺され沢山の血を流している様だったのでアカリが気絶している間 に持っていた丸薬をありったけ飲ましたのだとか。

｢それより、大丈夫何ですか｣

何がと聞けばカカシはアカリのお腹を指す。
見れば森に来てすぐ刺されたのと同じ刀が数本刺さったままだったのだ。

｢う、うわぁ｣

それを見て流石のアカリも驚いた。
しかしそれよりもアカリを抱えたカカシの方が驚いている。
何とかアカリを助けまいと彼女の口に様々な丸薬を詰め込んだカカシであるがまさかこんなにもすぐに彼女が目を覚ますとは思ってもみなかったのだ。

｢多分痛みは無いと思うんです。痛み止めの丸薬も飲ませたので｣

確かに刺された時に感じる痺れる様な痛みはなかった。

｢これ、抜いても大丈夫かな？｣

そう言って刀の柄を掴んだアカリにカカシは一喝する。

｢駄目に決まってるだろ。抜いた瞬間に傷口から血が溢れ出す｣

｢でも、お腹に刀が刺さったままなのも嫌・・・あ、傷口から血がでなければ良いんだよね？｣

｢え、まあ｣

それなら、とカカシは頷く。
しかしアカリを奪還するのも突発の為医療忍者何て連れて来てはいない。
それならばアカリも喋れる程元気はあるようなので今も自分達を探す敵の様子を見て里の病院に駆け込んだ方が良いだろうとカカシは考えていた。

のだが、

カツンと刀が飛ぶ。
それはアカリの体に刺さっていたものでカカシが慌てて地面に落ちた刀から彼女の方へ視線を向ければ、アカリは自分のお腹に手を当てていた。
その手は淡いチャクラの光に包まれている。

｢医療忍術、使えたんですね｣

自身の肩から力が抜けるのをカカシは感じた。

｢うん。友達が使ってるのを見よう見まねで覚えた｣

｢見よう見まねって！｣

高度で繊細さを要求される医療忍術がそんな簡単に出来るものかとカカシは又も慌てたが、確かにアカリのお腹の刺し傷は癒えている。

｢ちょっとだけ待ってね残りもすぐに終わらせるから｣

そう言ってアカリは一本刀を抜いては塞ぎ、又抜いては塞ぎの作業は何度か続けた。
その間、カカシは敵が近付いていないか辺りを見張る。

最後の一本を引き抜き、傷口を塞いだアカリは｢終わった～！｣と両手を挙げて喜んだ。
さっきまでお腹に刀が刺さっていたとは思えない様子である。

しかしこのまま、只喜んでいるわけにはいかない。

アカリをカカシに奪われた忍はまだ辺りを捜しているだろうし、自ら囮となったミナトをカカシは気にしていた。

｢取り敢えず俺達は森を抜けて一旦、里に戻ります｣

｢う、うん｣

｢！俺に掴まって｣

それは突然だった。
カカシの言葉に従い、彼の首に腕を回したアカリを抱えカカシは地面を強く蹴る。
そのまま地から木の幹、枝へと移れば先程迄いた地面が浮き上がり男が出てくる。

｢さっきの｣

それはアカリを始めに刺した男だった。

｢俺達はまだ彼奴に追われてる。今、見て分かると思うけど俺は貴女を抱き上げてるから印は結べないし刀も握れない｣

｢・・・つまり足手まといですか｣

｢そういうわけじゃないけど、これじゃあ応戦できないから俺達は取り敢えず逃げる｣

分かったかと尋ねられアカリは力強く頷く。

｢乗り心地は悪いと思うけど里に着くまで辛抱してよね｣

そう言ったカカシは木の太い枝を蹴った。