｢カ・カ・シ・君｣

自分の名を呼び近付いてきた相手にカカシは盛大に嫌な顔をした。
だがそんな表情をされても相手は気にする様子もなく一歩、また一歩近付いてくる。

｢カカシ君、｣

｢違います。俺はカカシ何て人間じゃありません。

全くもって他人です｣

普通、どう考えてもそんな見え見えの嘘が通じるわけがない。
だが、相手は｢何だ他人か｣何て呟いている。

通じるのか、この嘘が

自分でついた嘘ながら流石に信じられなかった。
困り俯いた顔、だがその顔はすぐに上げられ破顔する。

｢じゃあ、カカシ君に似た何処の誰か分からないお方｣

笑った時点で何となく次の展開が読めたカカシはこんな茶番劇、早々に閉幕するべきだと思い言った。

｢もうカカシで良いですよ。アカリさん｣


｢あれ、もう終わり何ですか？他人のふりごっこ｣

アカリの言葉にカカシはやっぱり分かっててやってたのかよと軽く毒づき、"ごっこ"と又しても子供扱いされている事に気付いて不快感を露にする。

もうこの人には付き合っていられないと踵を返して歩き出すカカシ。
その後を追う足音。

暫くは無視して歩いていたが幾ら歩いても付いてくる足音にカカシは足を止めて振り返る。

｢付いて来ないで下さい｣

｢え、でも私｢付いて来ないで下さい｣はい｣

カカシの只ならぬ気迫に圧されアカリは頷く。
付いて着ていないのを確認しながらカカシは歩き出した。

カカシはアカリが嫌いと迄は行かないが苦手だった。

いつもへらへら笑っている所は勿論、素性がよく分からず兎に角怪しい所。
カカシが苦手と感じるのはそこが一番の原因だろう。


初めて合った時は変な女だと思った。

自分の事を"君"と呼び、大人気ないとも思ったが不機嫌を露にした。

それでも彼方から握手を無理矢理してくる。
その瞬間、何故会ってすぐに気付かなかった？と自分を疑いたくなる程の血の臭い。

しかも一人や二人ではない沢山の強烈な血の臭いにその日は彼女と会ってからはずっと頭痛が続いた。

それほどの臭いを彼女は何食わぬ顔をして纏っていたのだ。
さも自分は虫も殺せないという顔をして。



それが気持ち悪く恐ろしくてカカシはある日、ミナトにアカリの事を尋ねてみた。

『彼女は何者なんですか？』

だが回答は｢アカリちゃんはアカリちゃんだよ｣と笑顔で返されたのだ。
先生は知っていてあんな風に返したのか？そう思ったりもしたが結局は"先生も彼女が何者か知らない"という結論に至った。

だって先生が俺に嘘をつく筈がない。

そんな単純な理由だ。


カカシはふと、足を止めて振り返る。
振り返るカカシに慌てて物陰に隠れようとする相手に深く盛大な溜め息をつく。

｢俺、付いて来ないでっていいましたよね

アカリさん｣

そう言えばアカリは苦笑いを浮かべ物陰から出てきた。
彼女にまだ何か用があるのか尋ねれば｢あのね、｣と何か言いたげにしているのだがなかなか言わない。

｢何ですか？言いたい事があるならさっさと言って下さい。

俺も暇じゃないんです。

そういえば今更ですけど護衛は｣

彼女は外を出歩く際、護衛が必要だとカカシはミナトから聞いていたが辺りを探っても護衛らしい気配が一つもない。

｢護衛は、カカシ君を見付ける迄
ミナトさんといたの｣

｢あー先生と・・・て、"迄は"ってどういう事なんです｣

｢だから、・・・｣


彼女の話ではこうである。
買い物をするためミナトに付き添ってもらっていた。
だが途中でカカシを見付け、ミナトは知り合いと話していたので何も告げずカカシの後を追った。

｢で、俺の後を追っている内に帰り道が分からなくなったと｣

｢うん！｣

｢貴女、馬鹿ですか｣

カカシの"馬鹿"発言にアカリは違うと否定するのだが声が語尾に近付くにつれて小さくなる。
認めなくても自覚はあるのか、とカカシはまたも溜め息をついた。

目の前にいるのは自分が苦手と感じている相手。
だが彼女は絶賛迷子で、護衛の先生はいない。

｢と、なると｣

今日は溜め息が沢山出る。

そう思いながら来た道を引き返しだすカカシ。

｢？｣

｢なにしてるんですか。先生の所に戻らないといけないんでしょ｣

カカシの言葉に顔を輝かせたアカリは慌てて彼の隣へ向かう。

｢ミナトさんの言う通り｣

｢先生が何か？｣

自分に対して言っていたのか。
それは気になるとカカシは尋ねればアカリは何時も言ってるのと、笑う。

｢カカシ君は頼りになる子だって｣

｢・・・何時も？｣

｢うん、任務の後とかによく言ってる｣


｢そう、ですか｣

呟く様に言ったカカシは歩いていた速度を一気に速めた。
それを駆け足で追いかけるアカリ。

｢待って！カカシ君！｣

｢遅いと置いて行きますよ｣


｢え～・・・

待って！｣