｢こちらが当主であるヒアシ、
その隣にいるのが弟のヒザシになります｣

目の前に並ぶ同じ顔にアカリは思わず

｢そっくりですね｣

と呟いた。
双子とは予め聞いていたがまるで鏡で映したかのような同じ顔はヒザシが額当てを付けていなければ分からない程。
失礼だと思うのだが何度も二人の顔を見比べていたアカリはヒザシを見つめた。

正しくはヒザシの額。

｢私の顔に何か？｣

｢いえ、ただ額の呪印が気になりまして｣

アカリの一言に集まっていた一族の者達はざわつく。
世間一般には知られていない呪印、それをヒザシは額当てで隠しているのにアカリはあっさりと見付けた。

｢眼を守る為なら家族迄も犠牲にするんですね｣

深い溜め息をついたアカリは立ち上がり外にいた大蛇丸を呼ぶ。

｢アカリ様？！｣

何事かと固まるヒアシとヒザシの後ろに控えていた老人は慌てて立ち上がった。
アカリは嫌悪感を露にし、見るに堪えきれないと言った様でそんなアカリの様子を大蛇丸は楽しんでいる。

｢お姫様はご機嫌斜めね。

ご用は何かしら？｣

なんて冗談まじりに尋ねれば、｢帰る｣の一言。
帰る準備をするアカリに老人はすがり付くのだがすぐに絡む腕をほどかれて冷たい目で見下される。

｢とても残念だわ。

あの青年はあんなに素晴らしかったのにその子孫はこんなにも大馬鹿ばかりなんてとても残念よ｣

当主と変わらぬ権限を持つであろう老人が娘の足にすがり付く姿には笑いを誘うものがあった。

だが、誰も笑わない。

いや、笑えない。

情けない老人の姿を部屋にいたものは眺めるだけで誰も止めには入らない。

｢アカリ、準備は良いかしら？｣

｢うん｣

大蛇丸はアカリの腰に腕を回すと彼女の返事を合図に消えた。
立ち込めた煙が窓から逃げていくと二人がいた場所には老人しかいない。
部屋にいた者達はやれやれと言った様子で、呆然と空を見つめる老人には敢えて声をかけずに部屋を出ていく。

｢結局、何者だったんでしょうね彼女は｣

ヒアシが考えていた事を代弁するかの様にヒザシは呟いた。
日向の当主であるヒアシも分家の当主であるヒザシも、部屋にいた者達も皆、老人を筆頭にした比較的に年老いた者達に集められただけで何故集められたのか理由も教えてもらってはいない。

ただ娘が明らかに木ノ葉の名家である日向より地位が上なのは今も呆けている老人の様子を見ていて分かる。


そろそろ二人は部屋を出ようかとした時、ヒアシもヒザシも老人を放っておくべきか迷った。
二人の視線に気付いたのか老人に

｢一人にしてくれ｣

と言われて、二人は部屋を出る。
｢結局、彼女が何者か分からぬままですね｣

｢三代目の親族か何かだろうか？｣

｢だったら何か用を済ましてから帰られるでしょう｣

ヒザシの言葉にはもっともで、二人は｢ふむ、｣と同じ動作をして頭を傾げた。

廊下を歩いていれば庭に光る物を見付ける。

｢ヒアシ、様？｣

履き物を履かず庭に下りたヒアシはその光る物を広い上げて空に翳した。
それはキラキラと太陽の光を受けて輝く無色のビー玉で、何故庭にビー玉が落ちているのかと不思議に思うのだがそれと同時に懐かしさも感じる。
後を追い、庭に下りたヒザシはヒアシが翳したビー玉を見て、｢懐かしいですね｣と言う。

｢私も同じ事を考えていた｣

やはり、双子だからなのか同じ思考に笑みが溢れるがそれをすぐに止めてビー玉を翳す腕を下ろす。

｢きっと今日の集まりに付いてきた子供の一人が遊んでいて落としたんでしょう｣

｢そうか｣

何も危ない物を感じなかったビー玉をヒアシは何となく服にしまった。