射し込む陽射しを遮る為にアカリは黒い日傘をさす。
日傘を片手に歩くアカリを挟む様に二人の男が歩く。

｢ミナトさんは聞かないんですか？｣

呟きにも似たアカリの問いかけにミナトは｢何をだい？｣と尋ねる。

｢彼の事、｣

アカリが指を指した先には名前の知らない男。

｢ああ、彼の事か｣

始め、男を見たときは何者かと警戒していたミナトだったが会話をしてからは警戒するのを忘れ、男がいた事もすっかりと忘れていた。
存在の影が薄いと言うよりは上手く空気に溶け込み消えている男をミナトは暗部の人間なのだろうと推測する。
影である忍者を影から殺す彼等なら気配を完璧に消す事など造作ない事なのだから


ミナトの予想通り、彼は暗部だった。
しかも新しく派遣された暗部などではなく、アカリのかけた術により今も居間から動けない暗部の内の一人らしい。

｢・・・つまらない｣

言葉通りの顔をしてアカリはミナトにそっぽを向く。

｢え、つまらないって｣

何でと聞きたそうなミナトに男が苦笑いを浮かべた。

｢アカリさん、ミナトさんが驚く顔が見たかったそうで｣

｢せっかく、影分身を教えたのに｣

｢影分身・・・あ、だからここにいれるんだね｣

しかも買い物の荷物まで持っている。

｢動けないのは私の責任だし、人の子は食事を摂らないと死んでしまうんですよね｣

｢そう、だね｣

食事は君も摂らないと死んじゃうでしょ？と、思わず言ってしまいそうだったが話がややこしくなりそうでミナトは言葉を飲み込んだ。

｢だからせめて、食事だけはと｣

｢ミナトさんが来てもいないのに買い物に出ようとしていたので止めたんですが｣

止められず、影分身を修得してまでして彼はここにいる。

｢あ、その、お疲れ様です｣

ミナトが労りの言葉をかけると、男は疲れた表情を浮かべて笑った。






ただいま、と家に入るアカリに続いて男二人も入る。
日傘を下駄箱の側に立てかけると、アカリは二人にスリッパを出す。

｢これ、どうしますか？｣

男が持ち上げて示した買い物袋を見てアカリは｢取り敢えず台所に｣と言った。

｢分かりました｣

袋の中に傷みやすい物でも入っているのか、男はアカリを抜かし小走りで台所へと向かう。
それに対し、アカリとミナトはいつも通りな速度で居間へと入る。

｢ぐわぁぁっ！またババかよ｣

それはとても見覚えある光景だった。
猿と犬の面を被った男二人がババ抜きを楽しむ姿にミナトは既視感を覚える。

｢アカリちゃん、彼等っていつもこんな事をしてるの？｣

｢はい、何でも相手と駆け引きを行うのが実践にも役立つ訓練だそうで・・・

お二人共、仕事に熱心ですよね｣

｢アカリちゃんって素直というか、純粋過ぎるというか｣

｢？取り敢えず、ミナトさんもここで寛いでいて下さい。
すぐにご飯を用意しますので｣

勧められるがまま、ミナトは居間で腰を下ろし、暗部二人の熾烈なババ抜きを眺めていた。
エプロン片手に台所に入ったアカリと入れ替わりに男が台所から出てくる。
そして犬の仮面をした男の側へ駆け寄ると、男は煙と共に消えてしまう。

｢先程はどうも、｣

犬の面を被る男はミナトに軽く頭を下げる。

｢そうだ、ミナトさんも一勝負どうですか？｣

トランプを差し出され、ミナトは考える間もなく｢じゃあ｣と受けとった。