自来也の昔のあだ名に集まっていた人達が不審な目で三人を見ていた。
居心地の悪い雰囲気にやっと気付いたのか自来也はアカリを小脇に、ミナトを肩に担いでその場から慌てて離れる。
そのまま何処に連れていかれるのか大人しくしていたアカリは自来也の顔をにこにこと眺めていた。

｢なんだ？アカリ。ワシの顔に何か付いとるか｣

｢ううん。自来也君大きくなったなぁって｣

ふふ、とまるで息子の成長を喜ぶ母親のような穏やかなアカリの笑みに自来也は顔を背ける。
その顔が赤くなっていたのに気付きアカリはまた笑った。





駆け込む様に店に入ると、自来也馴染みの店なのか奥の座敷へと案内される。
そこでまず肩に担いでいたミナトを放り投げ、上手く着地したのを確認するとアカリを床へと下ろす。

自来也にしては珍しく、壊れ物でも扱うかの様な動作にミナトは驚きながらも文句を溢した。

｢俺もアカリちゃんぐらい大切に扱って下さいよ｣

｢何を言っとんだお前は・・・ワシは男を可愛がる趣味はねぇ！｣

｢此方、お絞りになります｣

｢あ、ありがとうございます｣

静かに入ってきた店員はお冷やを置いてお絞りをアカリに渡した。
｢お飲み物だけでも先にお伺いしますが｣と言われ、アカリは渡されたメニューを見る。

｢あ、俺ビールで！｣

｢お前、居酒屋に来て麦酒頼むか？フツー｣

｢えー普通ですよ｣

ミナトの言葉に店員は｢最近、多いですね｣なんて同意していた。
自来也は今時の若者は、なんてぶつぶつ言いながら店員に何時ものをと頼む。

｢アカリはどうする｣

メニューを見つめているアカリに自来也は尋ねた。
あーうー、と呻き声を漏らしメニューをひっくり返してみたりしている。
アカリにはメニューに書かれた文字が読めてもその内容が分からない。


結局、そんなアカリを見かねて自来也が｢このオレンジジュースを頼む｣と店員に注文し、店員は部屋から出ていった。

｢それにしてもどうしてアカリちゃんの隣が先生何ですか｣

俺の隣も開いてるよ！なんて隣の開いた席をぱんぱんと叩いている。
行くべきかな、とアカリが腰を浮かせた所で自来也がアカリの肩を抱く。

｢いっちょまえに嫉妬かぁ？アカリは止めとけ、おめーにアカリはもったいなすぎるわ｣

｢嫉妬とかそういうのじゃなくて！俺はアカリちゃんの護衛を務めてるから｣

｢お前が？アカリの護衛を？｣

それ本当か、と尋ねられ水を飲んでいたアカリはコクりと頷く。

｢はーっお前がアカリの護衛をのぅ・・・｣

自来也はじっとミナトの顔を見つめた。
何も言わず見つめてくる自来也に｢何ですか｣と尋ねるが答えは帰ってくる事なく、今度はアカリを見つめる。

｢どうしたの？｣

｢こいつに変な事はされとらんかと思ってな｣

彼の言葉にいち早く反応したのは酷い言われ様のミナトだった。

｢していないですよ！そんな先生じゃあるまいし｣

こっちもこっちで言いたい放題、ミナトの発言にアカリも賛同する。

｢・・・そうですね。自来也君と初めて会った時みたいに胸を触られてもないですし大丈夫ですよ｣
笑って話すアカリに部屋の空気が固まった。
ミナトが呆れた顔をして自来也を見ている。

｢先生・・・見損ないましたよ｣

最低だ、と言わんばかりの視線をミナトは自来也に送る。

｢ばっかっお前は何を想像しとんじゃ！昔の話だ昔の話｣

｢・・・昔って何時の話ですか？アカリちゃんって俺と変わらないですよね｣

ミナトの訝しんだ問いに『んぐっ』と飲んでいた水でアカリは噎せた。
ゴホッと机に置かれたナフキンを口に当てて咳をする。
そのアカリの背中を擦る自来也。

｢水で噎せるって相変わらず器用な奴だな。大丈夫か？｣

｢大丈夫です・・・｣


ちらっとミナトを見れば彼は今だ訝しげな表情をしていた。