twst短編
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セベク・ジグボルトは末っ子である。
そして同郷の仲間内でも最年少であるセベクは本人は勿論、周りも気付かぬ内に可愛がられていた。
そんな彼の末っ子というポジションを脅かす存在が突如、空より降って来る。
俵型の小さな身体につぶらな瞳、自ら積み合う姿からツムツムと名付けられた彼等。
彼等の中にはセベクそっくりなものもおり、それを学園長の一存でセベクが世話する事となった。
幾ら自分に似ているとはいえ、正体も分からぬ生き物をマレウスに近付けるわけにはいかないと一度は断るセベクであったが結局、押し切られる形で引き取る羽目となった。ならば、せめてこの生き物がおかしな動きをせぬ様、見張らなければと意気込むセベクであったが
「これはまた、珍妙で、愛いのぅ」
小さく柔い、まるでぬいぐるみのような姿は見るものの庇護欲を掻き立てる。
それはセベクそっくりの姿をしたツムも例に漏れず、寮の皆から可愛がられた。
シルバーやリリア、マレウスからも可愛がられるツムの姿に幾ら少しばかり自分に似ているとはいえセベクはそれがどうにも腑に落ちない。
「こちらのセベクもマレウス様を慕っている様ですね」
「小さい形をして恐れを知らぬか。面白い」
正体不明、どういう生き物かも分からないというのにマレウスの一言で側に侍る事を許されてはセベクも我慢の限界である。
しかしセベクが意を唱えようものならリリアとシルバーからこんな小さな生き物に大人気ないと言うのだ。
特にシルバーはツムを自身の小さな友人達と同じとでも思っているのかいつもよりも小言が多い。
シルバーに咎められ、リリアからは嗜められたセベクはいつになく気落ちしていた。
「ところでセベク。時間は良いのか?」
幾らマレウスが許したとはいえ執拗に彼の側を付き纏うツムの警戒に当たっていたセベクはそこで漸く、今晩、ユウと会う約束をしていた事を思い出した。
思い出したのだがセベクは動かない。
「今晩はその生き物を見張る為にも約束はキャンセルしようと思います」
「しかしセベクよ。お主、外泊届けも出しておったではないか」
セベクの言葉にリリアは口を挟んだ。
今晩、セベクはオンボロ寮での勉強会を理由に外泊の申請をしている。
しかしリリアはその勉強会がセベクの彼女であるユウと二人っきりという事を知っていた。
なんならセベクにその気がなくともユウが今日の晩はグリムやゴースト達に頼んで正真正銘、オンボロ寮で二人っきりになれるよう裏工作を行っているのも知っている。
それだけ向こうは楽しみにしているというのにこのセベクの判断にリリアは異議を申し立てた。
「それはならん。ならんぞセベク」
「僕も反対だ。約束を反故するというのは良くない」
リリアに続いてマレウスも頷く。
「ですが、この様な正体も分からぬ生き物が若様の側に侍るなど危のうございます!」
周りがこの正体不明な生き物に誑かされている今、やはり自分が見張らなければと意気込むセベクにマレウスは今日一番厳しい声を発した。
「駄目だと言っている」
「ですが若様」
叱責とまではいかぬ、けれど厳しいマレウスの声色にセベクは眉を下げ、瞳をうるりと潤ませた。
「セベク、お前はもう良い。約束の時間には少し早いだろうがオンボロ寮へ向かえ」
「マレウス様の言う通りだ。護衛は俺と親父殿に任せてお前はオンボロ寮に向かうと良い」
マレウスにそう言われてなおこの場に居続けようとするセベクにシルバーは退室を促す。
それに対してセベクは反論しようとするが今度はリリアに止められた。
「マレウスもこう言っておるのだ。お主も今ばかりは職務を忘れ恋人との時間を楽しむが良い」
こうして半ば強引に寮から放り出されたセベクは戻る事も出来ず、肩を落としオンボロ寮へと向かうのであった。
「それでセベクは寮服だったんだね」
寮服のまま寮から追い出されたセベクはその格好のまましょんぼりとした様子でオンボロ寮を尋ねてきたものだからユウは驚いた。
寮服は彼の中で仕事着と同義なのかユウはプライベートであまりセベクの寮服姿を見た事がない。
その為、出迎えの際には酷く驚き、なんなら何かあったのかと尋ねた程である。
そうしてオンボロ寮に来るまでの経緯を聞いたユウは少し温くなった紅茶を飲みながらセベクがまるで末っ子でなくなった元末っ子の様だと思った。
親の愛情が生まれたばかりの弟に取られて拗ねる子供の様で可愛いとセベクを生暖かい目で見るユウ。
だいたい何時もであればこんな感想を抱いているとすぐさまバレて怒られるのだがよっぽど寮に置いてきたツムの様子が気になるらしい。
「今この時もあの正体不明の生き物に若様が襲われでもしたら!」
やはり今からでも寮に戻るべきか否かと頭を押さえ懊悩を繰り返すセベク。
「それはあり得ないから大丈夫だよ」
「リリア様達だけでなくユウまでそんな事を言うのか」
まるでツムを庇うかの様な物言い。
それがユウから発せられた事にセベクはショックを受けながらも彼女を見た。
「だってそのツム、ここにいるし」
この子でしょ?と、ユウが指差す先にはやけにユウの顔に近付いている自身そっくりなツム。
「いつの間に」
あれ程、セベクが引っ張ってもマレウスから離れようとしなかったツムがオンボロ寮にいる事に驚く。
が、それよりもツムの口があるであろう思わしき箇所とユウの唇が触れそうになるのに気が付いて、セベクは慌てて立ち上がるとツムを掴み部屋の角へと目一杯投げた。
しかしそのぬいぐるみの様な柔い体では硬い壁にぶつかるのも平気なのか直ぐに跳ね返った反動を利用してユウの元へと戻ってくる。
「ちょっと?!セベク」
「ええい!ユウから離れろ!!ユウは僕の彼女だぞ」
しかしツムはセベクの言葉に意を介さず、ユウの肩に飛び乗るとまるで何かを確認するかの様にユウの身体の上を行き来する。
セベクはユウに構いなく耳元で声を上げるのでユウの鼓膜は限界であった。
「全く貴様はなんなんだ!若様達だけでなくユウにまで近づいて何が狙いだ!!」
「狙いというか何か探してる感じだけど」
うろうろ、うろうろと伸ばされるセベクの手を避けつつツムはユウの周りを移動していた。
「ユウもコイツを庇うのか?!」
「庇う、というか」
見たままの事を話しているだけでユウに他意はない。
「リリア様もシルバーもコイツばかりを庇う!」
そもそも彼等が得体のしれないツムを庇うのは小さいからと、セベクと姿が似通っているからでは?とユウは思うのだがこれまで皆の末っ子ポジションで過ごしてきたセベクには自分より誰かが優先される事が初めての事なのだろう。
初めての事態に色々と処理が追いつかない様である。
この興奮しきった様子では自身の言葉も届くまいと思ったユウはセベクの顎を掴むと引き寄せ、その頬に唇を押し付けた。
「私がこんな事をするのはセベクだけにだよ」
幾ら見目が似てるとはいえツムにもこんな事はしないと伝えたユウは立ち上がりティーポットを手に取った。
「お茶のお代わりを作ってくるね」
そう言ってそそくさと談話室を出るユウの耳は赤くなっていた。
ユウが談話室から出て行って漸く我に返ったセベクは慌ててその後を追いかける。
「待て、待つんだユウ!」
ドタバタと談話室を出て行くセベク。
二人が談話室を出て言った事で室内は急速に静かになる。
「ああ、此処にいたのか」
ユウが急に立ち上がった事で床に転がってしまったツムは突如、目の前に現れたマレウスを前に飛び跳ねる様にして身体を起こした。
「お前はセベクと似ているからまさかとは思ったがやはりオンボロ寮に来ていたのだな」
魔法でツムを浮かせ、自身の手の平に収めたマレウス。
「となると、お前が探していたのはこの者か?」
そう言ったマレウスの肩の側で何かが動いた。
それは何処となくユウに似たツムであった。
気まずそうな様子のツムはセベクそっくりのツムの姿を捉えると勢いよく飛びついた。
その勢いで二匹はマレウスの手のひらからソファーへと落ちてしまうが二匹は構わない。
ツム自身が敬愛する方そっくりのマレウスが側にいるのを忘れて二匹のツムは互いの顔を擦り付け合い再開を喜び会う。
「お前達は世界が変わっても恋人同士なのだな。良い事だ」
二匹が自分達の世界に入ってしまったのを微笑ましく眺めながらマレウスは二匹の邪魔にならないよう静かにその場から退散した。
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