twst短編
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「ツノ太郎!」
授業の終わりを告げる鐘の音と共に教室を飛び出したユウ。
昼休憩に入り、賑やかになる廊下で目的のツノを見つけたユウはその胸板に勢いよく飛び付いた。
腕と足を背中に回し、しっかりと自身の胸に貼り付くユウを邪険にする事もなく、なんならユウが落ちない様その冷ややかな背中に腕を回すマレウス。
側から見れば恋人同士の熱い抱擁に見えない事も無いが、二人は決してそういう関係ではなかった。
「あったかーい」
制服越しでも分かる温かなマレウスの胸板に頬を押し付けて満足気に笑うユウ。
そんなユウにつられてマレウスも笑う。
「僕を暖房扱いするのはユウ、お前ぐらいのものだ」
「でもツノ太郎だって私の冷たさは嫌じゃないでしょ?」
「まあ、存外悪くはない」
そう、二人は恋人として出来ている訳でもないし高度な恋愛の駆け引きを行っている訳でもない。
ユウはマレウスの体温を暖房器具と、マレウスはユウの体温を冷房器具として互いに体温調整しているだけであった。
ユウは由緒正しき、正真正銘の雪女である。
冷たい雪で出来た身体は熱に弱い。
けれども身体を冷たくする事で冬のみならず猛暑厳しい夏でも過ごせる強かな雪女であった。
そんなユウであるが異世界であるこの世界に来てからのユウは冷え症に悩まされていた。
雪女が冷え症というのも変な話であるが本人は深刻である。
原因として考えられるのはこの世界がユウの元いた世界より些か平均気温が低い事。
元の世界の気温に合わせて体温調整していたユウの身体は突然に異世界へと来た事でなかなか順応出来ず、結果ユウは雪女でありながら冷え症になっていた。
常に寒い寒いと震えるユウ。
しかし雪女の身である為に人間のような対策は出来ない。
寒いからと下手に体温を上げようものなら逆に身体を溶かすまいと身体の冷えが強まりユウは再び震えざるおえないのだ。
冷え症なユウに対してマレウスは暑がりであった。
今は人間並の姿をとっているマレウスであるが本来は大きな体躯を持つ黒きドラゴンである。
マレウスが時折吐き出す緑の炎、それが常にマレウスの体内で渦巻いていた。
生まれた時からその身体に熱を抱えているので平気ではあるが暑いものは暑い。
自身に魔法をかけて常に体感する熱を冷ましてはいるものの冷たい、特に氷菓子を欲する程に暑がりであった。
そんな二人が互いの体温がちょうど良いと気付いたのは偶然である。
目の前でよろめいたユウをマレウスがキャッチし、意図せぬ形で抱き合った二人は相手が自分の求めるちょうど良い温度を持っている事に気付いたのだ。
それからこうして二人は時を見ては抱きつき互いを温め、冷ましているのである。
始めこそは外野が何かと騒いではいたが今や学園の日常風景の一つとなっていた。
「しあわせー」
立ったままというのもアレなので二人はベンチに移動した。
ベンチに腰を下ろしたマレウスの間にすっぽりと収まったユウはマレウスの特に温かい腹部へと身体を密着させる。
マレウス曰くそこには炎が渦巻いているらしい。
炎など雪女であるユウが触れればその身を溶かす天敵であるがマレウスの身体を通す事で程よい温度へと変じており、ユウは炎も悪くないといつもながらに思う。
対してユウの身体は全て雪で出来ている。
それは一見、普通に見える頭髪も実際は雪で出来ていた。
その為服に覆われる事のないユウの頭髪は特に温度が低い。
マレウスはそんなユウの頭を気に入っており、時折、髪や頭を撫でては涼んでいた。
側から見れば一目を憚らず身体を密着させて逢瀬を楽しむ恋人同士なのだが本人達には全くその気がないのだから周りはただただ不思議でしょうがなかった。
「お主はユウをどうする気なのじゃ」
そうリリアに問われるマレウス。
どうもこうも、マレウスはユウをどうする気もない。
「ユウは僕の友人だ」
自分達は友達なのだと言い切るマレウスにリリアはあからさまに深々と溜息を吐いた。
「はてさて、いつまでそんな子供の様な事が言えるのか」
リリアは呆れて物を言う。
その言葉にマレウスはどういう意味だと視線を厳しくさせたのに対してリリアは耳をほじりながら応えた。
「そりゃあユウに良人が出来たらお主と今の様に触れ合う事も出来んじゃろ」
だってマレウスとユウはただの友人。
ユウに彼氏が出来たら今の様に互いの身体を巷にいる恋人達ように密着させ合う事を相手の男が許す筈がない。
もし万が一に男の心が空より広く、何時もの行為を許したとしてもユウ本人が許すのだろうか。
今は互いに恋人もおらず友人だから、互いの利害が一致しているからマレウスで暖を取るユウであるが果たして恋人が出来たら、ユウは相手に義理を通すに決まっている。
そんなリリアの論にそんな事はない、ユウは恋人が出来てもこれまでと変わらず友人として振る舞ってくれると反論しようとしたマレウスであったがユウの性格を思い出して口を閉ざした。
ユウはリリアの言う通りそういう人物なのである。
マレウスならば別に暑い位は自身の魔法でどうにかなるし、ユウと出会う前はそうであった。
だがしかしユウの冷たい体温を覚えてしまった今、ユウに触れて感じる冷たさが感じられない時が何れ訪れるのかと思うと寂しく感じ、虚しさが胸に広がる。
気持ちを暗く沈ませるマレウスが視線を向けた先、窓の外は明るく輝いていた。
校庭ではユウのクラスが飛行術の授業を受けている。
今日は快晴で陽射しは強く、汗ばむ陽気である。
風も少なく、箒に跨り、太陽に近づけば近付く程太陽にじりじりと灼かれた。
加えてこの学園の体操着は黒く、陽射しをよく吸収するものだから空に上がった者達は続々と陽射しに当てられた汗を多量に流している。
唯一、涼しげな顔をしているのは雪女であるユウぐらいである。
そんなユウもこんな日に身体を激しく動かしてしまっては体調を崩すどころか溶けかけた雪だるまの如く身体を崩してしまうので木の影で見学していた。
「みんな頑張れー!」
そう、木陰で優雅に手を振り応援するユウの元に舌を出してへろへろと歩くグリムがやって来た。
グリムはユウに向かって飛び込むとその冷ややかな腕の中に収まる。
それに続いて次々とユウの元に生徒が集まった。
こんな陽射しの強い日のユウは身体を保つ為に何時もよりも多く冷気が出ている為、側にいるだけで涼しいのだ。
そんな天然の冷風機を求めて生徒達は一人、また一人と集まる。
いつもならば少しの休憩も咎めるバルガスは学園長に呼ばれて今は校庭から離れている。
そんなバルガスのいぬ間にしばし休憩する生徒達。
そんな生徒の内の一人が暑さに耐えきれずユウに抱き着いた。
そう、マレウスとユウが普段している様に身体を密着させたのである。
それを教室の窓から見ていたマレウスは目を大きく開き、手に持っていたペンを粉々に砕いた。
原型留めず、強く握られた箇所は最早粉と化すペン。
マレウスの手はペンのインク色に染まるがそれに構わず、今は授業中だというのに立ち上がると教師が止める間もなくその場から消えた。
「貴様、ユウに何をしている」
突然現れたマレウス・ドラコニアに生徒達は騒ついた。
その見るからにただならぬ雰囲気に生徒達は我先にとマレウスから距離を取る。
そんな生徒達に紛れて同じく距離をとっていたたエースは未だユウにひっつく、明らかに不機嫌マックスのマレウスを前に腰でも抜かしたのかぴくりとも動かない同級生を眺めながら「おいおい、死ぬわアイツ」と零す。
マレウスの突然の登場に驚いていたユウは強引にマレウスから腕を引かれて立ち上がるとその場から消えた。
結果として同級生は死ぬ事も、雷に撃たれる事も無かったが恐怖のあまり、泡を吹きながら暫くの間昏倒した。
マレウスに連れ去られたユウはその日、授業が終わっても、それどころか夜になっても寮に戻ってくる事はなかった。
そして翌日、教室に入ったユウは赤い顔をして心配していたエース達にマレウスと交際する事になった事を告げる。
「他の者とあの様に気安く触れ合わないでくれ」
マレウスの私室に着くなりベッドに倒され覆い被さる様に抱き締められたユウはその様な言葉をマレウスから告げられた。
そんなマレウスのほのかに温かい背中を撫でながらユウは頭を傾げる。
「でも同級生だよ?ツノ太郎とも普段はあれぐらいしてるわけだし良くない?」
元の世界であれば不用意に異性と抱きつくなど周りから咎められかねないがこの世界は互いに触れ合うスキンシップも多い。
問題なかろうと応えるユウ。
「僕は嫌だ」
少しばかり荒れた声で返ってきた返事にユウは驚く。
どうしたのか、調子でも悪いのだろうかとマレウスの顔色を伺おうとするユウであるがマレウスがキツく抱き締めている為それは叶わない。
「僕以外の者があの様にお前に触れるのが許せない。でもお前の事だ。僕が駄目だと言っても平気で許すのだろう?どうしたらいい」
「ツノ太郎、ちょっと苦しいよ」
「どうしたらお前は僕だけのものになってくれる。どうしたら」
思考に耽る余りユウを抱き締める力がだんだんと強くなっており、ユウは苦しいと訴えるのだが考え込むマレウスの耳には届かない。
「ああ、そうだ」
考えるマレウスの頭にリリアの言っていた言葉が思い出された。
「僕とお前が恋人となれば良い」
ならばユウもそう易々と自分以外の者に身体を許す筈がない。
「ユウ、僕の番となってくれ」
その時のユウはというとマレウスの力強過ぎる抱擁に少しばかり意識を飛ばしかけていた。
身体が雪で出来たユウであるが人並みに感覚はあるのである。
そんな身体を強く抱き締められれば当たり前に苦しい。
それにマレウスの体温がいつもよりも高かった。
マレウスの体温は轟々と燃え盛る火のごとく熱くて、ユウの身体はその高い体温に溶けてしまわない様に勝手に冷やす。
暑くて寒くて、苦しくて。
そうして意識朦朧としていたユウはマレウスの言葉によく分からぬまま頷いていた。
そしてそれは恋人達よりも恋人らしく見えていた二人が正真正銘、恋人となった瞬間であった。
マレウスはぐったりしたユウを抱えると様子を見に談話室まで来ていたリリアにユウと恋人となった事を報告した。
その報告にこれまで二人の関係に内心やきもきしていたリリアは大変喜び、そんなリリア主導の下、夜通しの宴会が催された。
「どうしてこんな事に」
一晩経っても状況が理解出来ず、教室にいたエース達に話してみるも状況の整理はつかず混乱状態が続くユウ。
「あー何ていうかおめっとさん?」
掻い摘んで事の次第を聞いたエースは取り敢えず祝福の言葉を述べると、まるで労わる様にユウの肩を叩くのだった。