twst短編
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その薬は体内に取り込む事で相手の魔力に反応し、相手の感情を具現化する効果を持っていた。
具現化した存在は何故か幾つか積み上げると消えてしまう事からツムと呼ばれた。
「う、わぁ」
自白剤の一例として教科書に載っていた小さく丸い存在がユウの目の前に溢れていた。
その薬は問答無用で相手の感情を素直に表す為、物言わぬ自白剤とされる。
また、その薬を体内に取り込んだら最後、薬の効果がなくなるまで排出される魔力は攻撃性のないツムに変換される為、一種の魔法封じの薬でもあった。
ツム自体は愛らしい姿であるが魔法を使う魔法士には厄介な薬である。
何せ薬を気体でも液体でも体内に取り込んだら最後、放つ魔法が全てツムに変わってしまうのだ。
その為、魔法薬の調合は上級生になってからでないと出来ない。
筈なのだが
「お前達、とんでもない事をしてくれたな」
魔法薬の授業に飽きたグリムが出鱈目に、工程や手順は勿論、作る予定だった魔法薬に関係ない材料を大鍋に放り込んだ結果、奇跡的にその魔法薬は出来てしまった。
辺りには毒々しい紫色に加え、妙にキラキラと輝く煙が漂っていた。
授業の担当教諭であるクルーウェルが気付いた時にはもう遅く、教室にいた全員がその煙を吸い込んでいた為、グリムを前にギリギリと鞭を握っていたクルーウェルからは多少デフォルメされているとはいえ怒った表情のツムが溢れ出している。
そもそもグリムはエース、デュースの二人と組んで魔法薬の調合に取り組んでいたのだが二人が些細な事で喧嘩を始め、それに飽きて起こった事であった。
その為、怒れるクルーウェルの前にはグリムを挟みエースとデュースも座らされている。
「あいつら何やってるんだ」
呆れた声を漏らしたのはジャックであった。
授業はジャック達のクラスと合同で、ジャックとエペルだけでは人数が足りないという事でユウが二人と組んだのだ。
その為、クルーウェルのお説教にユウは含まれていない。
お説教されない事に越したことはないがそもそも自分が普段の様にグリムと組んでいればこの様な事にならなかったかもしれないのでユウの心境は複雑である。
「ユウサンはツムが出ないんだね」
そう言ったエペルからは今もころころと困り顔のツムが飛び出していた。
ジャックからも呆れ顔のツムが幾つも飛び出ている。
周りのクラスメイトも、グリムからであって泣きそうなツムが幾つも飛び出ているというのにユウだけはツムが出ていなかった。
「こいつらは魔力で具現化するらしいから魔力がないユウには効果がないんだろ」
「その通りだハウル。このツムというのは魔法薬とそれぞれの魔力が結びついて出来る物だ」
既にこのツムの特性は授業で習った事であったが教科書をなぞる訳でもなく答えたジャックをクルーウェルは賞賛する。
一度そこで言葉を切ったクルーウェルであったが、再び表情を厳しくさせるとユウを見て言った。
「しかし、具現化した後は魔力があろうとなかろうと今のユウの様に被害が出るので各自注意しろ」
突然、名指しを受けたユウはそれは間抜けな声を出した。
被害も何も魔力のない自分に被害とはどういう事なのか分からないユウ。
そんなユウにクルーウェルは足元を見る様に指で示す。
その指示に従い己の足元を見たユウは思わず悲鳴を上げた。
クラスメイトを愛らしくさせたツムがいくつもユウの足元に集まっていたのである。
「足元に集まっている内は良いが顔に迄群がられると窒息の恐れがある。そうなる前に各々で対処する様に」
そう言うとクルーウェルは自身から飛び出たツムを3つ掴み、3つ全てをくっつけて消して見せた。
何故か具現化したツムは3つ以上をくっつけると消える。
授業でもその様に習った事を思い出した生徒達は慌てて自身から飛び出るツムを集め、合わせて消した。
「君達は人懐っこいんだね」
俵型の胴体で器用に飛び跳ね、集まって来るツム。
そんなツム達であるが流石のユウも窒息死だけは御免被りたい為、謝りつつも同じツム同士をくっつけては消した。
しかし消した側からまた同じツム達が集まって来る。
「困ったな。あ、エース達のツムもこっちに来てるよ」
クラスメイトのツムに紛れてマブ達そっくりのツムもいる事に気付いたユウは集まったツムの中からエースのツムを掬い上げ、まじまじと観察する。
「小さいのにちゃんと目元のペイントもある」
可愛い、可愛いとエースそっくりのツムを突ついていると顔を真っ赤にしたエースがユウの手から自身そっくりのツムを引ったくる。
「そういうのは良いからさっさと消せよ」
そう言ってエースは自身と同じく顔いを赤く染めたツム達と合わせて消した。
「エースクン照れてる」
「照れてねぇ!!」
「いや、どう見ても照れてるだろ」
幾らエース自身が平静を装ってもツムは正直である。
照れていないと反論する側から2つ、3つ、と今も照れた表情のエースのツムが飛び出ていた。
ツムは正直だ。
表情以外にも行動を観察していれば本人の好き嫌いが良く分かる。
教科書には載っていないがツムが好意を持っている相手の方に移動する習性がある。
その事を知っているクルーウェルは教室中を見渡すと一人、成る程と頷き笑った。
「ふなー」
クルーウェルのお説教を受けたグリムはとても弱っていた。
大半の理由はお説教を受けてであるが、部屋が何時も以上に薬臭くて辛い。
きっと未だに教室中を漂う紫色の煙の所為だと思ったグリムはツムで溢れる床をふらふらとした足取りで進み、教室の扉前へとやって来た。
そして空気の入れ替えだと言わんばかりに教室の扉を勢いよく開ける。
その魔法薬は本当に厄介な代物である。
クルーウェルはグリムが教室の扉を開けようとしているのに気付いたが既にその手は扉に添えられていた。
ならば魔法で、とクルーウェルは鞭を構えるが魔法の代わりにツムが沢山飛び出す。
そして誰に止められるでもなく扉は開かれた。グリムの目論み通り、グリムの鼻を苛んでいた紫色の煙は扉の外に出て行く。
そう、紫色の煙。
その毒々しくもやたら輝く煙は厄介な魔法薬の効果を含んでいた。
それが扉を開いた事で教室を飛び出て学園内に解放されたのである。
やれやれと、漸く鼻をつく魔法薬の匂いに解放されたグリムに本日二度目となるクルーウェルの雷が落ちた。