お題SS
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その日、エースは寝坊をした。
寝る前に動画を見ていたからかもしれない。
就寝前のデュースに起きれなくなるから程々にしとけと散々言われたが見ていた動画が面白くて止められずにいた。
結局、日付が変わってからも動画を見続けていたエースはそのまま寝落ちしてしまう。
目覚ましのアラーム設定は確かにしていたエースであるが、それも長時間に及ぶ動画視聴により充電が切れアラームが鳴るどころか電源が落ちていた。
誰か、きっとデュースであろう人物に起きるよう身体を揺り動かされた気もするが寝入りの遅かったエースは生返事ばかり。
漸くエースが身体を起こした時には超特急で身支度を済まなさければ遅刻確定の時間になっていた。
ルームメイト達が学園へと登校し、己一人しかいない部屋で寝坊をした事に慌てたエースは身支度の為に部屋を走り回る。
「マジかよ」
髪型を整えるべくワックスを手にしたエースは絶句した。
ワックスの中身がなかったのである。
前日の朝にワックスを使い切ってしまっていた事を思い出したエースは額を押さえて天を仰ぐ。
しかしワックスを買わなかった昨日の己を恨んでいる暇もないエースは仕方なく髪を濡らして出来るだけ整えると学園に向かうべく寮を飛び出した。
「マジかよ」
本日、早々に二度目の絶句となるエース。
駆け込んだ教室の、黒板にでかでかと書かれた自習の文字に思わず力が抜けたエースはその場に座り込む。
「今日は珍しくギリギリだったね」
おはようと朝の挨拶を済ましたユウは教室の床に座り込むエースに手を差し出す。
「僕があれ程夜更かしは止めておけと言ったのに聞かないから寝坊するんだ」
注意した上、朝は何度もエースを起こそうとしたデュースは腕を組み、お冠の様子である。
「寝坊した上、遅刻なんてダッセェんだゾ」
揶揄う様にエースを指差し笑うグリム。
そんなグリムの両頬を押さえ込みエースは笑った。
「そういう事は一人で起きれる様になってから言ってくれますぅ?」
グリムが一人で起きるどころかいつもユウに起こしてもらっている事をよく知るエースは掴んでいたグリムの頬をパン生地でも捏ねるかの様に揉み込んだ。
「そもそもオレ、遅刻してねぇし」
「ギリギリだったけどな」
「ギリギリだったね」
あくまでもセーフであったと主張するエースに続いたデュースと、ユウは頷きあう。
エースが教室に入って来たのと同時に始業の鐘は鳴っており、エースは本当にすんでのところで教室に到着していた。
「髪の毛も珍しくボサついてるね」
エースが慌てていたのを物語るかの様にいつもならばきっちりとセットされている彼の髪が所々跳ねている。
ユウの指摘にエースは慌てて髪の毛を掌で押さえた。
「ワックスが切れてたんだよ」
あまり他人に見られたくないのかエースは慌てて手櫛で髪の毛を整えるが髪の毛の中でも短い毛、所謂アホ毛がいくつも飛び跳ねていた。
「どうせ自習だし購買にワックスでも買いに行ってこようかな」
「しかし自習は先生の用事が済むまでだと聞いている。万が一にも購買に行っている間に先生がやってきたら不味いんじゃないのか?」
そうなれば今度こそエースは遅刻となる。
しかしあっちこっちに飛び跳ねるアホ毛がどうしても気になるエースにユウが提案した。
「私に良い考えがある」
椅子に座らされたエースの髪をユウの指が撫でる。
アホ毛をどうにかすると言われて促されるがまま大人しく椅子に座ったエースであるが己の髪を撫でるユウの指が擽ったく落ち着かない。
「なあ、もういい?」
間をそれ程開けずねてくるエースにユウはまだだと答える。
そのやりとりを何度か繰り返して、ようやくエースは解放された。
「ヘアピンで目立つ所をまとめてみたけどどうかな?」
差し出された手鏡を覗き込むとユウの言う通り、特に目立っていた頭頂部、側頭部のアホ毛がヘアピンによって綺麗に纏められていた。
ユウの意外な才能に驚くエース達であるが一つ気になる事があった為、尋ねる。
「なんで前髪も上げちゃったのよ」
確かにユウはエースの髪を弄る最中、前髪にも触れていた。
しかし前髪は特に目立つアホ毛もなく纏まっていたのだが、今は何故か他の髪と共に纏められ、ヘアピンに止められている。
既に暑い季節は過ぎ去り、些か額を晒すには涼し過ぎる。
理由を尋ねられたユウは何故かもじもじしていた。
視線を左右に彷徨わせ、手は握ったり話したりと落ち着きがない。
「・・・なの
「は?」
ぼそりとユウは呟くが声が小さ過ぎて上手く聞き取れない。
すかさずエースはユウへと先程の言葉をもう一度言うよう促す。
それにユウは顔を真っ赤にして応えた。
「だから、額を出してるエースが好きなの!!」
元々、ユウはこの世界にやってくる前から男性が額を晒す髪型が好きだった。
故にゴーストが学園を占拠した騒動の際、拐われたイデアと頬に紅葉を描き床に転がされた先輩方を救出すべくおめかししたエースの前髪が上げられていたのにはユウはも大変驚いた。
ユウの好みドンピシャだったのである。
しかしそれ以後、エースが額を人前に晒す事はなかった。
しかし偶然にもエースの髪を弄るチャンスを得たユウは欲望へと忠実に従い、その結果、エースの前髪はユウの好む通りに上げられている。
「成る程ね」
エースに追及され、とうとう理由を喋ったユウは恥ずかしさから顔を手で覆い、床へに膝を付き、蹲る様にして項垂れていた。
そんなユウを足を組み、頬杖をついたエースが見下ろしている。
「ふーん、それでどうよ」
「どうって?」
「前髪を上げたオレはユウ的にイケてるのか聞いてんの」
エースの問いかけに顔を上げたユウは盛大に表情を顰めさせた。
それは成り行きを見守っていたデュースやグリムも同じで、自己愛が過ぎるエースの発言にデュースはかなりドン引いている。
「控えめに言って好き」
かなり間を置いてからの回答であったがエースはそれでも十分満足らしい。
にんまりと笑ったエースはこの後、散々ユウを揶揄った。
揶揄い過ぎて昼頃になると拗ねたユウにそっぽを向かれた為にエースは転じて必死にご機嫌を取っていた。
「だー!もう、オレが悪かったって!!」
機嫌を直せと訴えるエースにユウは一貫してそっぽを向き続ける。
そんな二人の様子にデュースとグリムは互いに顔を見合わせ、呆れ気味に肩を竦めた。