お題SS
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「ウィンク?」
「そう、ウィンクです」
今日は何でもない日のお茶会。
グリムと共にお茶会に誘われたユウは隣に座るリドルに向かって微笑む。
「今、クラスでウィンクが流行ってるんです」
始まりは何であったか。
雑誌の表紙を飾っていた流行りのアイドルのウィンクにクラスメイトの一人が何故か対抗心を燃やしたところからかもしれない。
ウィンクくらい俺だって出来ると息巻いたクラスメイトであったが結果は散々である。
ウィンクどころかただ顔を顰めただけでしかない顔にクラスメイト達の皆が散々笑い、だったらお前は出来るのか、出来るわい!と叩きつけられた挑戦に勇み受けて立ったもののやはり結果は散々であった。
爽やかなウィンクどころか不細工になった顔にまたもクラスは笑いの渦に巻き込まれ、それからやはり同じ様なやりとりが続いた。
「結局、うちのクラスでもウィンクが出来たのはエースと数名のクラスメイトだけで」
「デュースなんてただ目を瞑ってるだけなのにウィンク出来てる何て言い張るんですよ」
会話に参加してきたのはクラスでもウィンクが出来た数少ない内の一人であるエース。
その手には切り分けられたトレイ渾身のチェリーパイが載った皿が握られている。
「いや、確かに僕はウィンクが出来ていた!」
続いてお茶のお代わりを持ってきたデュースとケーキを山盛りに持ったグリムがリドル達と同じテーブルに着いた。
「いや、出来てないから」
「完全に目を瞑ってたんだゾ」
「瞑ってたね」
エースとグリム、ユウに迄しっかりと否定された今更にデュースは打ちひしがれる。
「何々?何の話??」
「俺達も混ぜてくれ」
賑やかになったテーブルにケイトとトレイも加わった。
話のあらましを聞いて変わった事が流行るものだと二人は笑う。
「先輩達はウィンク出来るんですか?」
挑発的な声でエースは尋ねた。
あわよくばクラスメイト達同様にウィンク出来ない変顔を写真に収めようという魂胆である。
先鋒ケイトは「勿論!」と肯定しながら見事なウィンクをした。
流れる様に自然とウィンクしたケイトにデュースもユウも感動の声を上げて拍手する。
では、次はと皆の視線がトレイに向けられた。
まさか自分にもウィンクを求められると思わなかったトレイは酷く困惑する。
「大丈夫だって!出来なくてもみんな笑わないからさ」
ケイトはそう言いながらその手にはカメラモードのスマホが握られていた。
「早くしてみて下さいよトレイ先輩」
「あまり待たせるものじゃないよ」
「リドル、お前迄」
同級生に後輩達、それにリドルにまでもウィンクするようせがまれたトレイは溜息を吐くとぎこちなく、けれど確かにウィンクをする。
「何だ勿体ぶる割に普通に出来るじゃないっすか」
「普通なんだゾ」
ケイト同様にスマホを構えていたエースとグリムは想像していたよりも至って普通なトレイのウィンクに文句を零す。
対してデュースはスマートにウィンクをしたトレイに尊敬の眼差しを向けていた。
「先輩達のウィンクかっこいい」
胸を押さえ、そうしみじみと零したユウの横顔をリドルはじっと見ていた。
ユウにかっこいいと言われたいリドルはその日からウィンクの練習を始める。
二人があんなにも簡単にしていたのだから自分も出来るのではないかと一人の時に鏡の前で試してみたリドルであるが結果はデュースと同じであった。
本来、左右共に閉じる目蓋を片目だけを開くというのは意外にも難しく、リドルはウィンク出来る様になるために調べに調べ、暇を作っては特訓した。
勉強の様にはスムーズに事が運ばず一人苛つきで顔を真っ赤にして怒ってしまう事もあったが一ヶ月にも及ぶ猛特訓の末にリドルはとうとうウィンクを習得する。
「ユウ」
さっそく習得したばかりのウィンクをお披露目しようとしたリドルであったがあのお茶会以来、ウィンクがユウ達の話題に上がる事はなく、ブームが早々に過ぎ去ったのは明らかであった。
しかしせっかく習得したのだからお披露目はしたいし、あわよくばユウにかっこいいと言われたい。
その一心で特に策もなく廊下で見かけたユウに声をかけたリドル。
リドルの呼びかけに気付いたユウは微笑み、小走りにリドルの元へとやって来る。
何用かと尋ねてきたユウにリドルは答えを窮した。
まさか自分もウィンクが出来る様になったから見てほしい何て言えない。
しかし特にそれらしい用事があるわけでもなく、リドルはええいままよと徐にユウに向かって習得したばかりのウィンクをした。
「ゔぁっ」
聞こえたのはそんな呻く様な声であった。
続いて苦し気に胸を押さえたユウがリドルの目の前で倒れる。
「え、ユウ?」
突然の事態に付いていけず呆然とその場に立ち尽くすリドル。
「大丈夫か?!ユウ」
「しっかりしろユウ!」
「子分、しっかりするんだゾ!!」
近くで様子を窺っていたエース達はユウが倒れるなり側に駆け寄るとユウの上体を起こして必死に声をかける。
「リドル先輩のファンサ最高かよ」
ユウはボソボソとそんな事を呟く。
もう何がなんだか分からないリドルであるがユウが倒れた原因が自分のウィンクにある事だけは分かった。
そんなリドルに構わずユウは震える手を握り、作った拳を天井へと突き上げる。
「我が生涯に一片の悔いなし」
何とも雄々しい台詞を零したユウはエース達に体を預け、そのまま意識を手放した。
「ユウ!!」
「起きてくれユウ!!!」
「子分が死んじまった」
呼び掛けても微動だにしないユウを取り囲み叫ぶ二人と一匹。
ユウはリドルの突然のファンサに意識を飛ばしただけで翌日には元気に授業を受けていたのだがこの事がトラウマとなりリドルのウィンクは長らく封印された。