twst短編
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「いつかお前が僕を置いていくのが耐えられない。別れよう」
カップがソーサーに戻されるのが合図だったかの様に告げられた別れ話にユウは表情を曇らせた。
「マレウス」
ユウはマレウスが住まう王城の、彼の私室にいた。
呼び出されたのは朝の事で、話したい事があると簡素に書かれた手紙を受け取ったユウはそれを手に登城した。
お城の入り口を守る兵士はマレウスからどの様に説明を受けているのかユウの顔を見るなりその厳しい表情を緩ませて通してくれた。
ボディーチェックも、持ち物検査も、一切なくなく通されたユウ。
この様な警備で良いのだろうかと、今更お城の警備に対し疑問に思うユウであるがそもそもこの城で一番守るべき存在であるマレウスというとこの世界で最強と言われても問題のない人物である。
そんな相手を襲う命知らずがいる訳がないかと、ユウは一人結論付けた。
ましてやユウ等はマレウスに害を成す気もなければその様な力はなく、魔力のまの字もないのはこの茨の谷で有名である。
そんな事を考えている内にユウは目的地であるマレウスの私室に着いていた。
ノックをすれば返事が返ってくると同時に重く豪奢な扉は一人でに開く。
室内にはティーセットが用意されており、ユウはマレウスに促されるがままに座った。
そして互いに挨拶もそこそこに温かな湯気を放つお茶に口を付けた所で冒頭の別れ話である。
確かにユウとマレウスはお付き合いしている。
正式な婚約者になった訳でもないがリリア達の協力の下、何度も逢瀬やデートを重ねていた。
しかし二人の間にはそれは深い身分差が存在しており、いつかはマレウスの口から別れ話が告げられる事は覚悟していた。
しかしマレウスが先程口にした別れる理由はユウにはどうにも頂けなかった。
「お付き合いして50年は経つから忘れてるのかもしれないけど私は不老不死だから置いていくのは寧ろマレウスの方だよ」
「そうだったか?」
「そう」
本当に忘れていたのかユウの言葉に目を見開き驚いて見せたマレウスにユウは頭を押さえた。
ユウはこの世界でもそこそこに珍しい不老不死の人間である。
元はただの人間であったがユウの世界で最も尊ばれる精霊という存在を助けた結果、そのお礼にと祝福として不老不死が授けられた。
ユウの世界でもこちらの世界でも不老不死とは一部人間の夢ではあるのだが不老不死となったユウからすれば不老不死等迷惑極まりない呪いの様な物である。
家族や友人、親しかった人達には置いてかれ、10代半ばで止まったまま老けない見た目から定職に就くのは難しく時には化け物と、時には不老不死になる手掛かりとして追われていた。
そしてそんな生活に疲れ果てても死ねない己に絶望していた所こちらの世界にいつの間にか来ていた訳である。
こちらの世界でも不老不死は珍しいが幾人か、存在はしており不老不死の研究についても遥かに元いた世界より進んでいた。
こちらに来たのもきっと何かの思し召しだと元の世界に帰る方法を二の次に、不老不死でなくなる方法をユウは学業の傍ら懸命に探していた。
「ほう、なかなか複雑な呪いをかけられているな」
そんな時に出会ったのがマレウスで、マレウスは一目見てユウが不老不死だと気付き、それを呪いだと形容したのだ。
それからマレウスとはご縁が続き、気付けばお付き合いしていたユウ。
その関係はマレウスが卒業した後も続いた。
そしてユウが卒業間近になるとマレウスはわざわざ学園迄やって来て茨の谷ならば不老不死を解く方法が見付かるかもしれないとユウを誘い、職業まで斡旋してくれた。
のだが、すっかりそのやりとりを忘れていたらしいマレウスをユウは呆れて見た。
「すまない。ユウを茨の谷に迎える事が出来て嬉しさのあまり忘れていた」
流石にユウから送られる視線に気付きマレウスはすぐさま謝った。
「思い出してくれたならそれで良いです」
正直な所、就職先も不老不死でなくなる方法も見つける事に難航していたユウにはマレウスの誘いはありがたかったし、自分がここへきた事が嬉しくて忘れていたというのも満更でもなかった。
「それで、さっきの別れ話だけど」
ユウの言葉で話題は再び別れ話へと戻った。
するとマレウスは徐に立ち上がり、ユウの側に立つとテーブルに置かれた左手を掴んだ。
そして左手を掴んだまま屈み、床に片膝を付くと掴んだままの左手を自身の口元に引き寄せ、薬指の根本へと唇を落とす。
「お前の身にかけられた呪いは僕が必ず何とかする。だから、
どうか残りの人生を僕の隣で生きてほしい」
不老不死であるユウの生は無限である。
それをさも有限であるかの様に形容したマレウスには既に呪いを解く算段がついている様であった。
これまで何度もマレウスの規格外さを目の当たりにしてきたユウもマレウスが言うならば我が身に巣食う呪いを如何にかしてくれそうな気がした。
「僕と結婚してくれ」
懇願するように上目で見つめるマレウス。
マレウスはこの谷の王様で、ユウはただの一般市民である。
二人にはとても深い身分の差がある。
だから ユウはいつでもマレウスから別れ話をされてもいい様心構えをしていた。
マレウスは優れた王である。
先程、ユウが不老不死である事は忘れていたが互いの身分の差迄は忘れてはいない筈である。
互いの身分差を理解した上で、それでもプロポーズをするマレウスにユウが応える返事は一つだけであった。
「喜んで」
ユウは微笑みを浮かべ答えた。