twst短編
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「もうすぐバレンタインだけどさ、ユウは誰に本命のケーキを渡すわけ?」
エースの問いに食後のお茶を飲んでいたユウは盛大に噎せた。
暫く咳をしていたユウはどうして、と顔を赤くしてエースを見る。
続いてグリムを見た。
「グリム!話したわね!!」
隣に座っていたグリムを捕らえて揺さぶるユウ。
グリムはふなふなと悲鳴を上げて目を回す。
「落ち着いてユウサン」
「おい、食堂で騒ぐな」
宥めるエペルの声と咎めるジャックの言葉にユウは落ち着きを取り戻したがグリムは今だユウの手からは解放されない。
それでも揺さぶられる事がなくなったグリムは己を睥睨するユウに弁解する。
「オレ様はただユウがケーキの練習ばかりしてて、その試作を食べ飽きたって話をしただけなんだゾ!」
弁解の通りグリムは本当にそれだけしか話していない。
ただ、ユウが以前にバレンタインには皆にクッキーを焼くと予告していた為、だったらケーキは誰宛なのだろうとエースは疑問を抱いた。
しかもグリムが食べ飽きる程の試作しているのだからその本気具合はかなりの物である。
これはきっと本命宛に違いないと推測したエースは敢えてカマをかける様な尋ね方をし、ユウはものの見事に引っかかった。
「エースから話を聞いた時はまさかとは思ったが本当だったんだな」
デュースはキラキラとした表情でユウを見ていた。
ある意味自分で本命がいると認めてしまった事に気付いたユウはグリムを解放して謝る。
「僕達も知ってる人?」
集まっている面子の中では一番恋話に興味が無さそうなエペルが身を乗り出し尋ねて来た。
「それはちょっと」
「勿体ぶらなくてもいいだろう」
皆が寮で生活する以上バレンタインに誰が何を貰った等筒抜けである。
いずれバレる事なのだからさっさと白状しろとセベクは促すがユウは首を横に振るい俯いた。
「もし、相手の人の耳に入って受け取ってもらえなかった悲しいから秘密にさせて」
ごめん、と小さく漏らしたユウにエースは深々と溜息を吐いた。
「あーもう、そんなにマジに言われたら揶揄う事も出来ないじゃん。それで?告白はするの?」
エースの問いにユウは真っ赤な顔を上げて大手を振り、否定する。
「そんなの無理!告白なんて絶対無理!」
「でも本命の相手にケーキを渡すんだろ?」
だったら次いでに告白するなり手紙を添えるなりすれば良いではないかとジャックは言うがユウはひたすらに無理だと首を振った。
「渡すけど、渡したいけど告白は無理」
いつものユウらしくない消極的な態度に五人と一匹は顔を見合わせた。
余程見込みがない相手なのだろうか、デュースはこっそりとグリムにケーキを渡す相手は誰なのか尋ねるがグリムも流石に相手迄は知らなかった。
「まあ告白はユウ次第だからオレ達は手を貸せないけどさ、ケーキの味見くらいなら手伝うぜ」
「貴様、それが本当の狙いか」
エースの発言にセベクは呆れて溜息を吐く。
「まあね。グリムもケーキの味見飽きたって言うしさ」
戯けて笑って見せたエースにユウも笑みを浮かべた。
「それじゃあ、味見をお願いしようかな」
そうして皆の協力の下、試作に試作を重ねた結果、ユウはバレンタイン当日迄に納得のいくケーキを完成させるのであった。
バレンタインデー当日、セベクはこれまでケーキの試作に付き合ってくれた礼と日頃の感謝としてユウからクッキーを貰った。
アイシングで飾り付けをしたというクッキーは素人が作ったにしては見事な出来で、すぐに食べてしまうには勿体なく、せめて寮に戻り、お茶と共に頂こうと思った。
「セベク、ちょうど良かった。わし等と茶でも飲まんか?」
「はい!喜んで!」
帰宅の挨拶の為にマレウスの私室へと伺ったセベクはそこでお茶の準備をしていたリリアに誘われた。
テーブルには自分が貰ったクッキーと似た物が皿に並べられている。
リリアの誘いを受けたセベクはクッキーを手に自室へ戻るとすぐ様マレウスの私室へと逆戻りし、促された席へと着席した。
「ユウは手作りだと言っていたが見事な物だ」
マレウスはガーゴイルを模したアイシングクッキーに興奮していた。
そのリアルでおどろおどろしい出来栄えにセベクは改めてユウの腕前に感心する。
どうやら幾つかのクッキーは渡す相手によって飾りを変えているらしくマレウスはガーゴイルを、リリアにはギターを、セベクには馬等それぞれに関わる飾りが施されていた。
リリアも愛らしい表情をした蝙蝠型のクッキーを手にして微笑んでいる。
「ただいま戻りました」
こんな素敵な物を貰ったのだから何かお返しをしなければと話していた所、シルバーが帰宅の挨拶をしにやって来た。
その手には鞄の他に包装が施された箱を持っている。
すかさずそれは何かと尋ねるリリアにシルバーは帰る途中で挙動不審なユウから渡されたのだと答えた。
箱の中身が食べ物だと聞いたシルバーは大きさが大きさの為、皆で分けようと持って来たらしい。
そうしてテーブルに置かれた箱にシルバーを除いた三人は頭を傾げた。
タイミングからしてバレンタインの贈り物だと思われるが明らかに自分達が貰った物と大きさも包装が違う。
自分達のはクッキーがよく見える片面が透明の包装袋であったがシルバーが受け取ったのは中身の見えぬ箱に包装が巻かれた物。
一体どういう事なのだろうかと各々が考えている間にもシルバーは装飾のリボンを解いて箱の蓋を開ける。
中から出てきたのは白い粉砂糖がふんわりとかけられた所謂ガトーショコラと呼ばれるケーキであった。
「おお、これはまた見事な」
「まさか」
感嘆の声を漏らしたリリアの横でセベクは内心焦った。
そのケーキはセベクが散々味見した物と同じ、つまり本命宛のケーキである。
まさかユウの本命はシルバーであったのかとセベクは頭を押さえた。
その本気を窺わせるケーキにマレウスとリリアも何となく気付いたらしいく神妙な顔付きをしている。
三人共に静かな事に不思議に思ったシルバーはテーブルの上のクッキーに気づいた。
「これは、凄いですね」
「ユウからバレンタインの贈り物として貰ったものじゃ」
立派な見栄えのクッキーとはいえケーキとの明らかな差にシルバーはその意味に気付くかと三人は無言で様子を窺う。
が、彼の口から出てきたのは思いもよらぬ言葉であった。
「俺はユウから嫌われているのでしょうか?」
自分だけ皆と違う贈り物に、特別ではなく嫌われていると取ったシルバー。
セベクはどうしてその発想に至るか理解不能であったしマレウスは頭を押さえている。
しかし三人の中で一番ダメージを受けているのはリリアで、もしかしてわしの息子って鈍感なのかと頭を抱えていた。
「もしかして気付かぬ内に俺はユウの気に障る様な事をしてしまったのだろうか」
そう零して思い当たる節を探るシルバー。
しかし思い当たる事はないらしく、ならば今から本人に確認して謝罪しようとするので三人は慌てて止めた。
リリアは自分達以外にもユウがクッキーを渡していた事をシルバーに伝える。
言うなれば多数に対して唯一ケーキを渡されたシルバーは特別であるのだがその辺りは本人に気付いてもらいたいが為あくまでそれに触れるギリギリのヒントを与えて思う事はないかとリリアは尋ねた。
しかしシルバーとしては皆がクッキーを貰う中、自分だけケーキだった為、仲間外れからのユウに嫌われているという思考に至るらしい。
再びリリアは頭を抱えた。
これまでの己の教育が正しいとは思っていないが悪くもないと思っていた。
が、ここで判明した我が子の鈍感具合いにせめて男女のあれそうについて少しばかり触れさせておくべきだったと嘆く。
そう言った事は成長していく過程で自然に覚えるのだと思っていた己をリリアは恨めしく思った。
「ふざけるな」
セベクは苛ついていた。
シルバーの様子からユウが告白をしていないのは明らかである。
しかしケーキに込められたユウの思いに一目でマレウスやリリアが気付いた様に何故シルバーは気付けないのか苛々した。
挙げ句の果てにユウから嫌われていると解釈するシルバーにセベクの苛つきは限度を迎えてしまう。
セベクは言うつもりはなかった。
ユウは気持ちを込めた菓子を本命に渡したいだけなのだと言っていた。
しかしその為にユウが何度もケーキの試作をしていた事を知っていたセベクは我慢が出来なかった。
「よく聞け、シルバー」
徐に立ち上がったセベクはシルバーの肩を掴み、そしてユウがシルバーの事が好きなのだと伝えた。
セベクの発言に暫く固まり呆然となるシルバー。
漸くして動き出したかと思うとやはりこのケーキは自分だけで食べたいとすまなさそうに言った。
誰も文句を言わない。
さすがに本命宛のケーキを分けてもらう気は誰にもなかった。
そうして箱に仕舞われたケーキは来た時同様シルバーの腕に収まる。
シルバーが今日は考え事をしたいのでこれで失礼したいと申し出るとリリアがすかさず了承した。
「それでは失礼いたします」
シルバーが退室した途端にリリアは満面の笑みを浮かべた。
シルバーの鈍さは衝撃であったがそれはそれ、ユウがシルバーに惚の字という事に喜んだ。
マレウスもご機嫌である。
なんならユウはいつ茨の谷に嫁いで来るのだと気の早い事を言っている。
対してセベクは自己嫌悪に陥っていた。
「僕は何という事をしてしまったんだ!」
シルバーの態度が気に入らなかったとはいえ友が秘匿にしていた気持ちを暴露してしまったのである。
最低だと嘆くセベクをリリアは宥めた。
「セベクよ、落ち着くのじゃ。シルバーをあのまま放っておいても話がややこしくなるだけ、なんなら勘違いの末に何かしらトラブルが起きていたかもしれん」
ならばいっそ本人ではない第三者がその勘違いを正してやった方が良かったのだと。
「だがまあ、暴露した事は謝っておいた方がいいかもしれんな」
リリアにそう促され、セベクはユウにすまないと一言メッセージを送った。
突然の謝罪にユウからは困惑の返事が来ていたが説明するには長くなりそうなので今はまず謝罪を、説明は明日する事を伝える。
そうして翌朝、護衛を兼ねてマレウス、リリアと共に登校していたセベクは観衆の中、愛らしく素朴な花束を手にユウへとプロポーズ紛いな事を行うシルバーを目撃して目眩を覚えた。