twst短編
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ずっと恋していた。
好きだった。
一目見た時から、柘榴の様な赤い瞳に見つめられた途端私の身体には雷が落ちた。
その衝撃に驚いて慌てて逃げ出し、母親に話せば笑ってそれは恋なのだと教えられた。
私が恋した人は次の日も同じ場所、森の中にいた。
装いから旅人の様であった。
自分と同じぐらいの年だと言うのに凄いと思っていたら口に出ていたらしい。
彼は物知りで何でも教えてくれて知らない場所の不思議なお話も聞かせてくれた。
やはり彼は旅人で、暫くして再び旅に出てしまったが時折あの森のあの場所に現れた。
だから私も彼といつでも会える様に毎日、それこそ雨の日も風の日もあの森に通った。
彼が人ならざる者と気付いたのは何時頃だろう。
いや、本当は気付いていた。
だって彼と出会って何年と経つというのに未だに彼は少年の様な若々しい風貌であった。
対して私はもう周りから結婚を急かされる歳である。
彼と私に流れる時の流れが違えているのは一目瞭然であった。
私はその日も何時もの様に彼の土産話を聞き、私は彼に近況を話した。
そして何時もの様にさよならを言って、私はその日を最後にあの森へと行くのを止めた。
そして親族から紹介された男と結婚した。
私は恋を捨てた。
伝えた所で到底叶わぬ恋であったのだ。
これからは普通に生きようと決めた。
普通に人間の男と結婚して、子供を産んで、
そして、
ユウは目を覚ました。
長い夢を見ていた気がした。
結婚する前の夢、昔に恋した彼を久しぶりに見た。
懐かしいと思うと同時に愛おしく切なくなるのだから恋とは厄介な物である。
ユウはふらつきながらも赤ん坊にミルクを飲ますべくベッドを降りた。
ユウは結婚して暫く、男児を授かった。
順調にお腹の子は育ち、初産にしては難無く産むことが出来たのだがそれから身体の調子が優れない。
これまで風邪一つひいた事などない健康な身体だったのに出産を終えてからユウの身体は見る見る内に弱った。
せめてそんなユウを支える者がいれば良かったのだが夫は元々遊び人で、お金は置いても家に寄り付かない。
実家の家族は長男夫婦に生まれた子供達の世話で手がいっぱいで、そうなるとユウは弱った身体に鞭打って一人で赤ん坊の世話する他なかった。
しかし静かだとユウは思う。
何時もならばお腹を空かせて赤ん坊が泣いている頃だと言うのに家の中は異様に静かである。
ユウはふらつく身体を壁伝いに歩く事で支えながら赤ん坊の元へと向かった。
「誰ですか」
夕日が差し込む窓際に誰かが立っていた。
大人ではない、子供の様に小柄なシルエットであるがユウには自身を訪ねてくる様な子供の知り合いはおらず警戒した。
その人物は何かを抱えている様であった。
あやす様なその動作にユウははっとして赤ん坊を寝かせていた揺籠を見ると中は空になっている。
「誰、とは寂しい事を言うの」
夕日による逆光で姿は捉えても顔までは識別出来なかったが相手が一歩、部屋の暗闇に入るとその顔がよく見えた。
懐かしい顔であった。
まさに先程、夢に見た顔であった。
ユウは声を震わせ手で口を覆う。
目の前にあの時と変わらぬ姿の初恋の人がいた。
「リリア、どうして」
「お主を探しておったんじゃ」
森へ行くのを止めた日から自分を探していたと言うリリア。
「以前はいつ来るかも分からぬわしを待っていてくれたのにどうして森に来ぬ。わしが恐くなったか?」
「恐くない。けど、何時迄も昔のようにいられないの」
リリアの問いにすかさず否定をいれたユウは顔を俯かせた。
やはりリリアは昔と変わらず若い少年の様な姿をしており、対してユウはそんな若いリリアの姉と名乗るのも難しい所まで老いている。
「私はもう大人だから何時迄も昔のように貴方と森で遊んでいられないの」
やるべき事は幾らでもある。
今は身体が弱り、床に臥せる事も増えた為それは尚更で、ユウはそこでリリアが赤ん坊を抱き抱えているのに気付いた。
「リリア、その子を返して」
「この子はやはりお主の子か」
腕に抱えた赤ん坊に視線を落としたリリアはその銀髪を指で摘み弄った。
それでも目を覚さぬらしい赤ん坊からは寝息だけが聞こえている。
「この子はお主にそっくりじゃ。髪も鼻口も、大きく育ったら昔のお主の様になるじゃろうか」
「リリア」
ユウは自身の胸が激しく打つのを感じた。
吐き出す息が小さくおかしな音を立てている。
それでもユウはゆっくりと、壁を伝いながらリリアに近づく。
何故だか分からないが今すぐにでもリリアから我が子を奪い返さなければならない気がした。
「よし、この子を貰おう」
「何を言って」
まるで物でも貰っていくかの様に軽々しい口調で言ってのけたリリアにユウは言葉を失う。
赤ん坊から顔を上げたリリアの赤い瞳はぎらぎらと輝き、それが本気なのだと分かった。
ユウは重い身体ながら渾身の力を振り絞りリリアに向かって、否、赤ん坊を取り返すべく駆け出した。
ユウの指が赤ん坊に触れるまで後少し、という所でリリアは消えた。
正しくは宙に浮いていた。勢いをつけたまま止まれず窓にぶつかったユウはずるずると床へと座り込む。窓にぶつかる際に窓の木枠に頭をぶつけたユウは痛む箇所を抑えながらリリアを見上げ睨んだ。
「その子を返して!」
「無理じゃ。この子はわしが貰い受ける。安心せい、お主と思ってこの子を可愛がろう」
ユウの頭は相変わらず痛んでいる。
リリアの声が遠くに聞こえる。
様子から察するにユウに何かを尋ねている様であるが上手く聞き取れなかった。
「お願い、その子を返して」
胸がずっと胸騒ぎ所でない程に騒いでいる。
服の上から胸を押さえたユウは苦し気に声を振り絞り我が子に手を伸ばす。
そんなユウにリリアが何故か悲し気な表情を浮かべた。
「そうか、お主はそこまで、そうか」
リリアの呟きは小さく、ユウの耳には届かなかったが最後の一言だけは口の動きで分かった。
さよならと告げられた言葉。
それを最後にリリアは煙の様に消えた。
腕に抱えた我が子と共に
それは偶然だった。
母親の友人に待望の第一子が生まれ、ユウはそのお祝いに向かう母親についてその家に尋ねた。
すやすやとよく眠る赤ん坊の顔を集まった皆が覗き込み、祝いの言葉を口々に伝え、贈り物を渡した。
その贈り物の中にたまたまヨーロッパ帰りの友人が用意したという銀色のスプーンがあった。
生まれた赤ん坊が食うに困らないように、幸せになりますように、そんな願いが込められた銀のスプーン。
珍しい出産祝いの贈り物にその場が賑わう中、ユウは赤ん坊に握らされた銀色のスプーンを見て涙を溢した。
ユウは全て思い出した。
お腹を痛めて産んだ愛しの我が子、初恋の人に目の前で拐われてしまった我が子、齢が二桁にもならぬ子供にその記憶は壮絶で、ユウはその場に蹲り泣きじゃくりそのまま昏倒した。
次にユウが目を覚ました時には記憶の整理がついていた。
母親は突然泣き出し、倒れたユウを大変心配して目覚めてからは少々過保護になっていたがそんな母親を冷静に宥める程にユウの精神は成熟している。
成熟というより前世の精神年齢に置き換わったが正しい。
子供らしからぬといえばらしからぬ、他人に言わせれば大人びて成長したユウはいつも拐われた赤ん坊について考えていた。
赤ん坊が拐われた後、死んでしまったユウは寧ろあの時リリアに赤ん坊を拐われて良かったのではと思っていた。
多感な時期を森で過ごしていたユウに友人はないに等しく、遊び人の夫はいつ帰ってくるか分からない。
そんなユウが倒れた後、乳飲児であった我が子が無事に発見かされるかというのは希望が薄く、もしもの光景を想像してぞっとした程である。
それでも目の前で赤ん坊を拐われた事を許した訳ではないのでもし機会が有れば誘拐犯であるリリア張り手の一つくらいお見舞いしてやりたいなとユウは思っていた。
そんなありえもしない夢想に更けていたユウはありえもしない事態に陥っていた。
前世を思い出したかと思えば今度は知らぬ不思議で奇妙な世界にいたのである。
今度は死んだ覚えもないというのに棺に入っていたユウは紆余曲折の末、魔獣であるグリムと合わせての一生徒としてナイトレイブンカレッジに入学する事となった。
ユウは慣れない生活を何とか過ごし、たまに起きる騒動や揉め事に巻き込まれながらも何とかやっていた。
そしてユウは学園の廊下にて運命の再会を果たす。
「シルバー?」
銀髪に清廉な顔つきの青年に向かってユウは前世にて拐われた我が子の名前を呼んだ。
もしかしたら別人かもしれない。
ユウが知るシルバーは赤ん坊であったが目の前の青年を見た瞬間には彼の腕を掴み我が子の名前を呼んでいたのである。
青年は目を見開き少しばかり驚いた様子だった。
「お前は誰だ。何故、俺の名前を知っている」
彼の言葉にユウはとうとう涙を零した。
突然涙を零したユウに応対していたシルバーも周りにいた多数の生徒達も驚く。
「何かやっちまったのかシルバー?」
「俺は何もしていない」
「会いたかった!私の坊や!」
ユウが涙を零した際は目を見開くだけであった生徒達はユウのシルバーに対する「坊や」発言には無言を貫けず辺りは一気に騒然となった。
対して感極まったユウに抱きしめられたシルバーは状況が理解出来ずに硬直している。
共にいたクラスメイトであるカリムは何を見て言っているのか「良かったな!シルバー!」なんて言っておりこの状況から助けてくれる望みは薄かった。
「待て、待ってくれ。俺はお前の様な初対面の人間から坊やと呼ばれる覚えはない」
このままではいけないとユウの腕から離れたシルバーはそのまま距離を取る。
見るからにユウに対して不信感を露わにするシルバー。
そんなシルバーの態度にユウは瞳を潤ませ、俯くとはらはら涙を流した。
「そうよね。シルバーはあの時小さな赤ん坊だったから私の事は覚えていないわよね」
気落ちした様子のユウに先程まで騒いでいた生徒達は同情的な視線を向けていた。
対してユウを泣かせたシルバーには厳しい視線が向けられる。
そんな彼等に俺が悪いのかと頭を押さえて悩ませるしかないシルバーにカリムは提案した。
「とりあえず話だけでも聞いてみたらどうだ?」
カリムの提案により空き教室に移動したシルバーとユウ。
「という訳で今はこんな見た目ですが私は貴方のお母さんなのです!」
そこで語られた話にシルバーはどう対処したら良いのか分からず困り果てる。
ユウの事を詳しく聞けばユウはこのナイトレイブンカレッジに魔力なしながら特例で入学を許可されたオンボロ寮の監督生であった。
その監督生が自分は前世で貴方の母親だというのだが、もちろんこのような眉唾な話を信じられる筈がなく正直危ない人間に捕まった気分である。
この状況にどうしたものかと頭を巡らせるシルバーにユウは苦笑いを浮かべた。
「急に見ず知らずの女にこんな事言われても困りますよね」
「いや、うん。正直困っている」
此処で嘘をついても仕方がないと隠しもせずシルバーは己の心情を素直に告白する。
そんなシルバーにユウは悲しむどころか共感できた。
先程は感極まり突発的に発言してしまったが気持ちが落ち着き、己の行動を振り返ってみれば迷惑極まりないうえ、もしも自分がシルバーの立場であったらと想像してみれば恐怖以外の何物でもなかった。
しかし頭で分かっていても胸の内から湧き上がる我が子への愛しさは止まらない。
「一度だけ、一度だけ抱きしめさせてくれませんか」
「それは」
「一度抱きしめたらもう近付きませんので」
お願いしますとユウはシルバーに向かって頭を下げた。
シルバーはそれでも躊躇っていたが最後はユウに根負けした。
身長差がある故、椅子に座ってもらったシルバーをユウは胸に抱いた。
ユウの記憶にあるシルバーは赤ん坊であった為、少しばかり不思議な気分であったがやはり抱きしめてみてシルバーが我が子である実感が持てた。
「まさか生まれ変わってから大きくなった我が子を腕に抱けるなんて」
幸せだな、とユウは言葉と共に一雫の涙を零した。
「ありがとうございました。シルバー先輩」
名残惜しさを感じながらもシルバーから離れたユウはお礼を告げて頭を下げた。
シルバーは小さく頷きそして視線を彷徨わせる。
「正直、お前の話を俺は未だ信じていない」
「はい」
その言葉にユウは仕方ない事だと頷く。
「だが、お前に抱きしめられている間、不思議な事に懐かしさを感じた」
「シルバー、先輩」
「その先輩は無理に付けなくて良い。先程の様に俺の事はシルバーと呼んでくれ」
眉を下げ、困った様に、けれど初めて笑って見せたシルバーにユウは再び涙を零した。
それに驚いたシルバーはどうしたものかと右往左往し、昔に養父から習った教えを思い出し自分より小さな身体のユウを抱き締めた。
そのシルバーの行動に驚くユウであるが抱きしめられた事でより息子の成長を実感したユウは嬉しさからますます涙の量を増やして涙する。
「確かにわしは昔、泣いておる奴は抱き締めてやると良いとは教えたが今の様な状況では逆効果じゃぞ」
何処からともなく聞こえた声にシルバーは息を、ユウは涙を止めた。
シルバーは徐に抱きしめていたユウを離すと声の主であるリリアの姿を探す。
「覗き見ですかリリア先輩」
リリアはすぐに見つかった。
まるで蝙蝠の様に高い天井にぶら下がっていたリリアはシルバーに見つかるとすぐに天井から降りてきて笑い、軽く謝りを入れる。
「すまんすまん。カリムからお主が後輩に絡まれたという話を聞いて心配で様子を見に来たのじゃ」
決して他意はないと笑うリリアにシルバーは頭を押さえた。
「俺は後輩に絡まれて等いません。リリア先輩が心配する様な事はないので今すぐお引き取り下さい」
「リリア?」
「ん?」
その低く怒りを交えた声にシルバーとリリアはユウを見た。
「んん?」
リリアは己の顎に手を当てて身を乗り出し、ユウを見つめて頭を傾げる。
「お主、わしと何処かで会ったか?」
「何処かで会ったかですって?」
覚えがないと言わんばかりのリリアの言葉にユウは唇をわなわなと震わせると厳しい眼でリリアを見つめる。
「よくそんな事が言えたわね!この赤ん坊泥棒!!」
天高く振り挙げられたユウの手は見事な勢い、曲線を描いてリリアの頬に打たれた。
その見事な平手打ちを間近で見ていたシルバーは口を開けて呆然とする。
「この脳を揺さぶる程の見事な平手打ち、お主はユウか!」
頬を打たれた勢いで床へと倒れ込んだリリアは表情を輝かせてすぐさま起き上がった。
対してそんなリリアに表情を歪ませたユウはリリアとの距離を取るべく一歩、二歩と後退するのだがそれを上回る勢いで距離を縮めたリリアはユウの手を握り見つめた。
「髪も目も、人種も変わっておるから気付かなんだが今の平手打ちは正しくユウじゃ」
「止めて、離して」
「そうつれない事を言うでない。わしとお主の仲ではないか」
「私と貴方は只の友人です!!!」
それも元ですが、とユウは声を大にして言った。
「親父殿、これはどういう事ですか?」
困惑のあまり素でリリアを呼ぶシルバー。
リリアはユウの手を掴む手とは反対の手でユウの腰を掴むと自身に引き寄せ笑って言った。
「ユウはお主の母親、そしてわしの恋人じゃ!」
産みの母親
確かにリリアには恋していたが過去の話。
息子>>>(越えられない壁)>>>>リリアへの慕情
取り敢えず次に会ったら頬を引っ叩くという目標は達成した。
育ての父親
ユウの事が昔から好きだし今でも好き。
ユウより良い女なんていないと思ったらユウが転生した姿で現れたので今度こそは添い遂げる所存。
二人に挟まれた息子
混乱で理解が追い付かない。