twst短編
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フロイドは己の腕の中で頬を染めて見上げるユウを見てこれはいけるのでは?と思った。
フロイドとユウは恋人である。
変に人を誑かす能力に長けたユウに恋したフロイドはこれまで涙ぐましい努力と脚力を持ってとうとう恋人の座を勝ち得た。
そして見つめ合い、手を繋ぎ、キスまで順調にしたというのにユウとの関係はそこから一向に進まなかった。
それまでもユウは恋人のそういったスキンシップを恥ずかしがり拒む素振りは見られたがそこはフロイドの性格で押し通した。
しかしフロイドがどう頑張っても願っても騒いでもキスからそれ以上の行為は進まず、フロイドはその度にヤキモキした。
しかしこればかりは互いの気持ちがあってこその行為だからと、散々周りの、特に恋敵であった幼なじみや片割れの揶揄いも我慢し、耐えてきたフロイドである。
しかし暴漢に襲われ、あわや殴られるという所を助け出したユウの顔を見てフロイドは今なら出来ると確信した。
現にユウはいつにない様子でフロイドに枝垂れかかっていた。
何時もなら二人しかいない部屋でないと密着を拒むユウが、である。
フロイドは空いた左手を背中に回し強く握りながらユウを抱きしめる右手に少し力を込め、彼女の耳に囁きかけた。
「今から小エビちゃんの部屋に行ってもいい?」
告白したのも初めてキスしたのも、恋人らしい行為をしたのは何時もユウの部屋であった。
つまり、今からその部屋に行こうと言うのはそういうお誘いで、それに小さいながらも頷いたのもそういう事も含めた了承であった。
フロイドは表情は変えず、けれど解きかけていた左手を再び強く握り小さくガッツポーズをした。
これでまたユウとの関係が進む。
そう思うと側で転がるユウを襲った暴漢がフロイドには恋のキューピットだとかそういう類のものに見えてきた。
既にこてんぱんに伸してしまった為生きているかも怪しいがもし、次に校内で会えたならば指を圧し折るぐらいで許してやろうと思った。
それ程にユウがその気になった事がフロイドは嬉しかった。
ユウを抱き抱えたまま廊下を駆け歩き、たまにくるりと回って鼻歌を歌うフロイドは見るからに浮かれていた。
そしてオンボロ寮について、ユウの部屋に行き、靴を脱がしたユウをベッドに降ろしてそのまま覆い被さった所で出された待ったにフロイドは困惑した。
「ま、待って下さい。フロイド先輩!」
キスをしようとした口を両手で塞がれたフロイドは眉を八の字にして見るからに悲しそうな表情を浮かべた。
そんな表情を見て苦しげな声を漏らしたユウであるがやはり待ては変わらない。
一体これ以上何を待たなくてはいけないのか、あれのそれの準備は既に付いている。
シャワーでも浴びたいのか、別にそのままでも良いとフロイドの希望を伝えるとユウはそうではないのだと大きな声を上げた。
「い、致す前に凄く大事なお話があるんです!後、シャワーは浴びたいです!」
取り敢えず未だにユウがする気である事が確認出来たフロイドはベッドの上でユウが正座したのを真似して、靴を脱ぎ同じ様な姿勢を取った。
が、すぐに足が痺れたので崩して座る。
ベッドの上で語られたのはフロイドからすると荒唐無稽な話であった。
あまりの非現実的な話にフロイドは思わずベッド上で立ち上がりそんな嘘を吐く程に自分とするのが嫌なのかと泣きだす程だった。
対してユウも泣きだし嘘なんか言わないと、本当の事だと顔を覆って泣き出してしまう。
最早そういう雰囲気はなく、これ以上口を開けばどちらかの口から別れ話が飛び出しそうな程に険悪な雰囲気となってしまいフロイドはそのまま涙を零すユウに触れずオンボロ寮を飛び出した。
「おや、フロイド。今日はてっきり帰ってこないのかと思いましたよ」
放課後、フロイドがユウを抱えて歩いていた所を見たというジェイドは驚いた様を見せながらもその表情はご機嫌であった。
その片割れの表情に苛つきを募らせるフロイド。
そこへ書類片手に二人の部屋へとやって来たアズールもやはりジェイド同様に態とらしく驚いて見せた。
何時もならばキレて暴れている所であるがそんな気分にもならず無言でベッドに上がり、布団に包まって貝の様に口を閉ざしたフロイドにジェイドとアズールは顔を見合わせ首を傾げた。
「これは重症の様ですね」
「とうとうユウさんに振られましたか」
「振られてねーし!!」
ジェイドの言葉に反応して布団から顔を出したフロイドであるがすぐにその表情を歪めた。
涙を流して嗚咽を漏らすフロイドにこれはただ事ではないと弄るのを一旦中断して二人はフロイドに駆け寄った。
「可哀想なフロイド。アズールに泣かされる何て」
「勝手に僕の所為にするな。元はお前がフロイドに振られたか何て聞いたからだろ」
アズールの発した振られたという言葉にフロイドはますます大きな声で泣いた。
そのフロイドの様にまた二人は視線を合わせて本当にフロイドは振られたのだろうかと思った。
先程、フロイドがユウを抱えて幸せそうに廊下を歩いていたのを見ていた二人は一体この短時間の間に何が合ったのかフロイドに尋ねる。
「余程、ユウさんはフロイドとなすのが嫌だったのではないですか?」
フロイドから事のあらましを聞いたジェイドの容赦のない結論に泣き止みかけていたフロイドは再び泣き出した。
ユウがフロイドに話した事は第三者が聞いてもそう思う程不思議で現実味のない話であった。
「私、父親がいないんです」
そう切り出されたユウの話にフロイドは頭を傾げた。
何故、今家族の話になるのかフロイドはよく分からなかった。
「祖父も曽祖父もいないんです」
それは少し珍しいとも思ったフロイドであるが未だ話は見えない。
「フロイド先輩は蜘蛛や蟷螂が交尾をする際何をするか知ってますか?」
家族の話かと思いきや突然虫の話となりフロイドはますます混乱する。
しかし何をすると聞かれても一体、交尾以外に何をするのかフロイドには想像が付かない。
「蜘蛛も蟷螂もオスを食べるんです」
「え、」
「むしゃむしゃばりばり、理由はいくつか有りますがメスがオスを食べちゃうんです」
ユウは身を乗り出してまっすぐにフロイドを見つめた。
「もし、私がその蜘蛛や蟷螂のメスの様な習性を持っていると言ったらフロイド先輩はどうしますか?」
「こんな時に冗談は止めてよ小エビちゃん」
ベッドの上にいる恋人同士がする話にしては色気がなく、些か過激過ぎて笑えないとフロイドは茶化す様に言ったがユウのまっすぐ見つめる視線は揺らがない。
その視線に思わずたじろぐフロイドであるがすぐに何時もの調子に戻ると両手でユウの頬を挟んだ。
「それで小エビちゃんはオレとしたらそのままオレを食べちゃうって言うの?」
こんな小さな口でどうやって食べるのか、情事の最中にナイフでも取り出して刻み調理して食べるのかと冗談は止めてくれとフロイドは言った。
「それとも何?そんな嘘を吐いて迄俺としたくないわけ」
自分で口にしてだんだんと苛つきを覚えるフロイド。
ユウはフロイドの言葉に酷く傷付いた顔をしており、その表情がますますフロイドを苛つかせた。
それからの会話はただの口喧嘩であった。
互いに酷いと、嘘だ嘘じゃないと言い合い、とうとう顔を手で覆い泣き出したユウにフロイドは居た堪れない気持ちになってオンボロ寮を飛び出した。
「あながちユウさんの言う事は嘘ではないかもしれないですよ?」
「おや」
「はあ?!」
フロイドの話を聞いて暫く考え込んでいたアズール。
そのアズールが発した言葉にジェイドは意外そうな顔をし、フロイドは驚き見た。
「え、普通に考えてありえないでしょ」
「それはお前の感覚と常識でだろ。けれどユウさんは異世界の人間だ。彼女がこの世界の人魚や獣人に驚いていた様に彼女の世界に僕達が驚く様な人種や文化があってもおかしくない」
「そういえばユウさんは歯がとても丈夫でしたね」
以前、食堂でカニクリームコロッケの蟹の爪をまるでクッキーでも食べる様に難なく食べていた事を思い出し話すジェイド。
「ユウさんの言っていた父親や祖父がいないと言っていたのもそういう事情からでしょう」
「え、え、じゃあ小エビちゃんが言っていた事は本当の事で、オレは小エビちゃんに食べられるの?」
フロイドは頭を抱え二重に絶望した。
ユウの言う事を信じず嘘と断じてキツい言葉を浴びせた事。
そしてユウの話が事実と言うならば二人が結ばれた途端にユウに食べられる未来。
一体どうすればいいのかと顔を青ざめさせて途方に暮れるフロイドにアズールとジェイドはフロイドの肩を掴んだ。
「ユウさんともう一度話をして来て仲直りして来なさい」
「アズール」
「僕達はここで応援していますから」
「ジェイド」
以前は二人が恋敵という事でなかなかにギスギスした関係となっていたがやはり持つべきは実の兄弟と幼なじみだと涙ぐみ感動するフロイド。
「そしてさっさとユウさんに食べられて来て下さい」
「残されたユウさんは僕がしっかり大切にしますので」
「オマエ等マジで締め殺すぞ」
感動を返せと勢いよくベッドの上に立ち上がったフロイドは暴れた。
ここまでのストレスも何もかもも発散すべく暴れまくり私室は暫く使えぬ程に崩壊した。
一頻り暴れてすっきりしたフロイドはすぐさまオンボロ寮へと向かった。
忙しなく乱暴に寮の扉を叩くフロイドに応対したのはグリムで、グリムは扉を叩いたのがフロイドだと確認した途端あからさまに嫌そうな顔をした。
「子分はもう寝てるんだゾ」
フロイドはそれが嘘だと見抜いた。
というのも未だ空に星が瞬き始めた夕方とも夜とも言えぬ眠るには早過ぎる時間帯であったからである。
グリムは何としてもフロイドを寮に入れたくないらしく小さな身体でフロイドが寮内へ侵入するのを拒んだが体格にしても魔法にしてもグリムがフロイドに敵う筈もなくあっさりと魔法で拘束されたグリムは玄関の隅に転がされた。
寮内に入ればゴースト達は遠巻きにフロイドを見ていたが襲ってくる事はない。
ただ、きっとユウに何かすればゴースト達も何かしらのアクションを起こすつもりなのだろう、彼等は今でこそ手を出して来ないがフロイドに向ける視線にはありありと敵愾心が含まれていた。
そんなゴースト達の視線も通り抜けてユウの私室の前に辿り着いたフロイド。
扉の向こうからはユウの泣き声が聞こえた。
「小エビちゃん、オレだけど入って良い?」
軽くノックをして尋ねればそれまで聞こえていた泣き声がぴたりと止まった。
「どうぞ」
鼻声交じりの返事にフロイドはユウの私室へと入る。
ユウはフロイドが飛び出した時と変わらずベッドの上にいた。
掛け布団と頭から被り、包まったユウはやって来たフロイドを見上げて尋ねる。
「別れ話ですか?」
フロイドが否定する前にユウは再び嗚咽を漏らす。
ユウの普段の様子からは考えられない程にネガティヴになっている様で嗚咽を漏らしながらもその途中で「やっぱり」だとか「こんなだから」だとかそんな言葉が聞こえた。
フロイドは床に膝を付き、視線をユウに合わせると彼女がすっぽり被った布団に手を伸ばす。
「オレは別れたいなんて言ってねぇし」
泣いているユウを前に不機嫌と迄はいかないがフロイドの声は少しばかり拗ねている。
ぐしゃぐしゃに顔を涙で濡らしたユウを引き寄せたフロイドはそのまま己の腕に閉じ込め抱き締めた。
「ごめんね小エビちゃん。せっかく小エビちゃんの事を話してくれたのにね」
よくよく考えればそれこそ誕生日や好物、特技などの一般的なプロフィールは聞いていたがユウが自身の生まれた世界にまつわる事柄を話すのは初めての事だった。
内容から普段は秘匿にしていたのだろうがユウなりに考え悩みフロイドの事を思って今回打ち明けたのかもしれない。
それがいくら現実味のない事とはいえまともに精査せずに一方的に嘘だと決めつけたフロイドはユウに謝る。
そんなフロイドの腕の中でユウは首を振り自分が悪いのだと言った。
この世界にやってきてユウはすぐに自分がいた世界とこの世界は全く違い、自分が当たり前の様に思っていた性質はこの世界では異常なのだと分かっていた。
けれど何百何千何万という長い歳月で遺伝子に根付いた性質が今更どうにかなる訳でもなく、元の世界で有れば薬剤の服用で相手の四肢の欠損程度で済ます事も可能であったがその薬剤は酷い副作用を含みながらも高額で、そもそも異世界であるこの世界に同じ物はない。
ならばこの世界にいる間は恋などせずにいればいい、と思っていたのにユウはあっさりフロイドを好きになってしまった。
フロイドと一緒にいられる時間は何より楽しく離れ難く、恋人としての行為を重ねる度に次が欲しくなってしまう。
それでもフロイドを食べる訳にはいかないと色々我慢していたユウであるが、暴力を振るわれそうになったユウの元へ颯爽と駆けつけ、普段のフロイドからは想像が出来ない、ユウを助けようという必死の形相のフロイドを見てユウは彼と結ばれ一つになりたいと強く思ってしまった。
けれどやはりそれは駄目なのだとユウは言う。
「フロイド先輩と一緒になりたいけど食べたくない。ずっと側にいたいです」
そのプロポーズとも取れる熱烈なユウの言葉にフロイドはにやける自身の口元を押さえた。
告白はフロイドからであった。
押しに弱いユウの性格を利用してユウの恋人の座を手に入れた。
恋人としてのスキンシップも全てフロイドからである。
そんなユウからの熱烈な告白はフロイドの表情を緩ませるに十分であったが今はそれどころではない。
フロイドはユウを抱き締め力を少しばかり強め、頬を摺り寄せた。
「俺もずっと小エビちゃんと、それこそ2人してしわくちゃになっても一緒にいたい。だからいっぱい話そ?二人でめいいっぱい良い方法考えよ?」
「はい、はい!」
監督生
猟奇的な彼女。話し合った結果フロイドからこれならばと自信あり気にボールギャグを手渡され目眩を起こす。
フロイド
監督生の告白に始めは酷く困惑したが後で一人、監督生に食べられる事を想像して何かに目覚めそうになった。が、やはり監督生とは末長く共にいたいのでボールギャグ案を提示する。
フロイドとユウは恋人である。
変に人を誑かす能力に長けたユウに恋したフロイドはこれまで涙ぐましい努力と脚力を持ってとうとう恋人の座を勝ち得た。
そして見つめ合い、手を繋ぎ、キスまで順調にしたというのにユウとの関係はそこから一向に進まなかった。
それまでもユウは恋人のそういったスキンシップを恥ずかしがり拒む素振りは見られたがそこはフロイドの性格で押し通した。
しかしフロイドがどう頑張っても願っても騒いでもキスからそれ以上の行為は進まず、フロイドはその度にヤキモキした。
しかしこればかりは互いの気持ちがあってこその行為だからと、散々周りの、特に恋敵であった幼なじみや片割れの揶揄いも我慢し、耐えてきたフロイドである。
しかし暴漢に襲われ、あわや殴られるという所を助け出したユウの顔を見てフロイドは今なら出来ると確信した。
現にユウはいつにない様子でフロイドに枝垂れかかっていた。
何時もなら二人しかいない部屋でないと密着を拒むユウが、である。
フロイドは空いた左手を背中に回し強く握りながらユウを抱きしめる右手に少し力を込め、彼女の耳に囁きかけた。
「今から小エビちゃんの部屋に行ってもいい?」
告白したのも初めてキスしたのも、恋人らしい行為をしたのは何時もユウの部屋であった。
つまり、今からその部屋に行こうと言うのはそういうお誘いで、それに小さいながらも頷いたのもそういう事も含めた了承であった。
フロイドは表情は変えず、けれど解きかけていた左手を再び強く握り小さくガッツポーズをした。
これでまたユウとの関係が進む。
そう思うと側で転がるユウを襲った暴漢がフロイドには恋のキューピットだとかそういう類のものに見えてきた。
既にこてんぱんに伸してしまった為生きているかも怪しいがもし、次に校内で会えたならば指を圧し折るぐらいで許してやろうと思った。
それ程にユウがその気になった事がフロイドは嬉しかった。
ユウを抱き抱えたまま廊下を駆け歩き、たまにくるりと回って鼻歌を歌うフロイドは見るからに浮かれていた。
そしてオンボロ寮について、ユウの部屋に行き、靴を脱がしたユウをベッドに降ろしてそのまま覆い被さった所で出された待ったにフロイドは困惑した。
「ま、待って下さい。フロイド先輩!」
キスをしようとした口を両手で塞がれたフロイドは眉を八の字にして見るからに悲しそうな表情を浮かべた。
そんな表情を見て苦しげな声を漏らしたユウであるがやはり待ては変わらない。
一体これ以上何を待たなくてはいけないのか、あれのそれの準備は既に付いている。
シャワーでも浴びたいのか、別にそのままでも良いとフロイドの希望を伝えるとユウはそうではないのだと大きな声を上げた。
「い、致す前に凄く大事なお話があるんです!後、シャワーは浴びたいです!」
取り敢えず未だにユウがする気である事が確認出来たフロイドはベッドの上でユウが正座したのを真似して、靴を脱ぎ同じ様な姿勢を取った。
が、すぐに足が痺れたので崩して座る。
ベッドの上で語られたのはフロイドからすると荒唐無稽な話であった。
あまりの非現実的な話にフロイドは思わずベッド上で立ち上がりそんな嘘を吐く程に自分とするのが嫌なのかと泣きだす程だった。
対してユウも泣きだし嘘なんか言わないと、本当の事だと顔を覆って泣き出してしまう。
最早そういう雰囲気はなく、これ以上口を開けばどちらかの口から別れ話が飛び出しそうな程に険悪な雰囲気となってしまいフロイドはそのまま涙を零すユウに触れずオンボロ寮を飛び出した。
「おや、フロイド。今日はてっきり帰ってこないのかと思いましたよ」
放課後、フロイドがユウを抱えて歩いていた所を見たというジェイドは驚いた様を見せながらもその表情はご機嫌であった。
その片割れの表情に苛つきを募らせるフロイド。
そこへ書類片手に二人の部屋へとやって来たアズールもやはりジェイド同様に態とらしく驚いて見せた。
何時もならばキレて暴れている所であるがそんな気分にもならず無言でベッドに上がり、布団に包まって貝の様に口を閉ざしたフロイドにジェイドとアズールは顔を見合わせ首を傾げた。
「これは重症の様ですね」
「とうとうユウさんに振られましたか」
「振られてねーし!!」
ジェイドの言葉に反応して布団から顔を出したフロイドであるがすぐにその表情を歪めた。
涙を流して嗚咽を漏らすフロイドにこれはただ事ではないと弄るのを一旦中断して二人はフロイドに駆け寄った。
「可哀想なフロイド。アズールに泣かされる何て」
「勝手に僕の所為にするな。元はお前がフロイドに振られたか何て聞いたからだろ」
アズールの発した振られたという言葉にフロイドはますます大きな声で泣いた。
そのフロイドの様にまた二人は視線を合わせて本当にフロイドは振られたのだろうかと思った。
先程、フロイドがユウを抱えて幸せそうに廊下を歩いていたのを見ていた二人は一体この短時間の間に何が合ったのかフロイドに尋ねる。
「余程、ユウさんはフロイドとなすのが嫌だったのではないですか?」
フロイドから事のあらましを聞いたジェイドの容赦のない結論に泣き止みかけていたフロイドは再び泣き出した。
ユウがフロイドに話した事は第三者が聞いてもそう思う程不思議で現実味のない話であった。
「私、父親がいないんです」
そう切り出されたユウの話にフロイドは頭を傾げた。
何故、今家族の話になるのかフロイドはよく分からなかった。
「祖父も曽祖父もいないんです」
それは少し珍しいとも思ったフロイドであるが未だ話は見えない。
「フロイド先輩は蜘蛛や蟷螂が交尾をする際何をするか知ってますか?」
家族の話かと思いきや突然虫の話となりフロイドはますます混乱する。
しかし何をすると聞かれても一体、交尾以外に何をするのかフロイドには想像が付かない。
「蜘蛛も蟷螂もオスを食べるんです」
「え、」
「むしゃむしゃばりばり、理由はいくつか有りますがメスがオスを食べちゃうんです」
ユウは身を乗り出してまっすぐにフロイドを見つめた。
「もし、私がその蜘蛛や蟷螂のメスの様な習性を持っていると言ったらフロイド先輩はどうしますか?」
「こんな時に冗談は止めてよ小エビちゃん」
ベッドの上にいる恋人同士がする話にしては色気がなく、些か過激過ぎて笑えないとフロイドは茶化す様に言ったがユウのまっすぐ見つめる視線は揺らがない。
その視線に思わずたじろぐフロイドであるがすぐに何時もの調子に戻ると両手でユウの頬を挟んだ。
「それで小エビちゃんはオレとしたらそのままオレを食べちゃうって言うの?」
こんな小さな口でどうやって食べるのか、情事の最中にナイフでも取り出して刻み調理して食べるのかと冗談は止めてくれとフロイドは言った。
「それとも何?そんな嘘を吐いて迄俺としたくないわけ」
自分で口にしてだんだんと苛つきを覚えるフロイド。
ユウはフロイドの言葉に酷く傷付いた顔をしており、その表情がますますフロイドを苛つかせた。
それからの会話はただの口喧嘩であった。
互いに酷いと、嘘だ嘘じゃないと言い合い、とうとう顔を手で覆い泣き出したユウにフロイドは居た堪れない気持ちになってオンボロ寮を飛び出した。
「あながちユウさんの言う事は嘘ではないかもしれないですよ?」
「おや」
「はあ?!」
フロイドの話を聞いて暫く考え込んでいたアズール。
そのアズールが発した言葉にジェイドは意外そうな顔をし、フロイドは驚き見た。
「え、普通に考えてありえないでしょ」
「それはお前の感覚と常識でだろ。けれどユウさんは異世界の人間だ。彼女がこの世界の人魚や獣人に驚いていた様に彼女の世界に僕達が驚く様な人種や文化があってもおかしくない」
「そういえばユウさんは歯がとても丈夫でしたね」
以前、食堂でカニクリームコロッケの蟹の爪をまるでクッキーでも食べる様に難なく食べていた事を思い出し話すジェイド。
「ユウさんの言っていた父親や祖父がいないと言っていたのもそういう事情からでしょう」
「え、え、じゃあ小エビちゃんが言っていた事は本当の事で、オレは小エビちゃんに食べられるの?」
フロイドは頭を抱え二重に絶望した。
ユウの言う事を信じず嘘と断じてキツい言葉を浴びせた事。
そしてユウの話が事実と言うならば二人が結ばれた途端にユウに食べられる未来。
一体どうすればいいのかと顔を青ざめさせて途方に暮れるフロイドにアズールとジェイドはフロイドの肩を掴んだ。
「ユウさんともう一度話をして来て仲直りして来なさい」
「アズール」
「僕達はここで応援していますから」
「ジェイド」
以前は二人が恋敵という事でなかなかにギスギスした関係となっていたがやはり持つべきは実の兄弟と幼なじみだと涙ぐみ感動するフロイド。
「そしてさっさとユウさんに食べられて来て下さい」
「残されたユウさんは僕がしっかり大切にしますので」
「オマエ等マジで締め殺すぞ」
感動を返せと勢いよくベッドの上に立ち上がったフロイドは暴れた。
ここまでのストレスも何もかもも発散すべく暴れまくり私室は暫く使えぬ程に崩壊した。
一頻り暴れてすっきりしたフロイドはすぐさまオンボロ寮へと向かった。
忙しなく乱暴に寮の扉を叩くフロイドに応対したのはグリムで、グリムは扉を叩いたのがフロイドだと確認した途端あからさまに嫌そうな顔をした。
「子分はもう寝てるんだゾ」
フロイドはそれが嘘だと見抜いた。
というのも未だ空に星が瞬き始めた夕方とも夜とも言えぬ眠るには早過ぎる時間帯であったからである。
グリムは何としてもフロイドを寮に入れたくないらしく小さな身体でフロイドが寮内へ侵入するのを拒んだが体格にしても魔法にしてもグリムがフロイドに敵う筈もなくあっさりと魔法で拘束されたグリムは玄関の隅に転がされた。
寮内に入ればゴースト達は遠巻きにフロイドを見ていたが襲ってくる事はない。
ただ、きっとユウに何かすればゴースト達も何かしらのアクションを起こすつもりなのだろう、彼等は今でこそ手を出して来ないがフロイドに向ける視線にはありありと敵愾心が含まれていた。
そんなゴースト達の視線も通り抜けてユウの私室の前に辿り着いたフロイド。
扉の向こうからはユウの泣き声が聞こえた。
「小エビちゃん、オレだけど入って良い?」
軽くノックをして尋ねればそれまで聞こえていた泣き声がぴたりと止まった。
「どうぞ」
鼻声交じりの返事にフロイドはユウの私室へと入る。
ユウはフロイドが飛び出した時と変わらずベッドの上にいた。
掛け布団と頭から被り、包まったユウはやって来たフロイドを見上げて尋ねる。
「別れ話ですか?」
フロイドが否定する前にユウは再び嗚咽を漏らす。
ユウの普段の様子からは考えられない程にネガティヴになっている様で嗚咽を漏らしながらもその途中で「やっぱり」だとか「こんなだから」だとかそんな言葉が聞こえた。
フロイドは床に膝を付き、視線をユウに合わせると彼女がすっぽり被った布団に手を伸ばす。
「オレは別れたいなんて言ってねぇし」
泣いているユウを前に不機嫌と迄はいかないがフロイドの声は少しばかり拗ねている。
ぐしゃぐしゃに顔を涙で濡らしたユウを引き寄せたフロイドはそのまま己の腕に閉じ込め抱き締めた。
「ごめんね小エビちゃん。せっかく小エビちゃんの事を話してくれたのにね」
よくよく考えればそれこそ誕生日や好物、特技などの一般的なプロフィールは聞いていたがユウが自身の生まれた世界にまつわる事柄を話すのは初めての事だった。
内容から普段は秘匿にしていたのだろうがユウなりに考え悩みフロイドの事を思って今回打ち明けたのかもしれない。
それがいくら現実味のない事とはいえまともに精査せずに一方的に嘘だと決めつけたフロイドはユウに謝る。
そんなフロイドの腕の中でユウは首を振り自分が悪いのだと言った。
この世界にやってきてユウはすぐに自分がいた世界とこの世界は全く違い、自分が当たり前の様に思っていた性質はこの世界では異常なのだと分かっていた。
けれど何百何千何万という長い歳月で遺伝子に根付いた性質が今更どうにかなる訳でもなく、元の世界で有れば薬剤の服用で相手の四肢の欠損程度で済ます事も可能であったがその薬剤は酷い副作用を含みながらも高額で、そもそも異世界であるこの世界に同じ物はない。
ならばこの世界にいる間は恋などせずにいればいい、と思っていたのにユウはあっさりフロイドを好きになってしまった。
フロイドと一緒にいられる時間は何より楽しく離れ難く、恋人としての行為を重ねる度に次が欲しくなってしまう。
それでもフロイドを食べる訳にはいかないと色々我慢していたユウであるが、暴力を振るわれそうになったユウの元へ颯爽と駆けつけ、普段のフロイドからは想像が出来ない、ユウを助けようという必死の形相のフロイドを見てユウは彼と結ばれ一つになりたいと強く思ってしまった。
けれどやはりそれは駄目なのだとユウは言う。
「フロイド先輩と一緒になりたいけど食べたくない。ずっと側にいたいです」
そのプロポーズとも取れる熱烈なユウの言葉にフロイドはにやける自身の口元を押さえた。
告白はフロイドからであった。
押しに弱いユウの性格を利用してユウの恋人の座を手に入れた。
恋人としてのスキンシップも全てフロイドからである。
そんなユウからの熱烈な告白はフロイドの表情を緩ませるに十分であったが今はそれどころではない。
フロイドはユウを抱き締め力を少しばかり強め、頬を摺り寄せた。
「俺もずっと小エビちゃんと、それこそ2人してしわくちゃになっても一緒にいたい。だからいっぱい話そ?二人でめいいっぱい良い方法考えよ?」
「はい、はい!」
監督生
猟奇的な彼女。話し合った結果フロイドからこれならばと自信あり気にボールギャグを手渡され目眩を起こす。
フロイド
監督生の告白に始めは酷く困惑したが後で一人、監督生に食べられる事を想像して何かに目覚めそうになった。が、やはり監督生とは末長く共にいたいのでボールギャグ案を提示する。