みんなの気持ちが分からない監督生
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グリムと学園長の勧めによりユウは学園内の掃除係となる筈だった。ユウとしても学園に生徒として通うにも魔力がない為実技は受けず、座学のみというのも二回目で面白味もないのでそれでも良いかなと思い承知したのだがそういう訳にもいかなくなった。
入学式の後、念のために闇の鏡に見てもらうとユウは相変わらず何処の寮に適性があるのか判断はしてもらえなかったが魔力はあると言われたのである。
それに驚き何かの間違いだと学園長は再び鏡にユウを診断し直すよう伝えたがやはり魔力はあるという結果であった。
ユウ自身、己の身に魔力があるとは思えないが試しに何もない方向に向かって魔法を使うイメージ、試験で彼等が炎を出していた所を想像すれば同じとは言えないけれど確かにファイアーショットが放てた。
「出た!」
「出たじゃありませんよ」
何呑気な事を言っているのだとユウが出した炎の球を床に落ちる前に消したクロウリーは頭を押さえた。
「これでは貴方を学園に入学させなければなりません」
「ふなっ?!どうしてなんだゾ!!」
どうしてもユウを学園の生徒にしたくないグリムは学園長にしがみつく。
「どうしてってユウくんの為ですよ。魔力のなかった者が突然魔力を得る何て事故の元ですからね。良くてオーバーブロット、悪くて爆散ですよ」
「爆散は嫌だなぁ」
クロウリーの爆散という言葉にユウの身体が飛び散る想像でもしたのか涙を浮かべたグリムはユウに抱き付く。
そんなグリムを撫でながらユウはグリムの扱いがどうなるのか尋ねた。
「今回はそうですね。使い魔という扱いでどうです?」
前回は一人と一匹で一人の生徒扱いであったがユウを一人の生徒としてカウントする以上グリム単体の入学は難しいとクロウリーは言う。
グリムは自分だけ学園の生徒として入学出来ないのに文句を言うと思われたが使い魔であれば四六時中ユウの側にいてもおかしくないと聞いてあっさり聞き入れた。
「本当に良いの?グリム」
「俺様はユウと一緒にいられるならそれで良いんだゾ!」
「グリムが良いなら良いけど」
使い魔を連れて学園に入学する場合、色々な手続きが必要という事であったがそれは学園長の方で何とかしてくれるという事だった。
「それでは、グリムくんは顔をこちらに、ユウくんは両手を出して」
「はあ」
クロウリーに言われるがままグリムは顔を突き出し、ユウは両手を出した。
クロウリーが杖を一振りするとグリムには以前と同じ薄紫の石に大きなリボンが付いた首輪が、ユウにはグリムのリボンの飾りと同じ薄紫の石が付いたマジカルペンが出した手の上へと現れた。
「入学おめでとうございます。ナイトレイブンカレッジへようこそ」
片足を一歩引き、帽子を下ろしてユウへとお辞儀をしたクロウリー。
その役者じみたポーズにグリムは呆れていた。
対してユウは
「ふなっ?!!」
「ユウくんどうしたんですか?!」
涙を零していた。
「あ、あれ?ちょっと前回はこんな事言われた事がなかったのでうるっときちゃって」
嬉し泣きだとユウは涙を零しながら笑った。
そんなユウにクロウリーは少しばかり罪悪感を抱いた。
前回のクロウリーはユウにこうして祝いの言葉をかけるどころか魔力もなく帰る所のないユウを始めの頃だけとはいえ厄介者扱いしていたからである。
涙を零すユウに謝るべきなのかとも思ったがそれも何だか違う気がしてクロウリーはとにかく混乱した。
その間に涙を拭ったユウは声を上げてクロウリーを見る。
「でも私、お金持ってないです」
前回、お金に関してクロウリーに甘えていたユウはそもそもこの学園で入学するにあたり入学金だとか授業料だとかがどれだけ必要なのかよく分からない。
それが必要有る無しにしても再びこの世界に生きていくに必要なお金は全く持っていなかった。
涙が止まったかと思えばあたふたしだしたユウにクロウリーは笑う。
「この学園での衣食住は前回同様私が保証します」
「だったら!」
喜ぶユウを押し除けてグリムは身を乗り出す。
「食費をもっと増やすんゾ!」
「ちょっとグリム」
「だって前は食費が足りないってユウはいつも食事を抜いてたんだゾ」
「ちょっと貴方そんな事をしていたんですか?!」
ユウが食事を抜いていた事実にクロウリーは驚く。
確かに前回のユウは入学当初に比べると在学中は少しばかりほっそりとした印象を持っていたクロウリーであるがてっきりそれは思春期故のダイエットだろうと思っていた。
「食費は充分渡していたでしょう」
クロウリーは説明を求めてユウの肩を掴み揺さぶった。
「確かに沢山頂いてたのですが一人と一匹じゃちょっと厳しくて」
貰った当初こそはこんなに貰っても良いのかと喜んだユウであったが意外にグリムが小柄な身体ながらよく食べた為食費は足りなかった。
「足りないならそう言ってください!」
これでは自分は優しいどころか育ち盛りの子供に満足に食べさせてやれない最低野郎ではないかとクロウリーは嘆いた。
実際そうではないかと同意しようとしたグリムの口をユウは咄嗟に押さえる。
「言おうと思ったのですがその前に学園長から食費が掛かると言われて言い出しにくくて、それなら自分が一食抜けば何とかやりくり出来そうだし良いかな、なんて」
嘆きの声をますます大きくさせたクロウリーにユウは笑って誤魔化す。
「良くないですよ!どうして貴方はそう、変な所で自己犠牲に走ってしまうんです」
「性分ですかね?」
そうは言ったが正直ユウ自身は自己犠牲に走っているつもりはない。
ユウとしては自分の一食を抜くぐらいは平気で、その一食分でグリムのお腹が膨れクロウリーにこれ以上の世話を掛けないならそれで良いぐらいの気持ちだったのだが世間からすればそれを自己犠牲という。
「分かりました。では後で貴方達が三食しっかり食べれる金額を教えて下さい」
「別に前と同じ金額でも大丈夫ですよ?」
「大丈夫じゃないです!」
「大丈夫じゃないんだゾ!」
何処の寮にも適正がないと判じられたユウは再びオンボロ寮へと戻って来た。
前回は住めるまでに修繕していたので目の前の呼び名に違わぬ建物のオンボロ具合にユウは懐かしさを感じた。
学園長は懐かしさまではいかぬともその久しぶりのオンボロ具合に暫く呆然としており、我に返ると明日にでも修繕の手配をすると言った。
「早くしてほしいんだゾ」
「タダで住まわしてもらうんだから我儘は言えないよ」
「やはり今日は学園長室で過ごしますか?」
毛布ならば用意出来ると言う学園長にグリムもそうしようと寮とは反対の方向に向かってユウの服を引くがユウは首を振るいそれを断る。
「あんなカビだらけの部屋にいたらユウの身体が悪くなるんだゾ」
「そうですよ。学園長室ならばソファーはありますし空調もばっちりですよ」
「ずっと気になってたんですけどグリムも学園長も私に対して妙に過保護過ぎません?」
ユウの疑問に二人は固まり互いに視線を合わせた。
「きっと」
「気のせいですよ」
「だったら今日はここで眠っても良いですよね」
挙動不審な二人の隙をつきユウはオンボロ寮の玄関の扉を開いた。
「おかえりなさーい」
言葉と共に聞こえた幾つものパーンという声はクラッカーの音の真似か、馴染みの顔のゴースト達が入り口で並んで出迎えてくれた。
「ふなっ?!もしかしてオマエ達も」
「記憶あるよー」
「ユウも災難だったね」
「あの時はユウが俺達の仲間入りするかと思って肝が冷えたよ」
肝どころか今の自分達は全身冷えてるけど、というのはゴーストジョークなのかゴースト達は皆笑っている。
「まあ、思い出したのはついさっきなんだけどね」
「部屋は前と同じで良かったかい?」
最低限の掃除を出来ているとゴースト達はその冷ややかな手でユウの手を引いた。
引かれるがままに何時もの面々に手を引かれて廊下を進むユウの背中を見つめながらグリムは玄関に立ち竦んでいる。
毛は栗立ち、先が三つに分かれた尻尾は真っ直ぐ天井へと伸びていた。
荒い息を吐き出すグリムに学園長は屈むとその小さな頭を撫でる。
「落ち着きなさいグリムくん。今からそんな調子でどうするんです。これから貴方がユウくんを護っていかないといけないんですよ。」
「学園長」
「私も出来る限り協力はしますがやはりずっと側にいる訳にはいかないですからね。それとも」
学園長はグリムに微笑みかけた。
その笑みがグリムは見た事ないがきっと悪魔はこのような顔をして誘いかけてくるのだと思った。
「やはり私の提案に乗りますか?彼女が元の世界に帰る方法が見つかる迄何処か安全な所に隠しておけば前回の様な事はきっと起きないですよ」
その誘いは一度目聞いた時よりもグリムには魅力的に感じた。
このオンボロ寮はグリムとユウの思い出が沢山詰まっているがそれと同時にユウが最後を迎えた場所であった。
ユウの最後を思い出すだけでグリムは吐き気を催す。
グリムはユウの最後を見ていた。
永遠に目が覚めぬ呪いをかけられた後のユウを呆然と見ていた。
ユウはグリムの目の前でみるみる小さくなり、分けられて、情けにとグリムに分け与えられたのは小指の先だけであった。
グリムはその後の事を覚えていない。
最後に学園長の声を聞いた気もするがグリムは記憶が途切れるまで自分より小さくなったユウを抱えて泣いていた。
それは深い後悔となって今のグリムに引き継がれている。
「それだけは駄目なんだゾ」
ユウが無事に何処も欠ける事なく元の世界に戻る事が今のグリムの願いであるが、学園長の提案を飲む訳にはいかなかった。
「それだとやってる事はあいつ等と変わらないんだゾ」
それは嫌だとグリムは拒否をした。
「結果的にユウくんが帰れれば良い訳ですし、それまで隠してしまった方が私も安心なんですけどね」
やはり駄目かと学園長が尋ねるのでグリムは大きな声で駄目だと答えた。
「グリム?何騒いでるの?」
その声を聞いてユウが部屋から顔を出した。
「な、なんでもないんだぞ!」
「そう?それなら良いけど。早くグリムもおいでよ!部屋が凄く綺麗になってるから」
ユウは楽しそうな様子で再び部屋の中へと消えた。
「グリムくんがそこまで言うのでしたら私も無理強いはしませんが」
グリムの頭をもう一撫でした学園は立ち上がると俯いたままのグリムを見下ろす。
「もしグリムくんがもう無理だと思ったら私に相談して下さいね。いつでもユウくんを隠せる準備をしておきますので」