みんなの気持ちが分からない監督生
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ユウはただの体調不良だと思っていた。
眠かったり頭痛がしたり、熱っぽかったり、症状はその時々様々で相談しようにも学園長はユウを元の世界へ戻す手配の為に学園にいない。
保健室に通ってはその時の症状に合わせた薬を貰っていたが一向に良くなる気配はなかった。
そうしている間にもユウはだんだんとベッドから起き上がれなくなり、長く眠る日も増えた。
グリムが枕元で心配気にユウを見ている。
もうすぐ元の世界に帰るのだからそれまではグリムと、みんなとも思い出を作っておきたかったユウは「ごめんねグリム」とグリムへ謝った。
途端、グリムは青い瞳を潤ませて顔の側で蹲る。
まるで猫のような仕草にユウは緩慢な動きでグリムの骨張った背を撫でた。
それから暫く、意識を失っていたのか目を覚ましたユウは近くで言い争う声を聞いた。
一つはグリムの声である。
残りは複数人いるのか聞き覚えのある声が幾つか聞こえていた。
乱暴に開けられた部屋の扉、一番に部屋へと入って来たマレウスは一直線にユウの側に立つと乾きざらついた頬を撫でた。
「ユウよ。お前は今、身体を複数の毒に冒されている」
気付いていたか?と問われたユウは頬を弛ませて笑った。
「そんな気はしてた」
マレウスの後ろに立っていた数名がユウ返答に肩を震わせた。
ユウは初期の段階で突然の体調不良に対して毒を盛られたのではないかと疑念を抱いていた。
感じていた体調不良は幾つかあれどそれが同時に起こる事はなく、けれど決まって同じ人物と話した後はいつも同じ症状が出ていた。
けれどユウにはそれを判別する手段はなく、日頃から良くしてくれる人物ばかりであるから気のせいだと思っていた。
「そっか、やっぱり毒だったんだね」
それは幾ら薬を飲んでも治らない筈である。
飲むべきは薬であっても解毒剤の方だったのかとユウはそんな事を考える。
「それでもしかして今から解毒剤が貰えるとかそういう感じですか」
「いや、今更解毒剤を飲んでも如何にもならない。毒は複雑にお前の身体の中で混ざり合い定着してしまった」
そうはっきりと答えるマレウス。
だがマレウスは言葉を続ける。
「僕の魔法ならばその身に溜まった毒を解毒する事は可能だ」
「本当か?!」
マレウスの言葉にユウより早く反応したのはグリムであった。
人の垣根を掻き分けてマレウスの前に出てきたグリムはマレウスにしがみつく。
「早くユウの毒を消して欲しいんだゾ」
「ああ、勿論だ。けれど条件がある。
ユウが元の世界に帰るのを諦めるならばその身の毒を消してやろう」
マレウスの言葉にグリムは瞳を瞬かせた。
そしてゆっくりとベッドの方を向きユウの返答を待つ。
「それは、無理かな」
「どうしてなんだゾ!元の世界に帰るのを諦めたら毒を消してくれるって言ってるんだゾ?!」
グリムは信じられないとでも言うようにユウの手を掴み大きな声で騒いだ。
今すぐ撤回するんだとも詰め寄ったがユウは首を横に振った。
「お前の身体を蝕む毒はもはや元の効果を超えてお前に死ぬよりも酷い苦しみを齎す。それでも元の世界に帰る事が諦められないのか」
「うん、だってあそこが私の帰る場所だから」
それは帰れぬならば死んだ方がマシ、と言うのと同じあった。
「そうか。それ程まで死にたいのならば僕からお前へと贈り物を授ける」
ただならぬ雰囲気のマレウスにグリムはユウを庇う様に二人の間に割り込む。
しかしユウに首のリボンを引かれたグリムはそのまま床へと転げ落ちた。
「永遠に覚めぬ眠りの呪いをお前に」
今まで散々見てきたどの魔法より黒く禍々しいそれを目したユウはそのまま意識を遠ざけた。
永遠に覚めぬ眠り、即ち死の呪いを受けたユウは自分がこのまま意識が途絶えた後に死ぬのだろうと漠然に思った。
しかし一度遠ざかった意識は再び浮かび上がる。
はっきりと意識が戻り、目を開く。
目を空いている感覚はあるのに視界は何故か黒い。
加えて手を伸ばせばすぐに触れられる境界にユウはデジャブを感じた。
「確かこれの筈なんだゾ」
頭上で聞こえる声。
何かを開けようとしているのかその物音がユウの耳へと届く。
「ええいっ!まどろっこしいんだゾ」
そんな言葉の後に聞こえた息を吸い込む音にユウは慌てた。
「ちょっ、グリム、待って」
ユウは暗闇の中で声を上げるがそれは虚しくも向こうへは届かず、頭上は熱くなる。
そして青い炎で焼かれた蓋から覗き込んできた顔にユウは苦笑いを浮かべた。
「グリム、さっきぶりだね」
「ユウー!」
声を震わせて自身の胸へと飛び込んで来たグリムをユウは受け止めて撫でた。
暫く嗚咽を漏らしていたグリムであるが突如として顔を上げると驚いた様子でユウを見る。
「ユウ、オマエ記憶があるのか?!」
「あるも何もさっきぶりだし」
どっこいしょ、とグリムを胸に抱いたまま中途半端に焼けた棺の蓋を動かし上体を起こしたユウは辺りに置かれた黒い棺を見て目を瞬かせた。
「集団でお葬式、とかそう言うのではないんだよね」
もはや既視感どころでない身に覚えがある辺りの景色にユウは戸惑う。
「グリム、ちょっと私の頬を」
「摘んでも無駄ですよ。これは夢でもなく現実なのですから」
床を叩く靴音と共に現れた派手な装い人物、クロウリーにユウは驚き声を上げる。
それと同時に遅いとクロウリーへ文句を垂れるグリムにユウは目を瞬かせた。
「遅いってねえ、グリムくん。私には学園長として入学式や何やら仕事は沢山あるのですよ」
「そんなのどうでも良いんだゾ!それよりユウがまたあいつらに目をつけられる方が大変なんだゾ!!」
「ちょっと、ちょっと」
待って、と言い合う二人の前に手を出し、会話の停止を求めたユウ。
「入学式?お葬式じゃなくて?」
「何を言っているんです。その様子なら貴方は一度経験をしている筈ですよ。この学園の入学式を」
「私、死んだ筈じゃ」
クロウリーの言葉に混乱を来したユウは頭を抱えた。
「ええ、確かに貴方は死にました。そしてその後何故か私やグリムくんを巻き込んでこの入学式迄時間が巻き戻ったのです」
「学園長曰く逆行って奴らしいんだゾ」
「えー・・・」
身に起きた展開についていけず顔を手で覆ったユウ。
そんなユウにクロウリーとグリムはここにいては不味いからと場所の移動を提案した。
クロウリーの話は大概、先程の通りである。
ユウは確かにマレウスの魔法により死んだ。
そして死したユウを学園へと帰ってきた学園長が見つけ、気付いたらこの入学式が始まる直前で戻っていたと言う。
それはグリムも同じであった。
グリムの場合は丁度学園内に忍び込む所で、そこでこの先起こる記憶を得たグリムは学園長に凸撃したという。
「私はグリムくんに待てと言ったんですけどね」
前回同様に派手に炎を吹き、棺の蓋を焼いては誰かに見られる恐れは勿論今度こそ棺内のユウが火傷する恐れもある為クロウリーが棺を開ける迄散々待つ様に言い含めていたのだが結果の通りにグリムは待つ事が出来なかったらしい。
先程から自身のお腹しがみついて離れないグリムに苦笑いを浮かべたユウはその小さな頭を撫でた。
「だって前にユウは言ってたんだゾ。棺の中は暗くて狭くて怖いって」
それを覚えいたグリムはクロウリーを待つ事が出来なかったらしい。
そういえばそんな事を言った覚えのあったユウはグリムにお礼を言った。
「そんな前に言った事を覚えててくれたんだね。ありがとうグリム」
「ふなっ」
ユウからお礼を告げられたグリムは顔上げると瞳を潤ませてユウの首へと飛びつく。
そしておいおい泣き出したグリムにユウは今日はやけにグリムが泣き虫だという感想を抱く。
そんなユウに目を細めてクロウリーは「それはそうでしょう」と呆れて漏らすのだがユウはその言葉の意味が分からなかった。
「学園長、因みに例の鏡は今どうなってるんでしょうか」
ユウの言う例の鏡とはクロウリーが暫く学園を離れた原因、異世界と繋がっていると言われている鏡である。
クロウリーの伝手で見つけられたその鏡で前回のユウは元の世界に帰る筈であった。
前回はその鏡の存在を知るまでにかなりの時間がかかったが今回は既に知っている。
このまま鏡を手に入れればすぐに元の世界に帰れるのではユウは期待で胸を躍らせた。
そんな見るからに期待の眼差しを向けたユウにクロウリーはすまなさそうな顔をした。
「私もすぐにあの鏡の所在を確認しました」
もうすぐにでも式が始まると言う所であったがクロウリーは前回を思い出してすぐに鏡の持ち主であった人物に連絡を取った。
しかし帰って来た返答は何とも無情なものであった。
「あの鏡は割れてしまい既にこの世にないそうです」
「そう、ですか」
ユウはクロウリーの返答に泣きも驚きしなかったが体から力が抜けたのか、だらりと姿勢を崩して椅子へと凭れかかった。
そんな見るからに落胆した様子のユウにクロウリーは困り果てる。
「ユウ、ユウ」
脱力をして呆然としたユウの服をグリムは引っ張った。
「ユウには俺様がいるんだゾ。鏡は駄目でも俺様が必ずユウを元の世界に返してやるから元気を出すんだゾ」
「うん、グリムありがとう」
ユウはグリムを抱きしめた。
些か力を入れ過ぎの様にも見えるがグリムは一切の文句を言わずユウの頭を撫でる。
前回の今頃であればグリムは入学式の会場で自分を学園の生徒にしろと火を吹いて暴れている頃である。
それが今は相手を思いやり、励ます姿に魔獣の成長も子供同様に早いものなのだなとしみじみ思うクロウリーであった。
「って、入学式!!!」
感動もそこそこに勢いよく立ち上がったクロウリーはユウとグリムにこの部屋から出ない様言い含めると慌てて退室した。
「相変わらず騒がしい奴なんだゾ」
グリムに言われてしまっては学園長も終わりだなとユウは思いながら苦笑いを浮かべた。