twst短編
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「バ美肉したい」
ユウは連日のトラブル授業トラブルに心身共に疲れていた。
この後授業が行われる教室の机に頬を預けるユウ。
ぽっかりと開いた口から今にも魂を吐き出し、そのまま昇天してしまいそうな程に草臥れたユウの小さな呟きは周りの者達に辛うじて聞こえてはいたがそもそもバ美肉、つまりバーチャル美少女受肉の意味が分からなかった。
その為周りはユウがまたおかしな事を言っているぐらいにしか受け止めず、多少の労りをもって接する事しかなかった。
一人を除いて
「はい、これ」
放課後、イデアから渡したい物があるとメッセージで呼び出されたユウ。
人気のない廊下でイデアから渡された家電量販店のらしき大きな紙袋にユウは目を瞬かせる。
思わず受け取ったユウは前回、イデアの部屋へ遊びに行った際に忘れ物でもしたのかと思い、紙袋の中身を覗き込んで頭を傾げた。
「イデア先輩、何やらノートパソコンの様な物が入っているのですが?」
「そうだよ。ユウ氏、この間言ってたでしょ?バ美肉したいって」
だから用意したのだと難なく答えたイデアにユウは驚きのあまり大声を上げる。
「用意したって、え?イデア先輩が??アバターを???」
「アバターのデザインは知り合いに頼んだけどね」
それ以外のシステムは自分が作ったとやはり誇る訳でもなく普段の調子でイデアは言う。
そんなイデアとは対照的に尊敬の眼差しを向けるユウ。
「でもどうして」
ユウはふと、その疑問をイデアへと投げかけた。
確かにそんな事を呟いた覚えはあったユウであるが、それにイデアが応えてくれた理由がユウには分からなかった。
これでもし今日がユウの誕生日の当日、もしくはその前後であれば誕生日プレゼントだと単純に喜び受け取れたがユウの誕生日はまだ当分先である。
ユウに理由を尋ねられたイデアは視線を彷徨わせ、徐に立てた襟に顔を埋めた。
「ユウ氏はいつも忙しそうにしてるのに拙者みたいな陰キャがゲームを誘っても断らず受けてくれるからそのお礼。後、単に興味本位」
「そんな、ゲームのお誘いは楽しいから受けてるだけで」
「とにかく受け取ってよ。アバターはユウ氏好みにしてもらったから」
そう言われてしまえばユウは受け取るしかなかった。
その日は珍しく予定もなければグリムもエース達の所へ遊びに行っていて一人であったユウは寮に戻るなり私室でパソコンの設置を始めた。
ご丁寧に設置方法や機器の説明も入っており、ど素人のユウでも容易に設置を行えた。
パソコンの電源を入れて、やはり入っていた説明書の通りに進めれば学生が作ったとは思えぬ立派なアプリケーションが起動する。
そこからはそのアプリケーションの指示通りに進んでいけば画面に美少女が映った。
艶のある長い黒髪に大きな青い瞳、幼くもどことなく色気を感じさせる愛らしい顔つき。そして頭には髪色と同じ猫の様な耳が付いており、その内側、耳介部分からは瞳と同じ色の炎がちろちろと漏れ出ていた。
その何処かの魔物を彷彿させ、かつ美少女化させた様なアバターにユウは苦笑いをした。
「先輩、本当に猫が好きなんだな」
アバターのモデルに察しがついたユウがそう零せばユウの顔の動きに合わせて画面の中の美少女も動く。
瞬きも視線も変顔にも、どんな動きにも滑らかに対応する画面の中の美少女にユウは面白く、楽しくてこれは嵌まりそうだと思った。
今、少しだけ話題のバーチャルアイドルがいる。
青い炎が溢れ出る猫耳がチャームポイントのそのバーチャルアイドルはランマオと名乗っていた。
基本的には一人で喋っている動画をアップするだけなのだがその話の内容が意外にも面白いと話題だった。
ランマオは異世界人で、どういう訳かこの世界にやってきたランマオはたまたま辿り着いた全寮制の魔法士学校に入学し、学生をしている。
元の世界では有り得ない事が当たり前のこの世界に日々戸惑いながらもなんとか生活しているランマオであるが偶にどうしても元の世界の事を話したい時があった。
例えば好きな漫画であったり映画であったり、けれどランマオが異世界人であるというのは周り誰もが知らないし信じてももらえない。
その為、ランマオがその話をしてもこの世界にない作品の話である為周りは困ってしまうのである。
しかし話したいものはしたい。
反応がなくてもいいから誰かに元の世界の話が聞いてほしかったランマオは漫画やアニメ、映画に、といったサブカルチャーを中心とした話を動画内でしている。
ランマオは自称異世界人の所謂不思議ちゃんキャラであるのだがその語られる話はいくら創作とはいえ作り込みが凄まじくある意味ファンタジー物の小説を読み聞かされている様だと視聴者の評判が良かった。
「まさかユウ氏に創作の才能があったとは」
昨日アップされたばかりの動画の視聴を終えたイデアは頭にかけていたヘッドホンを外して天井を見上げた。
今回アップされたランマオの動画では彼女の故郷の料理について話していた。
異世界からやってきたランマオであるが食文化は元いた世界とこの世界では似た所があるため然程困ってはいないらしい。
けれどどうしても納得のいかない事もあると言う。
というのも彼女のいた世界と同じ料理が数多くあってもそれは彼女の暮らしていた国とは別の国の料理ばかりで、生まれ育った国の料理自体の数は少なくランマオはそれを酷く嘆いていた。
ランマオ曰く何故たこ焼きはあるのに明石焼きやもんじゃはないのか。
唐揚げやフリッターがあるなら天ぷらもあって良い筈だ。
両手を掲げて熱弁するランマオは普段の穏やかな調子で元の世界の文化を話す彼女に比べると烈しく衝撃的であったが中々の神回であったともイデアは思った。
始めこそは不思議ちゃんキャラを動画のコメントで弄る者がいたが今や彼等もランマオの作り込まれたキャラと話題に魅了されており、ランマオがいたという元の世界の考察サイトまで出来る程である。
そんなランマオは次回の更新で動画の投稿を10回目を迎える。
10回、されど10回。
視聴者に支えられて動画投稿10回目を迎えるランマオは折角だからと開設したばかりの投稿型のSNSサイトで10回目の記念すべき動画で何か聞きたい事だったりやって欲しい事はないかアンケートを取った。
ランマオがSNSサイトの登録を始めてすぐにフォローした数百名に及ぶガチ勢達は挙ってそのアンケートに書き込みした。
以前の投稿で話していた異世界の漫画やゲームの話がもっと聞きたいとかランマオの故郷をもっと知りたいだとか、中には破廉恥な書き込みをする者はいたがそんな輩の投稿はイデアが秘密裏に削除している。
希望がいくつも乱立するアンケートであったが意外にも多かったのがランマオの歌声を聴きたいというコメントであった。
ランマオは動画内で時々鼻歌を口ずさんでおり、それがなんとも独特で不思議と惹かれるものがある。
これまでも動画のコメント欄ではランマオの歌声が聴きたいというコメントは見受けられたがランマオはそれはちょっと恥ずかしいからと動画上で断りを入れていた。
しかしSNSのアンケートでもランマオの歌声が聞きたいという回答が無視出来ないほどあり、そして彼女は今回の動画で「投稿10回目の動画では頑張って歌うのでよかったら聞いてくださいね」と予告したのであった。
イデアも他の者達と同じくランマオが時折歌う鼻歌の詳細と出来れば歌声が聞きたいとサブアカからアンケートに複数回答している。
我々の粘り勝ちだとイデアは薄暗い室内でサムズアップした。
「はい、これ」
「何だかこの状況、デジャブなんですが」
今や推しの1人となったバーチャルアイドルランマオが次回の動画で万全に気持ちよく歌えるようにイデアは彼女の中の人であるユウに歌う為の機材を貢ぐ事を決めた。
前回と同じく人気のない廊下にユウを呼び出したイデアは流石に本人に向かってファンですとは言えなかった為、あくまでたまたま動画見たよ、というスタンスで素っ気なく前回と同じ紙袋を渡す。
内心は推しのアイドルの握手会に来たかの様な胸の高鳴りに困惑している。
あまりに胸の鼓動が大きく、ユウにも聞こえてしまいそうなのでイデアは懸命に目の前のユウはバーチャルアイドルの中の人で、性別も自分と同じ男だと言い聞かせるのだが推しに対するフィルターはなかなかに強固で、油断をすればユウにランマオの姿を幻視してしまう程であった。
「次の投稿で歌うみたいだね。頑張って動画の投稿を続けてるの普通に凄いしお祝いにあげる」
素っ気ない口ぶりであるがイデアの内心はこうである。
「(何時も投稿動画見ています!今回の投稿動画も最高でした。これまでの動画も最高でしたがそれを超える神回でしたね!とうとう次回はランマオたんの歌が聞けるという事で拙者、今から楽しみで眠れないでござる)」
まさかイデアが己にバーチャルアイドルを重ねて見ているなど露程も思ってないユウは身を乗り出す。
「イデア先輩見てくれたんですか!」
「た、偶々だよ」
お祝いという事で今回は素直に紙袋を受け取ったユウはイデアが動画を見てくれたという事実に顔を輝かせていた。
「しかしまさかユウ氏に創作の才能があったとは」
「創作というか殆ど事実ですからね」
「え?」
「お祝いありがとうございます!頑張って次回も投稿するのでよかったら見てくださいね」
ユウの言葉に俯き気味の顔を上げたイデア。
しかしその次の瞬間にはユウに手を握られ、顔を覗き込むように微笑まれたためイデアはその時の会話を深掘りなどする余裕はなかったし記憶に残す余裕も無かった。
「それでは聞いて下さい。巫女みこナース・愛のテーマ」
イデアはなんて?と思わず声に出してパソコン画面に疑問を投げかけた。
動画投稿10回目の挨拶を終えたランマオはそれから暫くこれまでの動画に寄せられていたコメントに応えたり既に貰っていた祝いの言葉にお礼を言っていた。
そしてそれから暫くして神妙な顔つきになったランマオは予告の通りこれから故郷の歌を歌うと言った。
その緊張と哀愁を混ぜ合わせた複雑な表情に一体どんな歌を歌うのかと思ったイデアであるがランマオの口から発せられた曲名に返答は返ってこないと分かっていても聞かずにはいられなかった。
しかしその後の溌剌とした調子で、まるでライブ会場にいる観客達に尋ねる様に「皆さーん、元気ですかー!!」と声をかけられてイデアの意識は飛ぶ。
巫女って何だ。
東方の国にあるというシャーマン的女性の事を指す言葉である。
ナースって何だ。
旧時代の女性看護師を指す言葉である。
巫女みこナースって何だ。
先程の二つを足した造語だと思われるがイデアの脳味噌でもそれ以上の事はよくわからなかった。
始めこそナースっぽい歌詞とも思われたが全くそんな事はなく、歌の途中途中で囁かれる甘い声に告白、それに胸をドキドキさせられるのも束の間。
息継ぎしているのか怪しい勢いで発せられる魔法の呪文の様な言葉の羅列。
そして最後はやはり巫女みこナースで締められた。
ランマオが歌い終わり、少しだけ間を置いての何時ものエンディングの音楽。
それに合わせてもう一度ここまで動画をアップ出来た事に対するお礼をランマオは言っていた筈なのだがイデアのその辺りの記憶はあやふやであった。
動画を一度見終えたイデアは別窓で投稿型SNSサイトを開き呟く。
巫女みこナースって何?
誰かにはっきりとこうなのだと教えられたい訳ではないがイデアは呟かずにはいられなかった。
そしてそんな呟きをSNS上に残したイデアは再び動画へと戻り動画の再生、以下エンドレス。
SNSのサイトにはイデアの様な呟きが多く上がった。
それを見た者がやはり巫女みこナースって何?と呟き、またそれが他の人の目に留まり、中には呟きと共にランマオのアカウントとその件の動画を貼り付ける者がいて、その日のSNSのトレンドに巫女みこナースが上がった。
「いやー凄いね。ユウ氏も今や人気バーチャルアイドルの仲間入りですなー」
ランマオが歌った巫女みこナースは独特な歌詞と一度聞けば暫く耳から離れない中毒性の高さから一躍SNSを中心に話題となった。
今やSNSの彼方此方でかの曲の歌って見たや演奏してみたといった動画が乱立しているがやはり一番出回っているのは本家大元ランマオの動画である。
一体誰が編集したのかランマオが巫女みこナースを歌う部分だけの動画がSNS上で出回り、沢山のコメントと反応がランマオのSNSアカウントや既に公開済みの動画に寄せられている。
「そんな事ないですよ。ちょっとたまたま皆さん、私の故郷の歌が珍しかっただけです」
あくまで一過性の物で、人気ではないというユウの視線はテレビの画面に釘付けであった。
突如激しくなるコントローラーのボタン連打、と共にテレビ画面のキャラクターも猛攻を始める。
しかし対峙していたイデアの操作するキャラはその猛攻を易々と防ぎ、大技を出した後に出来る隙に付け入って見事返り討ちにする。
自分のキャラクターが負けた事を示す画面表示にユウは嘆きの声を上げた。
「ああ!また負けた!!」
「僕に勝とうなんて後100年は早いんじゃないの」
ユウの嘆きをあざ笑うかの様なイデアの言葉。
それに頬を膨らませながらもユウは本日5回目の再戦を強請った。
ユウは久しぶりにイデアの部屋へ遊びに来ている。
近頃、ユウを見るとランマオの幻影が見えたりしてそれまでしていたゲームのお誘いを渋っていたイデア。
そんなイデアにオルトは不安気な表情でユウと何かあったのか尋ねた。
オルトの表情に胸を痛めたイデアは咄嗟にたまたまタイミングが合わないだけだと答えると、途端にオルトは微笑む。
「だって!ユウさん!」
オルトの言葉でやっと背後の気配に気付いたイデアが振り向くとユウがそこにいた。
そこでイデアはオルトの謀りに見事嵌った事に気が付く。
オルトはその間にもユウと話を進め、気付けば放課後にイデアの部屋でゲームをするという話で纏まっていた。
「いらっしゃい!ユウさん」
「お邪魔します」
お菓子を手土産にイデアの部屋へとやってきたユウを歓待するオルト。
対してイデアは自分の部屋だというのに落ち着きがなく、ユウは中の人であるとはいえ推しと同じ空間にいる事にそわついていた。
そんなイデアに気付いてか気遣う視線をちらちらと向けるユウと目が合ったイデアは胸の高鳴りに襲われてあからさまに目線を逸らすので部屋の空気は最悪であった。
二人の間にオルトがいる為何とかなっているが空気を読んだユウがその内に帰ると言うのも時間の問題かと思われた。
しかしオルトが手に取った対戦ゲームにより部屋の嫌な空気は払拭される。
互いの意識がゲームに向けられた為、二人の調子も以前の様になり、イデアの口もよく回った。
「しかしよく音声の編集なんて出来たね」
イデアが用意したアプリケーションには音声の編集までは入れていなかった。
入れる予定ではあったがユウ自身の声が男としては高めであったのと見た目は美少女だけど実は男の娘というのも有りだと思ったイデアが敢えて入れなかったのである。
だというのに動画で喋るランマオの声は完全に女の子の声でイデアは初見時に目をひん剥いた。
「編集なんて出来ないですよ。動画の声は全部地声です」
「マジで?何、ユウ氏ってば実は創作の才能だけじゃなくて七色の声の持ち主だったの?」
やはり天は二物を与えるのかと歯がみするイデアを見てユウはおかしそうに笑った。
「何ですかそれは、私も一応女の子な訳ですからあのぐらいの声は出せますよ」
「は?」
ユウの言葉にイデアは固まった。
ユウはそれまで自分の動かすキャラの攻撃を受け止めていたイデアの操作キャラが防御姿勢を崩した所に飛び蹴りを入れた。
そしてコマンドの連続入力により空へと蹴り上げ、力なく落ちてきた所でキャラの必殺技であるアッパーカットからの跳び膝蹴りを撃ち込んだ。
これが決め手となりテレビ画面にはユウの勝利を示す文字でかでかと表示される。
「やった!イデア先輩に勝てた!」
初めての勝利に両手を上げて喜ぶユウ。
そんなユウの肩を掴んだイデアはユウが先程言った言葉を再度言うように求めた。
「えっと、やった、イデア先輩に勝てた」
「そっちじゃなくて!」
イデアが言うように自分の少し前の発言を復唱したユウ。
しかしそうではないのだと声を荒げたイデアにユウは急にどうしたのかと驚いて固まっていた。
「もしかして兄さん、ユウさんの性別を知らなかったの?」
「そんなまさか」
それはないだろうとユウはオルトの言葉に笑った。
というのもユウの性別が女だというのはこの学園に於いて公然の秘密であった。
学園長は何かあっては大変だからと秘密にしたがっていたがユウ自身これといって隠す努力をしていなし隠す術も技術も持っていない。
周りの察しが良い者や関わり合いがある者達、鼻の良い獣人等はユウの性別に気付いていたが魔力のない身でありながら魔法士養成学校に通うユウである。
それだけでも十分異例なユウの性別が女であっても今更驚きもしなかったし、何か理由でもあるのだろうと表だって誰も騒がなかった。
しかし人の口に戸口は建てられない為騒ぎにはならずともユウの性別は徐々に学園中の生徒に知れ渡る。
勿論、オルトも噂に聞いており知っていた。
けれど普段からタブレットを使い登校していた上、他人との会話にわざわざ混ざろうとしないイデアに迄は噂は届かなかった。
「やっぱり知らなかったんだね兄さん」
大きく口を開けて固まるイデアにオルトは苦笑いを浮かべた。
実はオルトは他人であり異性でもあるユウと打ち解けるイデアに内心喜んでいた。
しかしどうして急に異性と馴れ合える様になったのかと不思議にも思っていたオルトはこの時漸く答えが分かった。
そもそもイデアはユウが女子だとは思っていなかったのである。
「じょじょじょじょ女子が拙者の部屋にいる?!」
ぎゃーと突然大声を上げたイデアにユウは驚いた。
学園中の者達がユウの性別を知って知らない振りをしている中まさかこんな身近にいて気づいていない者がいた事も驚きだが何よりイデア反応に驚きであった。
器用に座したまま壁際へと素早く退避するイデアにユウはオルトを見る。
「もしかしてイデア先輩って異性が苦手?」
「そんな事ないよ!だって兄さんのベッドの下には「オルト、それ以上はいけない」管理者権限により発言を中止します」
イデアの一言でオルトは突然機械的に喋り出し発言を取りやめる。
しかし皆まで言わずともベッド下というキーワードでだいたいが分かったユウは躊躇いなく側のベッド下を覗き込む。
「止めて!本当に止めて!」
「大丈夫ですよシュラウド先輩。私、大抵の性癖には寛容ですから」
「寛容とか言いつつ心の壁を感じるのは拙者の気のせいかな?!」
壁を築く位ならベッド下に手を入れるのは止めてくれとイデアは本日最大の声量で叫んだ。
一頻り叫び、もれなく隣室からの壁ドンも頂いたイデアは先程よりか気持ちが落ち着いていた。
そして何時もと変わりなく自身の側で微笑むユウに少しばかり罪悪感を抱いた。
「えっと、ユウ氏が女の子だからって突然取り乱してごめん。ユウ氏はユウ氏なのにね」
失礼な態度だったとイデアが謝るとユウは眉を下げた。
「良かった。このままイデア先輩とゲーム出来なくなったらどうなるかと思いました」
立てた膝に顔を預けたユウはイデアを見つめながらイデアとゲームをする時間が楽しくて好きなのだと告げる。
ゲームをする時間が、とはいえ突然好きと言われたイデアの胸は再び高鳴り出す。
「ぼ、僕も、ユウ氏とゲームをする時間が」
好きだと言いかけた所でイデアの言葉を電子音が遮った。
どうやら発生元はユウのスマホらしく、マナーモードにしてなかった事にユウは謝る。
今更自分が言いかけた言葉に羞恥を感じたイデアはそれを隠す為に尤もらしい理由を付けて先程鳴ったスマホを見る様伝えた。
ユウは律儀にイデアへ断りを入れてからスマホへと視線を落とす。
「イデア先輩!」
どうしましょう!と縋り付いてきたユウにイデアは動揺した。
「どうしたでござるかユウ氏」
「あ、あの、ランマオ宛にメッセージが来てて、それで今度この学園祭で開かれる全国魔法士養成学校総合文化祭の応援イメージキャラクターなりませんか?って学園長から」
「え、はぁっ???!」
監督生
疲れている間に吐いた戯言でこの度目出度くバーチャルアイドルデビュー。あまり日常では話せない元の世界の事を話してストレス解消している。
ランマオ
青い猫。ファンタジーな事を話したり不思議な歌を歌ってその内踊りもする。異世界から来て魔法士学校に通っている設定と今話題、という事で全国魔法士養成学校総合文化祭の応援イメージキャラクターの打診が来た。
イデア
興味本位からの沼に転げ落ちた。まだランマオの語る話は作り話だと思ってる。実は結構無茶な賭けをしてアバターを作ってもらった。