twst短編
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それは偶然であった。
「あ、レオナ先輩」
授業の課題で薬草を探しに温室へやって来たユウは芝生の上で寝転がるレオナに遭遇した。
意図せず近付いた時点で薄目にこちらを見たレオナであるが近付いて来たのがユウだと分かった途端に再び目を閉じてしまう。
危害を加えてくる人間ではないと信頼されているのか、はたまた草食動物と舐められているのか、多分後者であろうとユウは思った。
そんな寝ているのか寝ていないのかよく分からないレオナの髪の毛に葉が乗っている事に気付いたユウ。
声を掛けようかと思ったがそれより払ってやった方が早いと考えたユウはレオナの髪の毛へと手を伸ばす。
絡まりもせず、本当に髪の毛に乗っただけの葉はすぐに払えたがユウはレオナの髪の毛から手を離せずいた。
「さ、さらさら!」
一応目を閉じているので感動しながらも小声で呟いたユウはレオナの指通りの良い髪を弄びはしゃいだ。
「おい、何やってるんだ」
今度こそ目覚めたレオナが勢いよく身体を起こした事で触り心地の良い髪はユウの指から擦り抜けた。
「レオナ先輩の髪の毛があまりにもさらさらだったからつい弄ってしまいました」
何処か戸惑っている様子のレオナにユウは髪の毛を無断に弄った事を謝まった。
重ねて起こしてしまった事も謝り終えると再び課題の薬草を探しに立ち上がろうとしたのだが、膝を立てた所でレオナに腕を掴まれて止められる。
「レオナ先輩?」
「まさか人の髪を散々弄んでタダで済まされるなんて思っちゃいねぇよな」
こうしてユウはレオナ専属のブラッシング係となった。
専属と言ってもおはようからおやすみ迄レオナに付いて周る何て事はなく、たまたま出会ってレオナがブラッシングを所望した時のみ髪を梳いている。
レオナの髪は艶が有り、さらさらで、櫛を髪に刺せば櫛が自重で勝手に落ちていく程に指通りが良い。
そんなレオナの髪の毛を触るのがユウは楽しく、一度誰かとレオナの髪の良さを共有したくてラギーにブラッシングを勧めてみたがとてつもない顔をされ、断られてしまった。
「こんなにさらさらなのに」
お昼休み開始直後、レオナに突然拉致られたユウは温室で寝転がるレオナの髪を今日も梳いている。
昼食はラギーがレオナに買って来たものを分けてもらえた。
ラギーも一緒に食べるのかと思いきや、彼は此処へ来て昼食を目の前に置くと二人の邪魔になるからと不思議な事を言い残しすぐさま出て行ってしまう。
二人の邪魔も何もユウはレオナの髪を梳いているだけ、主人と召使いの様なものなのだけれど、とラギーに訂正を入れようとした頃には彼の姿はなかった。
レオナがパンを食べる横でユウもハムサンドを無言で齧る。
こちらの世界に無一文でやってきたユウは現在進行形で生活が困窮しており、こうしてレオナに拉致され、彼の髪を梳いた後で分けてもらえる昼食は有り難かったりする。
ご丁寧にラギーはレオナの分とは別にユウ好みの飲み物も買ってきてくれるのでユウは適度にそれを飲みつつハムサンドをしっかり噛み締めてお腹を満たす。
これで午後からの授業でお腹の虫を鳴らして皆に笑われるという展開は回避出来そうだと考えていると目の前にパンが置かれた。
置いたのはレオナ以外にはいない。
レオナの方を伺えば既にレオナは寝転がっていた。
「残りはお前が食え」
曰くレオナの好みではなかったらしい。
ユウの前に置かれたのはたっぷりの砂糖がまぶされたデニッシュパンとチョコレートがかかったドーナツであった。
確かにこれはレオナの好みではないなと思いながらユウは有り難くいただく。
食事も終わり手持ち無沙汰になったユウは出来るだけ物音を立てないようレオナの頭へと近づいた。
何か本なり教科書なり有ればそれを読んで過ごすのだが授業の終了と共にその身一つで拐われたユウの手元にはペンケースすらもない。
かと言って勝手にこの場を離れようものなら後々レオナから文句を言われる為温室を出て行く事も憚られる。
となるとユウが出来るのはレオナの髪を弄る事ぐらいであった。
髪を一房取り、櫛で整えるとそれを三つ編みにして、また別の一房を手に取る。
これが一般人の髪であれば髪に三つ編みの跡が残ってしまうのだがレオナの髪といえば三つ編みは勝手に解けて元の髪型へと戻ってしまう。
まるで高級シャンプーの広告に出てくる様なレオナの髪はユウの恰好の遊び道具であった。
「あ、レオナ先輩。午後の授業が始まりますよ」
温室内にも届く鐘の音にユウはレオナの身体を揺さぶる。
一度目は眉間に皺を寄せるだけであったが何度か揺さぶり耳元で声をかければ不機嫌ながらもレオナは身体を起こした。
「いやーユウくんがいるとオレの仕事も楽で良いっスね」
丁度レオナが身体を起こしたタイミングでやってきたラギー。
いつもこのタイミングでやってくるラギーにユウは近頃、態とそのタイミングを見計らって来ているのではという疑念を少しばかり抱いていた。
ユウの疑いの目に気付いたラギーは慌てて弁解する。
「別にユウくんに仕事を押し付けて楽しよーなんて考えてないっスよ。寧ろオレは二人の「おい、この後の授業は何だ」」
ラギーの声を遮るレオナ。
その突然過ぎる問いにユウは答えようと頭の中から時間割を引っ張り出す。
「次はジャックのクラスと合同で飛行術の授業です」
「そうか。ならさっさといけ」
まるで小動物でも追い払うかの様に手で払われたユウは何だかよく分からないまま二人に頭を下げて温室を出た。
「しっかしレオナさんも酷い人っスよね。相変わらずユウくんにあの行為意味を知らせないままさせてるんスから」
「別に酷くも何ともねぇだろ。あいつも何だかんだ楽しんでやってるんだ」
ならばこそ、その行為の意味を教えてあげれば良いのにラギーは思ったが口にはしなかった。
結局ラギーにしてみてもユウがレオナにくっついている方が何かと都合が良かったからである。
「ほら、レオナさん。授業に行きますよ」
「あー面倒くせぇ」
「あ、こら!二度寝しない!」
その日の飛行術は風が強いなか行われた。
ユウは飛べない為皆が空に浮かぶなか筋トレであるが、風が吹くなかで飛行術の授業を受ける彼等は中々に大変そうである。
グリムに至っては身体が小さい事もあり、他の生徒が耐えられる風にも煽られて先程から何度も箒ごと回転していた。
何時もは箒で空を飛ぶグリムや同級生が羨ましいユウであるがこういう日ばかりは魔力がなくて良かったと思ってしまう。
「あ、ジャックはパーフェクトだ」
グリム程でないが他の生徒も風に煽られふらつく中、ジャックだけは箒がブレる事もなくしっかりと飛んでいた。
バルガスにも褒められていたジャックは地上へと降りてくるとそのまままっすぐユウの所へと歩いてくる。
「おい、よそ見ばっかりしてるとまたバルガス先生に叱られるぞ」
ジャックの言葉の通り、ユウはよく空飛ぶ生徒を眺めては筋トレをサボる為よくバルガスに叱られていた。
あまりに酷い時は追加で筋トレを課される事もある為慌てて止まっていた筋トレを再開させる。
どうやらパーフェクトを出した生徒から順に地上に降りて小休憩らしいのだがこの強風の為、ジャック以外にはまだ数名の生徒しか地上に降りてきていない。
グリムの様子が気になりついついユウが空を見上げる度にジャックが注意する。
それもあって何とか腹筋を終わらせたユウは今度はスクワットをすべく立ち上がるのだが、ふとジャックの後ろ髪に小さな小枝が引っかかっているのに気付き手を伸ばした。
「ジャック、髪の毛に小枝が刺さってる」
「ん?何処だ」
「取ってあげるからじっとしてて」
ユウの手がジャックの髪に触れる際の所でその手はジャックに掴まれ、勢いよく下された。
「どういうつもりだ!ユウにはレオナさんがいるだろ!!」
突然、顔を赤く染めて大きな声で言ったジャックにユウは驚き目を瞬かせた。
「え、いや、ただ髪に小枝がついてたから」
「そうだとしても番以外の奴の髪に触るのは駄目だろうが!」
「番って何?」
「は?」
「え?」
此処はやはり異世界だとユウはつくづく思った。
言語は聞き取れた。
馴染みの食べ物もたくさんあった。
多少、習慣の違い等はあれどそれは元の世界であってもおかしくない許容範囲内の事であった。
けれどまさか、まさかあんな些細な行為に意味があった何て、とユウは彼がいるであろう温室へと乗り込んだ。
「レオナ先輩!!!」
「うるせぇ」
まだ午後の授業は残っているというのに温室内の芝生に転がってお昼寝モードのレオナにユウは飛びかかった。
「どういう事ですか!何時もの、ブラッシングに特別な意味があるなんて聞いてないですよ」
ジャックから聞いたのは驚くべき話であった。
この世界では獣人に対して髪に触れたりブラッシングする事はグルーミングという行為に当たる。
グルーミングといえば猫や犬、猿等の動物が自身または相手に対して毛繕いを行う行為であるがこの世界の獣人にとってのグルーミングは意味が違うらしくグルーミングをするのは例えば親子間、兄弟等の身内で主に行われ、それが他人となると恋人の様な本当に近しい仲でしか行われないという。
それは王侯貴族も同じであり、彼等は召使い達に自身の世話を任せても髪の毛だけは一切触らせないのだとか。
その為、そんな特別な行為を周りに人がいようとレオナに行っていたユウはジャックにはもちろん、そういった獣人特有の文化を知る者達からレオナの番と思われていた。
ジャックからグルーミングの説明を受けたユウは自身の手がジャックの髪に触れようとした時に彼が慌てた理由を理解する。
そして最近やたらと獣人の生徒達から脈絡もなくお祝いの言葉を告げられたり、それまでは度々起こっていた嫌がらせの頻度が減ったりと続いていたおかしな状況に納得がいった。
しかし、とユウは思う。
番、つまりレオナの恋人になどユウはこれっぽっちもなった覚えはないのである。
「誰だよ。こいつにバラした奴は」
「あー!こうなる事が分かってて私にブラッシング係をさせてたんですね。どうするんですか皆、勘違いをんぶっ」
徐に伸ばされたレオナの指に唇を摘まれ強引にユウの口は塞がれてしまう。
「勘違いが不味いならいっそ事実にするか?」
ユウの口を塞ぎながらもゆらりと立ち上がったレオナ。
レオナが立ち上がった事で出来た影がユウへと落ちる。
さらりとレオナの肩に掛かった髪が揺れて落ち、端麗なレオナの顔は少しずつ近づき
「痛っ」
首に齧りつかれた。
「甘噛みだ。言う程そんなに痛くはないだろ」
顔を離して意地の悪い笑みを浮かべるレオナに非難の目を向けたユウであるが、レオナの言う通り甘噛みだったらしく噛まれた箇所を触れてみても血は出ていない様だった。
「そうですけど」
そうなんだけれども何故ここで自分は首を齧られたのかユウは分からず、それをレオナに問おうとして固まった。
相変わらずこちら見下ろすレオナの眼差しは正に肉食動物のそれで、下手に動けば今度こそ噛まれ喰まれてしまいそうな危うさを孕んでいる。
「レオナ先輩」
「何だ」
「私を食べても美味しくないと思いますよ」
えへへ、とユウはこの場の異様な雰囲気を掻き消す為、表情を痙攣らせながらも戯けた調子で告げた。
これで何時ものレオナが戻って来てくれればユウも願ったり叶ったりである。
「そりゃあ、食ってみないと分からないだろ?」
食わず嫌いはいけないからと自身の顎を掴み覆い被さってきたレオナにユウは今日が己の命日となる事を察知した。
まさかこの世界に食人の文化があるなんて、と押し倒されながらにカルチャーショックに震えるユウ。
何とか逃げようとユウは抵抗するも力ではレオナに敵わず、自身に覆い被さったレオナに再び首筋を噛まれたユウは小さく悲鳴を漏らした。
ユウ
この後たまたま授業で使う薬草の採取に来ていたクルーウェルにより助けられ、無事に生還する。
レオナ
異世界人であるユウが知らないと分かってて髪を触らせてる悪い人。
ラギー
悪い大人(レオナ)がいたいけな子供(ユウ)を騙している。と思いながら静観してるだけの人。
ジャック
ピュアピュアの純情ボーイ