twst短編
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「(このまま、眠りにつこうかな・・・?)」
紺青の星空、渦巻く紫色の煙。
それは何時もの夢であった。
白衣の女性にどうするのか尋ねられ夢を見たいと要望を伝えれば何時もの様に深い夢へと落ちていく。
そこまでは何時も通りであった。
この度、学園長にその猛獣使いの才能を認められオンボロ寮の監督生となったユウは周りと少し変わっている。
外見に変わった所はない。
寧ろ緑だったり青だったり銀色の髪色も持つ生徒が多数いる学園に於いてユウは地味目な髪色で、顔つきも少し他の生徒より幼く感じるだけで後は普通である。
そう、見た目は
けれど外見以外となるとユウは変わっていると評する者の方が多いはずである。
というのも
「なあ、監督生って怒ってる?」
エースが恐る恐る尋ねるとユウは首を横へと振り否定する。
けれどその間もユウの表情は動かない。
ユウは無表情であった。
決して表情が全く無い訳ではなく笑ったり、困った顔はするのだが何ぶんその表情の変化が遅い。
エースとの会話から少しして花が飛んで見える程に笑ったユウにエースは困惑した。
「いや、笑うの遅すぎだろ」
実はユウは内心怒っているがそれを誤魔化す為に笑ったにしても遅過ぎである。
思わず声に出して突っ込みを入れたエースにユウはやはり少しばかり遅れて困った様に照れて見せた。
本人曰く喋り終えてからリアクションを行う為その分のタイムラグが発生しているという事であるがエースはそのユウの言い分が分からない。
今時、ロボットですら会話をしながら表情の変化が出来ると言うのに何故人間であるユウはそれがままならないのかエースは不思議でしょうがなかった。
ユウをオンボロ寮に案内した際、クロウリーはその寮の荒廃具合にせめてユウが住う区画だけでも手入れをしなくてはな、とは思っていた。
思っていたのだけれども新学期という事もありクロウリーには普段より仕事が多く、リフォームの手配すら出来ずにいた。
そんなクロウリーの元を訪ねてきたユウにとうとう生活していた区画の床も抜けてしまったかと思ったクロウリーであるがユウが話したのは文句や陳情等でなく自身で寮をリフォームしても良いかという伺いであった。
近頃のユウは交友の幅を横だけでなく縦にも伸ばしている事を知っていたクロウリーは良い伝手でも得たのだろうと考えた。
何はともあれユウ自身が寮をリフォームするというのならクロウリーのポケットマネーからお金を出す必要はないという事なので悩む暇もなくすぐに許可をした。
「これはどういう事なのでしょう」
ユウにリフォームの許可を出して翌日、ユウに用事あったクロウリーはオンボロ寮を訪ねたのだがオンボロ寮はなくなっていた。
目の前に寮らしき建物はあるのだがそこは最早オンボロではなく、まるで新しく建て直したかの様な建物が目の前に建っている。
寮の前で口を大きく開けて呆然しているクロウリーをたまたま見つけたユウは彼の側へと駆け寄った。
「ユウくん。これは一体どういう事ですか?!」
ユウの肩を突然掴んだクロウリーであるがユウの表情は相変わらず動じない。
しかし暫くすると眉を下げ、冷や汗を大量に掻き出し、やはりリフォームしてはいけなかったのかと見るからに動揺し出したユウにクロウリーは否と応えた。
「リフォームは許可を出しましたから良いのです。けれどこんな短時間でこれ程迄に改装されていたものですから私も流石に驚いてしまいましてね」
いっそリフォームしたというより新しく建て直したと言われた方が納得出来る仕上がりにクロウリーは一体どの様な方法でリフォームを行ったのか尋ねたがユウの返答は理解出来ぬものであった。
「は?たぬきの商人に頼んだ?何ですかそれは」
訳が分からないクロウリーにユウも訳が分からない様で
「元は商店を営んでいた土建屋たぬきで今は無人島開発をしているたぬき?は??」
クロウリーはますます訳が分からなかった。
学園内にある購買には何でも置かれている。
それこそ呪術的アイテムからジョークグッズ、文房具類に娯楽の類。
果ては卵に砂糖、魚や肉といった生鮮食品も取り扱っている。
ノートを買いに購買迄やって来たアズールは購買の隅で売られていた果物が気になった。
梨にさくらんぼ、オレンジに林檎と桃。
それに何故か椰子の実。
季節的にも種類的にも統一感のないそれらは通常で購入するより安値で売られていた。
あまりにも破格な金額にそのカラクリをあれこれ考えていたアズールに店主のサムは声をかける。
「それはとある生徒から頼まれて置いてる物だよ。味は確かだから是非試してみてちょうだい」
サムがそこまでいうのでアズールはノートのついでに桃を購入した。
「うっまっ!!」
「これは本当に美味しいですね」
ラウンジの仕事が終わり、賄いを食べようとしていたアズールは日中に購買で購入した桃の存在を思い出した。
賄いついでに剥いて食べてしまおうと考えたアズールは人気のないラウンジの厨房で桃の皮を剥く準備をしていた。
そこに現れたフロイドに桃の存在を気付かれて、結局フロイドの後を追い現れたジェイドの登場もあり一個の桃を三人で分ける羽目となった。
賄いを早々に食べ終えた二人は程よく冷えた桃を口に入れて目を輝かせる。
口々に美味いと言って食べる二人に未だ賄いパスタを咀嚼していたアズールの期待も増す。
逸る気を落ち着かせながら何時もより黙々と咀嚼していたアズールの目の前をフロイドの長い腕が横切った。
「おい、それは僕のだぞ」
フロイドが掴んでいたのはアズールの分の桃が乗せられた皿であった。
「えーだって俺のもうねぇんだもん」
「それはお前が味わいもせずさっさと食べたからだろ」
ぶつくさ文句を垂れるフロイドにアズールは桃の乗った皿を置く様に言うが聞き入れる様子はない。
「こっちの桃はちゃんと味わって食べるから安心してよ」
何が安心出来ると言うのかアズールがフロイドを睨んでいる間に別の腕が皿へと伸び、くし切りにされた桃が一切れ、ジェイドの口の中へと消えた。
「お前もかジェイド」
「すみません。あまりに美味しい物ですからつい」
そう言いながらも悪びれるどころか微笑み返すジェイドにアズールは頬を痙攣らせた。
アズールの意識がジェイドへと向いている間にフロイドは大口を開けて皿に残っていた桃を全て平らげてしまう。
一切れならまだしも残り二切れ全てを食べてしまったフロイドに思わず声を上げたアズール。
アズールはフロイドの前に出ると胸倉を掴み揺さぶるが体格の差故か余り動じない。
それでもアズールが怒っているのは伝わったらしくフロイドは気怠げに、続いてジェイドが明日、食べた桃を買い直すと言うのでその場は落ち着いた。
「ごめんねー昨日の果物は全てsold outしてしまったんだ」
丁度三人が来る前にハーツラビュルの生徒がパーティーに出すケーキ用に買い占めてしまったのだという。
件の果物はサム自身が仕入れた物では無いので次回の仕入れは未定らしい。
「えー折角また食べたいと思ったのに」
「残念ですね。あんなにも美味しかったのに食べれないのは」
「僕はお前達の所為で一口も食べれてないけどな」
「ないもんは仕方ねぇじゃん」
フロイドは不機嫌に少しばかり膨らんだアズールの頬を突く。
無い物は仕方がないと購買を出て寮へと戻ろうとした三人は丁度此方へと駆けてくる見慣れた姿を見た。
フロイドがすかさず「小エビちゃん!」と呼び手を振る人物、オンボロ寮の監督生ユウであった。
相変わらずといっていい程の無表情で挨拶をするユウ。
購買へ来たという事は買い物かと思ったらそうではなく購買へと商品を卸しに来たとユウは言う。
その発言にアズール達は興味を抱いた。
ユウが異世界の住人というのは学園では有名な話である。
元いた世界の物だという不思議道具以外何も持たずにこの世界にやって来たユウが購買に商品を卸すというので一体どんな物なのか気になり、見せて欲しいと言うとユウは快く応じてくれた。
ユウは小さな肩掛けの鞄に手を突っ込むのでてっきり小さな、それこそ工芸品だったり手芸品かと思いきや出てきたのはそれは見事に熟した林檎であった。
「は??」
アズールはちょっと訳がわからなかった。
ユウが肩にかけていた鞄は厚みの無い薄い鞄で、見た感じ林檎が収まる容量はある様に思えない。
しかし林檎は確かに鞄から出てきた。
ジェイドもアズールと同じ気持ちらしく少しばかり目を見開き凝視している。
フロイドは特に気にもならないらしくユウにたった一個の林檎を売りに来たのか尋ねた。
勿論そんな事はなく、ユウは取り出した林檎以外にも幾つかの果物、総計で60個程を購買に卸す事をフロイドに話した。
アズールとジェイドは一体その薄い鞄の何処にそれだけの果物が収まっているのか訳が分からず戸惑い、あれこれ考えている間にフロイドとの会話を終えたユウは三人に頭を下げると購買の中へと行ってしまう。
本当に60個もの果物を卸す予定なのか気になったアズールとジェイド、あまり興味は無いが二人の後を追ったフロイドの三人はそっと忍び足で購買へと再び戻った。
そこで見た光景にアズールは我が目を疑う。
サムを前にユウが鞄から果物を取り出すのだが、1個取り出されたかと思うと瞬きの間に1個であった果物は確かに10個になっていたのである。
「何あれ。小エビちゃんの魔法?」
「それはないかと。ユウさんは魔法が使えない筈ですから」
フロイドの言葉を否定したジェイドであるがだったらあれは何なのか、目の錯覚なのか、説明がつかない。
「ていうかあれって昨日俺達が食べた桃じゃね?」
林檎、オレンジと果物が出されてはサムの手によりバックヤードへと運ばれていく。
そうしてユウが最後に鞄から取り出した桃には三人共に見覚えがある。
淡い桃色に全体を覆う柔らかな産毛。
それは確かにアズールが昨日購入し、双子に食べられてしまった桃であった。
アズール達は購買の外で話を詳しく聞こうとユウが出てくるのを待つ事にした。
出てきた所を捕まえて事実確認をすればやはり昨日アズールの購入した桃はユウが寮の庭で栽培した物であった。
イソギンチャク事件で契約により寮を取り上げた際には果実の成る木などなかった様に思ったがその後にでも植えたのかとアズールが考えているとユウが栽培している所を見せてくれるという話になった。
既にフロイドは興味を失いかけてはいたがアズールとジェイドは見に行くというので仕方なくついて行く。
三人はオンボロ寮へと向かい、言葉を失った。
オンボロ寮はオンボロ寮でなかったし、ユウが育てているという果樹は最早果樹園と言っていい程の広い範囲で管理されていた。
「これは見事な果樹園ですね」
想像を超えた広い範囲のそれにアズールもジェイドも驚いていた。
ユウは腰に手を当て所謂ドヤ顔を決めたがすぐにその顔が生意気だとフロイドに頬を摘まれ弄ばれる。
二人がそうして戯れている間もアズールとジェイドは果樹園と化した寮の庭を見ていた。
「しかしこれ程の規模となると管理も大変でしょう」
「水道代だけでもかなりの額になるでしょうね」
ついついお金にまつわる計算をしてしまう二人。
単純に算出した費用と購買での売値を考えると利益は到底見込めない。
最早誰かに騙されているのでは何て心配にもなってきた二人であるがそこへユウから驚きの言葉が飛んできた。
「は?水やりは不要?」
「加えて果物の収穫は三日間隔ですか?」
何なら種代すらかかっていないらしい。
農家ならば泣いて喜ぶ様な夢の話にただただ驚くアズールであったがふと閃く。
「ユウさん、ここの果物を全てモストロ・ラウンジへ卸してはいただけないでしょうか」
アズールは近頃、伸び悩む新規顧客について考えていた。
狙いはポムフィオーレの生徒で、彼等を呼び込む為に野菜や果物をふんだんに使ったメニューを新しく追加したいのだがいかんせん野菜も果物もそこそこ高い。
少しでも材料費を抑え収益を上げたいアズールは何処かいい仕入れ先はないかと探していた。
しかしそんな都合のいい仕入れ先などある筈がなく難航していた所にユウが現れた訳である。
味は既にフロイドとジェイドの様子から美味しい事は確認済み。
アズールは購買で売られていた価格に少し色を付けた金額を提示する。
「この金額でモストロ・ラウンジに卸していただけませんか」
無表情に金額を聞いていたユウであるが次に見た時には微笑み、花を辺りに飛ばしていた。
こうしてアズールとユウの間で独占売買契約は結ばれた。
ユウの生活は充実していた。
無人島にいた時も虫取りに魚釣り、素潜りをしたり住民達とのコミュニケーション、と充実した生活を送っていたがこちらの世界に来て、目まぐるしいながらも楽しく日々の生活を楽しんでいる。
魔法という不思議な世界を学び、友人と笑い、先日は調子に乗って植えた果物の買い手が見つかり今日、早速に届けに行った。
無人島生活とは違った充実具合に気持ちよく疲れたユウはベッドへと飛び込む。
「(このまま、眠りにつこうかな・・・?)」
此処で眠ってしまえば再び夢を介して元の自宅のベッドに戻れる気がした。
けれど
「(もう少しだけ)」
ユウは夢見る眠りを避けて横になる事を選んだ。
明日はグリムと共に自作の釣竿で釣りをする予定で、明後日はエース達からお茶会のお誘いを受けている。
きっと眠ればいつでも島に戻れるのだからとユウは明日釣る生き物に期待を寄せてそっと目を閉じた。