最後の戦い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「こ、恐いんだゾ!!!」
何時ものビッグマウスが鳴りを潜め、代わりとばかりに飛び出したグリムの泣き言に物陰へと隠れていた一年生達は皆一様に「それな」と思った。
物陰の向こうでは先輩達が言い合いながらも血眼で自分達を探している。
「どうしてこんな事になったんだろう」
ぽろぽろと涙を零す監督生に、共に隠れていた彼等は胸を痛めた。
事の始まりは昨晩迄遡る。
何時もの様に眠る支度をしていた監督生達の元に学園長が現れると告げた。
「貴方達が帰る方法が見つかりましたよ」
その言葉に監督生とユウは喜びの声を上げた。
側で聞いていたグリムはよく分からなかったが、改めて監督生がグリムに説明するとグリムも我が事の様に喜んだ。
「あ、でも、私達が元の世界に帰るとグリムは」
そもそもグリムがこの学園に入学出来たのはグリムの行動を見守る監督生とユウがいたからであった。
しかしその二人がいなくなるとグリムの入学は許された条件が満たされなくなる。
「ふなっ?!もしかしてまた俺様は学園を追い出されるのか」
「そんな」
退学の可能性に気が付いたグリムは驚愕し、監督生は絶句して学園長を見つめた。
続いてユウも学園長を見る。
二人と一匹の視線に学園長は一度咳払いをした。
「本来であればそういう事になります」
「俺様、学園を出たくないんだゾ!」
「学園長!お願いですからグリムの在学を許してください!!」
その言葉にグリムと監督生は縋りついた。
そこを何とかしてほしいとせがむグリムと監督生の肩を落ち着いた様子のユウが叩いて宥める。
「まあまあ、学園長の話は最後迄聞くものだよ」
「そうですよ。まだ私は話を終えていません」
「ごめんなさい」
「ごめんなんだゾ」
グリムと監督生に掴まれ、乱れた服を整えた学園長はグリムを見つめた。
「ですが、この一年近くでグリムくんの潜在能力の高さは分かりましたし、貴方達の代わりに彼のお目付け役となる当てもあります。なのでお二人がいなくなった後もグリム君の在学を認めましょう」
最後はにっこりと笑った学園長に監督生は涙を流し、グリムは加えて鼻水も垂らしながら学園長にしがみついた。
「あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛」
「お前ってやっぱり優しい奴何だゾ!!!」
監督生とグリムが普段は自分の事を辛口に評価しているのを知っている学園長であるが、泣いて喜ぶ一人と一匹を見て何だか可愛く思えてしまう。
監督生に関してはもうこれから会えなくなってしまうのもあるのかもしれない。
学園長は仮面の下の目を細めて監督生とグリムを抱きしめた。
「ほら、ユウくん。君も私の優しさに咽び泣いて泣きついても良いのですよ?」
「それはちょっと」
「君は相変わらず冷めた子ですね」
それに比べて監督生とグリムは馬鹿正直で可愛いとユウに見せ付ける様に彼等の頭を撫でた。
「それで学園長、元の世界に帰れるのはいつなんですか?」
「明日ですよ」
「「「えっ」」」
二人と一匹の声は見事に重なった。
学園長の胸から離れた監督生はその急な話に理由を尋ねる。
「それが、君達が元の世界に帰る方法を見つけたのは偶然でして」
発見は本当に偶然であった。
別件で調べ物をしていた学園長は偶々その資料として開いていた本に異世界への移動方法を見つけた。
これは、と思いよくよくその方法を読み込めばその方法は行う時期がとても重要で、その時期というのが明日の夏至なのだと言う。
「という事で明日の夜には儀式を行うのでそれまでに皆さんとのお別れを行なっておいてください」
学園長の話に呆然とする監督生とグリム。
話の途中で何やら思案する様を見せていたユウは学園長に近付きこそこそと内緒話を始める。
「・・・ええ、まあ、それは構いませんが」
「とても重要な事なのでよろしくお願いします」
「分かりました。ユウくんからの珍しいおねだりですからね」
心得た、と言う学園長にユウは表情を緩めた。
「ねえ、何の話?」
状況からきっと儀式についての事なのだろうが、声を潜めての会話に監督生はユウパジャマの袖を引いて尋ねた。
それにユウ笑って答える。
「うっかり何も知らない生徒や先生が儀式を邪魔しちゃうと大変だから儀式の時は僕と君と学園長以外その儀式の部屋に入れない様にしてくれって頼んだんだ」
「そっか、確かにうっかりで邪魔されると帰れないもんね」
「そうそう」
「では、私はこれから急ピッチで儀式の準備をしなくてはいけないので失礼します」
そう言って寮を出て行く学園長を監督生とユウ、グリムは玄関まで見送った。
「明日はみんなに挨拶しなくちゃね」
約一年を共に過ごした彼等との別れが寂しいのか監督生の声は少し涙ぐんでいた。
そんな監督生にユウは「そうだね」と短く応える。
「なあ、監督生。今日は一緒に寝てもいいか?」
「うん、良いよ。私もグリムと一緒に寝たい」
腕に抱いたグリムの頭を撫でた監督生はユウを見る。
どうやらユウも一緒に寝ようという視線でのお誘いであったがユウは遠慮した。
「流石に男女で一緒に寝るのは気が引けるから遠慮するよ」
ユウの返答に納得する監督生に対してグリムは寂しそうにユウを見る。
それに困惑したユウは代替案を提案した。
「明日、めいいっぱいグリム撫でさせてくれないかな」
「しょうがない子分何だゾ!ついでに抱き締めてやる」
グリムの追加の提案にユウは喜んで見せた。
そして眠る為、監督生達とは廊下で別れたユウの前に神妙な顔付きのゴースト達が浮いていた。
「今迄ありがとうございました」
「寂しくなるねぇ」
「久々の新しい仲間だっていうのに」
「こんなに早くお別れになるなんてなぁ」
それぞれ別れを惜しむゴースト達。
それこそ始めは鮮烈な歓迎を受けたユウ達であるが、彼等はそれ以後は自分達をそれこそ己の子供か孫の如く可愛がってくれた。
ユウにとっての彼等は同じ寮に住む家族であり、沢山の事を教えてくれる師でもあった。
「しかし、大丈夫なのかい?」
「大丈夫。この日の為に皆さんから沢山の事を教わったんです。何としても明日、元の世界に帰ります」
そう力強く宣言したユウに顔を見合わせたゴースト達は溜息を吐いた。
「やっぱり意思は変わらないんだね」
「俺達からも学園のゴースト達に話しておくよ」
「身体の無い俺達だけど何かの役には立つだろうからね」
「ありがとうございます」
ゴースト達の言葉にユウは深々と頭を下げた。
翌日、元の世界に帰る事を初めに話したのは特に仲の良いエース達一年生にであった。
起床してすぐに監督生がメッセージを送り、グレードセブンの像が並ぶ通りで待ち合わせをした。
メッセージには話したい事があるとしか書かなかった為集まった五人の内、デュースとエペルは不安げな顔をしていた。
対してエースはあまり深刻な話だとは思っていない様で、グループメッセージで良くないかとぼやき、セベクは朝の従者は忙しいのだと呼び出されて怒っていたが誰よりも早くやってきた為監督生とユウはにっこりである。
朝から呼び出された理由が気にはなっているが、デュース達程ではないジャックは話を急かした。
監督生とユウは顔を見合わせて頷き合うと監督生が口を開く。
「実は私達、元の世界に帰る事になったの」
監督生がそう告げた途端、一気に重くなった場の雰囲気にエースは笑い出す。
「朝早くから呼び出しておいて冗談は止めろよな」
「エース」
しかし深刻な顔をしたデュースがユウのお腹を指差す。
正しくはユウのお腹にしがみついたグリムで、爪でも立てているのかひしとしがみついて微動だにしないグリムにエースは今の話が冗談でも何でもない事を理解する。
「それでお前達はいつ帰る」
「そ、そうだ!二人が帰る迄にお別れ会をしないと!」
ね?みんな、とエペルの提案に強張った表情の彼等は一様に頷く。
会場は何処だ、料理は、招待状は要る要らないといつもの騒がしさが戻りつつある彼等に申し訳ないと思いながらユウは帰るのが今日である事を伝えた。
「はぁ?!どうしてそんな急なんだよ」
「実は学園長が見つけた方法がどうしても夏至の日じゃないと駄目みたいで」
「成る程、確かに異世界に渡る様な大きな術ならば夏至はうってつけだ」
ユウの説明に納得するセベク。
そう言うものなのかとよく分かってないデュース達。
その中、俯くエースは「だったら、」と震え声で呟く。
「だったら来年じゃ駄目なのか?」
「エースクン?」
「おい、エース」
「だってこんな突然、じゃあさよならっておかしいだろ?!デュースだってこいつらの事をマブダチだって言ってたじゃんか」
あれは嘘だったのかと己を宥め様としたデュースをエースは詰めた。
「僕だって!」
それまで落ち着いた様子のデュースが声を荒げた。
「僕だって、二人とこんな急な別れは悲しい。けれど監督生やユウにだって会いたい家族がいるんだ。それなのに僕達の我儘でもう一年いてくれなんて僕は言えない」
「そんな俺だって分かってるよ。だけど何で今日なんだよ」
せめて明日だったならば、という悔しげ言葉を漏らすエース。
その気持ちはセベクもエペル一緒なのだろう、彼等が顔を俯かせる中ジャックが「よし」と何やら決心した様な声を漏らした。
「ジャック?」
みんなに申し訳ないやら、寂しいやらで顔を俯かせていた監督生はジャックを見上げた。
「今日は授業をサボるぞ」
「へ、」
「何?」
「「「「ええっ?!!」」」」
ジャックの突然の発言にユウは呆然と、セベクは眉を吊り上げ、監督生とエース達は驚きの声を上げた。
「ジャックの奴何か変なモンでも拾って食ったんじゃねえのか?」
流石のグリムも普段のジャックらしからぬ発言に涙と鼻水でぐしょぐしょの顔を上げた。
拾い食いをするのはグリムだけだと本来であれば誰かしらが突っ込んでいるところであるが今はそれどころでない。
監督生は何とか背を伸ばし、ジャックの額に触れて熱を測る。
「熱はないみたい」
監督生の言葉に彼等はますます混乱した。
「俺は至って正常だ!」
彼等の慌て様に少し恥ずかしくなったジャックは吠えた。
「だったら何で急にサボるなんて言ったんだよ」
エースの問いに顔を背けたジャックはガシガシと頭を掻く。
「このまま監督生やユウと別れても俺は暫く自分の感情に整理がつきそうにない。それなら今からお別れ会なりして最後は笑顔で二人を見送りたいと思ったんだ」
しかし彼等の反応から「やっぱり授業をサボるのは不味いよな」と自嘲じみた笑みを浮かべたジャックにエペルが身を乗り出して同意する。
「しようとお別れ会!僕も二人を笑顔で見送りたい!だからお別れ会しよ!」
「授業をサボるのは少し気が引けるが僕も良い考えだと思う」
エペルに続いてセベクも同意した。
続いてグリムとデュースが続き、みんながエースを見る。
「何だよこっちみんなよ」
そう言って腕で顔を隠すエースの目は少し赤くなっていた。
「良いんじゃねえの?お別れ会。きっと先生方も監督生達が帰るのを知ってるだろうから今日ぐらいは大目に見てくれるだろうし」
賛成だと言うエースに皆が安堵の息を吐く。
「だけどお別れ会に先輩達を呼ぶのは後な。あの人達が来ると監督生達盗られるじゃん」
「じゃあ午前中は僕達だけでお別れ会をしよう」
そうと決まれば、と七人は授業を行う教室でなく購買へと向かった。
購買の主であるサムも学園長から話を聞いているのか特別な割引に加え、沢山のオマケを付けてくれた。
「ありがとうサムさん!」
「ありがとうございます」
「向こうでも元気にね。小鬼ちゃん達」
ジャックとセベクは食堂で何かもらってくると別れた。
購買で大量買い込んだお菓子や飲み物、紙皿に紙コップ、パーティ用品を手分けして運んでいた監督生達であるがユウの頭に乗っていたグリムが「げっ」という声を上げる。
何事かと一様に抱えた荷物から顔を出して前方を窺えばそこには監督生達の担任でもあるクルーウェルが立っていた。
「もう予鈴は鳴った筈だが」
本来で有れば教室にいなくてはいけない彼等が大量のお菓子等を抱えて廊下にいる事にクルーウェルは形の整った眉を片方吊り上げる。
これはbad boy案件だと皆、一様に慌てた。
その動揺でユウの持っていたお菓子の一つが床へと落ちてクルーウェルの足元迄転がる。
それを無言で拾い上げたクルーウェルはやはり無言で近付いてきた。
ユウは観念し、残りの皆だけでも逃げる様に視線を送るが誰もが首を横に振った。
決して「お前置いて逃げる事は出来ない!」という事でなく、この一年たっぷりクルーウェルに躾けられた仔犬達は此処で仲間を置いて逃げても最後は捕まる事を大変理解していた。
それが分かっているからクルーウェルも敢えてアクションは起こさない。
とうとう正面に迄来たクルーウェルにユウは顔を青ざめさせて、けれど朝の挨拶をした。
いつ、どんな時でも挨拶は欠かさない。
これもクルーウェルの調教の賜物である。
それに他の皆も続く。
「本来であれば今此処で首輪を付けて教室に連行して行く所だが、学園長から話は聞いている。今回に限り見逃してやろう」
ふっと笑みを浮かべたクルーウェルはユウが落としたお菓子をユウの腕へと戻した。
加えて小さな小瓶をユウに握らせる。
「先生、これは?」
「上級生のクラスが作った変身薬だ。餞別代わりにくれてやる」
余程珍しい物なのか特にエペルが羨ましそうにその小瓶を見つめていた。
「シェーンハイトの作った物だから効き目は確かだ」
制作者が制作者の為、絶大な効果が期待出来る。
それだけにユウは本当に貰ってしまって良いものなのか困惑した。
「残念ながらその薬を成功させたのはシェーンハイトだけで、手元には一本しか無い。所有権は後で二人、仲良く相談するんだな」
そう告げたクルーウェルはユウ、続いて監督生の頭を撫でた。
「元の世界に戻ってもお前達は俺の大切な教え子だ。向こうの世界でも利口でいるんだぞ」
「はい、クルーウェル先生」
「今迄ありがとうございました」
腕いっぱいに物を持っている為頭を下げられ無いユウと監督生はこれから授業だと言うクルーウェルの背中を見送った。
「クルーウェル先生!」
「何でデュースが泣いてんだよ」
ぐずぐずと感涙するデュースにエースは呆れていた。
オンボロ寮の前でやはり腕いっぱいにサンドイッチやパイ等を抱えたジャック、セベクと合流した一行は寮の談話室に入ってパーティの飾り付けを行った。
邪魔な家具の運び出しはジャックとセベクが、エースとデュース、グリムは購買で買ったパーティ用の飾りで談話室を飾りつける。
ユウと監督生、エペルの三人は内緒でつまみ食いをしつつお菓子や軽食を大皿に盛り付けた。
準備が完了した所で皆、一様にグラスを掲げて乾杯を行った。
やはり皆の話題はユウと監督生の事でこれまでの事件や行事を振り返り思い出話に花を咲かせた。
このメンバーの中で誰よりも遅くに仲良くなったセベクが話について行けず拗ねる場面もあったがセベクの知らない話を詳しく説明したりして話はますます盛り上がった。
それから購買で買ったトランプをしたり、ボードゲームの勝ち抜き戦を行なってとにかく彼等は遊んだ。
思いつく限り遊び尽くした彼等は疲れたとソファーに凭れたり床に座ったりと各々で寛ぐ。
監督生はちょうど見上げた先で時計に気付き、声を上げた。
時刻はお昼を迎えようとしている。
お昼休みのタイミングを狙ってお世話になった先輩方への挨拶とお別れ会の招待状渡そうと考えていたが未だ何も準備していない事に監督生は酷く慌てた。
「どうしよう。もうすぐ授業が終わっちゃう」
「落ち着け監督生、みんなで手分けして招待状を作ろう!」
デュースに監督生が宥められている間にユウが購買で買ったシンプルなメッセージカードを配った。
「招待状の文章はこんな感じでお願い」グループメッセージを使って招待状の例文を各個人のスマートフォンに送ったユウはエースとデュースにはハーツラビュルとイグニハイドの、ジャック達には自寮への招待状を、そして監督生はスカラビア、ユウはオクタヴィネル寮の先輩方への招待状に取り掛かった。
手分けして招待状を作成した結果、何とかお昼休み迄に仕上がった招待状を手にユウ達は学園へと戻った。
突然の招待状に誰もが驚いているが皆が良い返事をくれた。
マレウスに関しては招待状にいたく喜んでおり、開封せずそのまま額縁に飾ると言って聞かなかったので結局口頭で案内せざる得なかった。
「若様があんなにもお喜びになるとは」
ディアソムニアの担当はセベクであった為、マレウスの喜び様に感激して泣いていた。
「良かったね」
エペルはそんなセベクの背中を撫でて己のハンカチを差し出す。
「先輩達が来るのは夕方だしそれまでマジフトしようぜ!」
ディスクを掲げて提案したエースに皆が賛成した。
早速オンボロ寮の庭に向かって皆が歩いて行く中、監督生はユウの袖を引く。
「どうしたの?」
「先輩達にまだ今日、帰る事を言ってない」
「そういえばそうだね」
再び慌て出す監督生に対し、ユウは至極落ち着いている。
「けど、この後のパーティに先輩達は来てくれるって言ってたし、その時に言おうよ」
「でも」
「ほら、エース達が呼んでるよ」
ユウが示す先でエース達が大手を振って二人を呼んでいた。
「何してんだよ監督生!ユウ!」
「早くみんなでマジフトをやろ?」
「そうだね。待たせちゃ悪いよね」
ユウに背中を叩かれた監督生は皆の所まで駆けた。
その背中をユウは目を細め見つめる。
「そう、少しでも後に回してくれた方が僕も都合が良いから」
「おい!何をのんびり歩いているんだ!」
「早く!勝手にチームを分けちゃうよ」
「ごめん!すぐ行くよ!」