リュウグウノツカイの人魚
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ナイトレイブンカレッジは生徒の数に対して教師の数は少ない。
だからなのか下級生、特に一年生と上級生のの合同授業は多い。
教師足りないし、上級生に面倒を見せておけば良くない?という考えなのか、兎に角一年生と上級生達との合同授業は多々あった。
その日あった飛行術の授業も例に漏れず三年生との合同で、ユウは一年生達より少しゆっくりやって来た三年生の一団に見知った顔を見つけてると手を振りながら笑顔でその人物の元へと駆けた。
「ラセル先輩!」
「ユウ君」
二人以外の生徒達は一斉に二人を見た。
片や学園の化石、現在進行形で留年の年数を更新する長老こと、ラセル。
片や何かとお騒がせな魔力無しの猛獣使い、オンボロ寮監督生のユウである。
そのユウがラセルを親しげに先輩と呼んだ。
何人かはきっと聞き間違いに違いないと思ったが駆け寄ったユウにラセルはにこやかに対応している。
「今日はラセル先輩のクラスと合同授業なんですね」
「そうみたいだね」
二人の間には和やかな雰囲気が流れていた。
「ラセル氏、ラセル氏」
「どうしたのイデア」
ラセルの後ろに隠れる様に立っていたイデアはラセルのジャージの袖を引くとこそこそと顔を近付け小声に話す。
「まさかこの人物が」
「そう、この前話した僕の兄妹だよ」
自慢気にラセルはユウの肩を掴んでイデアの前に出す。
自分を見るなり小さな悲鳴を上げて仰反るイデアにユウは困惑した。
「何だか怯えられてるんですが」
「彼はちょっと人見知りが凄くてね」
そうこうしている間に飛行術の担当教師であるバルガスがやって来る。
魔力の無いユウは箒に跨っても飛べない為、だいたいバルガスから与えられる筋トレのノルマをこなすか必要で有ればバルガスの手伝い位しかする事は無かった。
授業の説明を聞いている限りユウの手伝いは必要無さそうである。
バルガスの号令と共に生徒達は上級生と下級生でペアを組み出す。
「あれ?」
てっきりラセルもそっちかと思いきや何故かユウの後ろを歩いている。
それに彼の手元を見れば何故か握られているのは箒でなく傘とノート。
ユウの視線に気付いてラセルは恥ずかしそうに笑った。
「僕、身体の組織が色々脆くてね。あんまり激しい運動をしたりするとぽっきりいっちゃうんだ」
「ぽっきり」
「だから何時も飛行術は見学なんだよ」
入学したての頃はそれこそ他の生徒と共に飛行術を学んでいた。
初めての飛行は低空ではあるもののとても楽しかったのだが操作を失った同級生の箒とぶつかり落下。
低空であった為、普通で有れば痣や擦り傷位で済んだのがラセルの足と腕はそれは見事に折れた。パキパキである。
その時、検査して分かったのだがラセルの骨はとても脆く、人間で言うところの骨粗鬆症の様なものになっていた。
深海の生き物は深海で生きる為に骨や筋肉等の密度の高い組織を減少させて軽量化に努める事から深海の人魚であるラセルも似た身体の作りになっているのだろうというのが医師の見解である。
薬の服用で骨の密度を増やす事も考えたがそれが後々、それこそラセルが学園を卒業して深海に戻った際の影響を考えると未知であった為、その案は退けられた。
因みにこの骨折が止めとなり、ラセルはその年も留年となる。
そんな理由で激しい運動、怪我を負いやすい飛行術にドクターストップがかけられているラセル。
「何時もは一人で見学だから寂しいけど今日はユウ君がいるから嬉しいな」
「ラセル先輩!」
はにかむラセルとそのラセルの手を握るユウ。
そんな二人の世界を遠目に見ていた生徒達は一様に呟いた。
「俺もあっちに行きたい」
「完全同意」
彼等の周辺と言えば箒に遊ばれて空中大回転をする一年生、三年生になっても箒に弄ばれる者達で阿鼻叫喚である。
上手に箒を乗りこなす者も多数いるが箒に遊ばれる者達の方が圧倒的に多い。
加えて担当教師であるバルガスの暑苦しさである。
控えめに言って辛い。
「俺様の妙技を見るんだゾ!」
ユウの相方であるグリムが器用に彼用の少し小型な箒を乗り回していた。
人間でも容赦なく振り回す箒を悠々自適に乗りこなすモンスター。
人間の面目丸潰れである。
「おい、グリム!あんまり無茶するなよ」
飛行術の授業を受けないユウの代わりにお目付役となっているエースは地上からビュンビュンと飛び回っているグリムに声を掛けた。
それが届いているのかいないのか、グリムは高笑いと共に飛び回っている。
その時である、グリムの箒と近くで箒の気紛れで急上昇した三年生の箒が接触した。
あまり酷い音も無かったが三年生の箒は途端に力を失ったかの様に地上へ落ちて行く。
それに慌てて魔法を振るうバルガス。
「ねえ、ちょっと不味くない?」
それはケイトの言葉であった。
彼が指差す先、接触事故を起こして尚、浮いているグリムの箒は異様に震えていた。
「ふなっ?!なんなんだゾ」
まるで暴れ馬に跨るが如く、前後に酷く揺すり振られたグリムは目を回して弱々しい声を上げた。
そして箒は方向転換。
主であるグリムが弱っているのを良いことに箒が勝手に飛び出したのである。
ビュンと勢いよく風を切り、数人の生徒を空から落とした箒は丁度ラセルとユウがいる方向へ向かって飛んでいた。
二人は距離が離れていた為騒ぎが聞こえていないのか未だ和やかに談笑している。
その間にも箒は勢いよく二人の方を目指していた。
イデアやケイトと言った三年生はすかさず己のペンを握った。
最悪箒を爆破させる事も考えていたが何せ箒のスピードが速くて狙いが定まらず、グリムも箒にしがみついたままでいる。
デュースやエース達一年生はせめて箒に気付き避けて貰おうと声を張り上げた。
始めに気付いたのはユウだった。
エースとデュースが張り上げた声に何事か騒ぎに気付き、丁度上体起こしで身体を起こした所だったユウは此方に向かって来る箒と気を失っているグリムに気付いた。
「グリム!え!?」
気付いたユウであるがいまいち状況が掴めない。
そんなユウの様子でやっと気が付いたラセルは振り向くと、振り向きざまに「えい」というのんびりとした掛け声と共に手にしていたノートで箒を叩いた。
側から見れば弱々しいものであったが叩かれた箒はグリムごと地面に落ちてワンバウンドした。
ユウは地面に落ちて動かないグリムの側に駆けた。
グリムは箒に目を回してぐったりしている。
そこへバルガスを先頭に二人と一匹を心配した生徒達がが駆けて来た。
「これは駄目だな。監督生、グリムを保健室へ連れて行ってくれ」
「はい」
バルガスの見立てでは単純に箒酔いと気絶だけであったが念の為、という事でユウにグリムを保健室へ連れて行く様に指示をした。
さて、と次にバルガスが視線をやったのはラセルであった。
「ラセル氏大丈夫でござるか」
「大丈夫だよ、イデア」
駆けつけた来た一団に遅れてやって来たイデアはラセルを心配していた。
呑気な声で大丈夫とラセルは笑うが、笑いながら振られるラセルの手が何やらおかしい。
バルガスは徐にラセルに近付いてラセルの腕を掴んだ。
「・・・レガレスク」
「バルガス先生、手首折れちゃいました」
バルガスの神妙な眼差しにやはり呑気な声でで答えたラセルにバルガスは頭を押さえ、イデアは最早悲鳴にもならない声を上げた。
「一応、魔法でノートは強化したんですけど」
ただの紙のノートでは猛スピードで此方へ向かって来る箒は防げないとラセルは咄嗟に左手で握ったマジカルペンでノートに強化の魔法をかけた。
おかげでノートは鋼鉄の様に硬い。
「強化魔法は自分自身にもかけるべきでしたね」
箒を叩いた負荷が全てラセルの手首に掛かり骨はぽっきりいった。
絶句のイデア、ため息しか出ないバルガス。
「何故箒を避けなかったんだ」
叩き落とさなくても二人して避ける間はあったのだ。
「だって避けたら次は誰かに当たるかもしれませんし」
想像通りの返答にバルガスもイデアもクソデカ溜息を吐いた。
「レガレスク、以前言っていた飛行術への参加についてだが」
「はっ?!」
バルガスの口から告げられた聞き覚えのない話にイデアは驚いて顔を勢いよく上げた。
「あの話は無しだ」
「えっ?!」
次に驚いたのはラセルだった。
イデアはらしく無いと思いながらガッツポーズを取る。
「どうしてですか!」
先生!とラセルは折れていない左手でバルガスに縋り付いた。
ラセルは前期末から自分も飛行術の訓練に参加したいとバルガスに打診していて、その時は良い感触だったのである。
「なしなものはなしだ。今回は右手の骨折だけで済んだがまた以前みたいあちこち骨折となれば今年の進級も危ういぞ」
「うぐっ」
別に好きで留年をしている訳でも無いラセルは進級を逆手に取られると反論も出来ない。
「シュラウド、レガレスクを保健室へ」
イデアもバルガスに言われ、保健室へラセルを連れて行く事になった。
「何で飛行術の授業を受けたい何て言ったの」
聞いて無いんだけど、とイデアはじっとりとラセルへ責める様な視線を送った。
ラセルは身体の事もあり、飛行術の授業はレポートの提出で免除されていて飛行術の授業が嫌なイデアとしては羨まし過ぎて嫉妬してしまいそうな程の高待遇である。
なのに態々それを棒に振ってまで大怪我の恐れのある飛行術の授業を受けようとするラセルの感覚がイデアは分からない。
「僕もイデア達と空を飛びたいな、と思って」
「は、それだけの理由?」
「うん」
イデアはやはりラセルが分からない。
そんな些細な理由で命にも関わる様な大怪我を負いかねない飛行術に挑もうとしていたのである。
しかしそれも叶わずがっかりした様子のラセルの横顔を見てイデアは考え、決心した。
「今度の休み」
「うん?」
「オルトも連れて空を飛ぼう」
イデアの考えとしてラセルの安全はオルトに抱えられ空を飛ぶ事でカバー、イデア自身は休み迄に少しでも飛行術腕を磨く事で何とかなるだろうとした。
「別に授業じゃなくても一緒なら良いんでしょ?」
「でも貴重な休みなのに」
ラセルは休日のイデアが自室に篭って趣味を楽しんでいるのを知っている。
「一日位良いよ。それでラセルが飛行術に出たい何て無茶な事を言わなければ」
「イデアは良い子だなぁ」
ラセルはサングラス越に眦を緩ませ「おじさん嬉しいぞ」とラセルはおいおいと態とらしく泣き真似をした。
だからなのか下級生、特に一年生と上級生のの合同授業は多い。
教師足りないし、上級生に面倒を見せておけば良くない?という考えなのか、兎に角一年生と上級生達との合同授業は多々あった。
その日あった飛行術の授業も例に漏れず三年生との合同で、ユウは一年生達より少しゆっくりやって来た三年生の一団に見知った顔を見つけてると手を振りながら笑顔でその人物の元へと駆けた。
「ラセル先輩!」
「ユウ君」
二人以外の生徒達は一斉に二人を見た。
片や学園の化石、現在進行形で留年の年数を更新する長老こと、ラセル。
片や何かとお騒がせな魔力無しの猛獣使い、オンボロ寮監督生のユウである。
そのユウがラセルを親しげに先輩と呼んだ。
何人かはきっと聞き間違いに違いないと思ったが駆け寄ったユウにラセルはにこやかに対応している。
「今日はラセル先輩のクラスと合同授業なんですね」
「そうみたいだね」
二人の間には和やかな雰囲気が流れていた。
「ラセル氏、ラセル氏」
「どうしたのイデア」
ラセルの後ろに隠れる様に立っていたイデアはラセルのジャージの袖を引くとこそこそと顔を近付け小声に話す。
「まさかこの人物が」
「そう、この前話した僕の兄妹だよ」
自慢気にラセルはユウの肩を掴んでイデアの前に出す。
自分を見るなり小さな悲鳴を上げて仰反るイデアにユウは困惑した。
「何だか怯えられてるんですが」
「彼はちょっと人見知りが凄くてね」
そうこうしている間に飛行術の担当教師であるバルガスがやって来る。
魔力の無いユウは箒に跨っても飛べない為、だいたいバルガスから与えられる筋トレのノルマをこなすか必要で有ればバルガスの手伝い位しかする事は無かった。
授業の説明を聞いている限りユウの手伝いは必要無さそうである。
バルガスの号令と共に生徒達は上級生と下級生でペアを組み出す。
「あれ?」
てっきりラセルもそっちかと思いきや何故かユウの後ろを歩いている。
それに彼の手元を見れば何故か握られているのは箒でなく傘とノート。
ユウの視線に気付いてラセルは恥ずかしそうに笑った。
「僕、身体の組織が色々脆くてね。あんまり激しい運動をしたりするとぽっきりいっちゃうんだ」
「ぽっきり」
「だから何時も飛行術は見学なんだよ」
入学したての頃はそれこそ他の生徒と共に飛行術を学んでいた。
初めての飛行は低空ではあるもののとても楽しかったのだが操作を失った同級生の箒とぶつかり落下。
低空であった為、普通で有れば痣や擦り傷位で済んだのがラセルの足と腕はそれは見事に折れた。パキパキである。
その時、検査して分かったのだがラセルの骨はとても脆く、人間で言うところの骨粗鬆症の様なものになっていた。
深海の生き物は深海で生きる為に骨や筋肉等の密度の高い組織を減少させて軽量化に努める事から深海の人魚であるラセルも似た身体の作りになっているのだろうというのが医師の見解である。
薬の服用で骨の密度を増やす事も考えたがそれが後々、それこそラセルが学園を卒業して深海に戻った際の影響を考えると未知であった為、その案は退けられた。
因みにこの骨折が止めとなり、ラセルはその年も留年となる。
そんな理由で激しい運動、怪我を負いやすい飛行術にドクターストップがかけられているラセル。
「何時もは一人で見学だから寂しいけど今日はユウ君がいるから嬉しいな」
「ラセル先輩!」
はにかむラセルとそのラセルの手を握るユウ。
そんな二人の世界を遠目に見ていた生徒達は一様に呟いた。
「俺もあっちに行きたい」
「完全同意」
彼等の周辺と言えば箒に遊ばれて空中大回転をする一年生、三年生になっても箒に弄ばれる者達で阿鼻叫喚である。
上手に箒を乗りこなす者も多数いるが箒に遊ばれる者達の方が圧倒的に多い。
加えて担当教師であるバルガスの暑苦しさである。
控えめに言って辛い。
「俺様の妙技を見るんだゾ!」
ユウの相方であるグリムが器用に彼用の少し小型な箒を乗り回していた。
人間でも容赦なく振り回す箒を悠々自適に乗りこなすモンスター。
人間の面目丸潰れである。
「おい、グリム!あんまり無茶するなよ」
飛行術の授業を受けないユウの代わりにお目付役となっているエースは地上からビュンビュンと飛び回っているグリムに声を掛けた。
それが届いているのかいないのか、グリムは高笑いと共に飛び回っている。
その時である、グリムの箒と近くで箒の気紛れで急上昇した三年生の箒が接触した。
あまり酷い音も無かったが三年生の箒は途端に力を失ったかの様に地上へ落ちて行く。
それに慌てて魔法を振るうバルガス。
「ねえ、ちょっと不味くない?」
それはケイトの言葉であった。
彼が指差す先、接触事故を起こして尚、浮いているグリムの箒は異様に震えていた。
「ふなっ?!なんなんだゾ」
まるで暴れ馬に跨るが如く、前後に酷く揺すり振られたグリムは目を回して弱々しい声を上げた。
そして箒は方向転換。
主であるグリムが弱っているのを良いことに箒が勝手に飛び出したのである。
ビュンと勢いよく風を切り、数人の生徒を空から落とした箒は丁度ラセルとユウがいる方向へ向かって飛んでいた。
二人は距離が離れていた為騒ぎが聞こえていないのか未だ和やかに談笑している。
その間にも箒は勢いよく二人の方を目指していた。
イデアやケイトと言った三年生はすかさず己のペンを握った。
最悪箒を爆破させる事も考えていたが何せ箒のスピードが速くて狙いが定まらず、グリムも箒にしがみついたままでいる。
デュースやエース達一年生はせめて箒に気付き避けて貰おうと声を張り上げた。
始めに気付いたのはユウだった。
エースとデュースが張り上げた声に何事か騒ぎに気付き、丁度上体起こしで身体を起こした所だったユウは此方に向かって来る箒と気を失っているグリムに気付いた。
「グリム!え!?」
気付いたユウであるがいまいち状況が掴めない。
そんなユウの様子でやっと気が付いたラセルは振り向くと、振り向きざまに「えい」というのんびりとした掛け声と共に手にしていたノートで箒を叩いた。
側から見れば弱々しいものであったが叩かれた箒はグリムごと地面に落ちてワンバウンドした。
ユウは地面に落ちて動かないグリムの側に駆けた。
グリムは箒に目を回してぐったりしている。
そこへバルガスを先頭に二人と一匹を心配した生徒達がが駆けて来た。
「これは駄目だな。監督生、グリムを保健室へ連れて行ってくれ」
「はい」
バルガスの見立てでは単純に箒酔いと気絶だけであったが念の為、という事でユウにグリムを保健室へ連れて行く様に指示をした。
さて、と次にバルガスが視線をやったのはラセルであった。
「ラセル氏大丈夫でござるか」
「大丈夫だよ、イデア」
駆けつけた来た一団に遅れてやって来たイデアはラセルを心配していた。
呑気な声で大丈夫とラセルは笑うが、笑いながら振られるラセルの手が何やらおかしい。
バルガスは徐にラセルに近付いてラセルの腕を掴んだ。
「・・・レガレスク」
「バルガス先生、手首折れちゃいました」
バルガスの神妙な眼差しにやはり呑気な声でで答えたラセルにバルガスは頭を押さえ、イデアは最早悲鳴にもならない声を上げた。
「一応、魔法でノートは強化したんですけど」
ただの紙のノートでは猛スピードで此方へ向かって来る箒は防げないとラセルは咄嗟に左手で握ったマジカルペンでノートに強化の魔法をかけた。
おかげでノートは鋼鉄の様に硬い。
「強化魔法は自分自身にもかけるべきでしたね」
箒を叩いた負荷が全てラセルの手首に掛かり骨はぽっきりいった。
絶句のイデア、ため息しか出ないバルガス。
「何故箒を避けなかったんだ」
叩き落とさなくても二人して避ける間はあったのだ。
「だって避けたら次は誰かに当たるかもしれませんし」
想像通りの返答にバルガスもイデアもクソデカ溜息を吐いた。
「レガレスク、以前言っていた飛行術への参加についてだが」
「はっ?!」
バルガスの口から告げられた聞き覚えのない話にイデアは驚いて顔を勢いよく上げた。
「あの話は無しだ」
「えっ?!」
次に驚いたのはラセルだった。
イデアはらしく無いと思いながらガッツポーズを取る。
「どうしてですか!」
先生!とラセルは折れていない左手でバルガスに縋り付いた。
ラセルは前期末から自分も飛行術の訓練に参加したいとバルガスに打診していて、その時は良い感触だったのである。
「なしなものはなしだ。今回は右手の骨折だけで済んだがまた以前みたいあちこち骨折となれば今年の進級も危ういぞ」
「うぐっ」
別に好きで留年をしている訳でも無いラセルは進級を逆手に取られると反論も出来ない。
「シュラウド、レガレスクを保健室へ」
イデアもバルガスに言われ、保健室へラセルを連れて行く事になった。
「何で飛行術の授業を受けたい何て言ったの」
聞いて無いんだけど、とイデアはじっとりとラセルへ責める様な視線を送った。
ラセルは身体の事もあり、飛行術の授業はレポートの提出で免除されていて飛行術の授業が嫌なイデアとしては羨まし過ぎて嫉妬してしまいそうな程の高待遇である。
なのに態々それを棒に振ってまで大怪我の恐れのある飛行術の授業を受けようとするラセルの感覚がイデアは分からない。
「僕もイデア達と空を飛びたいな、と思って」
「は、それだけの理由?」
「うん」
イデアはやはりラセルが分からない。
そんな些細な理由で命にも関わる様な大怪我を負いかねない飛行術に挑もうとしていたのである。
しかしそれも叶わずがっかりした様子のラセルの横顔を見てイデアは考え、決心した。
「今度の休み」
「うん?」
「オルトも連れて空を飛ぼう」
イデアの考えとしてラセルの安全はオルトに抱えられ空を飛ぶ事でカバー、イデア自身は休み迄に少しでも飛行術腕を磨く事で何とかなるだろうとした。
「別に授業じゃなくても一緒なら良いんでしょ?」
「でも貴重な休みなのに」
ラセルは休日のイデアが自室に篭って趣味を楽しんでいるのを知っている。
「一日位良いよ。それでラセルが飛行術に出たい何て無茶な事を言わなければ」
「イデアは良い子だなぁ」
ラセルはサングラス越に眦を緩ませ「おじさん嬉しいぞ」とラセルはおいおいと態とらしく泣き真似をした。