トレインさん家のお孫さん
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自主学習の時間を終えたユウは食堂に向かって一人歩いていた。
何時もはトレイン達と一緒に昼食を取るのだが今日は忙しいとかでユウ一人の昼食であった。
昼休みである為廊下は授業を終えた生徒や教師達で犇めきあっている。
その人混みに慣れたユウはすいすいと彼等の足元を抜けて前に進んでいた。
そんなユウの前を歩いていた集団の一人が薄い冊子の様な物を落とした。
ユウは慌ててそれが踏まれないよう拾うと、追いかけて声を上げた。
「お兄ちゃん!」
「ん?俺?」
目的の彼以外にも数名がお兄ちゃんと呼ばれて振り返ったが、呼ばれたのが自分でないと分かると彼等は再び歩いていく。
「これ、落としたよ」
どうぞ、とユウが差し出した事で漸く彼は自分が落とし物を事に気付いた様であった。
「おちび、ありがとうな」
お礼とばかりに頭を撫でられたユウが嬉しそうに微笑むと周りの者達は一様に目尻を下げた。
「おちびちゃんも今からお昼?」
「うん」
「じゃあ、兄ちゃん達と一緒に行こうな」
集団の内の一人が手を差し出し、ユウがその手を握るとすかさず空いているもう片方の手も握られる。
ユウと同じく食堂に行くという彼等との会話はユウが先程拾った落とし物についてであった。
「写真がいっぱいで綺麗だね」
本や図鑑、写真集でもないそれにユウは興味津々である。
聞けば彼が住む街の情報誌なのだという。
「近所のケーキ屋さんが載ったとかで母親がわざわざ送ってきたんだよ」
そう話している間にも一向は食堂に着いた。
さっそくユウは彼等と共に食堂の受付へと並ぶ。
「買いにも行けないのに写真だけ送られてもな」
新手の嫌がらせだと嘆く彼を仲間は笑った。
「ねえねえ」
「どうした?おちび」
「ケーキ屋さんって何?」
ユウが抱いた素朴な疑問に彼等は固まる。
先程迄生徒達のさざめきで賑やかだった食堂は打って変わり静まり返っていた。
「ケーキ屋さんっていうのはケーキを売るお店の事だけど」
「まさかおちび、ケーキを知らないなんて事ないよな」
そんなまさかと誰かが笑った。
しかしユウは答えない。
答えないユウの代わりにその浮かべた困惑の表情が全てを物語っていた。
「まじか」
そもそもユウはこの学園に来るまでお菓子自体食べた事がなかった。
しかし学園にやってきてからは教師や生徒達から分けてもらったり、食堂のデザートという形で食す機会があった。
しかし教師や生徒がくれるものは日持ちのする焼菓子やキャンディーが中心で、食堂のデザートは冷たいプリンやゼリーが中心。
加えてユウはイレギュラーな事態を除いて学園の外に出た事がなかったりと、偶然が偶然と重なりこれまでケーキを食べる機会どころかケーキという存在を知る事がなかったのである。
その事実に食堂に居合わせ、たまたま話を聞いた者達は言葉を失った。
ゴースト達は利益率を考えてデザートにケーキ類を出さなかった自分達を呪ったし、寮でお茶会を度々開くハーツラビュル寮の生徒達は我が耳を疑い、珍しく食堂に来ていたイグニハイドの寮生は幼女とケーキの組み合わせは当たり前だと思っていただけに動揺が凄まじかった。
「ケーキって綺麗なんだね」
料理を席まで運んだユウは情報誌に載っていたケーキ屋のページを見せてもらいきらきらと瞳を輝かせて言った。
ユウが見ているのは情報誌に取り上げられたケーキ屋で特に人気な苺のタルトで、ツヤを出す為に何か塗られているのか盛り付けられた苺は艶めき輝いていた。
正しくはケーキではないのだが広く見ればタルトもケーキの分類だろうからとユウのコメントに対し誰も訂正しない。
「これなんてお空に浮かぶ雲みたい」
一般的なデコレーションケーキを見て楽しそうに呟いたユウの感想に周囲にいる者の内数名が鼻を啜り涙を拭った。
「おやおや、なんですか。この雰囲気は」
まるで誰かの葬儀でも行われているかの様なもの悲しい雰囲気に食堂へとやってきた学園長は頭を傾げた。
「あ、この間クルーウェル先生にしこたま叱られてた学園長だ」
誰かが呟き、それが生徒間で伝播される。
生徒が口々に揶揄する様な事を言うので学園長は眉を吊り上げ吠えた。
「誰ですか?!私の悪口を言うのは」
「悪口っていうか事実じゃん」
先日、学園長が幼いユウに不適切な事を教えていた為にクルーウェルから厳しく叱られていたのは生徒間では有名な話である。
またもやユウに変な事を教えるのではないかとユウの近くに座る生徒達は彼女を隠す様に立ち塞がった。
「学園長先生」
こんにちはと、周りの状況がよくわかっていないユウは立ち塞がる彼等の隙間から顔を出すと笑顔で挨拶をする。
「私を学園長として敬ってくれるのはユウくんだけですよ」
取り出したハンカチを目元に当て、学園長はさめざめと泣き出す。
「いや、学園長のは身から出た錆っていうか」
「普段の行いじゃね?」
目の前で泣いているというのに生徒達からの容赦ない言葉が学園長を襲った。
「酷いですよ!あんまりですよ!ユウくん、私を慰めてください!!」
「はいはい、お触りは止めてもらえますか?」
ユウに近付き傷付いた心を癒してもらいたい学園長と、何としても学園長をユウから遠ざけたい生徒とで激しい舌戦が繰り広げられる中、ユウは色とりどりの美しいケーキの写真に夢中であった。
「ケーキの写真が気に入ったならおちびにそれやるよ」
「良いの?」
ケーキの写真が数ページ載っているだけで食べれる訳でも無いのにとても嬉しそうなユウに、情報誌の持ち主の彼は頬を緩ませた。
「いいの、いいの。どうせ俺が持っててもしょうがないしな」
「ありがとうお兄ちゃん!」