リュウグウノツカイの人魚
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「・・・・・・」
向かいに座るユウと言う後輩の話を聞いてラセルを額を抑えた。
闇の鏡が魔力のないユウを連れてきた迄は正直仕方が無い事だとラセルは思った。
古物である闇の鏡には現代に於いて未だ解明されていない謎が多いと言われているのでこういうイレギュラーな事が起こっても仕方が無い。
しかしその後の学園長の対応はと言うと目も当てられない。
異世界から来たという魔力無しの子供をこんな崩れかけの廃屋に住まわすというのは理解し難かった。
長年、この学園の長を務めるクロウリーをラセルはそれなりに知っているのできっと彼も彼で突然の不測の事態に混乱したのだろうと安易に想像出来る。
けれど、しかし、
「・・・君は女の子、だよね?」
ラセルの問いにユウは小さく頷いた。
これでも人体の知識については1年にも及ぶ入院生活の間にこれでもかと頭に詰め込んでいたラセルにはユウが女子であるというのが喉仏の有無や頭の形等で何となくだが気付いていた。
「此処が男子校だというのも勿論知っているよね」
またユウは頷く。
「学園長は君の性別を知っているのかい?」
「多分気付いて無いです」
「そうだよね」
ラセルは深々と息を吐く。
話す為に談話室に移動して来たがラセルが魔法で綺麗にした椅子以外まともに使える家具は無かった。
壁も雨漏りで所々黴びたり剥がれたりしている。
こんな所にユウが女子だと分かってて放り込んだのであれば鬼畜の所業である。
正直男子であってもこの住環境は酷過ぎる。
「取り敢えず君の性別については明日、僕が学園長に伝えておくよ」
その言葉に俯いていたユウが顔を上げた。
その表情は酷く困惑している。
「大丈夫。何も君を学園から追い出そうとしている訳じゃない。あくまで君の身を守る為だ」
男女にはどうしても埋められない性差があるし、互いに異性には言いにくい身体の事情もある。
そういった事で異世界から来たというユウがこれ以上余計な苦労をしない様にというのがラセルの考えである。
「それに僕も伊達に長老と皆から呼ばれていない」
ナイトレイブンカレッジ最長在学年数は現在も更新中である。
在学年数が誰よりも長い分学園長や教師陣とはそれなりに長い付き合いになる訳で、後輩や同級生も知らない様な彼等の生徒に言えない秘密の3つや5つ、何なら両の指の数では足りない程度には知っている。
強請るネタなら沢山ある。
それらを駆使して何としても君の在学を認めさせよう。
そう真剣な表情で言い切ったラセルにユウは少しばかり安心した。
初めて出会った時は今迄で会ったどの男性よりも大きく恐ろしかったが怪我を直し、喋り方もこの世界で会った人で一番優しく労りも感じて信頼出来た。
「取り敢えず今日はもう夜が遅いから話は此処までにしようか」
既に日付は変わろうとしている。ラセルは徐に靴を脱ぐと椅子の上に立ち上がり、ユウを手招いた。
ユウは訳も分からぬままラセルの差し出す手を取るとそのまま体を引き寄せられ、足が宙に浮く。
思わず変な悲鳴が出た。
それに申し訳無さそうにしながらラセルはペンを振るう。
「ちょっとこの部屋じゃ生活出来ないだろうから魔法を使うね」
魔法が完了する迄の間だから我慢して欲しいと言われてユウは落ちるのを恐れて首に腕を回してラセルにくっついた。
今まで異性とこれほどくっついた事がないだけにユウは少しばかりドキドキしていた。
そうしている間にも部屋はキラキラと輝く星の様な光が部屋中を駆けて行き綺麗になっていく。
光が何処かへ消えると部屋は様変わりしていた。
床に下されたユウは綺麗になった部屋を見渡して息を零す。
部屋が綺麗になったせいか心なしか息がしやすくなった気がした。
「ありがとうございます」
「気にしないで。後輩を助けるのは先輩としての務めだからね」
靴を履き直したラセルはそう言うと笑い、胸ポケットにマジカルペンをしまった。
今から自寮へと帰るというラセルをユウは見送りを買って出て、玄関迄見送る。
「何かあったら遠慮無く声をかけてね」
じゃあ、片手を上げて学園へと駆けていくラセルにユウはその姿が見えなくなるまで手を振った。
そのユウの背後で大きな声が響く。
「ふななな?!部屋が変わってるんだゾ」
鉱山での騒動に疲れたのか寮に戻るなり眠っていた筈のグリムが目を覚ましたらしい。
今日一日で何となくグリムの性質が分かってきたユウは混乱のあまり部屋を燃やされては堪らないと慌てて扉を閉めて踵を返しグリムのいる寝室へと駆けた。