ヴィルの専属お針子
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学園の非常事態だというのに各々好き勝手する生徒を座らせてクルーウェルはそれは凄まじい剣幕で叱っていた。
ラギーとジャミルに関しては特に何をしたという訳ではないが監督不足、完全なとばっちりで他の皆と仲良く説教を受けている。
それを免れたユウはというと別室でエギーユに捕まっていた。
「それじゃあユウ君、服を脱ぎましょうか」
微笑みながら衣装片手ににじり寄るエギーユに滝汗を流しながらどうしてこうなったの胸の内で叫ぶ。
そもそもユウももれなくクルーウェルの説教を受ける筈であった。
のだが学園外の人間である為説教の対象外であったエギーユがまずはユウの衣装から着付けたいと申し出た事で免れた。
ヴィルに厳しい視線を向けられながらボールルームに併設された更衣室に入ったユウであるが説教という難を逃れて喜ぶのも束の間、脱ぐようにエギーユから迫られて困る羽目となる。
「もしかして同性同士じゃ着替えにくい性質の方でしたか?」
「え、何で?!」
エギーユの発した同性という言葉にユウは驚きの声を上げた。
そしてすぐに我に返りエギーユの服の上からでも分かる胸の膨らみを見る。
その柔らかそうな胸が偽乳だとか、そもそもエギーユが女装した男性とはユウには見えない。
つまりエギーユは女性で、そんな彼女が同性と言うからにはユウの性別も女性であると彼女は確信している事になる。
ユウは顔を真っ青にさせた。
そもそもこの学園は男子校で、女であるユウには在学の資格はなかった。
しかし学園長のうっかりで入学許可が成され、後に性別が学園長に知られた後も周りには黙っている約束で今も在学を許されている。
だというのにどういう訳か学園外の人間であるエギーユに性別がバレてしまった事にユウは狼狽た。
「あ、性別の事は秘密だった?」
エギーユの言葉にユウはますます顔色を悪くさせた。
目には涙が浮かび身体は震えている。
「どうか、この事は誰にも」
「別に私はユウ君が女の子で、男子校にいる事を咎める気はないのだけど」
そんなユウに慌てたエギーユは弁明するのだが言葉はいまいち届いていない様だった。
ユウの頭は今や退学だとか異世界で宛もなく彷徨うだとか薄暗い想像ばかりで占めている。
「殆ど初対面の人間の言う事を信じろって言われても信じられないよね」
声を掛けても様子の変わらないユウにエギーユは困り果てた。
「ユウ君、私も人にバレると困る秘密があるの」
エギーユは震えるユウの肩を掴みまっすぐに瞳を見つめて語りかける。
「私、変装をしてこの学園内に忍びこんだ事があるの。ユウ君ともその時に会った事があるんだけど覚えてないかな?」
そう言ってユウの手を掴むと手の平にチョコレートを置いた。
ユウはそのチョコレートを目にして目を見開く。
「この間助けてくれたチョコレートの人」
「そうそう」
そこで漸く身体の震えが止まったユウは改めてエギーユの身体をまじまじと見た。
「でも、胸が、え?」
以前、上級生に絡まれていたところを助けてくれたポムフィオーレ生とエギーユの顔に血の繋がりを感じたユウであるがなかった筈の胸が今のエギーユにある事にユウは驚く。
「あの時は性転換の薬を飲んでいたから身体付きが違うの」
そう言われてユウはここがそう言う物も当たり前にある世界である事を思い出し納得すると落ち着きを取り戻した。
「それでね?私もさっき言った事は人に知られると困るの。だから、ユウ君の秘密言わない代わりに私の秘密を言わないでくれると助かるな」
「絶対に言いません!!」
ユウはそれは首が千切れてしまいそうな程の勢いで首を縦に振って応えた。
このやりとりから自身の性別が秘密となされた事に安堵したユウはエギーユはじっと見つめて首を傾げる。
それこそ他人に知られては困るような己の秘密を打ち明けて迄エギーユは自身の性別について触れたのかユウは尋ねた。
「理由はね」
ごそごそと衣装と共に持ち込んだ紙袋から取り出したのはベストであった。
そのベストはシャツの上に着る様な物ではなく、肌着を彷彿させる色合いに生地。
それを渡されて思わず受け取ったユウはそれを掲げたり軽く顔を近づけたりしてまじまじと見ていると突如、力強くエギーユに肩を掴まれた。
「ユウ君、貴女今、胸を潰してるでしょ」
「あ、う、はい」
確かにユウは性別がバレない様にとさらしの要領で適当な布を巻いて胸を潰し、固くさせていた。
「今すぐそれはやめようね。胸の発育に良くないし形も悪くなるから」
曰くエギーユには一眼で他人の身体を測量出来る特技があり、その延長でユウの性別が女である事も、布を巻いて胸を潰している事も分かったらしい。
「このベストなら無造作に胸を潰す事なく自然に胸を小さく見せる事が出来るの。
だから今すぐお着替えしよっか?」
微笑み、凄むエギーユの迫力に圧されたユウは無力であった。
あっという間に制服を剥かれ、胸を潰していた布も取られ、そして穿いていたパンツも可愛くないからと脱がされてしまう。
そして代わりの愛らしいパンツに胸を小さく見せる為のベスト、それからガラに参加する為の衣装を着せられ、次いで髪のセットに化粧も施されたユウ。
「漸く戻って来たか」
「遅かったスね」
それら全てが終わった頃にはボールルームで行われていたクルーウェルの説教も終わっていた。
「?何で子分が草臥れてるんだゾ」
そして彼らに迎えられたユウはグリムの言う通りどこか草臥れていた。
ユウはグリムを見るなり駆け出し、抱きつくとひんひんと泣き出す。
クルーウェルの説教を受けていない筈のユウのこの有様に何事かと皆がエギーユを見る。
「アンタ一体、この小ジャガに何したの」
「何って楽しくお着替えとお化粧をしただけだよ」
ヴィルの問いにエギーユは何でもない様に答えるがユウの様子を見る限り明らかに穏やかではなかった。
「楽しくって、アンタどうせまた一方的に服をひん剥いたんでしょ?」
やれやれ、という様子でヴィルは溜息を吐いて言った。
対してエギーユは微笑むだけで肯定をしないが否定もしない。
「そういう事だから」
ヴィルはレオナ達へ視線を向けると愉快そうに目を細める。
「この子、男でも容赦なく服を剥ぎ取るから、それが嫌なら今すぐ着替えてくる事ね」
「剥ぎ取るって酷いよ。お着替えのお手伝いをするだけだよ」
エギーユはヴィルの言葉に反論するが誰も聞いてはいなかった。
レオナは真っ先に、続いてラギーも、ジャミルはカリムを抱えて自分達に宛てがわれた衣装を掴み着替えるべく別室へと急いだ。
「おい、どうしてヴィルの野郎迄着替えてるんだ」
レオナ達がボールルームに戻るとガラには出ない筈のヴィルが着替えて、何故か撮影会が始まっていた。
室内にはクルーウェルの姿がなく、グリムを抱えて部屋の隅で傷心の心を癒すユウに尋ねれば煙草休憩との事である。
「この子がどうしてもっていうから少しだけね」
そう言いながらもポーズをとり撮影されるヴィル。
呆れたレオナは溜息を吐くのだがヴィルが徐に手招きする。
「呼ばれてますよレオナ先輩」
「俺じゃねぇよ」
「アンタよ。レオナ、アンタを呼んでるの」
手招いても一向に来ないレオナにヴィルはエギーユの撮影を止めてレオナに声を掛けた。
「良かったじゃないですかレオナさん。御指名っスよ」
ヴィルに呼ばれた事をラギーに茶化され、レオナは睨むが構わずヴィルは再度、レオナを呼び付ける。
「つべこべ言わず早く来なさい!そもそもこういう条件なのよ」
学園の一大事だからと呼ばれてここにいるエギーユであるが本来、彼女には予定があった。
エギーユはこの日、長兄と出掛けてる約束を前々からしており、それを事前に聞いていたヴィルは今日だけは無茶な呼び出しはやめておこうと決めていた。
しかし学園の、進級のかかった問題に加えレオナに煽られた結果、ヴィルはエギーユを呼び出しざる得なくなった。
電話口でエギーユはそういう事ならばと快く了承するのだがエギーユの側にいた長兄がそれを許さなかった。
元々相性の良くないヴィルと長兄は言い合いを繰り返し、最後はエギーユの口添えもあって何とか長兄の許しを得たヴィルであるが最後に彼は条件を付けた。
「うちの可愛い妹を使うんだから何か一つ位お願い事を聞いてくれても良いよな?」
そうであれば許すと長兄は言った。
エギーユは何もなくともヴィルを手伝うと言ったが長兄は譲らなかった。
ヴィルも諦めてエギーユに何かお願い事はないかと促し、別の兄が宝石でも旅行でも高価な物を強請れと背後で騒ぎ立て、そしてエギーユは答えた。
「綺麗な衣装を着たヴィル君とレオナ君のツーショット写真が撮りたいな」
経緯を聞いたレオナは眉間に皺を寄せて頭を押さえた。
そんな話は聞いていないだとか予定があったのは知らなかっただとか言いたい事も言い訳もあったがエギーユを呼び出すようヴィルを焚き付けたのは確かにレオナである。
「後、クルーウェル公認だから」
既にクルーウェルは事情を聞いてこの撮影会を了承しており、煙草休憩はその暇を埋める為であった。
「拒否権ねぇじゃねえか」
レオナは髪をかき上げ、呻く様に声を漏らした。
クルーウェルの公認、つまり撮影会が終わらない限りガラに向けての準備は始まらない。
そして普段のクルーウェルの様子から此処でぐずぐずして時間が掛かろうものなら彼の持つ鞭が勢いよく飛んで来るのは確実であった。
「ヴィル君、やっぱりいいよ。ヴィル君の写真を沢山撮れたから十分だよ?」
撮影会を嫌がるレオナの様子からエギーユはヴィルの袖を引いて訴える。
「駄目よ。アンタの兄貴と約束してるし証拠の写真も提出しないといけないのよ。それに」
頬に手を添えて溜息を吐いたヴィルはちらりとレオナを見て瞳を細める。
「どうせアンタの事だからこの前の耳飾りの報酬もまともに貰っていないんでしょ」
この前の、とはレオナの兄夫婦の喧嘩を収める為にエギーユがレオナに頼まれて作った耳飾りの事である。
エギーユはそれを作る報酬に材料費分のマドルは貰ったがそれ以上は受け取らなかった。
「だって本職でもない私が作った耳飾りが王妃様の耳を飾るだけでも光栄だもの」
レオナはこの事が後々に持ち出される事態も想定して材料費以上の報酬を受け取って貰いたかったがエギーユはこういう理由で頑なに受け取りを拒否していた。
「分かった。勝手に写真でも何でも撮りやがれ」
「あら、意外にあっさりと応じるのね」
諦めて撮影に応じるレオナにヴィルは態とらしく驚きの声を上げた。
そんなヴィルをレオナは煩わしそうに見て吐息を漏らす。
「貸しを早々に精算したいだけだ」
此処で逃れてもこの先々でヴィルに同じネタで強請られそうな気がした為の判断であった。
「とか言いながらレオナさん実は満更でもなかったりして」
「なんだと?」
あっさりと折れたレオナに驚きながらも愉快そうに笑うラギーをレオナは睨んだがそこで閃く。
「おい、別に撮影は俺だけでもなくて良いよな」
強引にラギーを引き寄せて肩を組むレオナは不適に笑う。
「は、何言ってんスかレオナさん。向こうはレオナさんとヴィル先輩の写真が撮りたいんでしょう?!」
レオナが写真撮影に自分も巻き込もうとしてる事に気付いたラギーは慌てて自分等写真に撮っても仕方がないと訴える。
しかしエギーユの表情は、というと全くラギーの言葉の効果は無く晴れやかで、被写体にラギーが加わる事も賛成のようであった。
「お、ラギーもエギーユに写真を撮って貰うのか?」
そんなやりとりにカリムが陽気に混ざる。
カリムが何を言おうとしているのか日頃の経験で察したジャミルは発言を止めさせようとするのだが間に合わない。
「俺達も混ぜてくれよ!」
力強くジャミルの腕引いて申し出たカリムにエギーユの表情は益々輝く。
「だったらユウ、アンタ達もいらっしゃい」
このメンツではバランスが悪いからと皆のやりとりを見ていたユウとグリムを手招いた。
テキパキとヴィルは慣れた様子で各々を配置付ける。
センターは勿論ヴィルで、その周りを皆が取り囲む様に配置された。
「それじゃあ撮るね」
こうしておめかししたメンツで撮られた写真はその日の夕方、ヴィルのマジカメにもアップされてマジカメ内を大いに賑わせた。
「まさか探していた人物とこんなにも簡単に会えるなんてな!」
部屋の主人である男は従者に着付けてもらいながら愉快そうに笑った。
対して従者はというと主人のその陽気ささえも不快と言わんばかりに不機嫌だった。
「なあジャミル、そんなに怒るなよ」
「俺は怒ってなどいない」
従者、ジャミルは怒っていない。
が、機嫌は良いか悪いかと言えばすこぶる悪かった。
「どこぞの誰かの我儘で懸命に探していた人物がこんなにも簡単に見つかってやるせなさを感じているだけだ」
そう、ジャミルは主人であるカリムの頼みでとある人物を探していた。
その人物は手先が器用な人物で、時折己の作り上げた作品をヴィルに贈っているようであった。
その人物はヴィルのファンの間では有名な謎のクリエイターであり、ヴィルの専属、ヴィルに向けてしか作品を作らない、そんな風にも言われていた。
ならば仕方ない。
そんな偏屈な、強いこだわりを持つ者はこの世に少なからず存在する。
そう納得して一度は諦めたカリムであるが夕焼けの草原の王妃が上げた一枚の写真で事情は変わった。
それは王妃の耳を飾る美しい耳飾りであった。
それは夫と子からのプレゼントとしか王妃は書いていなかったがカリムの審美眼によればヴィルに色々と作っては寄せている人物の作品と同じという事だった。
つまりその人物は此方が勝手に想像していた気難しい、こだわりの強い人物という事ではないという事で、カリムはこの人物に会いたいとジャミルに願った。
そもそもどうしてカリムがその人物に会いたいのかというともうすぐカリムの沢山いる妹の内の一人が誕生日で、彼女はヴィルのファンであった。
ヴィルが勧める物、日常使いのアイテムも、何処の物か分かる物は全て持っていたが唯一ヴィルがひた隠しする人物の作品だけは手に入れられずにいた。
しかし妹はどうしてもそれが欲しくて、ヴィルと同じ学校に通う兄のカリムへ誕生日を理由におねだりした。
弟や妹を常日頃から可愛いがっていたカリムは妹のおねだりに二つ返事をし、その人物を探す仕事が従者であるジャミルに回って来た。
しかしどういう訳かその作品の主は見つからない。
ヴィル本人に尋ねても無駄な事はレオナの件で分かっていた。
カリムにおねだりした妹の母親はハレムの中でも有力な家出身である為今後の事を考えるとジャミルとしても恩を売っておきたい。
その為、今回のガラで行うウォーキング指導をヴィルがすると聞いた時は千載一遇のチャンスと思えた。
練習場に来てみれば想定通り何時もヴィルの隣にいる妙に勘の鋭い狩人の姿はなく、機を見て己のユニーク魔法を使おうとジャミルは考えていた。
しかし結局その必要は無くなった。
ヴィルが衣装係として連れてきた人物こそカリムとジャミルが探していた人物だったのである。
と言っても本人等に確認した訳でもない。
エギーユが用意した衣装やアクセサリーを見てやはりカリムがそうだと言っただけである。
しかし何だかんだ言ってもカリムは大商家の嫡男で、その審美眼をジャミルも一目置いていた為に彼の言う事を信じた。
探しても見つからなかった人物が向こうから現れてジャミルの手間は省けた訳であるが、それと同時にここまでかけた時間とお金、金はカリムの私財から出た物であるが兎に角ここまでの苦労は一体何だったのかと溜息を吐く。
「そう落ち込むなって!」
寧ろ喜ぼうではないかとジャミルの背中を軽く叩くカリムにジャミルは頭を押さえる。
「そうだ、せっかく向こうから現れたんだ。面倒な事はさっさと済ましてしまおう」
探していた人物が見つけたからと言ってそれで終わりではない。
寧ろ今からであった。
「先ずはヴィル先輩を抜きで彼女と話をしないといけないな」
「どうしてだ?」
ヴィルの知り合いなのだから別に良いのではないかとカリムは頭を傾げる。
「うっかり向こうの勘違いで馬に蹴られたくはないからさ」
ジャミルの言葉の意味をカリムはよく分かっていない様だった。
疑問符を頭に浮かべたままのカリムを放置してジャミルは次の手立てを考える。
「ヴィル先輩を介さず彼女に近づく方法は」
衣装の直しや調整の為に暫くウォーキングの練習に付き合ってくれたエギーユであるが常に側にはヴィルやクルーウェルがおり、連絡先を聞き出す隙は得られなかった。
どうするか考えるジャミルの視界にカリムが入り、そして閃く。
「なあ、カリム、お前の可愛い妹の為だ。手を貸してくれるか?」
ジャミルの申し出にカリムは表情を輝かせた。
「おう!何だ?オレは何をすれば良いんだ?」
嬉しそうにジャミルに近付くと何でもこいと言わんばかりに胸を張る。
「そうだな。お前は、」