ヴィルの専属お針子
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現在、学園内は妖精達の春を呼ぶ祝祭、フェアリーガラの会場に選ばれたが為に酷く混乱していた。
とある寮は身が縮む程に寒く、とある寮は干からびる程に暑く、そんな事態を解決すべく妖精達に盗み出された魔法石を奪取する事となった。
その為にはフェアリーガラに少数精鋭で潜入しなくてはならず、参加者は何とか決まったのだが一つ問題が発生した。
フェアリーガラとはつまり妖精達のファッションショーであるのだがそのショーに参加する為の衣装が決まらない。
というよりはクルーウェルとヴィルのお眼鏡に適う衣装が見つからなかったが正しい。散々布を当てられ、衣装を着せては脱がされ続けた面々は床へと倒れ込み浅い息を吐く。
「困ったわね。まさかここまでイメージに合う物が見つからないなんて」
「しかし衣装が決まらなくてはガラに潜入が出来ない」
一番の目的はラギーが魔法石の付けられたティアラをすり替える為に妖精達の視線を釘付けにする事なのだがメインはファッションショーである為に衣装の妥協は出来ない。
「やはり衣装は市販品ではなく新たに作るしかないな」
「あら、当てがあるの?」
ない訳ではないクルーウェルであったが、かと言って急な依頼を受けてもらえるかというと微妙で、クルーウェルは悩むあまり無言で眉間に皺を寄せた。
「そういうお前も当てがあるだろうが」
二人にされるがまま着せ替え人形となってご機嫌斜めであったレオナは身体を起こし、意地の悪い笑みをヴィルへと向ける。
「そんなものないわよ」
「勿体振るなよ。自慢のお針子がいるだろうが」
レオナがそこまで言ってもヴィルはそっぽを向き、知らぬを貫き通す。
そんなヴィルにレオナは自身のスマホを掲げて笑いかけた。
「お前が呼ばないなら俺が呼ぶ」
「なっ?!」
思わず振り返り反応を示したヴィルに誰もが視線を向けた。
「シェーンハイト、今は学園の一大事だ。当てがあるなら呼んでくれるな」
「分かったわ」
クルーウェルの言葉にヴィルはこれ以上抵抗出来ないと判断したのか少し時間が欲しいと言ってボールルームから一時退室をした。
そして暫くして戻ってきたヴィルの背後に別の人影があった。
「皆さん、こんにちは」
ヴィルと比べて随分小さな人物の登場に驚き、続いてその人物の格好から明らかに学園の関係者でない事にレオナを除いた皆が騒めく。
「ちょっと待て、お前はエギーユか?」
騒めいていた内の一人であるクルーウェルは一歩前に出てヴィルの後ろにいる人物をまじまじと見た。
「もしかしてクルーウェルさんですか?」
「久しぶりだな。元気にしていたか」
「はい。クルーウェルさんもお元気そうで何よりです」
互いに親しげな挨拶を始めた二人に皆が驚いたが何より驚いていたヴィルが声を上げる。
「何よアンタ、クルーウェル先生と知り合いなの」
「知り合いというか、お店の常連さん」
「俺が彼女の家の店でよく買い物をしているんだ」
「そういえば兄がクルーウェルさん好みの靴を作っていましたよ」
「本当か!また週末にでも店に伺おう」
「お待ちしております」
流れる様な店員とお客の会話をする二人であるが、相変わらず彼女の前に立っていたヴィルはとても面白くないという顔をしていた。
そんなヴィルの様子をレオナは愉快そうに笑い、ヴィルをよく知るカリムは驚き、ジャミルとラギーは色々と察した。
「なあ、どうしてヴィルはあんなにも不機嫌何だ?」
「カリム、考えるな。無闇に関わると最悪馬に蹴られて死ぬぞ」
「そうそう。ああいうのは関わらないのが一番っスよ」
二年生達の視線に気付いてかヴィルの咳払いによりその場は仕切り直しとなった。
面々の自己紹介を済まし、クルーウェルから学園の状況の説明を受けたエギーユは不思議そうな顔をする。
「事情は分かりましたが、その割にここは普通ですね」
もっと言えば今いるボールルームは湿度は高すぎず、かといって乾燥もしていない、エギーユが何度か訪れた事のある何時ものボールルームである。
「今は学園長を始めとした教師陣で何とかしている」
しかしそれでも限界がある為に事態の早期解決が必要だった。
「それは、私の役目も責任重大ですね」
そこまで聞いたエギーユは拳を握り意気込むがラギーやジャミルからするとどうしても頼りなく見えた。
相変わらずエギーユの側を離れないヴィルという比較対象があるせいで実際の身長よりもかなり小柄に見えたし彼女が纏う雰囲気は何処かふわふわしている。
必要なのは服を作る技術である為身体の大きさや雰囲気等は関係ないのだがやはりラギーやジャミルには不安でしかない。
「じゃあ早く衣装を用意しないと」
手を叩いて笑ったエギーユはヴィルから離れてボールルーム内にある小さな扉の前に移動した。
その扉は掃除道具をしまうスペースであるがエギーユは杖を取り出すと呪文を唱えて扉を軽く叩く。
「彼女も魔法士だったんですか」
てっきりエギーユの事は魔法の使えない一般人だと思っていたジャミルは呟きを漏らす。
「そうよ。あれでもRSAの卒業生よ」
「あー何か納得っス」
RSAの名を聞くなり渋い顔をしたラギーはエギーユの危機感のない、家飼いの動物の様なふわふわとした雰囲気に納得した。
本来であれば荷物がある為体が収まる筈のない扉の向こうに消えたエギーユにカリムとグリムは興味深々だった。
今にも扉を覗きに行こうとしそうな一人と一匹にヴィルは溜息を漏らす。
「言っておくけどあの子の許可なく扉の中に入ると二度と出て来れなくなるわよ」
ヴィルの言葉にジャミルはカリムの手首をユウはグリムを抱える両腕に力を込めた。
「たまにいるのよ。中がどうなっているのか気になって勝手に覗く奴が」
「因みにその人達はどうなったんですか?」
恐る恐る尋ねるユウにヴィルは微笑む。
「さあ、どうだったかしら」
その含みのある返答にユウは頬を痙攣らせた。
その腕にいるグリムは怯えているのかひしっとユウにしがみついている。
「ちゃんと生きてますから!」
失礼しちゃう、とこれまでの会話を聞いていたのかラックを引くエギーユが扉の側に立っていた。
「皆さん救出されて無事です!」
それを知っていて含みのある物言いをしたヴィルにエギーユは心外だと怒る。
けれどそれを聞いた面々は安心どころか救出は必要となる事態が起こりかねないエギーユの魔法に引いていた。
「これぐらい脅かしておかないと駄目よ。だいたい一人か二人は好奇心で覗いたりするんだから」
「だからって!」
「それで衣装は出来たのかしら?」
ヴィルはエギーユの言葉を無視して彼女が引き連れてきたラックに視線を向けた。
ラックにはガラに参加する人数の三倍の衣装がかけられている。
「まだ仮縫いだけどね。去年の秋冬のトレンドがエキゾチックだったからそれを参考に」
仮縫いとはいえまだかれこれ数分も経っていないというのに出てきた衣装にカリム達は驚いた。
それはクルーウェルも同じであったがすぐに気を取り直すと衣装のかかったラックに近づき一着ずつ手に取り確認する。
「デザイン画はあるのか」
「こちらに」
クルーウェルの言葉にエギーユはすぐさまデザイン画を取り出し手渡す。
「刺繍の詳しいデザインが見たいのだけど」
「ちょっと待ってね」
急にばたつきだす光景にカリム達は見ているしかなかった。
クルーウェルとヴィルが言い合いたまにエギーユに質問をして、エギーユがそれに答える。
そうして漸く衣装は決定した。
「じゃあ、少しだけ待ってくださいね」
衣装が決まるなりラックを押して引き返すエギーユ。
待てというのはどういう事なのかヴィルとレオナ以外は頭を傾げた。
そして本当に少しして戻ってきたエギーユ。
エギーユが再び引いて来たラックを見て一同、驚愕した。
「ご注文の衣装です」
真っ白な生地に金糸銀糸の見事な刺繍、それに輝く花や蝶のモチーフ。
加えて先程はなかったアクセサリーに靴まで用意されている。
「魔法って凄いんですね」
魔法に詳しくないユウはてっきりこれら全て魔法で出来ているのだと思った。
しかしその言葉を拾ったクルーウェルは首を横に振るう。
「無から有を生み出す事は並みの魔法士では無理だ」
「って事はこれら皆、手作り?!」
物の数分で出来る代物ではないとラギーは困惑する。
「きっとあの扉に何か仕掛けがあるんだろう」
「仕掛け?」
「ああ、例えば時間を操作する魔法がかけられているとか」
顎に手を添えて仕掛けを考えるジャミル。
彼の意識が薄れた事で掴まれていた手が離されたカリムはエギーユに近付くとその手を握った。
「ひゃっ」
「うん!良い職人の手だ」
にぎにぎとエギーユの手を握るカリムにエギーユは驚く。
「おいカリム」
「ちょっと何勝手に触っているのよ!」
突飛なカリムの行動にジャミルは慌て、ヴィルは流麗な眉を吊り上げて互いを引き離した。
「なあ、ジャミル!エギーユの手を触って見ろよ」
凄いんだぞ、と顔を輝かせて言うカリムにジャミルは拒否した。
「おいそれと女性と手を握れるか!見て見ろ!あのヴィル先輩の顔!」
ジャミルはカリムの顔を両手で掴むと無理矢理にヴィルの方向へと向ける。
ヴィルはエギーユを己の背に隠しながら見るからに怒っていた。
「ヴィルの奴はどうして怒ってるんだ?」
頭を傾げてジャミルに尋ねるカリム。
「どうしてか自分で考えろ」
ジャミルが首を横に振った為、カリムは腕を組み、首を傾げてその理由を考えた。
考えに考えた結果、もしやお腹が空いているのだろうかという考えに至ったカリムの口をジャミルは己の手で塞いだ。
「分からないなら良い。頼むから今は何も喋らないでくれ」
疲労を滲ませながらカリムに言い聞かせるジャミル、対してヴィルはと言うとエギーユを抱きしめていた。
それはもう、側から見れば熱烈に、抱きしめられているエギーユからすればぎゅうぎゅうにかなり力強く抱きしめられる。
何とかヴィルの胸に埋もれる事を回避し、腕から顔を出したエギーユはヴィルを宥めるように声をかける。
「ヴィル君、私は大丈夫だよ。ちょっと驚いただけだから」
しかしヴィルからの返事はなく、それどころかますます抱きしめる力が強くなる。
「あれ、ヴィル君聞いてる?ちょっと苦しいかな」
エギーユが訴えるがやはり返事はない。
必死にギブアップを告げるエギーユと頑なに離そうとしないヴィル。
そんな二人に取り敢えず謝罪をしたいからと再び突撃しようとするカリムと面倒事を察知して必死に引き留めるジャミル。
端的に言ってその場は混沌を極めていた。
「え、どうするんスか?」
そんな場を目の当たりにし、ラギーはレオナに助言を求め振り返る。
「って、寝てるし!!」
しかしレオナは室内でも日当たりの良い場所を陣取り眠っていた。
そういえばここまでレオナが静かな事を思い出し、ラギーはレオナが此処まで居眠りしていた事に気付く。
「何もこんな時に寝なくても良いでしょ」
自由すぎる己が寮長にラギーは呆れて溜息を吐いた。
混沌に混沌を極めて収拾がつかない中クルーウェルはゆっくりとした足取りで騒ぎの中心地に進み出る。
「この」
「クルーウェル先生?」
ユウはクルーウェルに声をかけるが返事は返って来ない。
「バッドボーイ共!!!」
そしてクルーウェルの怒号が飛んだ。