トレインさん家のお孫さん
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「ごめんなおちび。やっぱり俺があの時、購買に付いて行ってやれば良かったのにな」
おいおいと保健室のベッドの上で泣く生徒の手をユウは撫でた。
「お兄ちゃん泣かないで、私は元気だし大丈夫だったから」
ね?とユウが笑えば生徒は再び瞳に涙を溜めて泣き出した。
この泣いてばかりの生徒はユウが行方不明になる間際、最後に話をした生徒であった。
購買へとおつかいに向かうユウに着いて行こうとしたがユウに断られ、件の三叉路の手前で別れたのだがその直後にユウは行方知れずとなり、彼はその事にショックを受けて暫く寝込んでいた。
普段からユウを実の妹の様に可愛がったり、ホームシックから来る寂しさをユウで埋めていた生徒の中には彼と同じく体調を崩す者もいたがその中でも彼が一番重症であった。
そんな話を風の噂に聞いたユウは中庭で集めた野花を手にお見舞いに来た訳だが彼は久しぶりに見る動くユウに泣き続けている。
こうなる事が目に見えていた為、彼の友人も教師達もユウに黙っていたのだが会ってしまったのだからもう遅い。
「俺の所為でごめんなー!!!」
べそべそと鼻水迄垂らし出した彼にどうしたものかとちり紙片手に困り果てるユウ。
ユウの予定では心配かけた事を謝りそれで終わるつもりだっただけに何時迄も似た事を繰り返し泣き止まない彼に戸惑う。
何か彼が元気になる良い方法は無いかとユウが思った時であった。
ベッドとベッドを仕切っていたカーテンが開かれ、白衣にゴーグル、薬草の匂いを纏わせた三人組の生徒が入って来る。
「何か騒がしいと思ったらおちびちゃん来てたのか」
「五月蝿い奴でごめんねー?」
「おちびちゃんが帰って来て良かったよ!飴ちゃんあげる」
人数が増えた事でますます騒がしくなる保健室。
やって来た生徒の内の一人から真っ赤なキャンディーを握らされたユウは次の瞬間、目を見開き驚く。
生徒の二人が泣いていた彼を羽交い締めで押さえ込み、残りの一人が口を無理矢理にこじ開けた。
そして口に持っていた三角フラスコを突っ込み、中身のオレンジと紫色が入り混じる妖しげな液体を飲ませたのである。
始めはそれに抵抗していた生徒であるが途中から静かになり、彼がその液体を飲み込み音だけがやけに響いた。
液体を飲み切ったと同時に解放された彼は暫く項垂れていたが、突然顔を上げると勢いよく立ち上がり、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
それだけでも驚きだというのにそのままベッドの上で準備運動を始めると溌剌とした様子でベッドから飛び降り、保健室を出て行ってしまう。
「出て行っちゃった」
一体何が起こったのか訳が分からず呆然とするユウに対し彼に妖しげな薬を飲ませた三人の生徒は互いの手を打ち合っていた。
「これは大成功なのでは?」
「あんなに元気になっちゃって」
「これは評価Sは確実」
詳しく話を聞けば授業の一環で気持ちが明るくなるお薬を作る事になった彼等はちょうどいいからとその薬の効果も見るために暫く塞ぎ込んでいた彼に薬を飲ませたらしい。
結果は見ての通りである。
彼が出て行った後、保健室の外から彼と思わしき高笑いが聞こえた。
「残念ながら評価は良くてもAという所だ」
突然背後から伸びて来た手が頭に乗せられたユウは見上げるとそこにはクルーウェルが立っていた。
クルーウェルが魔法で浮かせた紙にすらすらと薬の評価を書き込むとそれは書き終えると同時に三人組の元へと飛んでいく。
「どうやら材料の刻み込みが甘かった様だな。おかげで奴は高笑いをしながら素足で石畳の廊下を周り続けているぞ」
きっとあのままでは足を切られでもしない限り周り続けるだろうな、と何やら恐ろしい事を呟いたクルーウェルに三人組は顔色を変えて保健室の外へと飛び出した。
「お兄ちゃんは大丈夫ですか?」
本当に足を切らなくてはいけないのかとユウは困惑の表情でクルーウェルを見上げた。
そんなユウの頭を撫でてクルーウェルは笑う。
「なに、あの程度の薬ならば精々持続しても後2、3時間程度だ」
放っておいても大丈夫だと聞いてユウは胸を撫で下ろした。
「それで、トレイン先生から仔犬が俺を探していると聞いたが?」
クルーウェルの言葉にユウがそうであったとその場で飛び跳ねた。
元々ユウは今日、自分が行方不明になった事で迷惑をかけた教師達に謝罪を言って回っていた。
その途中で件の生徒の事を聞き保健室へと寄り道していたのだ。
「デイヴィスお兄ちゃん、迷惑かけてごめんなさい」
「それは違うぞ仔犬」
頭を下げたユウの姿に片眉を吊り上げたクルーウェルはユウと目線が合う様に屈んだ。
「俺はお前に迷惑をかけられた覚えはない。俺がお前を見つけたいと思ったから探したんだ。よく無事に戻って来た」
クルーウェルの言葉にユウはふにゃりと笑った。
そしてユウはクルーウェルの頬に手を伸ばすとありがとうとお礼を告げ、クルーウェルの頬にキスをした。
そう、キスをした。
突然頬に感じた柔らかな感触にクルーウェルは固まった。
お礼と共に相手の頬にキスなど珍しい文化ではない。
何なら親しい者同士であれば挨拶にハグと合わせてキスをする。
するのだがキスをしたのがユウだというのが問題だった。
「デイヴィスお兄ちゃん?」
照れているのか頬をほんのり赤く染めてクルーウェルを見つめるユウ。
ユウが挨拶やお礼にハグやキスをしない文化だと言うのは始めの内に分かっていた。
教師達が親戚の子供や近所の親しい子供にする感覚でした所ユウは可愛らしい悲鳴と共に顔を真っ赤にしてトレインに隠れると暫くその側を離れなかったのだ。
その為、それ以後は教師陣も話を聞いた生徒達もユウにハグやキスの挨拶の強要はしなかった。
だというのにユウの今の行動にクルーウェルは驚きを隠せない。
ユウの様子から自発的な行動ではない事は明らかで、クルーウェルは平静を装いながらユウに尋ねる。
「仔犬、今のは誰に教わった?」
「学園長先生に、感謝の気持ちを伝えたいならこれが一番良いって」
言われたので実行したのだとユウは言う。
「そうか、そうか」
クルーウェルはユウの両肩を軽く叩いた。
「仔犬の気持ちはよく伝わった」
クルーウェル言葉に見て分かる程にユウは喜んだ。
「だが、仔犬。感謝を伝えたいと言う気持ちは立派だがあまり無理しない事だ。言葉だけでも仔犬の気持ちは十分伝わるからな」
「本当?」
「ああ、本当だ」
クルーウェルがユウの言葉に応え頷けば胸を撫で下ろすかの様な動作をとり、良かったと漏らした。
「みんなのほっぺにちゅうってするの凄く恥ずかしいの」
茹で蛸の様な赤い頬を両頬を押さえたユウに微笑みを向けたクルーウェルはユウに仕事を一つ頼んだ。
「俺は今から一仕事してくるからもし先程の生徒の様に白衣を着た者達が来たら教室で待機するよう伝えてくれるか?」
「はい!」
クルーウェルの突然の頼み事に嫌がるどころか手を挙げてやる気を見せたユウの頭をクルーウェルは「グッドガール」とかき混ぜる様に撫でた。
そしてクルーウェルは踵を返し、コートを翻して保健室を出る。
向かう先は学園長室。
「今後仔犬にくだらぬ事を教えぬようしっかり躾をしなくてはな」