トレインさん家のお孫さん
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「おつかい?」
「そう、おつかいだ」
麗かな午後、トレインに呼び出されたユウは告げられた言葉に頭を傾げた。
渡されたメモにはユウが最近覚えた単語が幾つか書かれている。
「それを学園の購買で買って来て欲しい。出来るかね?」
メモから顔を上げたユウの表情はやる気に満ちていた。
今にも購買へ向かって走り出しそうなユウを宥めたトレインはお財布の入った鞄を肩から斜めにかけて首にはお守り袋なるものをかける。
はじめて見るそれに興味深々のユウであったがトレインがおつかいを見守る妖精が入っていると言われれば触る事は無かった。
「ルチウス行こう!」
準備の出来たユウはソファーにいたルチウスに声をかける。
何時もルチウスと一緒にいるだけにこのおつかいもそうだと思っていたユウであるがルチウスはソファーから動かない。
そんなルチウスに首を傾げて不思議がるユウにトレインはこのおつかいは一人で行くのだと告げた。
途端に表情を曇らせたユウ。
「やはり止めておくかね?」
無理はしなくていいとユウの頭をトレインは撫でた。
ユウは問いに対して首を横へと振るう。
「がん、ばります!」
不安は拭えていないが拳を握ってそう答えたユウに涙する人物がいた。
学園長室で二人のやりとりをモニタリングしていたクロウリーである。
そもそもこのおつかいはクロウリーの提案だった。
クロウリーはある日、ユウの成長の記録も兼ねてこの世界ではお馴染みの、幼い子供が一人でおつかいをする番組を模倣し、それをユウにさせようと考えたのである。
トレインは勿論その案に反対であった。
ユウにまだ一人でのおつかいは早いとも思い拒否したのだがクロウリーの案に賛成する多数の教師陣に押し切られて結局、この茶番を行う事となった。
「いってきます!」
トレインとルチウスに向かって手を掲げたユウにトレインは手を振り返した。
暫くするとユウは見えなくなり、トレインは踵を返すとその足で学園長室へと向かう。
学園長室には多数の教師が集まっており、半数は部屋の真ん中に置かれたモニターを見て泣いていた。
その異様な光景に一度はたじろいだトレインであるが先行していたルチウスに促されて用意されていた席に着く。
モニターには先程別れたばかりのユウが映っていた。
室内はこの企画の元になった番組のBGMがそこそこ大きな音量で流されているのでどちらかと言えば騒がしい室内であるがやはり泣いている者が多く、その者達は一様に「大きくなったなぁ」「子供の成長は早い」とユウの成長振りを讃えており、来てすぐのトレインであるが既にもう帰りたくなった。
まさか自分のおつかいの様子が皆に見られているとも知らずユウは購買に向かって歩いていた。
休日だというのに廊下にはそこそこの数の生徒が点々といる事に不思議に思うユウであるが最優先すべきはおつかいである為いつもと違う様子でも構わず歩き続ける。
「おう、おちび!どうしたんだこんな所で」
「おつかい中なの!」
顔馴染みの生徒に声をかけられたユウは先程迄の弱気は何処へやら、何処か誇らしげに答えた。
そんなユウにその生徒は笑って頭を掻き混ぜ様に撫で回した。
側から見れば乱暴にも見えるが存外に力加減はされているのかユウは楽しくおかしげにきゃあきゃあと悲鳴を上げる。
そうして適度なスキンシップを終えたユウは今度こそ優しく頭を撫でられ、おつかいを頑張る様に鼓舞された。
その後も少し進む毎に生徒達と遭遇し、抱き上げられたり飴をもらったりと可愛がられているユウの姿にトレインは感心した。
生徒達とは上手くやっているとは思っていたがここまで彼等に可愛いがられているとは思っても見なかった為である。
それはトレインだけでなく他の教師達も同じであった。
何なら自分達の言う事等一切聞かず、手を焼いていた生徒迄もユウを前にするとわざわざ膝を折り目線を合わせて楽しげに会話をするものだから驚きのあまり開いた口が塞がらない。
「最早、猛獣使いですね」
ぽつりと呟かれたクロウリーの言葉に誰もが同意した。
「購買はそこの三叉路を右に曲がって突き進んだ所だからな!」
「ありがとうお兄ちゃん!」
心配だから付いて行くと言って聞かない生徒を何とか説得し、手を振って別れたユウは教えてもらった通りに三叉路を右へと曲がった。
後は購買が見える迄まっすぐに歩いていけば目的地である購買に着くはずなのであるが
「あれ?」
何故か視界は白く覆われていた。
何処か斑のある白いそれを煙と思ったユウはてっきり誰かが錬金術を失敗したのかと思った。
しかしならばこそある独特の金属や薬品の何とも言えない匂いはしない。
それどころか爽やかで、けれど何処か湿りを帯びた土の匂いがユウの鼻を掠めた。
既にユウは屋外にいる為土の匂い自体はしてもおかしくないのだが、ここ連日快晴が続いた学園で湿った土の匂いがするのは些かおかしく、実際それまではその様な匂いはしていなかった。
ユウは不思議に思いながら暫くそこに立ち止まり白いそれが晴れるのを大人しく待った。
視界不良のまま無闇やたらに動き周り、錬金術の教室の戸棚を盛大に倒してクルーウェルに叱られていた生徒をつい先日見たばかりだったからである。
ユウは再び首を傾げた。
三叉路を右に曲がった先は開けていて障害物等何もない道であると聞いていたしユウの記憶もそうであった。
けれどユウの視界に映った光景は薄暗い木々が生茂る森である。
「道を、間違えた?」
そうとは思えなかったが実際目の前は森。
ならばと踵を返し三叉路まで戻ろうとしたユウであるが振り返った先もやはり森であった。
「あれれ?」
ユウが一人森にいる頃、学園長室は大混乱であった。
ユウの行動は逐一進行方向に点々と配置していた生徒達に持たせていた小型カメラで追っていたのだがユウが三叉路を曲がった所で姿が無くなっていたのである。
慌ててクロウリーは三叉路の先で待機していた生徒に連絡を取ってみたが生徒はユウは未だ来ていないと言う。
けれど確かにカメラと共にユウを追っていた生徒も、カメラ越しにユウを見ていた教師達もユウが確かに三叉路を曲がったのを見ている。
トレインはいつもの彼らしくない勢いで立ち上がるとルチウスと共にすぐさま学園長室を出た。
それを見た他の教師達もここでのんびりしている場合ではないとトレインの後を追う。
唯一その場に残ったのはクロウリーだけである。
クロウリーは映像を再生していた機械を一度止めると早戻しをして再び再生させた。
スクリーンに再び移し出される映像。
ユウが三叉路を曲がり、建物の影へと消えようと言う所でクロウリーは映像を再び止めた。
「歪んでますねぇ」
ユウが進む先、その方向の景色一部が歪んでいる。
ただの映像の乱れか、それとも
「やはり現場を見てみない事には何も始まりませんね」
そう呟いたクロウリーはマントを翻して学園長室を後にした。