リュウグウノツカイの人魚
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監督生こと、ユウは昨日から散々であった。目を覚ましたら真っ暗で狭い場所におり、訳も分からずとにかく外に出ようとあれこれしていたら光が差して猫がいた。
猫である。
これが唯の猫で有れば状況がどうあれ「猫ちゃん」と語尾にハートマークでも付けて撫で回したりしていたかもしれないが猫は猫でないらしく尊大な表情でその名をグリムと名乗った。
グリムは青い炎を吐き出し、いつのまにかユウが着ていた制服にしては華美な服を奪おうとする。
猫型のモンスターに追い剥ぎされるとは此処は一体何処の世紀末なんだと何とかその場から逃げ出したユウの頭の中の冷静な部分が言っている。
そしてグリムに追い詰められてあわやという所に現れたのがヴェネツィアカーニバルの参加者かと思う程派手な装いの男であった。
やっとまともな人間に会えたと安堵したのも束の間、この一人カーニバルの男はよく喋る。
そしてユウの話を聞いてくれない。
あれよあれよと言う間に自分と似た格好の者達が集まる広間に連れて行かれて鏡の間に立たされた。
そして喋る鏡から告げられる言葉
「魔力を感じない」
その言葉に広間は響めき、カーニバルの人は見るからに慌てた。
そしてこれまで一人と一匹に振り回されていたユウは何となく自分の置かれた状況に理解していた。あ、これは不味い。
その後色々な騒動が起きた。
グリムが暴れたり自分を連れてきた張本人である筈の彼等から帰れないと告げられたり、学園外に放り出された筈のグリムとオンボロ寮で再会してそのままニコイチで扱われたり、そして翌朝にはグリムと見知らぬ少年が学園の大切な像を黒焦げにして、それからそれから。
紆余曲折の末に命辛々、魔法石なるアイテムを手に入れて学校の生徒として認められたユウであるが1ミリも嬉しくない。
雑用係でも生徒でも役割はどうでも良いからとにかくユウは元の世界に帰して欲しかった。
それにユウには納得出来ない事がある。
まるで異世界転生、異世界トリップが題材の小説の様な己の置かれた状況にせめてよくある俺TUEEEな特典が欲しかった。
あれば少しは状況がましになっていたかもしれないが悲しきかなユウは魔法も超能力も他人より長けた特別な才能も今日の化け物との戦闘で現れる事は無かった。
この世界に来てまだ2日目。
生徒として学園長に認められたユウは明日から他の生徒に混じって授業なので明日から己に与えられた能力が判明するのか。
そんな事はもうどうでも良いとユウはこれまで頭の中で考えていた事を全て放り投げた。
ユウは兎に角疲れていた。
昨日から摩訶不思議な事に巻き込まれ、今日は命懸けで鉱山を走った。
最早気力も体力も尽き掛けだというのにそんな彼女を出迎えたのはオンボロの寮である。
古くなった床板を踏み外し、決して軽くは無い怪我を足に負ったユウの心はそこでぽっきりと折れた。
もう嫌だ帰りたい
こんな訳の分からない世界は嫌だ
家に帰らせて、お母さん、と幼子の様に声を上げて泣いていたら側の扉が開き、そこから大きな男が現れた。
ひょろりと長く高い身長、薄暗い廊下で際立つ肌の白さに黒く丸いレンズのサングラス。
制服を着ている為この学園の生徒の様であるがとても堅気の人間とは思えない雰囲気の男の登場にユウは決して小さくない悲鳴を漏らした。
そもそも何故、ユウとグリムが住む事になったこのオンボロ寮に生徒がいるのか。
この寮の説明の際に学園長から無人と聞いていただけにユウは混乱を極める。
徐に男は膝を折るとユウに手を伸ばす。
ユウは咄嗟に逃げなければと思ったがが怪我をした足が痛くて動けない。
身を竦めてきつく目を閉じたユウの頭に何かが乗せられた。
「酷い怪我だね。大丈夫?」
それは男の手であった。
男は小さな子供を宥める様に慣れた手付きでユウの頭を撫でると今日一日で見慣れた宝石の付いたペンを握る。
ペンを一振りするとキラキラとそこから光が溢れ出し、ユウの怪我した足へと降り注いだ。
「これでもう足は痛くない筈だよ」
手を差し出されて思わず掴めばそのまま立ち上がらせられる。
あんなにもじくじく痛かった足は痛くなくなり、怪我した際に空いたスラックスの穴も綺麗に無くなった。
ユウは感動した。
この摩訶不思議な世界に来て初めて見た攻撃的で無い優しい魔法だったのである。
「それで君はどうしてこの廃屋紛いの建物にいるんだい?」
ユウと視線を合わせるべくわざわざ腰を折って尋ねてきた男にユウはこれまでの経緯を話した。