トレインさん家のお孫さん
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棺に納められていた新入生は続々と鏡によって寮を振り分けられていく。
長く続いた式も棺が残り一つとなり終わりが見えた。
学園長であるクロウリーがその最後の棺に鍵を差し込めば重厚なその扉は一人でに開かれ
「は?」
それは誰が漏らした声であったか。
棺の鍵を開けた学園長は勿論、式を見ていた生徒達からも似た様な声が上がった。
彼等が注目するは棺の中、こんもりと盛り上がった布の塊である。
本来であればいる筈の生徒がいないという事態に学園長は呆然と、生徒達は騒めく。
脱走?消失マジック?成り行きを見ているしかない生徒達が口々に憶測を語る中、我に返った学園長はいる筈の生徒がいない棺の中を探った。
「は?」
またしても聞こえたその声は学園長からであった。
何かを抱えて振り向く学園長。
その手にはすやすやぐっすりと眠る子供がいた。
学園長は子供を抱えながらも酷く混乱し、生徒達も遥かに自分達より幼いその子供に騒めく。
その喧騒がきっかけか、子供は暫く寝言にもならない声を出して
「おはようございます?」
ぱっちりと目を覚ました。
子供に釣られて挨拶を返した学園長は取り敢えず子供を抱えるのを止めて床へと下ろす。
すると子供が学園長の側に立った事でますます子供の小ささが際立ち、悪目立ちしていた。
あまりの小ささに学園長は膝を折り、子供に尋ねた。
「ドワーフの子供ですかね?お名前は言えますか?」
棺に入っていたのだから学園への入学に値する年であると頭では理解している学園長であるがその小さな子供の姿に惑わされて幼子に質問するように尋ねてしまう。
大きな瞳を数回瞬かせていたその子供は学園長の前に5本の指を出す。
「名前はユウ、4歳、です」
「そうですか。4歳ですか。ちゃんと言えてお利口ですね」
惜しい事に年の数を示す指は全てを開いてしまったが為、5本となっていたが4歳でこの受け答えならば十分、とまで考えて学園はそこで思考を止めた。
「うん?4歳?」
そして会話の記憶を巻き戻し、反芻した学園長は頭を傾げた。
向かいに立つユウもそれに釣られて同じ様に首を傾げる。
その日、学園一帯に多数の絶叫が響いた。
そのユウと名乗った子供は本当に子供であった。
あの後、超特急で式を終わらせた学園長はユウを抱えて医療機関に飛び込み複数の検査を受けさせた。
その結果、手根骨を調べたレントゲン技師も歯を調べた歯科医もその為医者達も口を揃えてユウが4〜5歳の子供である事を学園長へ告げた。
加えて性別も男子ではなく女子という事に学園長はますます頭を抱える。
新入生に関しては鏡や昔ながらの魔法に頼っており学園長が関知している事は少ない為、原因が分からない。
念のために闇の鏡に見て貰えば魔力すらないという。
ますます手違いという線が濃厚になって来たがユウを元の場所に戻そうにも鏡は分からないと言うし、幼さない事もありユウ自身もはっきりとした己の住所が分からない。
何とかユウから聞き出した地名は学園長も聞いた事の無いものであった。
困り果てる学園長を見てユウは裾を引きずる式典服の中から小さな包みを取り出した。
「何ですかこれは?」
余り見かけ無い布地の包みは紐が付いていてユウの首へと伸びていた。
それを首から何とか外したユウは学園長へと差し出す。
「おばあちゃんが迷子になったら大人の人に見せなさいって!」
学園長はユウに促されるはままに包みを解いた。
中から小さな紙が出てくる。
それを開いて学園長はますます困り果てた。広げられた紙には何やら書いてあるのだが学園長には一つも読めるものがなかった。
「お呼びですか。学園長」
呼ばれてやって来たのは愛猫のルチウスを抱き抱えたトレインであった。
自分に読めなくとも歴史や文化に詳しいトレインならばと一抹の望みをかけた学園長であるが
「これは私の記憶にもないものです」
トレインにも解読は不能であった。
困り果てて深々と溜息を吐いた学園長に、それまでルチウスと戯れていたユウは近付いて彼女が唯一届く膝を撫でた。
「大丈夫?」
「貴女は優しい子ですね」
ユウを抱き抱え、自身の膝に乗せた学園長は魔法で飴を出すとそれをユウに差し出す。
「凄い!魔法みたい!」
「みたいじゃなくて魔法ですよ」
手を叩いて喜んで見せたユウに学園長は飴を握らせた。
ユウの興奮は冷めきれず、もっともっとと学園長に魔法を見せてとおねだりする。
困りましたと言いながらも自身へ尊敬の眼差しを向けるユウに満更でもない学園長。
そんな二人のやりとりを見ていたトレインは驚きの仮説を打ち出した。
「そもそも彼女はこの世界の住人ではないのでは?」
「そんなまさか」
トレインにしては突拍子のない発言に学園長はその場で笑って済ました。
結局、ユウの事は警察に連絡を入れて保護者からの捜索依頼を待つしかなかった。
子供がいなくなった事に親が気付いてすぐに連絡が来るだろうと学園長は軽く考えていた。
その間学園で預かる事になったユウは他の同じ歳の子供には無いほどの大人しさで誰の手も煩わせる事もなく過ごす。
入学式でユウを見ていた生徒達も好意的で、ユウは学園を歩くと誰かしらにお菓子や絵本、錬金術の失敗ではあるけれど見た目は綺麗な石を貰ってくるなどしていた。
そして月日は流れて半年、警察もユウの家を探したがお手上げであった。
魔法を使ってもユウの家の手掛かりは掴めずますますトレインの言っていたユウが異世界人という説は濃厚になる。
親族も家も見つからない以上、ユウの保護者問題は浮き上がり、「ならば私が」と手を挙げた学園長に続き幾人かの教師が手を挙げた。
それから熾烈を極めた誰がユウの保護者になるかという戦いに舌戦を繰り広げていた学園長達は最後、ユウに選んで貰おうという事になった。
「さあ、ユウくん。この中で誰が貴女の保護者に相応しいか選んでもらえますか?」
学園長は自分が選ばれる自信があった。
初めて会ったのは自分であるし、この半年の間に長い時間を共に過ごしたのは自分が一番だという自負がある。
これは教師陣も同じであった。
私が、自分が一番よくいたと誰もが思っている。
ユウにも分かりやすい様に家族にするならば誰が良いかと質問を言い換えると大人達は整然と列を組み、微笑み並んだ。
そんな彼等から距離を取り、呆れた様子で見ていたのはトレインである。
学園長から呼び出されたかと思えば突然始まったユウの親権争い。
ユウの事を人の顔色に機敏な聡い子供と評していただけに取捨選択を大人気ない大人達から迫られてられているユウにトレインは多少の同情の念を抱いた。
その証拠にユウの表情は困惑の色が滲み、眉はだんだんと下がって来ている。
トレインとしては学園長を選ぶ選択が一番、事を穏便に済ます選択だと考えていた。
「ルチウス」
「はい?」
「ルチウスと家族になりたいです」
ユウの返答に抱き抱えられたルチウスは得意げな顔をして鳴いた。
実をいうとユウが誰より学園で一緒にいたのは学園長やどの教師陣でもなくルチウスであったし、ルチウスもユウを我が子の様に可愛がり、余程の事がない限りユウの側にいた。
それを思い出した数名の教師陣はルチウスならば仕方がないと諦めたがそれでも残った者が諦めずルチウスは猫だからとユウに再度保護者選びを求めた。
「ユウくん。貴女がルチウスを好きなのは分かりましたが、ルチウスは猫です。貴女の保護者にはなれないのですよ」
その諦めきれない筆頭の学園長はユウの肩を掴んだ。
仮面の向こうの瞳は言外に次こそは自分を選べと言っている。
ユウは見るからに困り果てていた。
彼女に抱えられたルチウスは学園長に向かって威嚇の声を上げている。
「では、ルチウスの飼い主である私が彼女の身を預かるという事でどうでしょう」
トレインはユウの後ろに立ってそう言うとルチウスはそれがいいと言わんばかりに鳴いた。
トレインの発言にユウの保護者を諦めきれていない教師陣も賛成に回った。
学園長は一人、まだ諦められずにぐだぐだ言っていたが多数に無勢。
教師陣の説得とユウのご機嫌取りの甲斐あり、最終的には学園長もユウの親権を諦める。
こうしてトレインは異世界から来たと思われる子供、ユウを面倒見る事となった。
「これからよろしくお願いします」
「私が君の保護者になったからには世に出しても恥ずかしくないよう教育していくつもりだ。覚悟する様に」
トレインがユウの保護者となっても彼女の生活はたいして変わらない。
正式にユウの保護者となった事でトレインは学園の外に居を構えようとしたが、学園長がユウの居住を許可をした為これまで通りの生活が出来る事になった。
変わったと言えばユウが食事の際はトレインが隣に座っている事が増えた位である。
しかしそれもトレインに食事を取る余裕がある時位で、仕事が立て込むと生徒や教師に混じって食事を取るユウの姿が見られた。
トレインは当初こそ自分がユウの保護者になったからには将来、何処へお嫁に行っても恥ずかしくない程度に教育するつもりであったがそれほどユウの教育に手を焼く事はなかった。
ユウは最低限のマナーを元から守る事が出来、勉強にも意欲的である。
魔力がない為魔法は使えないがそれ以外の勉強、それこそトレインが教師を務める魔法史でさえも欠伸一つ漏らさず話を聞くユウにトレインは居眠りばかりの生徒達に彼女の爪の垢を煎じて飲ませたいと思った程にユウは勤勉だった。
要約すればトレインとユウの相性は悪くなく、加えてユウの存在が驚きの効果を与えた。
「トレイン先生、今よろしいですか?」
昼休みが半分終えた頃に授業の質問にやって来た生徒。
トレインがユウの保護者になってからこうして意欲的に授業の事を尋ねに来る生徒が増えた。
理由と言えばユウである。
「お兄ちゃん、お勉強頑張ってね」
去り際にユウからそう声をかけられた生徒は見るからに眦を緩ませ、手を振った。
彼等の狙いはユウであった。ユウが一緒にいる時にトレインに授業の質問をするとユウは自分の知らない話をする二人に尊敬の眼差しを向けて、別れ際には先程の様に勉強の応援をするのである。
勉強に励む理由が不純ではあるけれどそれで生徒にやる気が出るならと彼等の腑抜けた様に目を瞑り、トレインは敢えて何も言わなかった。
実はそんな不純な理由に加えてユウを隣に置いたトレインは普段の厳しさが減り、質問し易いという理由もあるのだがトレインもそれは知らない。
側から見た二人は親子というより祖父と孫の様で、それを周りから揶揄われる事も多々あったが兎にも角にもトレインとユウ、それからルチウスの生活は順調であった。
長く続いた式も棺が残り一つとなり終わりが見えた。
学園長であるクロウリーがその最後の棺に鍵を差し込めば重厚なその扉は一人でに開かれ
「は?」
それは誰が漏らした声であったか。
棺の鍵を開けた学園長は勿論、式を見ていた生徒達からも似た様な声が上がった。
彼等が注目するは棺の中、こんもりと盛り上がった布の塊である。
本来であればいる筈の生徒がいないという事態に学園長は呆然と、生徒達は騒めく。
脱走?消失マジック?成り行きを見ているしかない生徒達が口々に憶測を語る中、我に返った学園長はいる筈の生徒がいない棺の中を探った。
「は?」
またしても聞こえたその声は学園長からであった。
何かを抱えて振り向く学園長。
その手にはすやすやぐっすりと眠る子供がいた。
学園長は子供を抱えながらも酷く混乱し、生徒達も遥かに自分達より幼いその子供に騒めく。
その喧騒がきっかけか、子供は暫く寝言にもならない声を出して
「おはようございます?」
ぱっちりと目を覚ました。
子供に釣られて挨拶を返した学園長は取り敢えず子供を抱えるのを止めて床へと下ろす。
すると子供が学園長の側に立った事でますます子供の小ささが際立ち、悪目立ちしていた。
あまりの小ささに学園長は膝を折り、子供に尋ねた。
「ドワーフの子供ですかね?お名前は言えますか?」
棺に入っていたのだから学園への入学に値する年であると頭では理解している学園長であるがその小さな子供の姿に惑わされて幼子に質問するように尋ねてしまう。
大きな瞳を数回瞬かせていたその子供は学園長の前に5本の指を出す。
「名前はユウ、4歳、です」
「そうですか。4歳ですか。ちゃんと言えてお利口ですね」
惜しい事に年の数を示す指は全てを開いてしまったが為、5本となっていたが4歳でこの受け答えならば十分、とまで考えて学園はそこで思考を止めた。
「うん?4歳?」
そして会話の記憶を巻き戻し、反芻した学園長は頭を傾げた。
向かいに立つユウもそれに釣られて同じ様に首を傾げる。
その日、学園一帯に多数の絶叫が響いた。
そのユウと名乗った子供は本当に子供であった。
あの後、超特急で式を終わらせた学園長はユウを抱えて医療機関に飛び込み複数の検査を受けさせた。
その結果、手根骨を調べたレントゲン技師も歯を調べた歯科医もその為医者達も口を揃えてユウが4〜5歳の子供である事を学園長へ告げた。
加えて性別も男子ではなく女子という事に学園長はますます頭を抱える。
新入生に関しては鏡や昔ながらの魔法に頼っており学園長が関知している事は少ない為、原因が分からない。
念のために闇の鏡に見て貰えば魔力すらないという。
ますます手違いという線が濃厚になって来たがユウを元の場所に戻そうにも鏡は分からないと言うし、幼さない事もありユウ自身もはっきりとした己の住所が分からない。
何とかユウから聞き出した地名は学園長も聞いた事の無いものであった。
困り果てる学園長を見てユウは裾を引きずる式典服の中から小さな包みを取り出した。
「何ですかこれは?」
余り見かけ無い布地の包みは紐が付いていてユウの首へと伸びていた。
それを首から何とか外したユウは学園長へと差し出す。
「おばあちゃんが迷子になったら大人の人に見せなさいって!」
学園長はユウに促されるはままに包みを解いた。
中から小さな紙が出てくる。
それを開いて学園長はますます困り果てた。広げられた紙には何やら書いてあるのだが学園長には一つも読めるものがなかった。
「お呼びですか。学園長」
呼ばれてやって来たのは愛猫のルチウスを抱き抱えたトレインであった。
自分に読めなくとも歴史や文化に詳しいトレインならばと一抹の望みをかけた学園長であるが
「これは私の記憶にもないものです」
トレインにも解読は不能であった。
困り果てて深々と溜息を吐いた学園長に、それまでルチウスと戯れていたユウは近付いて彼女が唯一届く膝を撫でた。
「大丈夫?」
「貴女は優しい子ですね」
ユウを抱き抱え、自身の膝に乗せた学園長は魔法で飴を出すとそれをユウに差し出す。
「凄い!魔法みたい!」
「みたいじゃなくて魔法ですよ」
手を叩いて喜んで見せたユウに学園長は飴を握らせた。
ユウの興奮は冷めきれず、もっともっとと学園長に魔法を見せてとおねだりする。
困りましたと言いながらも自身へ尊敬の眼差しを向けるユウに満更でもない学園長。
そんな二人のやりとりを見ていたトレインは驚きの仮説を打ち出した。
「そもそも彼女はこの世界の住人ではないのでは?」
「そんなまさか」
トレインにしては突拍子のない発言に学園長はその場で笑って済ました。
結局、ユウの事は警察に連絡を入れて保護者からの捜索依頼を待つしかなかった。
子供がいなくなった事に親が気付いてすぐに連絡が来るだろうと学園長は軽く考えていた。
その間学園で預かる事になったユウは他の同じ歳の子供には無いほどの大人しさで誰の手も煩わせる事もなく過ごす。
入学式でユウを見ていた生徒達も好意的で、ユウは学園を歩くと誰かしらにお菓子や絵本、錬金術の失敗ではあるけれど見た目は綺麗な石を貰ってくるなどしていた。
そして月日は流れて半年、警察もユウの家を探したがお手上げであった。
魔法を使ってもユウの家の手掛かりは掴めずますますトレインの言っていたユウが異世界人という説は濃厚になる。
親族も家も見つからない以上、ユウの保護者問題は浮き上がり、「ならば私が」と手を挙げた学園長に続き幾人かの教師が手を挙げた。
それから熾烈を極めた誰がユウの保護者になるかという戦いに舌戦を繰り広げていた学園長達は最後、ユウに選んで貰おうという事になった。
「さあ、ユウくん。この中で誰が貴女の保護者に相応しいか選んでもらえますか?」
学園長は自分が選ばれる自信があった。
初めて会ったのは自分であるし、この半年の間に長い時間を共に過ごしたのは自分が一番だという自負がある。
これは教師陣も同じであった。
私が、自分が一番よくいたと誰もが思っている。
ユウにも分かりやすい様に家族にするならば誰が良いかと質問を言い換えると大人達は整然と列を組み、微笑み並んだ。
そんな彼等から距離を取り、呆れた様子で見ていたのはトレインである。
学園長から呼び出されたかと思えば突然始まったユウの親権争い。
ユウの事を人の顔色に機敏な聡い子供と評していただけに取捨選択を大人気ない大人達から迫られてられているユウにトレインは多少の同情の念を抱いた。
その証拠にユウの表情は困惑の色が滲み、眉はだんだんと下がって来ている。
トレインとしては学園長を選ぶ選択が一番、事を穏便に済ます選択だと考えていた。
「ルチウス」
「はい?」
「ルチウスと家族になりたいです」
ユウの返答に抱き抱えられたルチウスは得意げな顔をして鳴いた。
実をいうとユウが誰より学園で一緒にいたのは学園長やどの教師陣でもなくルチウスであったし、ルチウスもユウを我が子の様に可愛がり、余程の事がない限りユウの側にいた。
それを思い出した数名の教師陣はルチウスならば仕方がないと諦めたがそれでも残った者が諦めずルチウスは猫だからとユウに再度保護者選びを求めた。
「ユウくん。貴女がルチウスを好きなのは分かりましたが、ルチウスは猫です。貴女の保護者にはなれないのですよ」
その諦めきれない筆頭の学園長はユウの肩を掴んだ。
仮面の向こうの瞳は言外に次こそは自分を選べと言っている。
ユウは見るからに困り果てていた。
彼女に抱えられたルチウスは学園長に向かって威嚇の声を上げている。
「では、ルチウスの飼い主である私が彼女の身を預かるという事でどうでしょう」
トレインはユウの後ろに立ってそう言うとルチウスはそれがいいと言わんばかりに鳴いた。
トレインの発言にユウの保護者を諦めきれていない教師陣も賛成に回った。
学園長は一人、まだ諦められずにぐだぐだ言っていたが多数に無勢。
教師陣の説得とユウのご機嫌取りの甲斐あり、最終的には学園長もユウの親権を諦める。
こうしてトレインは異世界から来たと思われる子供、ユウを面倒見る事となった。
「これからよろしくお願いします」
「私が君の保護者になったからには世に出しても恥ずかしくないよう教育していくつもりだ。覚悟する様に」
トレインがユウの保護者となっても彼女の生活はたいして変わらない。
正式にユウの保護者となった事でトレインは学園の外に居を構えようとしたが、学園長がユウの居住を許可をした為これまで通りの生活が出来る事になった。
変わったと言えばユウが食事の際はトレインが隣に座っている事が増えた位である。
しかしそれもトレインに食事を取る余裕がある時位で、仕事が立て込むと生徒や教師に混じって食事を取るユウの姿が見られた。
トレインは当初こそ自分がユウの保護者になったからには将来、何処へお嫁に行っても恥ずかしくない程度に教育するつもりであったがそれほどユウの教育に手を焼く事はなかった。
ユウは最低限のマナーを元から守る事が出来、勉強にも意欲的である。
魔力がない為魔法は使えないがそれ以外の勉強、それこそトレインが教師を務める魔法史でさえも欠伸一つ漏らさず話を聞くユウにトレインは居眠りばかりの生徒達に彼女の爪の垢を煎じて飲ませたいと思った程にユウは勤勉だった。
要約すればトレインとユウの相性は悪くなく、加えてユウの存在が驚きの効果を与えた。
「トレイン先生、今よろしいですか?」
昼休みが半分終えた頃に授業の質問にやって来た生徒。
トレインがユウの保護者になってからこうして意欲的に授業の事を尋ねに来る生徒が増えた。
理由と言えばユウである。
「お兄ちゃん、お勉強頑張ってね」
去り際にユウからそう声をかけられた生徒は見るからに眦を緩ませ、手を振った。
彼等の狙いはユウであった。ユウが一緒にいる時にトレインに授業の質問をするとユウは自分の知らない話をする二人に尊敬の眼差しを向けて、別れ際には先程の様に勉強の応援をするのである。
勉強に励む理由が不純ではあるけれどそれで生徒にやる気が出るならと彼等の腑抜けた様に目を瞑り、トレインは敢えて何も言わなかった。
実はそんな不純な理由に加えてユウを隣に置いたトレインは普段の厳しさが減り、質問し易いという理由もあるのだがトレインもそれは知らない。
側から見た二人は親子というより祖父と孫の様で、それを周りから揶揄われる事も多々あったが兎にも角にもトレインとユウ、それからルチウスの生活は順調であった。