リュウグウノツカイの人魚
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ナイトレイブンカレッジには留年している王子様がいるがそれを超える猛者がいる。
と言っても本人は別にしたくて留年している訳でも無い。
授業をサボるどころか病の身体を引き摺ってでも授業に出席しようとする程度に真面目な生徒である。
しかしちょっと彼の育った環境や体質が特殊であり、加えて慣れない集団生活と気候によるストレスとで頻発する病に入退院を繰り返した結果、毎年出席日数が足りず留年せざるを得なかった。
彼、ラセル・レガレスクは光が僅かしか届かない深い海の底で暮らす深海魚の人魚である。
他の生徒達同様に闇の鏡に魔法士としての素質を見出され、名門校ナイトレイブンカレッジへの入学が決まった迄は良かったが住んでいる場所が不味く、入学前から問題は山積みであった。
低酸素、高水圧という過酷な深海の環境に適応すべく生き物達は独自の進化を遂げてきた。
しかしそれはあくまでもその過酷な環境に適応すべくもので深海という世界に地上の様な目覚ましい変化も発展もない。
インフラ整備など勿論されていないし、そもそも深海に居を構える人魚等は人魚の総人口の何割もいない。
ネット環境も無く、郵便物も配達不可地域、そんな深海の情報の伝達は未だに口伝え。
ツイステッドワンダーランド界きっての限界集落・深海にどうやって入学案内書をその人魚の自宅まで届けるという問題に学園長であるクロウリーは頭を抱えた。
そしてその問題を解決すべく数いる優秀な教師陣が連日連夜その問題に頭を悩ませ、半年後には漸く入学の案内が出来た。
さて次ぎはどうやって深海住まいの人魚を迎えに行くか、と考えていたクロウリーであるがその人魚から返って来た返事はまさかの入学拒否。
世に名高い名門ナイトレイブンカレッジの歴史上、そしてクロウリーが学園長の職に付いてからの長い任期で初めての入学拒否にクロウリーはとても驚いた。
驚いた頭が次に考えたのは入学を拒否する理由で、『校風が合わない』だとか、『ナイトレイブンカレッジよりロイヤルソードアカデミーに入学したい』という理由は早々にあり得ないとクロウリーの頭から弾き出される。ツイステッドワンダーランドで名門と名高い学園である。
お金を積んで入学出来るなら幾らでも、何て言う者もいる程誰もがこの学園への入学を夢見ている。
だからきっとその生徒が入学を拒否するのは金銭的な問題に違いないとクロウリーは信じて疑わなかった。
勝手にそう判断したクロウリーは無利子・有利子・行政・民間各種の奨学金がある事を自分自身で説明しようと考えた。
しかし行き先は深い海の底。
いくら優秀な魔法士でもあるクロウリーと言えど何も準備無しに深海の旅は難しかった。
しかし未来ある若者の才能の芽をたかが限界集落、金銭の問題で潰してはいけないと教師魂を熱く燃やしていたクロウリーは自腹で科学の粋いと高度な魔法を結集して造られた潜水服を用意して件の人魚の元を尋ねた。
「わあ、こんにちは」
突然の学園長の来訪に人魚の少年は驚きながらも久しぶりの客人を喜んでクロウリーを家へと招き入れた。
深海という現代人にも未知の環境に興味を抱きながらも多忙なクロウリーは無駄話はせずに単刀直入に尋ねた。
「ナイトレイブンカレッジへの入学を拒否するのは貴方が初めてです。一体何が問題なのですか?」
クロウリーが見た限り人魚の少年は一人暮らしの様であった。
入学を拒否する理由の一つとして考えていた重病の家族の介護をする為という理由はクロウリーの頭の中で斜線を引かれる。
「僕も始め、お話を伺った時はとても嬉しかったのですが」
苦笑いを浮かべた人魚少年は自身の鱗の無い銀白色の鰭を撫でた。
端的に言えば人魚の少年の身体は地上での生活にとても不向きであった。
見た目こそは水深の浅い海域に暮らす人魚と変わらない姿であるが彼には普通の人魚の様に海の中を自由に泳ぎ回る筋力も強い骨も無い。
深海の高水圧に適応した細い身体は水圧の変化に滅法弱く、深くて暗い世界で過ごしてきた瞳は地上の淡い光すらまともに見れなかった。
普通の人魚であれば一般に出回る魔法薬の効能だけで十分、人間として生活出来るが深海の人魚はその薬の効能だけではとても地上で生活など出来ない。
だから、と入学を諦めるという人魚の少年にクロウリーは「舐めて貰っちゃ困りますよ」と静かな声で、けれど向かいの人魚の少年にはっきりと聞こえる声で告げた。
ナイトレイブンカレッジは名門校である。
数多くの有名な魔法士を輩出して来た学園である。
すなわち、そんな魔法士の卵達に勉強を教える教師達もまた凄い人物達な訳で
「少し時間をいただけますか?ナイトレイブンカレッジ教師陣の知恵と意地を持って貴方が他の生徒達と同様に学べる魔法薬を作りましょう」
その薬は教師陣、主にクルーウェルの睡眠時間を犠牲に半年掛りで完成した。
因みにこの時、入学式は終わっていた。
既に出席日数の問題が浮上しかけていたが今ならまだ、無遅刻無欠席で残された期間を過ごせば何とか進級は可能だとして、またしても潜水服を身に纏ったクロウリーは人魚の少年の元に赴いた。
魔法薬が完成した事を人魚の少年に伝えると彼はとても喜んだ。
「本当に?本当に僕は地上に行けるの?」
「ええ、完成した薬を飲めば鰭が二本の足に変わるだけでなく貴方が危惧していた事は全て解決します」
クロウリーの言葉に出来もしない宙返りをしそうな程に人魚の少年は喜んだ。
だって人魚の少年は昔話の人魚の姫同様に光溢れる地上に憧れていたのである。
「凄い!魔法みたいだ!」
「魔法薬ですからね」
人魚の少年の無邪気な喜び様にクロウリーのこれまでの苦労、主に無茶な約束をしてきた事に対する教師陣の小言に疲弊していた心が解きほぐされる。
「さあ、時間は有限ですよ。以前取り決めた通りさっさと学園へ移動しましょう」
前回、少年の家を訪れた際にクロウリーは薬が出来た後の話をしていた。
主に深海から学園への移動である。
考えたのは先ず、人魚の少年が彼の家と学園を繋げた鏡に潜り、すかさず向こうで準備して待機している教師達から薬を受け取って飲むという至極単純な事だった。
人魚の少年曰く人魚も深海の魚達と同じで何も準備なく地上に出るとものの数時間で死んでしまうが逆に言えばそれだけの時間の猶予はあると言う。
深海から地上に持っていく物がないという人魚の少年はその身一つで鏡に潜った。
ここで一つ問題が起きた。
先程深海から地上に出て数時間猶予はあるとあったがその認識が人魚の少年もクロウリー達も甘かった。
仕方無いと言えば仕方ない。
人魚の少年の知識はあくまで誰かに聞いたという話であったしクロウリー達からすれば深海という場所は科学と魔法の技術が進んでも未だ未知が多い場所で、そこの住人を見るのも人魚の少年が初めてであったのである。
鏡を使って深海から地上に上がった人魚の少年はすかさず待ち構えていたクルーウェル達に薬を飲まさせられたがその効果が現れるものの数秒間で生死を彷徨う程の深刻なダメージを受けた。
死にかけたのである。
後に人魚の少年は自分が鰾を持つ人魚でなくて良かった。
人魚の種類によってはあの数秒の間に鰾が破裂して死んでいる所であったとこの後、一年もの間お世話になる事になるベッドの上で笑っていた。
しかしそんな明るい少年に対して、間近で少年が苦しみのたうち回る姿を見ていた教師陣は決して浅くないトラウマを植え付けられた事をここに記しておく。
結局その時のダメージで人魚の少年はそのまま一年の入院を余儀なくされた。
そしてその後、二足歩行での訓練に困難を来したり、文字が読めない事が発覚したり、固形物がまともに食べれなかったり、高山病や熱中症に似た病を患って入退院を繰り返したりを続けた結果、人魚の彼は大変不本意ながらナイトレイブンカレッジ史上最長の在学年数を迎える羽目になる。
そんな彼に付いた渾名が「長老」とこれまた不本意は渾名を頂いた。
ナイトレイブンカレッジの長老と呼ばれているラセルは地上からの物音に目を開いた。
深海と地上の行き来は文字通り命懸けである為今年も夏季ホリデーの間は学園に滞在していた。
そのホリデーの終了間際に持病の症状が出たラセルは担任に相談して入学式を欠席した。
そのまま何時もの様に水槽で寝て過ごし、症状が治るのを待っていたのだが目覚めたばかりにしては異様に頭がぼんやりしている。
水槽内で起き上がったラセルは側に置いていた完全防水のスマートフォンを手に取る。
「しまった」
入学式どころかその翌日迄寝過ごしてしまった事に頭を押さえた。
暗闇で光々と光るディスプレイを掛けていたサングラス越しに見たラセルは担任教師に、入学前から何かと世話を焼いてくれる学園長、それから元後輩で今は同級生である友人から心配するメッセージが来ていて苦笑いを浮かべた。
ラセルは水槽の淵に置いていた魔法薬を取ると水面に顔を出して一気に煽り、再び潜った。
身体が変化している間に魔法で水槽内の水圧を緩やかに人間でも耐えられる迄に戻し、肺呼吸が可能になった所で水槽を出て身体の筋という筋を伸ばす。
よく寝た。
寝すぎであると自分で自分自身を戒める。
魔法で身体を乾かし、この数年で着慣れた制服を着ると鼻歌交じりに地上へ続く階段を登った。
溜まったメッセージに返事を打ち込みながら先程聞こえた物音を思い出す。
あの地下まで聞こえた物音は何だったのか。きっとネズミかゴーストだろうと当たりをつけた。
取り敢えず人ではあるまい。
だってここは大半の生徒も知らない様な廃墟同然のオンボロ寮であるのだから、と扉を開けると目の前に暗い顔の子供がいた。
「え、誰?」
と言っても本人は別にしたくて留年している訳でも無い。
授業をサボるどころか病の身体を引き摺ってでも授業に出席しようとする程度に真面目な生徒である。
しかしちょっと彼の育った環境や体質が特殊であり、加えて慣れない集団生活と気候によるストレスとで頻発する病に入退院を繰り返した結果、毎年出席日数が足りず留年せざるを得なかった。
彼、ラセル・レガレスクは光が僅かしか届かない深い海の底で暮らす深海魚の人魚である。
他の生徒達同様に闇の鏡に魔法士としての素質を見出され、名門校ナイトレイブンカレッジへの入学が決まった迄は良かったが住んでいる場所が不味く、入学前から問題は山積みであった。
低酸素、高水圧という過酷な深海の環境に適応すべく生き物達は独自の進化を遂げてきた。
しかしそれはあくまでもその過酷な環境に適応すべくもので深海という世界に地上の様な目覚ましい変化も発展もない。
インフラ整備など勿論されていないし、そもそも深海に居を構える人魚等は人魚の総人口の何割もいない。
ネット環境も無く、郵便物も配達不可地域、そんな深海の情報の伝達は未だに口伝え。
ツイステッドワンダーランド界きっての限界集落・深海にどうやって入学案内書をその人魚の自宅まで届けるという問題に学園長であるクロウリーは頭を抱えた。
そしてその問題を解決すべく数いる優秀な教師陣が連日連夜その問題に頭を悩ませ、半年後には漸く入学の案内が出来た。
さて次ぎはどうやって深海住まいの人魚を迎えに行くか、と考えていたクロウリーであるがその人魚から返って来た返事はまさかの入学拒否。
世に名高い名門ナイトレイブンカレッジの歴史上、そしてクロウリーが学園長の職に付いてからの長い任期で初めての入学拒否にクロウリーはとても驚いた。
驚いた頭が次に考えたのは入学を拒否する理由で、『校風が合わない』だとか、『ナイトレイブンカレッジよりロイヤルソードアカデミーに入学したい』という理由は早々にあり得ないとクロウリーの頭から弾き出される。ツイステッドワンダーランドで名門と名高い学園である。
お金を積んで入学出来るなら幾らでも、何て言う者もいる程誰もがこの学園への入学を夢見ている。
だからきっとその生徒が入学を拒否するのは金銭的な問題に違いないとクロウリーは信じて疑わなかった。
勝手にそう判断したクロウリーは無利子・有利子・行政・民間各種の奨学金がある事を自分自身で説明しようと考えた。
しかし行き先は深い海の底。
いくら優秀な魔法士でもあるクロウリーと言えど何も準備無しに深海の旅は難しかった。
しかし未来ある若者の才能の芽をたかが限界集落、金銭の問題で潰してはいけないと教師魂を熱く燃やしていたクロウリーは自腹で科学の粋いと高度な魔法を結集して造られた潜水服を用意して件の人魚の元を尋ねた。
「わあ、こんにちは」
突然の学園長の来訪に人魚の少年は驚きながらも久しぶりの客人を喜んでクロウリーを家へと招き入れた。
深海という現代人にも未知の環境に興味を抱きながらも多忙なクロウリーは無駄話はせずに単刀直入に尋ねた。
「ナイトレイブンカレッジへの入学を拒否するのは貴方が初めてです。一体何が問題なのですか?」
クロウリーが見た限り人魚の少年は一人暮らしの様であった。
入学を拒否する理由の一つとして考えていた重病の家族の介護をする為という理由はクロウリーの頭の中で斜線を引かれる。
「僕も始め、お話を伺った時はとても嬉しかったのですが」
苦笑いを浮かべた人魚少年は自身の鱗の無い銀白色の鰭を撫でた。
端的に言えば人魚の少年の身体は地上での生活にとても不向きであった。
見た目こそは水深の浅い海域に暮らす人魚と変わらない姿であるが彼には普通の人魚の様に海の中を自由に泳ぎ回る筋力も強い骨も無い。
深海の高水圧に適応した細い身体は水圧の変化に滅法弱く、深くて暗い世界で過ごしてきた瞳は地上の淡い光すらまともに見れなかった。
普通の人魚であれば一般に出回る魔法薬の効能だけで十分、人間として生活出来るが深海の人魚はその薬の効能だけではとても地上で生活など出来ない。
だから、と入学を諦めるという人魚の少年にクロウリーは「舐めて貰っちゃ困りますよ」と静かな声で、けれど向かいの人魚の少年にはっきりと聞こえる声で告げた。
ナイトレイブンカレッジは名門校である。
数多くの有名な魔法士を輩出して来た学園である。
すなわち、そんな魔法士の卵達に勉強を教える教師達もまた凄い人物達な訳で
「少し時間をいただけますか?ナイトレイブンカレッジ教師陣の知恵と意地を持って貴方が他の生徒達と同様に学べる魔法薬を作りましょう」
その薬は教師陣、主にクルーウェルの睡眠時間を犠牲に半年掛りで完成した。
因みにこの時、入学式は終わっていた。
既に出席日数の問題が浮上しかけていたが今ならまだ、無遅刻無欠席で残された期間を過ごせば何とか進級は可能だとして、またしても潜水服を身に纏ったクロウリーは人魚の少年の元に赴いた。
魔法薬が完成した事を人魚の少年に伝えると彼はとても喜んだ。
「本当に?本当に僕は地上に行けるの?」
「ええ、完成した薬を飲めば鰭が二本の足に変わるだけでなく貴方が危惧していた事は全て解決します」
クロウリーの言葉に出来もしない宙返りをしそうな程に人魚の少年は喜んだ。
だって人魚の少年は昔話の人魚の姫同様に光溢れる地上に憧れていたのである。
「凄い!魔法みたいだ!」
「魔法薬ですからね」
人魚の少年の無邪気な喜び様にクロウリーのこれまでの苦労、主に無茶な約束をしてきた事に対する教師陣の小言に疲弊していた心が解きほぐされる。
「さあ、時間は有限ですよ。以前取り決めた通りさっさと学園へ移動しましょう」
前回、少年の家を訪れた際にクロウリーは薬が出来た後の話をしていた。
主に深海から学園への移動である。
考えたのは先ず、人魚の少年が彼の家と学園を繋げた鏡に潜り、すかさず向こうで準備して待機している教師達から薬を受け取って飲むという至極単純な事だった。
人魚の少年曰く人魚も深海の魚達と同じで何も準備なく地上に出るとものの数時間で死んでしまうが逆に言えばそれだけの時間の猶予はあると言う。
深海から地上に持っていく物がないという人魚の少年はその身一つで鏡に潜った。
ここで一つ問題が起きた。
先程深海から地上に出て数時間猶予はあるとあったがその認識が人魚の少年もクロウリー達も甘かった。
仕方無いと言えば仕方ない。
人魚の少年の知識はあくまで誰かに聞いたという話であったしクロウリー達からすれば深海という場所は科学と魔法の技術が進んでも未だ未知が多い場所で、そこの住人を見るのも人魚の少年が初めてであったのである。
鏡を使って深海から地上に上がった人魚の少年はすかさず待ち構えていたクルーウェル達に薬を飲まさせられたがその効果が現れるものの数秒間で生死を彷徨う程の深刻なダメージを受けた。
死にかけたのである。
後に人魚の少年は自分が鰾を持つ人魚でなくて良かった。
人魚の種類によってはあの数秒の間に鰾が破裂して死んでいる所であったとこの後、一年もの間お世話になる事になるベッドの上で笑っていた。
しかしそんな明るい少年に対して、間近で少年が苦しみのたうち回る姿を見ていた教師陣は決して浅くないトラウマを植え付けられた事をここに記しておく。
結局その時のダメージで人魚の少年はそのまま一年の入院を余儀なくされた。
そしてその後、二足歩行での訓練に困難を来したり、文字が読めない事が発覚したり、固形物がまともに食べれなかったり、高山病や熱中症に似た病を患って入退院を繰り返したりを続けた結果、人魚の彼は大変不本意ながらナイトレイブンカレッジ史上最長の在学年数を迎える羽目になる。
そんな彼に付いた渾名が「長老」とこれまた不本意は渾名を頂いた。
ナイトレイブンカレッジの長老と呼ばれているラセルは地上からの物音に目を開いた。
深海と地上の行き来は文字通り命懸けである為今年も夏季ホリデーの間は学園に滞在していた。
そのホリデーの終了間際に持病の症状が出たラセルは担任に相談して入学式を欠席した。
そのまま何時もの様に水槽で寝て過ごし、症状が治るのを待っていたのだが目覚めたばかりにしては異様に頭がぼんやりしている。
水槽内で起き上がったラセルは側に置いていた完全防水のスマートフォンを手に取る。
「しまった」
入学式どころかその翌日迄寝過ごしてしまった事に頭を押さえた。
暗闇で光々と光るディスプレイを掛けていたサングラス越しに見たラセルは担任教師に、入学前から何かと世話を焼いてくれる学園長、それから元後輩で今は同級生である友人から心配するメッセージが来ていて苦笑いを浮かべた。
ラセルは水槽の淵に置いていた魔法薬を取ると水面に顔を出して一気に煽り、再び潜った。
身体が変化している間に魔法で水槽内の水圧を緩やかに人間でも耐えられる迄に戻し、肺呼吸が可能になった所で水槽を出て身体の筋という筋を伸ばす。
よく寝た。
寝すぎであると自分で自分自身を戒める。
魔法で身体を乾かし、この数年で着慣れた制服を着ると鼻歌交じりに地上へ続く階段を登った。
溜まったメッセージに返事を打ち込みながら先程聞こえた物音を思い出す。
あの地下まで聞こえた物音は何だったのか。きっとネズミかゴーストだろうと当たりをつけた。
取り敢えず人ではあるまい。
だってここは大半の生徒も知らない様な廃墟同然のオンボロ寮であるのだから、と扉を開けると目の前に暗い顔の子供がいた。
「え、誰?」
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