マグル生まれの魔法使い
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初めて魔法界に行く日の前日、子供達三人は何時もの様に三人の中で一番広い部屋を持つダドリーの部屋に集まり各々に寛いでいた。
「あのホグワーツの教師、明日はまたぱって急に現れるのかな」
キッチンからくすねて来たクッキーのカスをぽろぽろ溢しながら呟くダドリー。
あの嵐の晩に男が音も無く姿を消したのが余程衝撃的だったのかダドリーの声は期待に満ちている。
そんなダドリーは皿に盛ったクッキーをサフィニアやハリーに勧めるが、ダイエット中のダドリーと違い三時のおやつを食べた二人は盗まれたクッキーを食べてクッキー泥棒の共犯にされては堪ったものでは無いと押し付けらえる皿を手で制して断った。
「いきなり現れるだけじゃこの前と同じでつまらないから今度は煙突から降りて来るとかどう?」
「ハリー、それじゃあ泥棒かサンタクロースよ」
「じゃあサフィニアはどんな風に来て欲しいんだよ」
「私は昨日見た映画みたいに勢いよくガラス窓を割って入って来て欲しいかな」
「もう魔法でも何でもないね」
なんて会話をしていたせいだろうか。
魔法使いに期待に期待を寄せていた三人はスネイプが普通に玄関のチャイムを鳴らして訪れた時は見て分かる程に落胆の表情を浮かべた。
「何かね」
リビングの入り口より顔を出した三人は彼の鋭い眼光に無言で首を横に振るう。
「子供達、ママはちょっとこの人とお話しがあるからリビングで大人しく待っててちょうだい」
玄関からやって来た魔法使いを仁王立ちで迎えたペチュニアは振り向くとそう言って微笑んだ。
微笑んでいる筈なのにこんなに背中がぞくぞくするのは何故だろうとサフィニアは他の二人を見ればリビングの入り口から顔を出すのはサフィニアだけで、既に二人はサフィニアを置いてリビングのソファーに避難している。
二人の行動の速さに驚きながらこのままのんびりしていては怒られかねないとサフィニアも慌ててリビングの入り口から頭を引っ込めさせようとした時、ペチュニアがまるで喝上げでもするかの様にスネイプの胸倉を掴んでいたのは目の錯覚という事にしておく。
壁一枚向こうで話込む大人を気遣いテレビも付けれず暫く三人はリビングで暇を持て余した。
と言ってもサフィニアは父親であるバーノンが朝食時に読んでそのままにしていった新聞を読み、ダドリーとハリーは魔法使いの世界に夢と想像を膨らませている。
そうやって三人が暇を潰しているとペチュニアがスネイプを引き連れてリビングに入って来た。
彼の着る黒い服の胸元が異様に皺を寄せているがサフィニアは見えない振りをする。
「今日はこのセブルス・スネイプが貴方達の学用品を買いに行くのに付き合ってくれるわ。二人共決して彼の側を離れてふらふらしては駄目よ」
「ハリーは心配ないだろうけどサフィニアは本屋に行くとすぐ消えるからな」
「ちょっとダドリー!」
「ハリー、あんただけが頼りよ。この子が何処へも行かない様にしっかり見ておいてちょうだい」
「分かったよ伯母さん」
「ちょっとママにハリー迄!」
三人の発言はサフィニア の日頃の行いによるものなのだが此処には家族だけでなくホグワーツの教師であるスネイプもいるわけで、これから七年間お世話になるというのに入学する前から彼に自分に対して変な印象を与えるのは勘弁して欲しかった。
サフィニアは視線をスネイプに向けると、彼は眉間に深い皺を寄せている。
「今から行く場所は良い魔法使いばかりが集まる所では無い。自分本意な行動は慎むように」
「気をつけます」
サフィニアは既に自分がスネイプから問題児と認識されている事に確信した。
とりあえず家に帰って来たら双子の兄に一発お見舞いしてやろうと決め込み、ペチュニアから学用品を買うお金を受け取る。
それからペチュニアとダドリーに玄関から見送られサフィニアとハリーはスネイプの引率でロンドンへと向かった。
サフィニアとハリーは今度こそスネイプの魔法を期待したが、バスと地下鉄を乗り継ぎ、駅から徒歩で歩く事暫く本屋とレコードショップに挟まれて店を構える「漏れ鍋」という店でスネイプが足を止めた。
どう見てもそこはパブで二人は顔を見合わせる。
「パブに学用品が売ってるのかな?」
「そんな風には見えないけど」
「いつまでそこに突っ立っているのかね。さっさと中に入りたまえ」
既に体を半分店に入れたスネイプは開いた扉を押さえて二人を待っていた。
会話の末、只スネイプさんが昼間からお酒を飲みたいだけなんじゃと疑いかけていた二人は慌てて開かれた扉の向こうへ体を滑り込ませた。
ペチュニアが不在の時などバーノンに連れられサフィニアもハリーもパブに行った事はあったが漏れ鍋というパブは近所のパブと明らかに違った。
近所のパブが明るい店内だったのに対し漏れ鍋の店内はどこか薄暗く賑やかではあるが雰囲気が違う。
ロンドンという都市にある店だからとも思えたがこの店に来る道中で見たパブは都会らしい華やかさはあったがガラス窓腰に見た店内の雰囲気は地元のパブとそう変わらぬ軽快さがあった。
ハリーがサフィニアの服を引きテーブル席を見るように促す。
見ればテーブルに着く人々は長いマントや鍔の広い三角帽子を被っている者が何人もいる。
それはまるで物語に出て来る魔法使いの様でと、サフィニアが思った所で男の大きな声でサフィニアの意識は現実へと引き戻された。
見ればこのパブの店主だという男がハリーの名前をしきりに呼び握手を求めていた。
急な事にサフィニアは勿論、ハリー本人も戸惑っていた。
ハリーが差し出された手に困っている間に彼の手は店主に掴まれ、彼の興奮のままに激しく上下に振られている。
気付くと店主の興奮はテーブルで食事をしていた客にも感染ったか、皆が熱病時の譫言の様にハリーの名前を口にして集まって来た。
その光景うっかりぼんやりと眺めていたサフィニアは気付くとハリーと握手をしたい大人達に挟まれて揉みくちゃにされていた。
大人達の中心にいるハリー身が心配であるが先ずは自分の身が心配で、サフィニアは何とか大人の波を押し退け脱出を試み様とするのだが後一歩が向け出せない。
無意味だと分かりながらも人の波の隙間から出せた腕一本を伸ばして踠いていると突如波が別れサフィニアが抜け出せるだけの隙間が出来た。
「あ、ありがとうございます。スネイプさん」
サフィニアを人の波から出してくれたのはスネイプで、お礼を言うと彼は顔を逸らして鼻息で返事をするだけだった。
「あの、ハリーって魔法界では有名なんですか」
未だ引かない人波を見れば皆が皆、ハリーを崇める様な感謝する様な、中にはハリーと握手をして涙を溢す者迄いる。
その様子から芸能人をちやほやする感じではなく教会の牧師に信奉する様な感じでサフィニアは頭を傾げた。
自分の従兄弟殿は魔法界で一体何をしたのだろうか。
そもそもハリーとは物心がついてからトイレとお風呂、眠る時ぐらいしか離れた事は無い程に行動を共にしている。
そんなよく知ったハリーを取り巻く見た事のない光景にサフィニアは困惑した。
「左様。ポッターは魔法界の英雄殿ですからな」
スネイプから英雄と聞き、何をして彼が英雄と呼ばれるのか分からなかったが周りの人達の様子には納得いった。
「ところでミスダー「サフィニアって呼んで下さい」
スネイプの言葉に重ねて言えば彼はサフィニアを睨みつけるがサフィニアは構わず再度「名前でお願いします」と催促すると暫く睨んだ後に深々と溜息を吐く。
特に他意は無い。
バーノンのお仕事柄来客の多いダーズリー家でミスダーズリーと言えばペチュニアを指し、サフィニアは来客からはサフィニアちゃん、もしくは愛称で呼ばれていたのだ。
「サフィニア・ダーズリー。君のその赤毛は地毛かね」
どうしても名前で呼ぶ気は無いらしい。
スネイプにフルネームで呼ばれ、指し示された赤毛。
今、この薄暗い店内では栗毛に見えない事も無いがサフィニアは確かに赤毛である。
如何して今、こんな事を聞かれるのか「ああ」とサフィニアは思い当たる事があった。
サフィニアの父親であるバーノンは黒、母親のペチュニアと息子のダドリーはブロンドに対し娘のサフィニアは見るも鮮やかな赤毛であった。
プライマリースクールに入学して早々に年嵩の先生に髪を染色されたと疑われ注意された事がある。
その時は校則がどうのでなく、幼少からの染色は髪を傷めてしまうという床屋で産まれ育った先生の優しさから来るもので、サフィニアの髪は地毛なのだと一応、ペチュニアを通して説明してもらったのだがもしかしたらホグワーツという学校は髪の染色を禁ずるお堅い学校なのかもしれない。
そう考えたサフィニアは慌てて訴える。
「これは地毛です!確かに両親、兄と髪色は違いますがこれは母方の血が濃く出てしまった所為で!母の妹・・・ハリーのお母さんと同じ髪色何です!」
本当は母方の祖父母いずれかを上げたかったが残念ながら白黒写真で見た祖父母は髪色は判別出来ず、以前ペチュニアにも伺った事はあったがすっかり何方が赤毛遺伝子を持っていなかったのか忘れてしまった。
せめて髪色といい目といいそっくりだと他人から対比される叔母でありハリーの母親を出すとスネイプ顔を酷く歪めた。
まるで悲しみを堪える様な彼の表情にサフィニアは一体自分のどの言葉が不味かったのか分からなかった。
二人間に気まずい雰囲気が流れた所でハリーの呻き声が聞こえ、互いに顔を逸らして俯いていた二人は同時にハリーを見る。
ハリーの周りは既に人波は無くなっていたがハリーの前にはターバンを被った男が一人。
スネイプは舌打ちと共に歩み出し、ハリーとターバン男間に体を滑り込ませた。
後手に回ったサフィニアはハリーの側に駆け寄ると、額の古傷を押さえるハリーの容態を尋ねる。
「ハリー、大丈夫?頭が痛いの?」
「大丈夫。只ちょっと傷が傷み出したから吃驚しちゃって」
そう言うハリーは痛みに顔を歪めていたが顔色は悪く無く、古傷が痛む原因は分からなかったがサフィニアは取り敢えず安心した。
ハリーは急に呻いた自分に驚いたであろうスネイプとターバンの男にも詫びを入れた。
すると男はクィリナス・クィレルと名を名乗り、ハリーの容体を気遣いながら自身はホグワーツ教師である事を話すと先程迄の大人達同様にハリーへ握手を求めたがそれは学用品の購入に時間が押しているというスネイプによって叶わなかった。
幾ら時間は有限とはいえクィレルと握手する位の時間はあっただろうにと置いてきぼりする様な結果になってしまったクィレルに申し訳ないと思う二人であったが煉瓦の向こうに現れた魔法使いの世界らしい光景にすっかり忘れてしまった。
パブで見た魔法使いらしい姿の人々が道に溢れ、軒を連ねる店や建物はまるで中世にタイムスリップしたかの様で二人は逸れないよう手を繋ぎスネイプの後ろに付きながら忙しなく前後左右と辺りを見回す。
箒の専門店に異臭のする薬問屋、悪戯道具専門店と書かれた店には二人と同世代だろう子供達でごった返している。
一体先ずは何処の店に入るのだろうか二人が話しているとスネイプが白い建物の前で足を止めた。
「先ずこのグリンゴッツでポッターの学用品を買うお金の引出しとサフィニア・ダーズリー持つお金を魔法界の貨幣に換金する」
スネイプの言葉にサフィニアは学校で教師に質問する時の様に挙手をし、異議を申し立てる。
「ハリーの学用品を買うお金は母から預かっています」
おかげで纏めて二人分預かったサフィニアは今まで手にした事の無い金額に恐々としながら道中を歩いたのだ。
「ポッターの分のお金は換金せず後で母親に返金したまえ。ポッターにはポッターの両親が残した財産があるからそれは不要だ」
「そうなのハリー?」
「僕も初耳だよ」
驚く二人に構わずスネイプが銀行へと足を進めるので二人は慌てて彼を追いかける。
銀行での用事を済ませ次第二人は時間のかかるという制服の購入に、その間にスネイプが教科書や鍋等の購入に店を回るという本日の予定を聞き、魔法界の書店を楽しみにしていたサフィニアは表情を曇らせた。
が、落ち込んでいる暇も無く銀行員だと言うゴブリンに驚かされる。
お金の引き出しに行ったスネイプとハリーと一旦別れ、一人換金している間には隣の窓口に自分の三倍はあろう巨大な男がいて、ゴブリンに巨人と自分は本当に魔法使いの世界に来たのだなと実感させられた。
暫くして興奮気味のハリーと少し顔色悪いスネイプが戻って来た。
金庫にお金を引出しに行っただけなのに何を興奮しているのか尋ねれば金庫に行く道中がトロッコで、そのトロッコがまるでジェットコースターの様に早く激しく走るらしい。
それを聞いてサフィニアはスネイプの顔色の悪い理由を理解した。
ダーズリー家には子供が三人、奇数である。
大抵のジェットコースターは二人ずつの席が連なる為ジェットコースターに乗ろうとなるとバーノンが一人溢れた子供の為に駆り出されるのだが、ジェットコースターに乗った後のバーノンとスネイプは同じ顔色をしていた。
父親と同じく絶叫系が苦手なのだろう身内との共通点に親近感を覚えて微笑んでいればスネイプに睨まれたのでサフィニアは思わずハリーの背後に身を隠す。
「我輩に言いたい事があるのならはっきり言いたまえ」
「何でもないです」
ハリー越しにそう答えれば本日何度目かになる溜息を吐かれた。
これ以上は時間の無駄と判断したのかスネイプの追求はなく、銀行を後にすると制服が購入できるという洋装店へと案内された。
「二人は此処で制服を作ったらその後この先にあるオリバンダーの店で杖を購入、それが済んだら先程の道中で見たかと思うがフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に集合だ」
書店で暫く自由行動を許すと先程聞いた予定との違いにサフィニアが驚いていればハリーが耳打ちする。
「僕がスネイプさんにお願いしたんだ」
自宅を出てから始終不機嫌な顔のスネイプにハリーは小声で彼が苦手だと零していた。
だと言うのにサフィニアの為に書店での自由行動をスネイプに願ったハリーの行動に目を丸くしていたサフィニアは頬を緩ませると喜色を浮かべハリーに抱き着く。
「ハリー!貴方ってば本当に最高よ!」
「ちょっとサフィニア苦しいよ」
きゃあきゃあと騒いでいれば大きな咳払い。
咳払いの主はスネイプらしく彼は二人の視線が自分に向かっているのを確認すると店前で戯れている二人に迅速な行動を求めた。
「何時迄もそうしているのは一向に構わないがそうなると書店での自由行動の時間が減りますぞ」
それではハリーの頑張りは何だったのか、ハリーは慌てて洋装店に飛び込みサフィニアは制服と杖の購入に必要なお金を抜いてその残りを財布ごとスネイプに預けるとハリーの後に続いた。
店内に入るとハリーともう一人が採寸中でサフィニアはハリーとは一人挟んで反対側の場所へと勧められた。
同世代と思わしき少年はハリーに話しかけ、二人は盛り上がっている。
一体何に盛り上がっているのか気になり、サフィニアが聞き耳を立てようとした時ハリーと話していた少年は振り向きサフィニアにホグワーツの新入生か尋ねてきた。
肯定すると両親共に魔法使いだという彼は丁寧にホグワーツや魔法界について彼が知る知識を話してくれた。
合間合間に彼の自慢ともとれない話が紛れてはいたが彼の巧みな話術と話題にサフィニアもハリーもマダムの従業員の指示を聞き逃す程に彼の話に夢中になっていた。
「君のおかげでますますホグワーツに入学するのが楽しみになったよ」
ハリーは特に魔法界のスポーツ・クィディッチに興味がそそられたらしくルールやポジションの役割等詳しく尋ねていた。
サフィニアは彼の父親がホグワーツの理事をしている関係で先日学校へ書籍の寄付を行ったという話からホグワーツの、魔法学校の図書館が楽しみで仕方がない。
「君達が良ければまた入学してからでも魔法界について教えてあげるよ」
少年の言葉に二人は目を瞬かせ「つまり?」と尋ねると三人の誰でもない笑い声が聞こえた。
笑い声の主は洋装店の主であるマダムで、彼女は微笑ましそうに三人を見ると少年の言葉を要約する。
「坊やは二人にお友達になりましょうってお誘いをしてくれてるのよ」
先程の言葉の何処がそうなるのか二人には分からなかったが少年表情を見るなりにマダム要約で正解らしく彼の白い頬が少し気恥ずかしそうに紅潮していた。
そんな少年を見て納得した二人は初めての魔法界で初めての友達に喜んだ。
「勿論!喜んで!」
「これからよろしく!えっと、」
「ドラコ・マルフォイだ。ドラコと呼んでくれ」
「よろしくドラコ。私はサフィニア・ダーズリーで、彼は私と従兄弟の」
「ハリー・ポッターだよ」
ハリーが名乗るとドラコにマダム、他の洋裁店の従業員迄もが驚愕の表情をする。
「は、ハリー・ポッター?君が」
途切れた言葉の続きは言われなくても二人は察する事が出来た。
散々漏れ鍋で聞かされたのだ。
「多分、君が想像しているハリー・ポッターで合ってる」
はくはくと未だ驚愕か抜けず言葉を発せられないドラコの頬をサフィニアは手近にあった物差しで突つく。
「おーい大丈夫かいドラコ君」
「すまない取り乱したりして」
暫くしてやっと気持ちの整理がついたのかドラコは平静を取り戻した。
彼と一緒に驚いていたマダムを含む従業員は流石商売人というべきか漏れ鍋の大人達の様に騒いだり握手を求めたりという事も無く早々に気持ちを切り替え各々の業務に勤しんでいる。
「これからホグワーツに行ってもよろしく頼む」
大人達が向けて来た感情からでは無い親愛からの握手を求められハリーと、ハリーに続いてサフィニアもドラコと握手を交わした。
三人の様子を微笑ましく見ていたマダムは採寸が終わった事を告げると既に両親が迎えに来ているらしいドラコと再開の約束と挨拶をして別れ、ハリーとサフィニアは制服を自宅へ届ける手配と支払いを行なった。
洋装店を後にした二人は次の目的地であるオリバンダーの店へと向かう。
創業紀元前と書かれた扉に嘘か真か討論しつつ店の扉を潜れば杖が納められているのだろう紙箱が店の壁一面に収まっておりサフィニアもハリーも口を閉じるのも忘れて店内を見回した。
そんな二人の視界の端で動いたのは店の店主だというオリバンダー氏で、彼はハリーを見るなりこの日を心待ちにしていた事を告げる。
杖を選ぶ順番はオリバンダーとハリーがレディファーストを唱えた為サフィニアからとなった。
オリバンダーに杖腕を尋ねられ答えると今度は巻尺を手に取り肩から指先で始まり膝から脇の下、頭の周りを計られ、一本の杖を差し出される。
細かな彫りが施された杖に触る事を躊躇したサフィニアであるがオリバンダーに促されるがまま杖を手に取り振るう。
すると杖から光の玉が飛び出し暫く危なっかしげに店内を飛び回り消える。
杖の反応に是非も分からずオリバンダーの顔色を伺えば良くなかったらしく持っていた杖は取り上げられ別の杖を握らされる。
先程の細かな彫りがある杖とは違い素材の木を少し磨いただけの様な、悪く言えばそこらに落ちた木の棒の表面を滑らかにしただけの杖を渡され先程と同じく振るった。
すると視界の先の棚からポン!ポン!ポン!とリズム良く売り物であろう杖の入った紙箱が棚から外へと勢い良く呼び出す。
やはりこの杖も違うらしく取り上げられオリバンダーに「この杖ならどうでしょう」と渡されたのは杖先が指揮棒の様に細く、握る部分がいくつもの球体が重なる様に彫られた杖。
杉に一角獣の鬣の芯として使われているというその杖は木目を残しながらも全体をモスク色に整え磨かれていた。
その杖を手に取ると杖からまたしても光の玉が飛び出しサフィニアの頭上に打ち上がり弾けるとキラキラと輝く光の粒がまるでサフィニアを祝福でもするかの様に降り注ぐ。
その光景にオリバンダーは笑みを浮かべた。
「この杖は忠誠心の厚い一角獣の鬣が使われております。木材は杉、この杖に主人と認められたダーズリーさんは勿論貴女の大切な人達を守る力の助けになるでしょう」
杖は再度箱に戻されオリバンダーから受け取ったサフィニアは後方に控えていたハリーと場所を交代すると箱を一撫でして小声で「これからよろしく」と声をかけた。
するとそれに応えるかの様に杖が震えた気がする。
驚くサフィニアであるが前方から聞こえた花瓶の割れる音に顔を上げた。
どうやらハリーが振った杖の影響で花瓶が割れたらしい。
杖を振っている時は自分に合った杖が見つかるのかと不安で周りの様子に迄気が回らなかったサフィニアであるが杖が決まり落ち着いて店内を見渡せば整然と迄はいかなくも収めるもは収められた店内はサフィニアとハリーのせいで雑然としていた。
ハリーと合う杖が見つからず暫く考え込んだオリバンダーは何か思い当たるものが合ったのか店の奥に消えすぐ戻って来るとハリーに一本の杖を差し出した。
本体に柊、芯に不死鳥の尾羽根を使っているという杖をハリーが手に取ると杖を握ったハリーを中心に光り温かな空気辺りを渦巻く。
その様子にハリー本人は勿論、見ていたサフィニアもこの杖がハリーが持つべき杖だと分かった。
「ハリー!それが貴方の杖なのね」
「多分、そうだと思う!・・・オリバンダーさん?」
サフィニアはハリーに駆け寄り、これから長い学校生活を共にするであろう彼の相棒を見て喜んだ。
ハリーも無事に杖が見つかって安堵の後に笑っていたがオリバンダーの様子がおかしい。
サフィニアの時は杖が見つかり笑みを浮かべていたオリバンダーは今、困惑の表情を浮かべていた。
「あのホグワーツの教師、明日はまたぱって急に現れるのかな」
キッチンからくすねて来たクッキーのカスをぽろぽろ溢しながら呟くダドリー。
あの嵐の晩に男が音も無く姿を消したのが余程衝撃的だったのかダドリーの声は期待に満ちている。
そんなダドリーは皿に盛ったクッキーをサフィニアやハリーに勧めるが、ダイエット中のダドリーと違い三時のおやつを食べた二人は盗まれたクッキーを食べてクッキー泥棒の共犯にされては堪ったものでは無いと押し付けらえる皿を手で制して断った。
「いきなり現れるだけじゃこの前と同じでつまらないから今度は煙突から降りて来るとかどう?」
「ハリー、それじゃあ泥棒かサンタクロースよ」
「じゃあサフィニアはどんな風に来て欲しいんだよ」
「私は昨日見た映画みたいに勢いよくガラス窓を割って入って来て欲しいかな」
「もう魔法でも何でもないね」
なんて会話をしていたせいだろうか。
魔法使いに期待に期待を寄せていた三人はスネイプが普通に玄関のチャイムを鳴らして訪れた時は見て分かる程に落胆の表情を浮かべた。
「何かね」
リビングの入り口より顔を出した三人は彼の鋭い眼光に無言で首を横に振るう。
「子供達、ママはちょっとこの人とお話しがあるからリビングで大人しく待っててちょうだい」
玄関からやって来た魔法使いを仁王立ちで迎えたペチュニアは振り向くとそう言って微笑んだ。
微笑んでいる筈なのにこんなに背中がぞくぞくするのは何故だろうとサフィニアは他の二人を見ればリビングの入り口から顔を出すのはサフィニアだけで、既に二人はサフィニアを置いてリビングのソファーに避難している。
二人の行動の速さに驚きながらこのままのんびりしていては怒られかねないとサフィニアも慌ててリビングの入り口から頭を引っ込めさせようとした時、ペチュニアがまるで喝上げでもするかの様にスネイプの胸倉を掴んでいたのは目の錯覚という事にしておく。
壁一枚向こうで話込む大人を気遣いテレビも付けれず暫く三人はリビングで暇を持て余した。
と言ってもサフィニアは父親であるバーノンが朝食時に読んでそのままにしていった新聞を読み、ダドリーとハリーは魔法使いの世界に夢と想像を膨らませている。
そうやって三人が暇を潰しているとペチュニアがスネイプを引き連れてリビングに入って来た。
彼の着る黒い服の胸元が異様に皺を寄せているがサフィニアは見えない振りをする。
「今日はこのセブルス・スネイプが貴方達の学用品を買いに行くのに付き合ってくれるわ。二人共決して彼の側を離れてふらふらしては駄目よ」
「ハリーは心配ないだろうけどサフィニアは本屋に行くとすぐ消えるからな」
「ちょっとダドリー!」
「ハリー、あんただけが頼りよ。この子が何処へも行かない様にしっかり見ておいてちょうだい」
「分かったよ伯母さん」
「ちょっとママにハリー迄!」
三人の発言はサフィニア の日頃の行いによるものなのだが此処には家族だけでなくホグワーツの教師であるスネイプもいるわけで、これから七年間お世話になるというのに入学する前から彼に自分に対して変な印象を与えるのは勘弁して欲しかった。
サフィニアは視線をスネイプに向けると、彼は眉間に深い皺を寄せている。
「今から行く場所は良い魔法使いばかりが集まる所では無い。自分本意な行動は慎むように」
「気をつけます」
サフィニアは既に自分がスネイプから問題児と認識されている事に確信した。
とりあえず家に帰って来たら双子の兄に一発お見舞いしてやろうと決め込み、ペチュニアから学用品を買うお金を受け取る。
それからペチュニアとダドリーに玄関から見送られサフィニアとハリーはスネイプの引率でロンドンへと向かった。
サフィニアとハリーは今度こそスネイプの魔法を期待したが、バスと地下鉄を乗り継ぎ、駅から徒歩で歩く事暫く本屋とレコードショップに挟まれて店を構える「漏れ鍋」という店でスネイプが足を止めた。
どう見てもそこはパブで二人は顔を見合わせる。
「パブに学用品が売ってるのかな?」
「そんな風には見えないけど」
「いつまでそこに突っ立っているのかね。さっさと中に入りたまえ」
既に体を半分店に入れたスネイプは開いた扉を押さえて二人を待っていた。
会話の末、只スネイプさんが昼間からお酒を飲みたいだけなんじゃと疑いかけていた二人は慌てて開かれた扉の向こうへ体を滑り込ませた。
ペチュニアが不在の時などバーノンに連れられサフィニアもハリーもパブに行った事はあったが漏れ鍋というパブは近所のパブと明らかに違った。
近所のパブが明るい店内だったのに対し漏れ鍋の店内はどこか薄暗く賑やかではあるが雰囲気が違う。
ロンドンという都市にある店だからとも思えたがこの店に来る道中で見たパブは都会らしい華やかさはあったがガラス窓腰に見た店内の雰囲気は地元のパブとそう変わらぬ軽快さがあった。
ハリーがサフィニアの服を引きテーブル席を見るように促す。
見ればテーブルに着く人々は長いマントや鍔の広い三角帽子を被っている者が何人もいる。
それはまるで物語に出て来る魔法使いの様でと、サフィニアが思った所で男の大きな声でサフィニアの意識は現実へと引き戻された。
見ればこのパブの店主だという男がハリーの名前をしきりに呼び握手を求めていた。
急な事にサフィニアは勿論、ハリー本人も戸惑っていた。
ハリーが差し出された手に困っている間に彼の手は店主に掴まれ、彼の興奮のままに激しく上下に振られている。
気付くと店主の興奮はテーブルで食事をしていた客にも感染ったか、皆が熱病時の譫言の様にハリーの名前を口にして集まって来た。
その光景うっかりぼんやりと眺めていたサフィニアは気付くとハリーと握手をしたい大人達に挟まれて揉みくちゃにされていた。
大人達の中心にいるハリー身が心配であるが先ずは自分の身が心配で、サフィニアは何とか大人の波を押し退け脱出を試み様とするのだが後一歩が向け出せない。
無意味だと分かりながらも人の波の隙間から出せた腕一本を伸ばして踠いていると突如波が別れサフィニアが抜け出せるだけの隙間が出来た。
「あ、ありがとうございます。スネイプさん」
サフィニアを人の波から出してくれたのはスネイプで、お礼を言うと彼は顔を逸らして鼻息で返事をするだけだった。
「あの、ハリーって魔法界では有名なんですか」
未だ引かない人波を見れば皆が皆、ハリーを崇める様な感謝する様な、中にはハリーと握手をして涙を溢す者迄いる。
その様子から芸能人をちやほやする感じではなく教会の牧師に信奉する様な感じでサフィニアは頭を傾げた。
自分の従兄弟殿は魔法界で一体何をしたのだろうか。
そもそもハリーとは物心がついてからトイレとお風呂、眠る時ぐらいしか離れた事は無い程に行動を共にしている。
そんなよく知ったハリーを取り巻く見た事のない光景にサフィニアは困惑した。
「左様。ポッターは魔法界の英雄殿ですからな」
スネイプから英雄と聞き、何をして彼が英雄と呼ばれるのか分からなかったが周りの人達の様子には納得いった。
「ところでミスダー「サフィニアって呼んで下さい」
スネイプの言葉に重ねて言えば彼はサフィニアを睨みつけるがサフィニアは構わず再度「名前でお願いします」と催促すると暫く睨んだ後に深々と溜息を吐く。
特に他意は無い。
バーノンのお仕事柄来客の多いダーズリー家でミスダーズリーと言えばペチュニアを指し、サフィニアは来客からはサフィニアちゃん、もしくは愛称で呼ばれていたのだ。
「サフィニア・ダーズリー。君のその赤毛は地毛かね」
どうしても名前で呼ぶ気は無いらしい。
スネイプにフルネームで呼ばれ、指し示された赤毛。
今、この薄暗い店内では栗毛に見えない事も無いがサフィニアは確かに赤毛である。
如何して今、こんな事を聞かれるのか「ああ」とサフィニアは思い当たる事があった。
サフィニアの父親であるバーノンは黒、母親のペチュニアと息子のダドリーはブロンドに対し娘のサフィニアは見るも鮮やかな赤毛であった。
プライマリースクールに入学して早々に年嵩の先生に髪を染色されたと疑われ注意された事がある。
その時は校則がどうのでなく、幼少からの染色は髪を傷めてしまうという床屋で産まれ育った先生の優しさから来るもので、サフィニアの髪は地毛なのだと一応、ペチュニアを通して説明してもらったのだがもしかしたらホグワーツという学校は髪の染色を禁ずるお堅い学校なのかもしれない。
そう考えたサフィニアは慌てて訴える。
「これは地毛です!確かに両親、兄と髪色は違いますがこれは母方の血が濃く出てしまった所為で!母の妹・・・ハリーのお母さんと同じ髪色何です!」
本当は母方の祖父母いずれかを上げたかったが残念ながら白黒写真で見た祖父母は髪色は判別出来ず、以前ペチュニアにも伺った事はあったがすっかり何方が赤毛遺伝子を持っていなかったのか忘れてしまった。
せめて髪色といい目といいそっくりだと他人から対比される叔母でありハリーの母親を出すとスネイプ顔を酷く歪めた。
まるで悲しみを堪える様な彼の表情にサフィニアは一体自分のどの言葉が不味かったのか分からなかった。
二人間に気まずい雰囲気が流れた所でハリーの呻き声が聞こえ、互いに顔を逸らして俯いていた二人は同時にハリーを見る。
ハリーの周りは既に人波は無くなっていたがハリーの前にはターバンを被った男が一人。
スネイプは舌打ちと共に歩み出し、ハリーとターバン男間に体を滑り込ませた。
後手に回ったサフィニアはハリーの側に駆け寄ると、額の古傷を押さえるハリーの容態を尋ねる。
「ハリー、大丈夫?頭が痛いの?」
「大丈夫。只ちょっと傷が傷み出したから吃驚しちゃって」
そう言うハリーは痛みに顔を歪めていたが顔色は悪く無く、古傷が痛む原因は分からなかったがサフィニアは取り敢えず安心した。
ハリーは急に呻いた自分に驚いたであろうスネイプとターバンの男にも詫びを入れた。
すると男はクィリナス・クィレルと名を名乗り、ハリーの容体を気遣いながら自身はホグワーツ教師である事を話すと先程迄の大人達同様にハリーへ握手を求めたがそれは学用品の購入に時間が押しているというスネイプによって叶わなかった。
幾ら時間は有限とはいえクィレルと握手する位の時間はあっただろうにと置いてきぼりする様な結果になってしまったクィレルに申し訳ないと思う二人であったが煉瓦の向こうに現れた魔法使いの世界らしい光景にすっかり忘れてしまった。
パブで見た魔法使いらしい姿の人々が道に溢れ、軒を連ねる店や建物はまるで中世にタイムスリップしたかの様で二人は逸れないよう手を繋ぎスネイプの後ろに付きながら忙しなく前後左右と辺りを見回す。
箒の専門店に異臭のする薬問屋、悪戯道具専門店と書かれた店には二人と同世代だろう子供達でごった返している。
一体先ずは何処の店に入るのだろうか二人が話しているとスネイプが白い建物の前で足を止めた。
「先ずこのグリンゴッツでポッターの学用品を買うお金の引出しとサフィニア・ダーズリー持つお金を魔法界の貨幣に換金する」
スネイプの言葉にサフィニアは学校で教師に質問する時の様に挙手をし、異議を申し立てる。
「ハリーの学用品を買うお金は母から預かっています」
おかげで纏めて二人分預かったサフィニアは今まで手にした事の無い金額に恐々としながら道中を歩いたのだ。
「ポッターの分のお金は換金せず後で母親に返金したまえ。ポッターにはポッターの両親が残した財産があるからそれは不要だ」
「そうなのハリー?」
「僕も初耳だよ」
驚く二人に構わずスネイプが銀行へと足を進めるので二人は慌てて彼を追いかける。
銀行での用事を済ませ次第二人は時間のかかるという制服の購入に、その間にスネイプが教科書や鍋等の購入に店を回るという本日の予定を聞き、魔法界の書店を楽しみにしていたサフィニアは表情を曇らせた。
が、落ち込んでいる暇も無く銀行員だと言うゴブリンに驚かされる。
お金の引き出しに行ったスネイプとハリーと一旦別れ、一人換金している間には隣の窓口に自分の三倍はあろう巨大な男がいて、ゴブリンに巨人と自分は本当に魔法使いの世界に来たのだなと実感させられた。
暫くして興奮気味のハリーと少し顔色悪いスネイプが戻って来た。
金庫にお金を引出しに行っただけなのに何を興奮しているのか尋ねれば金庫に行く道中がトロッコで、そのトロッコがまるでジェットコースターの様に早く激しく走るらしい。
それを聞いてサフィニアはスネイプの顔色の悪い理由を理解した。
ダーズリー家には子供が三人、奇数である。
大抵のジェットコースターは二人ずつの席が連なる為ジェットコースターに乗ろうとなるとバーノンが一人溢れた子供の為に駆り出されるのだが、ジェットコースターに乗った後のバーノンとスネイプは同じ顔色をしていた。
父親と同じく絶叫系が苦手なのだろう身内との共通点に親近感を覚えて微笑んでいればスネイプに睨まれたのでサフィニアは思わずハリーの背後に身を隠す。
「我輩に言いたい事があるのならはっきり言いたまえ」
「何でもないです」
ハリー越しにそう答えれば本日何度目かになる溜息を吐かれた。
これ以上は時間の無駄と判断したのかスネイプの追求はなく、銀行を後にすると制服が購入できるという洋装店へと案内された。
「二人は此処で制服を作ったらその後この先にあるオリバンダーの店で杖を購入、それが済んだら先程の道中で見たかと思うがフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に集合だ」
書店で暫く自由行動を許すと先程聞いた予定との違いにサフィニアが驚いていればハリーが耳打ちする。
「僕がスネイプさんにお願いしたんだ」
自宅を出てから始終不機嫌な顔のスネイプにハリーは小声で彼が苦手だと零していた。
だと言うのにサフィニアの為に書店での自由行動をスネイプに願ったハリーの行動に目を丸くしていたサフィニアは頬を緩ませると喜色を浮かべハリーに抱き着く。
「ハリー!貴方ってば本当に最高よ!」
「ちょっとサフィニア苦しいよ」
きゃあきゃあと騒いでいれば大きな咳払い。
咳払いの主はスネイプらしく彼は二人の視線が自分に向かっているのを確認すると店前で戯れている二人に迅速な行動を求めた。
「何時迄もそうしているのは一向に構わないがそうなると書店での自由行動の時間が減りますぞ」
それではハリーの頑張りは何だったのか、ハリーは慌てて洋装店に飛び込みサフィニアは制服と杖の購入に必要なお金を抜いてその残りを財布ごとスネイプに預けるとハリーの後に続いた。
店内に入るとハリーともう一人が採寸中でサフィニアはハリーとは一人挟んで反対側の場所へと勧められた。
同世代と思わしき少年はハリーに話しかけ、二人は盛り上がっている。
一体何に盛り上がっているのか気になり、サフィニアが聞き耳を立てようとした時ハリーと話していた少年は振り向きサフィニアにホグワーツの新入生か尋ねてきた。
肯定すると両親共に魔法使いだという彼は丁寧にホグワーツや魔法界について彼が知る知識を話してくれた。
合間合間に彼の自慢ともとれない話が紛れてはいたが彼の巧みな話術と話題にサフィニアもハリーもマダムの従業員の指示を聞き逃す程に彼の話に夢中になっていた。
「君のおかげでますますホグワーツに入学するのが楽しみになったよ」
ハリーは特に魔法界のスポーツ・クィディッチに興味がそそられたらしくルールやポジションの役割等詳しく尋ねていた。
サフィニアは彼の父親がホグワーツの理事をしている関係で先日学校へ書籍の寄付を行ったという話からホグワーツの、魔法学校の図書館が楽しみで仕方がない。
「君達が良ければまた入学してからでも魔法界について教えてあげるよ」
少年の言葉に二人は目を瞬かせ「つまり?」と尋ねると三人の誰でもない笑い声が聞こえた。
笑い声の主は洋装店の主であるマダムで、彼女は微笑ましそうに三人を見ると少年の言葉を要約する。
「坊やは二人にお友達になりましょうってお誘いをしてくれてるのよ」
先程の言葉の何処がそうなるのか二人には分からなかったが少年表情を見るなりにマダム要約で正解らしく彼の白い頬が少し気恥ずかしそうに紅潮していた。
そんな少年を見て納得した二人は初めての魔法界で初めての友達に喜んだ。
「勿論!喜んで!」
「これからよろしく!えっと、」
「ドラコ・マルフォイだ。ドラコと呼んでくれ」
「よろしくドラコ。私はサフィニア・ダーズリーで、彼は私と従兄弟の」
「ハリー・ポッターだよ」
ハリーが名乗るとドラコにマダム、他の洋裁店の従業員迄もが驚愕の表情をする。
「は、ハリー・ポッター?君が」
途切れた言葉の続きは言われなくても二人は察する事が出来た。
散々漏れ鍋で聞かされたのだ。
「多分、君が想像しているハリー・ポッターで合ってる」
はくはくと未だ驚愕か抜けず言葉を発せられないドラコの頬をサフィニアは手近にあった物差しで突つく。
「おーい大丈夫かいドラコ君」
「すまない取り乱したりして」
暫くしてやっと気持ちの整理がついたのかドラコは平静を取り戻した。
彼と一緒に驚いていたマダムを含む従業員は流石商売人というべきか漏れ鍋の大人達の様に騒いだり握手を求めたりという事も無く早々に気持ちを切り替え各々の業務に勤しんでいる。
「これからホグワーツに行ってもよろしく頼む」
大人達が向けて来た感情からでは無い親愛からの握手を求められハリーと、ハリーに続いてサフィニアもドラコと握手を交わした。
三人の様子を微笑ましく見ていたマダムは採寸が終わった事を告げると既に両親が迎えに来ているらしいドラコと再開の約束と挨拶をして別れ、ハリーとサフィニアは制服を自宅へ届ける手配と支払いを行なった。
洋装店を後にした二人は次の目的地であるオリバンダーの店へと向かう。
創業紀元前と書かれた扉に嘘か真か討論しつつ店の扉を潜れば杖が納められているのだろう紙箱が店の壁一面に収まっておりサフィニアもハリーも口を閉じるのも忘れて店内を見回した。
そんな二人の視界の端で動いたのは店の店主だというオリバンダー氏で、彼はハリーを見るなりこの日を心待ちにしていた事を告げる。
杖を選ぶ順番はオリバンダーとハリーがレディファーストを唱えた為サフィニアからとなった。
オリバンダーに杖腕を尋ねられ答えると今度は巻尺を手に取り肩から指先で始まり膝から脇の下、頭の周りを計られ、一本の杖を差し出される。
細かな彫りが施された杖に触る事を躊躇したサフィニアであるがオリバンダーに促されるがまま杖を手に取り振るう。
すると杖から光の玉が飛び出し暫く危なっかしげに店内を飛び回り消える。
杖の反応に是非も分からずオリバンダーの顔色を伺えば良くなかったらしく持っていた杖は取り上げられ別の杖を握らされる。
先程の細かな彫りがある杖とは違い素材の木を少し磨いただけの様な、悪く言えばそこらに落ちた木の棒の表面を滑らかにしただけの杖を渡され先程と同じく振るった。
すると視界の先の棚からポン!ポン!ポン!とリズム良く売り物であろう杖の入った紙箱が棚から外へと勢い良く呼び出す。
やはりこの杖も違うらしく取り上げられオリバンダーに「この杖ならどうでしょう」と渡されたのは杖先が指揮棒の様に細く、握る部分がいくつもの球体が重なる様に彫られた杖。
杉に一角獣の鬣の芯として使われているというその杖は木目を残しながらも全体をモスク色に整え磨かれていた。
その杖を手に取ると杖からまたしても光の玉が飛び出しサフィニアの頭上に打ち上がり弾けるとキラキラと輝く光の粒がまるでサフィニアを祝福でもするかの様に降り注ぐ。
その光景にオリバンダーは笑みを浮かべた。
「この杖は忠誠心の厚い一角獣の鬣が使われております。木材は杉、この杖に主人と認められたダーズリーさんは勿論貴女の大切な人達を守る力の助けになるでしょう」
杖は再度箱に戻されオリバンダーから受け取ったサフィニアは後方に控えていたハリーと場所を交代すると箱を一撫でして小声で「これからよろしく」と声をかけた。
するとそれに応えるかの様に杖が震えた気がする。
驚くサフィニアであるが前方から聞こえた花瓶の割れる音に顔を上げた。
どうやらハリーが振った杖の影響で花瓶が割れたらしい。
杖を振っている時は自分に合った杖が見つかるのかと不安で周りの様子に迄気が回らなかったサフィニアであるが杖が決まり落ち着いて店内を見渡せば整然と迄はいかなくも収めるもは収められた店内はサフィニアとハリーのせいで雑然としていた。
ハリーと合う杖が見つからず暫く考え込んだオリバンダーは何か思い当たるものが合ったのか店の奥に消えすぐ戻って来るとハリーに一本の杖を差し出した。
本体に柊、芯に不死鳥の尾羽根を使っているという杖をハリーが手に取ると杖を握ったハリーを中心に光り温かな空気辺りを渦巻く。
その様子にハリー本人は勿論、見ていたサフィニアもこの杖がハリーが持つべき杖だと分かった。
「ハリー!それが貴方の杖なのね」
「多分、そうだと思う!・・・オリバンダーさん?」
サフィニアはハリーに駆け寄り、これから長い学校生活を共にするであろう彼の相棒を見て喜んだ。
ハリーも無事に杖が見つかって安堵の後に笑っていたがオリバンダーの様子がおかしい。
サフィニアの時は杖が見つかり笑みを浮かべていたオリバンダーは今、困惑の表情を浮かべていた。