マグル生まれの魔法使い
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飛行訓練が何事も無く無事に終わったサフィニアに対し、ハリー達の方はと言うと問題だらけであった。
まずネビルがマダム・フーチが合図を出す前に浮かび上がりかなりの高さまで上がった所で箒から落ちてしまった。
幸いと言うべきなのか制御出来ぬまま高く上がった箒は上がりながら校舎の方へと向かって飛んでいき、ネビルが落下した際は城壁伝いに、途中でローブや制服を引っ掛けながら速度を落として落下し、最後は城の側に植えられた植木に落ちた為彼は手首の骨折程度で済んだ。
マダム・フーチに自身が戻るまで箒に触らない様に、勝手に箒に乗ったら退学と迄言われた生徒達は大人しく各々に友人達と喋りながらマダム・フーチの帰還を待った。
ハリーもロンやシェーマス、ディーンと話していたがパーバティ・パチルの上げた声に顔を上げた。
あれは何かしらと彼女が指差す先には城上部の装飾の所でキラキラと輝く何か。
目の良い生徒が光る物の正体が今朝、ネビルが持っていた思い出し玉だと言った。
そこはちょうどネビルが箒から落ちて際に制服を引っ掛けた場所の一つで、きっとその時にポケットから落ちて引っかかったのだろう。
祖母からの贈り物に喜んでいたネビルを知るグリフィンドール生達がマダム・フーチが戻って来たら真っ先にネビルの思い出し玉を取ってもらおうと話していた時、突風が吹いた。
誰ともなく上げた声で何とか引っかかり留まっていた思い出し玉がそこから落ちるのに気が付いたハリーは次の瞬間には地面に置いていた箒を掴んでいた。
ハーマイオニーが箒に跨るハリーを止めに入ったが、ネビルの大切な思い出し玉で頭がいっぱいのハリーに彼女の声は届かない。
跨るなり箒に初めて乗るとは思えない猛スピードで思い出し玉めがけて飛ぶハリー。
ハリーは地面すれすれで落ちてきた思いだし玉を難なく受け止めたが目の前に城壁が迫る。
数人の女子生徒が叫び声を上げて目を覆った。
城壁ぶつかる一歩手前でハリー箒の柄を掴み持ち上げると彼の跨る箒は城壁に沿う様に上昇する。
その際に誰かと目が合った様な気がしたハリーであるがあまり気にも留めずそのまま宙で進路を変えて皆がいる場所へと戻った。
見事思いだし玉を受け止めたハリーにロンを筆頭としたグリフィンドールの生徒達が集まる。
皆が口々にハリーの飛行技術を褒める中ディーンがハリーの持つ思い出し玉を指差す。
「なあ、ハリー。思い出し玉が赤くなってる」
「あれ、本当だ」
何でだろうと頭を傾げたハリーは思い出し玉が赤くなる理由を思い出していると「ハリー・ポッター!」と厳しい声で呼ばれた。
呼ばれたハリーも周りのグリフィンドール生も、遠巻きに見ていたスリザリン生もその声に反応して声のする方へと顔を向けると城からマグゴナガルが走って来るのが見える。
その声にハリーは箒に跨り城壁すれすれに上昇していた際に窓際に立つマグゴナガルと目があった事を思い出す。
初めて乗った箒の楽しさにマグゴナガルと目が合った事もすっかり忘れていたハリーは自身が握った思い出し玉が赤くなったのはその事を忘れていた所為なのだと理解する。
いつになく険しい顔のマグゴナガルはハリーの前に立つと「先程飛んでいたのは貴方ですね」と尋ねた。
小さく頷くハリーに代わりパーバティがハリーが箒で飛んだ経緯を話し弁明を心見るのだがますますマグゴナガルの表情は険しくなる。
「上手く言ったから良かったものを、最悪城壁に全身を打ち付けて骨折していたかもしれないのですよ」
「でも、先生。ハリーは・・・」
口を挟んだパーバティにマグゴナガルは黙る様に言い放つ。
友人であるハリーを救おうとロンはハリーの行動の正当性をマグゴナガルに訴えかけるが聞く耳を持ってもらえずくどいとひと蹴りされた。
大股で歩くマグゴナガルに連れられて城へと消えるハリー。
二人と入れ替わる様にグラウンドに戻って来たマダム・フーチの一声で飛行訓練の授業は再開したがハリーは結局授業に戻って来なかった。
という話をドラコから大広間の前で聞いたサフィニアは口元を手で押さえた。
まさかハリーが退学になんてならないよねと、サフィニアはドラコに尋ねるがドラコは弱く首を振り分からないと答える。
サフィニアとドラコがこんな大広間の前で喋っているかというと数分前迄遡る。
例の如く図書館に一度寄ったサフィニアは今日の夕食は何が出るのか呑気に考えながら廊下を歩いていた。
生徒達が続々と大広間に入っていく中廊下の壁に凭れて腕を組み、物思いに耽たドラコを見つけたサフィニアは彼に声を掛けた。
顔を上げてサフィニアの顔を見るなり眉を八の字に下げたドラコに何かあったのか尋ねればマダム・フーチが不在の間に箒に乗ってマグゴナガルに連行されたハリーの話を聞かされて授業どころかもう夕食だというのに未だ戻って来ないハリーをサフィニアとドラコは廊下で待つことにした。
万が一にハリーへ退学処分が下されてもそんなすぐに学校を出て行けとは言わないだろうというサフィニアの考えである。
殆どの生徒が夕食を摂るため大広間に収まった頃やっとハリーは廊下で待つサフィニアとドラコの前に現れた。
二人の姿を目視するなり駆け足で駆け寄りこんな所でどうしたのかと呑気に尋ねるハリーに聞きたい事が山程ある二人は勢いよくハリーの肩を掴む。
「ハリー!先生は何て判断されたの?!まさか退学なんて事は無いわよね」
「安心しろハリー。僕の父上はホグワーツの理事をしている。退学なんて父上に頼んで何としても撤回させてやる」
「え、退学?あ、あー!」
サフィニアとドラコの勢いにハリーは始め、何が何だか分からない様子であったが次第に二人の口から出て来る退学の言葉に察したハリーは声を上げた。
たかがちょっと言いつけを破っただけで退学なんて不当だと憤るサフィニアとドラコをハリーは笑って宥める。
「大丈夫。僕は退学されないから。だって僕」
「おっとハリーそれ以上は秘密だ。彼と彼女がハリーとどういう関係か知らないが二人は他寮生だ」
ハリーの言葉を遮り現れたのは逞しい体躯の上級生で、その見知らぬ顔にサフィニアもドラコも頭を傾げた。
その上級生はハリーに明日の夜にまた会おうとだけ言い残すと大広間へと消える。
上級生が完全に大広間に入るのを確認するとすぐさまサフィニアとドラコはハリーへと向き直り説明を求めた。
「ウッドから秘密にする様に言われてるんだけどサフィニアは家族だし、ドラコは友達だから教えるね」
声を潜めたハリーはマグゴナガルと共にグラウンドから離れた後の事を二人に話す。
マグゴナガルに連れられた先でグリフィンドールのクィディッチチームでキャプテンを務めるウッドを紹介された事、飛行訓練での一幕で見せた飛行術が見初められ最年少シーカーに選ばれた事。
サフィニアは喜んだ。
ハリーがシーカーに選ばれた事は喜ばしいがそれ以上にハリーが退学しなくていい事実にサフィニアは思わずハリーへと抱きつく。
「良かった。ハリーが退学にならなくて」
「心配かけてごめんね」
「良いのよ心配ぐらい。ハリーが退学にならないならそれでいいの」
サフィニアに抱き締め返したハリーは抱きつくのを止めるとドラコの方へと向き直り、彼にも心配をかけた事を謝罪する。
「僕もサフィニアと同じ気持ちだ。大事にならなくて本当に良かった」
ハリーとドラコが向き合って笑っていると辺りに腹の虫の音が響いた。
その音に虚を突かれたハリーとドラコはお互いに先程の音は君かと問うがどちらも否と答える。
となると腹の虫の音の主は一人しかなく、二人がサフィニア方へ顔を向けるとお腹を押さえるサフィニアが顔を真っ赤にして俯いていた。
「ごめん。私、今日は凄くお腹が空いてて」
サフィニアが素直に白状するとまた誰ともなくお腹の虫がひもじさに鳴く。
「僕も、飛行訓練の所為かな?」
「そういえば僕もだ」
ハリーに続いてドラコも空腹を訴えると取り敢えず三人は夕食を摂ろうという話になった。
大広間に入ればハリーの姿に気がついたロンが手を振り上げて手招く。
ハリーは嬉々と同僚生の待つテーブルへと駆けた。
サフィニアは別れるドラコに挨拶をしようと口を開きかけたが憂いを帯びた表情のドラコに口を閉じる。
どうかしたのかと、視線に気付いたドラコに尋ねられてサフィニアは首を横に振るう。
そんなサフィニアをおかしなものを見る目で見たドラコの表情は憂いた顔でなく何時もの表情で、自分の見間違いがいだろうと結論付けたサフィニアはスリザリンのテーブルに向かうドラコと別れた。
いつかはこんな日が来るだろうとサフィニアもハリーも思っていた。
睨み合うドラコとロン。
事の始まりはクィディッチの練習上がりのハリーと練習を見学していたロン、廊下で次回の魔法薬学の自習で何を作るか相談していたサフィニアとドラコが遭遇した事である。
始めはロンもドラコも互いを見ずにであるが何事もなく会話は進んでいた。
入学当初こそ顔を合わせば毎度飽きずに口喧嘩をしていたロンとドラコであるが入学から一ヶ月も経つと互いの存在を無視する事で口喧嘩を回避する術を身につけたらしく和やかは程遠くも平和であった。
しかしクィディッチの練習上がりであるハリーを見つけたフリットウィックが激励の言葉をかけた事でその平和は崩れ去る。
始めはフリットウィックとの会話の延長で四人の話題は箒の話に、そこからロンがハリーが箒の最新型であるニンバス2000を貰った事を暴露し、ドラコはハリーの箒を自慢するロンに対して彼の家族ごと詰った。
それに怒ったロンと冷静に返すドラコの言葉応酬にサフィニアもハリーもなかなか口を挟めず、そうこうしているとロンは分かった様な顔をしてドラコに言い放つ。
「君はハリーが最年少シーカー選ばれて羨ましいんだろう」
ドラコはすぐに否定をしたがその時には彼は冷静さを失っていた。
そして頭に血が上った二人の口喧嘩は苛烈に苛烈を極めてその時には宥めに入っていたサフィニアとハリーの頑張りは甲斐無く、今夜にでも決闘をと二人は言った。
「使うのは杖だけ。相手には一切触れない魔法使いの決闘だ」
「僕の介添人はハリー。君は誰を介添人にする?何時も一緒にいるウスノロの二人のどちらか」
「待って、ロン。介添人って何?僕まだ説明をされてないし同意もしてないよ」
ハリーは勝手に二人の決闘に巻き込まれたので慌てて待ったをかけるがロンもドラコも待つどころかハリーの言葉を聞いてもいない。
ドラコは自身の介添人としてこの場にいないクラッブを指名すると決闘の場所はトロフィー室、時間は真夜中と決めた。
決闘の詳細が決まると互い顔も見たくないのか顔を背けて鼻息荒く各々に歩いて行くロンとドラコ。
その場に残されたサフィニアとハリーはどうしたものかと頭を悩ませる。
「真夜中にトロフィー室何てフィルチや先生に見つかったら大変だよ」
「私は何とかドラコを説得して決闘を止める様に言うからハリーはロンを説得してくれる?」
「任せて!と言いたい所だけどあそこ迄ロンが怒ると僕の言う事を聞いてくれるかどうか」
「私もドラコがあそこ迄怒った所は見た事ないから正直説得出来る自信がないわ」
深々と溜息を吐いたサフィニアとハリーはお互いを労わる様に肩を叩く。
そしてサフィニアはドラコの説得が出来たら手紙を送ると約束してサフィニアとハリーは寮に戻る為別れた。
ハリーと別れたサフィニアは寮に戻ったドラコとどう接触しようか悩みながらゆっくりと階段を一段ずつ降った。
スリザリン寮に戻ってしまっては他寮生であるサフィニアが中に入れる筈も無く、就寝時間が迫ったこの時辺りにスリザリン生は見当たらない。
これではスリザリン寮に戻る生徒にドラコを呼ぶ事を頼む事も出来ずサフィニアは困り果てた。
「どうして君がこんな時間に廊下を彷徨いているんだ」
サフィニアが最終手段として考えたのはドラコを待ち伏せする事であった。
パジャマにガウンを羽織り、杖を手にスリザリン寮から出て来たドラコは物陰から伸びた手により薄暗い闇に引き込まれた。
軽く抵抗すれば掴まれた右手は離されて相手の唱えた呪文で物陰は仄かに明るくなる。
灯の中に現れたサフィニア顔にドラコは驚き、そして安心もする。
ドラコが歩いていた廊下は魔法薬学の教室にも通じる為、物陰に引き込まれた際にはその教室の主でありスリザリンの寮監スネイプかと動揺していた。
物陰に引き込んで来たサフィニアにドラコは何の用かとは尋ね無かった。
規則を破ってまでここにいるサフィニアにドラコは決闘を止めない意志を伝える。
「どうしたのドラコ?今日の貴方は変だわ。ううん、今日だけじゃないこの前からずっと変」
サフィニア近頃感じていた違和感を吐露した。
始めにおかしいと思ったのはドラコにハリーのクィディッチの練習を見に行こうと誘った時である。
ドラコがクィディッチが好きと言うのは知っていたのできっと誘いに乗るだろうと思い誘った所断られてしまった。
それから何度か誘ったが何かと用事があると言われて断られている。
そして時折ドラコがハリー向ける苦しげな視線。
会話の際はいつも通りなのにふとした瞬間にドラコはハリーを苦しげに見つめていた。
「もしかしてドラコにハリーが何かしてしまったの」
「違う!ハリーは何も悪くない!僕が、僕が勝手に・・・」
背中を丸め、自身の胸元を掴み苦しげに訴えるドラコにサフィニアは手を伸ばす。
丸まった事で背骨が浮いたドラコの背中をサフィニアは優しく撫でた。
ドラコは背中を撫でるサフィニアの手を止めるでもなく暫く無言でおりその後ぽつりぽつりとサフィニアが言うドラコがおかしな訳を話し出す。
飛行訓練でハリーが見せた飛行術が凄かった事。
本当ならば認められないクィディッチの選手に選ばれて羨ましかった事。
確かに飛行術は先生も唸らせる程見事であったがハリーはマグル育ちで授業が始まるまで空飛ぶ箒にも触った事が無かったのに、そんなハリーがクィディッチの花形であるシーカーに選ばれて悔しかった事。
「ロンの売り言葉はあながち間違いじゃ無かったのね」
ドラコに聞こえない程小さな声で漏らしたサフィニア。
やはりドラコとしても夕方にロンの言った言葉は図星だったらしくそこで動揺して相手に察せられない為に魔法使いの決闘を打ち出したと言う。
「友人の活躍も心から応援出来ないこんな僕にサフィニアも失望しただろう」
俯いていた顔を上げたドラコは自嘲めいた笑みを浮かべていた。
ドラコにの問いに頭を傾げ、口元に手を添えて唸って見せるサフィニア。
「私は相手を羨ましがるのは普通の事だと思うけどな。羨ましい感情が嫉しさに変わって相手に害なすならそれは友人としてどうかと思うけど今のドラコは羨ましいと思ってるだけでその感情すら恥じている」
そんなドラコには失望しないと笑って答えたサフィニアにドラコの灰色の瞳が潤んで見えた。
またしても俯いてしまったドラコの手をサフィニアは握る。
「ねえ、ドラコ。1年生でクィディッチの選手が無理でも2年生になったら選抜があるでしょ?」
「ああ」
「だったらそれまでに沢山練習をしてスリザリンのシーカーになりましょうよ」
「君は簡単言ってくれるがシーカーはクィディッチのポジションの中でもかなり人気があるんだぞ」
競争率が他のポジションの比ではないと言うドラコにサフィニアは間髪入れずドラコなら大丈夫だと答えた。
「その根拠は?」
「ヘリコプターを躱す事の出来る貴方ならシーカーになれるわ」
いつかサフィニアとハリーにしていた自慢話を引き合いに出されたドラコは顔を上げた。
先程の苦しげな表情ではなく何時もの自信に満ち溢れた表情をしており、そんなドラコの表情にサフィニアも浮かべていた笑みを深める。
サフィニアに鼓舞されてやる気が出たらしいドラコは握りられていた手を握り返し、何度かサフィニアを見るととても言いにくそうに口を開く。
「あー・・・君に頼みがあるのだが」
「どうぞ、言って」
検討する間も無く続きを促されたドラコはもごもごと口を動かす。
あまりに小さな声にサフィニアは聞こえないと訴えれば観念したドラコはたまにで
良いから箒の練習に付き合ってほしいと言った。
「何だそんな事なら喜んで。あ、でも私そんなに箒で飛ぶの上手く無いから」
「僕の練習を見てくれてるだけでもいい」
なら、大丈夫だとサフィニアは応える。
早速練習はいつから始めるのかドラコと話し、決めたサフィニアは漸く今夜の決闘について話を切り出す。
「それで今夜の決闘何だけど」
「僕も勢いで決闘を持ち出したがよく考えれば今の僕達じゃまともな決闘にはならないだろう」
あっさり決闘を止めると言い切ったドラコにサフィニアは待ってましたと言わんばかりにポケットからドラコがトロフィー室に行かない旨を書いた青いメモを取り出すと同じくポケットに入れていた杖で魔法を掛けた。
青いメモはみるみる内に一枚の紙から鳥に姿を変えて飛んで行く。
「そういえばドラコの介添人は?」
ロンがハリーを介添人にした様にドラコもクラッブを介添人にしていた筈なのだがサフィニアは今更ながらクラッブがいない事に気が付いた。
まさかクラッブだけ先にトロフィー室にと焦るサフィニアにドラコは指で頬を掻きながらとても言いにくそうにクラッブのいない訳を説明した。
「クラッブに決闘の介添人になってもらう了承は貰ったんだが、あいつ就寝時間になったらすぐに寝てしまって」
介添人がいなくては格好が付かないとドラコが懸命にクラッブを起こそうと頑張った。
しかしクラッブはドラコがあの手この手を使っても目を覚ます事は無く、ドラコが諦め付いた頃には他のルームメイトも眠りについていた。
これ以上寮にいては約束の時間に間に合わないとドラコは介添人を諦めるしか無かった。
「介添人のいない僕を見たらウィーズリーの奴に何て言われていたか」
「馬鹿にされるのは必須でしょうね」
二人の脳内に介添人を連れずに一人で現れたドラコに指を指して大笑いするロンの顔が浮かぶ。
決闘が無くなって本当に良かったとしみじみ言うドラコにサフィニアは同意した。
さて、夜はもう遅いからと解散したサフィニアとドラコであるが、ロンとハリーはと言うと決闘の話を聞きつけそれを止めようとしたハーマイオニーと合言葉を忘れた為に廊下で丸まっていたネビルも加えた大所帯で真夜中の廊下を恐々と移動していた。
サフィニアはグリフィンドールの寮はトロフィー室に近い事から出発はギリギリで自分が送った決闘の中止伝えるメモは間に合うだろうと考えていたが、巡回している先生やフィルチの事を考えて早く出ようと言うロンの意見でサフィニアの想像以上に出発は早かった。
サフィニアの送ったメモがハリーの元に着いた頃にはロン達御一行はトロフィー室に到着しており、ネビルが以前サフィニアが話していたメモ用紙で出来た鳥の説明を忘れていた事が騒ぎの始まりだった。
ハリー宛のふわふわ飛んでいた青い紙の鳥をネビルは何を思ったのか掴むと、その瞬間に鳥の頭と思われる部分から勢いよくインクがネビルの顔に向けて噴出される。
それに驚いたネビルが大声で悲鳴を上げて、それが近くの廊下を巡回していたフィルチの耳に届き慌てて四人は逃げる事になった。
隠れるのに入った教室ではピーブスと遭遇し、何とか穏便に済まそうとした一同であるがピーブスの態度に苛ついたロンの言葉によってピーブスに嬉々と居場所をバラされてしまう。
そしてその教室からも逃げ出し、ハリー達が飛び込んだ部屋には大きな頭を三つ持つ犬がいた。
「ホグワーツにはケルベロスがいるのね」
「ケル、何だって?」
昨晩の冒険の話を朝食の席でハリーから聞いていたサフィニアは驚きのあまりに掬っていたベーコンをお皿の上に落としていた。
サフィニアの口から出た聞き慣れない名称にハリーが説明を求めるとサフィニアは簡潔に説明をし始める。
「ケルベロス。ギリシャ神話に出てくる冥府の番犬よ。頭が三つある以外にも竜の羽を持ってたり鬣があったり話によって特徴は色々あるけどだいたい共通しているのは頭が三つある事。確か神話では竪琴を使うと眠ってしまうんだったかな」
ちょっと見て見たいと言うサフィニアにハリーは流石に彼女が正気なのか疑った。
「止めた方が良いよ。あれは確かに頭が三つもあって黒くて大きな犬だったけど涎は臭いし何より凶暴だ」
「もう、私は別に黒くて大きな犬だから興味があるんじゃなくて神話に出てくる生物だから興味があるだけよ」
大きくて黒ければどんな犬でも良いわけじゃないとサフィニアは否定するがハリーはあまり信じてくれなかった。
食事を進めていたサフィニアはハリー達の見たと言う大きな三頭犬について考える。
立ち入り禁止の教室とは言え校内で生徒に牙を向く生き物を飼うのはどういう事なのか。
隣に座るハリーに腕を突かれたサフィニアは何か尋ねると無言でハリーはサフィニアの取り皿を指差す。
サフィニアは考え事をしながら茹でたじゃがいもをフォーク潰していたらしくそれは見事なマッシュポテトになっていた。
「どうしたの?考え事?」
「うん、どうして校内に三頭犬なんかを飼ってるのかな何て思って」
ハリーはそこまで聞くと辺りを見回し、皆が朝食夢中になっているのを確認するとサフィニア耳元迄顔を持って行き小声で耳打ちをした。
「ハーマイオニーが言うには三頭犬の下に扉があって、あの犬はその扉を守ってるんだって」
そんな話をハリーから聞いた後、サフィニアはハーマイオニーと会う機会がありその時に四階の禁じられた廊下での事を尋ねた。
どうやらそれは藪蛇だったらしくハーマイオニーはその話に触れるといくつも校則を破った事について嘆き、主にロンについての小言を漏らす。
マルフォイとの決闘騒動は勿論、授業中の態度、そして一番ハーマイオニーが気にしているのは
「それで彼ったら折角私が間違っている箇所を説明してあげてるのに煩わしそうな顔をして!」
信じられないとその時の事を思い出し怒りを再熱させたハーマイオニーをサフィニアは宥める。
最近のロンとの諍いをハイライトで聞かされていたサフィニアは三頭犬の事について尋ねた筈なのに話題がかなり逸れている事に気付く。
が、だからと言って今更話題を変える事も出来ず、ロンに対する愚痴止めないハーマイオニーにサフィニアは彼女とロンが直接衝突しない事をひっそりと心の中で願った。
まずネビルがマダム・フーチが合図を出す前に浮かび上がりかなりの高さまで上がった所で箒から落ちてしまった。
幸いと言うべきなのか制御出来ぬまま高く上がった箒は上がりながら校舎の方へと向かって飛んでいき、ネビルが落下した際は城壁伝いに、途中でローブや制服を引っ掛けながら速度を落として落下し、最後は城の側に植えられた植木に落ちた為彼は手首の骨折程度で済んだ。
マダム・フーチに自身が戻るまで箒に触らない様に、勝手に箒に乗ったら退学と迄言われた生徒達は大人しく各々に友人達と喋りながらマダム・フーチの帰還を待った。
ハリーもロンやシェーマス、ディーンと話していたがパーバティ・パチルの上げた声に顔を上げた。
あれは何かしらと彼女が指差す先には城上部の装飾の所でキラキラと輝く何か。
目の良い生徒が光る物の正体が今朝、ネビルが持っていた思い出し玉だと言った。
そこはちょうどネビルが箒から落ちて際に制服を引っ掛けた場所の一つで、きっとその時にポケットから落ちて引っかかったのだろう。
祖母からの贈り物に喜んでいたネビルを知るグリフィンドール生達がマダム・フーチが戻って来たら真っ先にネビルの思い出し玉を取ってもらおうと話していた時、突風が吹いた。
誰ともなく上げた声で何とか引っかかり留まっていた思い出し玉がそこから落ちるのに気が付いたハリーは次の瞬間には地面に置いていた箒を掴んでいた。
ハーマイオニーが箒に跨るハリーを止めに入ったが、ネビルの大切な思い出し玉で頭がいっぱいのハリーに彼女の声は届かない。
跨るなり箒に初めて乗るとは思えない猛スピードで思い出し玉めがけて飛ぶハリー。
ハリーは地面すれすれで落ちてきた思いだし玉を難なく受け止めたが目の前に城壁が迫る。
数人の女子生徒が叫び声を上げて目を覆った。
城壁ぶつかる一歩手前でハリー箒の柄を掴み持ち上げると彼の跨る箒は城壁に沿う様に上昇する。
その際に誰かと目が合った様な気がしたハリーであるがあまり気にも留めずそのまま宙で進路を変えて皆がいる場所へと戻った。
見事思いだし玉を受け止めたハリーにロンを筆頭としたグリフィンドールの生徒達が集まる。
皆が口々にハリーの飛行技術を褒める中ディーンがハリーの持つ思い出し玉を指差す。
「なあ、ハリー。思い出し玉が赤くなってる」
「あれ、本当だ」
何でだろうと頭を傾げたハリーは思い出し玉が赤くなる理由を思い出していると「ハリー・ポッター!」と厳しい声で呼ばれた。
呼ばれたハリーも周りのグリフィンドール生も、遠巻きに見ていたスリザリン生もその声に反応して声のする方へと顔を向けると城からマグゴナガルが走って来るのが見える。
その声にハリーは箒に跨り城壁すれすれに上昇していた際に窓際に立つマグゴナガルと目があった事を思い出す。
初めて乗った箒の楽しさにマグゴナガルと目が合った事もすっかり忘れていたハリーは自身が握った思い出し玉が赤くなったのはその事を忘れていた所為なのだと理解する。
いつになく険しい顔のマグゴナガルはハリーの前に立つと「先程飛んでいたのは貴方ですね」と尋ねた。
小さく頷くハリーに代わりパーバティがハリーが箒で飛んだ経緯を話し弁明を心見るのだがますますマグゴナガルの表情は険しくなる。
「上手く言ったから良かったものを、最悪城壁に全身を打ち付けて骨折していたかもしれないのですよ」
「でも、先生。ハリーは・・・」
口を挟んだパーバティにマグゴナガルは黙る様に言い放つ。
友人であるハリーを救おうとロンはハリーの行動の正当性をマグゴナガルに訴えかけるが聞く耳を持ってもらえずくどいとひと蹴りされた。
大股で歩くマグゴナガルに連れられて城へと消えるハリー。
二人と入れ替わる様にグラウンドに戻って来たマダム・フーチの一声で飛行訓練の授業は再開したがハリーは結局授業に戻って来なかった。
という話をドラコから大広間の前で聞いたサフィニアは口元を手で押さえた。
まさかハリーが退学になんてならないよねと、サフィニアはドラコに尋ねるがドラコは弱く首を振り分からないと答える。
サフィニアとドラコがこんな大広間の前で喋っているかというと数分前迄遡る。
例の如く図書館に一度寄ったサフィニアは今日の夕食は何が出るのか呑気に考えながら廊下を歩いていた。
生徒達が続々と大広間に入っていく中廊下の壁に凭れて腕を組み、物思いに耽たドラコを見つけたサフィニアは彼に声を掛けた。
顔を上げてサフィニアの顔を見るなり眉を八の字に下げたドラコに何かあったのか尋ねればマダム・フーチが不在の間に箒に乗ってマグゴナガルに連行されたハリーの話を聞かされて授業どころかもう夕食だというのに未だ戻って来ないハリーをサフィニアとドラコは廊下で待つことにした。
万が一にハリーへ退学処分が下されてもそんなすぐに学校を出て行けとは言わないだろうというサフィニアの考えである。
殆どの生徒が夕食を摂るため大広間に収まった頃やっとハリーは廊下で待つサフィニアとドラコの前に現れた。
二人の姿を目視するなり駆け足で駆け寄りこんな所でどうしたのかと呑気に尋ねるハリーに聞きたい事が山程ある二人は勢いよくハリーの肩を掴む。
「ハリー!先生は何て判断されたの?!まさか退学なんて事は無いわよね」
「安心しろハリー。僕の父上はホグワーツの理事をしている。退学なんて父上に頼んで何としても撤回させてやる」
「え、退学?あ、あー!」
サフィニアとドラコの勢いにハリーは始め、何が何だか分からない様子であったが次第に二人の口から出て来る退学の言葉に察したハリーは声を上げた。
たかがちょっと言いつけを破っただけで退学なんて不当だと憤るサフィニアとドラコをハリーは笑って宥める。
「大丈夫。僕は退学されないから。だって僕」
「おっとハリーそれ以上は秘密だ。彼と彼女がハリーとどういう関係か知らないが二人は他寮生だ」
ハリーの言葉を遮り現れたのは逞しい体躯の上級生で、その見知らぬ顔にサフィニアもドラコも頭を傾げた。
その上級生はハリーに明日の夜にまた会おうとだけ言い残すと大広間へと消える。
上級生が完全に大広間に入るのを確認するとすぐさまサフィニアとドラコはハリーへと向き直り説明を求めた。
「ウッドから秘密にする様に言われてるんだけどサフィニアは家族だし、ドラコは友達だから教えるね」
声を潜めたハリーはマグゴナガルと共にグラウンドから離れた後の事を二人に話す。
マグゴナガルに連れられた先でグリフィンドールのクィディッチチームでキャプテンを務めるウッドを紹介された事、飛行訓練での一幕で見せた飛行術が見初められ最年少シーカーに選ばれた事。
サフィニアは喜んだ。
ハリーがシーカーに選ばれた事は喜ばしいがそれ以上にハリーが退学しなくていい事実にサフィニアは思わずハリーへと抱きつく。
「良かった。ハリーが退学にならなくて」
「心配かけてごめんね」
「良いのよ心配ぐらい。ハリーが退学にならないならそれでいいの」
サフィニアに抱き締め返したハリーは抱きつくのを止めるとドラコの方へと向き直り、彼にも心配をかけた事を謝罪する。
「僕もサフィニアと同じ気持ちだ。大事にならなくて本当に良かった」
ハリーとドラコが向き合って笑っていると辺りに腹の虫の音が響いた。
その音に虚を突かれたハリーとドラコはお互いに先程の音は君かと問うがどちらも否と答える。
となると腹の虫の音の主は一人しかなく、二人がサフィニア方へ顔を向けるとお腹を押さえるサフィニアが顔を真っ赤にして俯いていた。
「ごめん。私、今日は凄くお腹が空いてて」
サフィニアが素直に白状するとまた誰ともなくお腹の虫がひもじさに鳴く。
「僕も、飛行訓練の所為かな?」
「そういえば僕もだ」
ハリーに続いてドラコも空腹を訴えると取り敢えず三人は夕食を摂ろうという話になった。
大広間に入ればハリーの姿に気がついたロンが手を振り上げて手招く。
ハリーは嬉々と同僚生の待つテーブルへと駆けた。
サフィニアは別れるドラコに挨拶をしようと口を開きかけたが憂いを帯びた表情のドラコに口を閉じる。
どうかしたのかと、視線に気付いたドラコに尋ねられてサフィニアは首を横に振るう。
そんなサフィニアをおかしなものを見る目で見たドラコの表情は憂いた顔でなく何時もの表情で、自分の見間違いがいだろうと結論付けたサフィニアはスリザリンのテーブルに向かうドラコと別れた。
いつかはこんな日が来るだろうとサフィニアもハリーも思っていた。
睨み合うドラコとロン。
事の始まりはクィディッチの練習上がりのハリーと練習を見学していたロン、廊下で次回の魔法薬学の自習で何を作るか相談していたサフィニアとドラコが遭遇した事である。
始めはロンもドラコも互いを見ずにであるが何事もなく会話は進んでいた。
入学当初こそ顔を合わせば毎度飽きずに口喧嘩をしていたロンとドラコであるが入学から一ヶ月も経つと互いの存在を無視する事で口喧嘩を回避する術を身につけたらしく和やかは程遠くも平和であった。
しかしクィディッチの練習上がりであるハリーを見つけたフリットウィックが激励の言葉をかけた事でその平和は崩れ去る。
始めはフリットウィックとの会話の延長で四人の話題は箒の話に、そこからロンがハリーが箒の最新型であるニンバス2000を貰った事を暴露し、ドラコはハリーの箒を自慢するロンに対して彼の家族ごと詰った。
それに怒ったロンと冷静に返すドラコの言葉応酬にサフィニアもハリーもなかなか口を挟めず、そうこうしているとロンは分かった様な顔をしてドラコに言い放つ。
「君はハリーが最年少シーカー選ばれて羨ましいんだろう」
ドラコはすぐに否定をしたがその時には彼は冷静さを失っていた。
そして頭に血が上った二人の口喧嘩は苛烈に苛烈を極めてその時には宥めに入っていたサフィニアとハリーの頑張りは甲斐無く、今夜にでも決闘をと二人は言った。
「使うのは杖だけ。相手には一切触れない魔法使いの決闘だ」
「僕の介添人はハリー。君は誰を介添人にする?何時も一緒にいるウスノロの二人のどちらか」
「待って、ロン。介添人って何?僕まだ説明をされてないし同意もしてないよ」
ハリーは勝手に二人の決闘に巻き込まれたので慌てて待ったをかけるがロンもドラコも待つどころかハリーの言葉を聞いてもいない。
ドラコは自身の介添人としてこの場にいないクラッブを指名すると決闘の場所はトロフィー室、時間は真夜中と決めた。
決闘の詳細が決まると互い顔も見たくないのか顔を背けて鼻息荒く各々に歩いて行くロンとドラコ。
その場に残されたサフィニアとハリーはどうしたものかと頭を悩ませる。
「真夜中にトロフィー室何てフィルチや先生に見つかったら大変だよ」
「私は何とかドラコを説得して決闘を止める様に言うからハリーはロンを説得してくれる?」
「任せて!と言いたい所だけどあそこ迄ロンが怒ると僕の言う事を聞いてくれるかどうか」
「私もドラコがあそこ迄怒った所は見た事ないから正直説得出来る自信がないわ」
深々と溜息を吐いたサフィニアとハリーはお互いを労わる様に肩を叩く。
そしてサフィニアはドラコの説得が出来たら手紙を送ると約束してサフィニアとハリーは寮に戻る為別れた。
ハリーと別れたサフィニアは寮に戻ったドラコとどう接触しようか悩みながらゆっくりと階段を一段ずつ降った。
スリザリン寮に戻ってしまっては他寮生であるサフィニアが中に入れる筈も無く、就寝時間が迫ったこの時辺りにスリザリン生は見当たらない。
これではスリザリン寮に戻る生徒にドラコを呼ぶ事を頼む事も出来ずサフィニアは困り果てた。
「どうして君がこんな時間に廊下を彷徨いているんだ」
サフィニアが最終手段として考えたのはドラコを待ち伏せする事であった。
パジャマにガウンを羽織り、杖を手にスリザリン寮から出て来たドラコは物陰から伸びた手により薄暗い闇に引き込まれた。
軽く抵抗すれば掴まれた右手は離されて相手の唱えた呪文で物陰は仄かに明るくなる。
灯の中に現れたサフィニア顔にドラコは驚き、そして安心もする。
ドラコが歩いていた廊下は魔法薬学の教室にも通じる為、物陰に引き込まれた際にはその教室の主でありスリザリンの寮監スネイプかと動揺していた。
物陰に引き込んで来たサフィニアにドラコは何の用かとは尋ね無かった。
規則を破ってまでここにいるサフィニアにドラコは決闘を止めない意志を伝える。
「どうしたのドラコ?今日の貴方は変だわ。ううん、今日だけじゃないこの前からずっと変」
サフィニア近頃感じていた違和感を吐露した。
始めにおかしいと思ったのはドラコにハリーのクィディッチの練習を見に行こうと誘った時である。
ドラコがクィディッチが好きと言うのは知っていたのできっと誘いに乗るだろうと思い誘った所断られてしまった。
それから何度か誘ったが何かと用事があると言われて断られている。
そして時折ドラコがハリー向ける苦しげな視線。
会話の際はいつも通りなのにふとした瞬間にドラコはハリーを苦しげに見つめていた。
「もしかしてドラコにハリーが何かしてしまったの」
「違う!ハリーは何も悪くない!僕が、僕が勝手に・・・」
背中を丸め、自身の胸元を掴み苦しげに訴えるドラコにサフィニアは手を伸ばす。
丸まった事で背骨が浮いたドラコの背中をサフィニアは優しく撫でた。
ドラコは背中を撫でるサフィニアの手を止めるでもなく暫く無言でおりその後ぽつりぽつりとサフィニアが言うドラコがおかしな訳を話し出す。
飛行訓練でハリーが見せた飛行術が凄かった事。
本当ならば認められないクィディッチの選手に選ばれて羨ましかった事。
確かに飛行術は先生も唸らせる程見事であったがハリーはマグル育ちで授業が始まるまで空飛ぶ箒にも触った事が無かったのに、そんなハリーがクィディッチの花形であるシーカーに選ばれて悔しかった事。
「ロンの売り言葉はあながち間違いじゃ無かったのね」
ドラコに聞こえない程小さな声で漏らしたサフィニア。
やはりドラコとしても夕方にロンの言った言葉は図星だったらしくそこで動揺して相手に察せられない為に魔法使いの決闘を打ち出したと言う。
「友人の活躍も心から応援出来ないこんな僕にサフィニアも失望しただろう」
俯いていた顔を上げたドラコは自嘲めいた笑みを浮かべていた。
ドラコにの問いに頭を傾げ、口元に手を添えて唸って見せるサフィニア。
「私は相手を羨ましがるのは普通の事だと思うけどな。羨ましい感情が嫉しさに変わって相手に害なすならそれは友人としてどうかと思うけど今のドラコは羨ましいと思ってるだけでその感情すら恥じている」
そんなドラコには失望しないと笑って答えたサフィニアにドラコの灰色の瞳が潤んで見えた。
またしても俯いてしまったドラコの手をサフィニアは握る。
「ねえ、ドラコ。1年生でクィディッチの選手が無理でも2年生になったら選抜があるでしょ?」
「ああ」
「だったらそれまでに沢山練習をしてスリザリンのシーカーになりましょうよ」
「君は簡単言ってくれるがシーカーはクィディッチのポジションの中でもかなり人気があるんだぞ」
競争率が他のポジションの比ではないと言うドラコにサフィニアは間髪入れずドラコなら大丈夫だと答えた。
「その根拠は?」
「ヘリコプターを躱す事の出来る貴方ならシーカーになれるわ」
いつかサフィニアとハリーにしていた自慢話を引き合いに出されたドラコは顔を上げた。
先程の苦しげな表情ではなく何時もの自信に満ち溢れた表情をしており、そんなドラコの表情にサフィニアも浮かべていた笑みを深める。
サフィニアに鼓舞されてやる気が出たらしいドラコは握りられていた手を握り返し、何度かサフィニアを見るととても言いにくそうに口を開く。
「あー・・・君に頼みがあるのだが」
「どうぞ、言って」
検討する間も無く続きを促されたドラコはもごもごと口を動かす。
あまりに小さな声にサフィニアは聞こえないと訴えれば観念したドラコはたまにで
良いから箒の練習に付き合ってほしいと言った。
「何だそんな事なら喜んで。あ、でも私そんなに箒で飛ぶの上手く無いから」
「僕の練習を見てくれてるだけでもいい」
なら、大丈夫だとサフィニアは応える。
早速練習はいつから始めるのかドラコと話し、決めたサフィニアは漸く今夜の決闘について話を切り出す。
「それで今夜の決闘何だけど」
「僕も勢いで決闘を持ち出したがよく考えれば今の僕達じゃまともな決闘にはならないだろう」
あっさり決闘を止めると言い切ったドラコにサフィニアは待ってましたと言わんばかりにポケットからドラコがトロフィー室に行かない旨を書いた青いメモを取り出すと同じくポケットに入れていた杖で魔法を掛けた。
青いメモはみるみる内に一枚の紙から鳥に姿を変えて飛んで行く。
「そういえばドラコの介添人は?」
ロンがハリーを介添人にした様にドラコもクラッブを介添人にしていた筈なのだがサフィニアは今更ながらクラッブがいない事に気が付いた。
まさかクラッブだけ先にトロフィー室にと焦るサフィニアにドラコは指で頬を掻きながらとても言いにくそうにクラッブのいない訳を説明した。
「クラッブに決闘の介添人になってもらう了承は貰ったんだが、あいつ就寝時間になったらすぐに寝てしまって」
介添人がいなくては格好が付かないとドラコが懸命にクラッブを起こそうと頑張った。
しかしクラッブはドラコがあの手この手を使っても目を覚ます事は無く、ドラコが諦め付いた頃には他のルームメイトも眠りについていた。
これ以上寮にいては約束の時間に間に合わないとドラコは介添人を諦めるしか無かった。
「介添人のいない僕を見たらウィーズリーの奴に何て言われていたか」
「馬鹿にされるのは必須でしょうね」
二人の脳内に介添人を連れずに一人で現れたドラコに指を指して大笑いするロンの顔が浮かぶ。
決闘が無くなって本当に良かったとしみじみ言うドラコにサフィニアは同意した。
さて、夜はもう遅いからと解散したサフィニアとドラコであるが、ロンとハリーはと言うと決闘の話を聞きつけそれを止めようとしたハーマイオニーと合言葉を忘れた為に廊下で丸まっていたネビルも加えた大所帯で真夜中の廊下を恐々と移動していた。
サフィニアはグリフィンドールの寮はトロフィー室に近い事から出発はギリギリで自分が送った決闘の中止伝えるメモは間に合うだろうと考えていたが、巡回している先生やフィルチの事を考えて早く出ようと言うロンの意見でサフィニアの想像以上に出発は早かった。
サフィニアの送ったメモがハリーの元に着いた頃にはロン達御一行はトロフィー室に到着しており、ネビルが以前サフィニアが話していたメモ用紙で出来た鳥の説明を忘れていた事が騒ぎの始まりだった。
ハリー宛のふわふわ飛んでいた青い紙の鳥をネビルは何を思ったのか掴むと、その瞬間に鳥の頭と思われる部分から勢いよくインクがネビルの顔に向けて噴出される。
それに驚いたネビルが大声で悲鳴を上げて、それが近くの廊下を巡回していたフィルチの耳に届き慌てて四人は逃げる事になった。
隠れるのに入った教室ではピーブスと遭遇し、何とか穏便に済まそうとした一同であるがピーブスの態度に苛ついたロンの言葉によってピーブスに嬉々と居場所をバラされてしまう。
そしてその教室からも逃げ出し、ハリー達が飛び込んだ部屋には大きな頭を三つ持つ犬がいた。
「ホグワーツにはケルベロスがいるのね」
「ケル、何だって?」
昨晩の冒険の話を朝食の席でハリーから聞いていたサフィニアは驚きのあまりに掬っていたベーコンをお皿の上に落としていた。
サフィニアの口から出た聞き慣れない名称にハリーが説明を求めるとサフィニアは簡潔に説明をし始める。
「ケルベロス。ギリシャ神話に出てくる冥府の番犬よ。頭が三つある以外にも竜の羽を持ってたり鬣があったり話によって特徴は色々あるけどだいたい共通しているのは頭が三つある事。確か神話では竪琴を使うと眠ってしまうんだったかな」
ちょっと見て見たいと言うサフィニアにハリーは流石に彼女が正気なのか疑った。
「止めた方が良いよ。あれは確かに頭が三つもあって黒くて大きな犬だったけど涎は臭いし何より凶暴だ」
「もう、私は別に黒くて大きな犬だから興味があるんじゃなくて神話に出てくる生物だから興味があるだけよ」
大きくて黒ければどんな犬でも良いわけじゃないとサフィニアは否定するがハリーはあまり信じてくれなかった。
食事を進めていたサフィニアはハリー達の見たと言う大きな三頭犬について考える。
立ち入り禁止の教室とは言え校内で生徒に牙を向く生き物を飼うのはどういう事なのか。
隣に座るハリーに腕を突かれたサフィニアは何か尋ねると無言でハリーはサフィニアの取り皿を指差す。
サフィニアは考え事をしながら茹でたじゃがいもをフォーク潰していたらしくそれは見事なマッシュポテトになっていた。
「どうしたの?考え事?」
「うん、どうして校内に三頭犬なんかを飼ってるのかな何て思って」
ハリーはそこまで聞くと辺りを見回し、皆が朝食夢中になっているのを確認するとサフィニア耳元迄顔を持って行き小声で耳打ちをした。
「ハーマイオニーが言うには三頭犬の下に扉があって、あの犬はその扉を守ってるんだって」
そんな話をハリーから聞いた後、サフィニアはハーマイオニーと会う機会がありその時に四階の禁じられた廊下での事を尋ねた。
どうやらそれは藪蛇だったらしくハーマイオニーはその話に触れるといくつも校則を破った事について嘆き、主にロンについての小言を漏らす。
マルフォイとの決闘騒動は勿論、授業中の態度、そして一番ハーマイオニーが気にしているのは
「それで彼ったら折角私が間違っている箇所を説明してあげてるのに煩わしそうな顔をして!」
信じられないとその時の事を思い出し怒りを再熱させたハーマイオニーをサフィニアは宥める。
最近のロンとの諍いをハイライトで聞かされていたサフィニアは三頭犬の事について尋ねた筈なのに話題がかなり逸れている事に気付く。
が、だからと言って今更話題を変える事も出来ず、ロンに対する愚痴止めないハーマイオニーにサフィニアは彼女とロンが直接衝突しない事をひっそりと心の中で願った。
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