マグル生まれの魔法使い
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談話室に張られた「お知らせ」にサフィニアも周りの同級生も肩を落とした。
ハッフルパフとレイブンクローの合同で行われる飛行訓練に誰とも無く溜息を零す。
運動不振迄行かずも得意と迄は言えないサフィニアもその誰ともの一人で、新学期早々に校庭で箒を乗り飛ばす先輩達の姿を思い出し頭に浮かべた。
あんなにスピードは出なくて良い、ゆっくりゆったり安全運転でと、想像した所で夏休みに自分の双子の兄が近所に住むフィッグおばあさんを貰ったばかりのレース用の自転車で轢いてしまうという衝撃的事件を思い出す。
大事には至らなかったが元々足を骨折させていた上に自転車に轢かれたフィッグおばあさんの代わりにサフィニアとハリーとダドリーの三人はお詫びにはならないが彼女の飼う猫達の世話を暫くした。
彼女の飼う猫はどの子も利口で可愛かった。しかし自分は犬派だ。飼うならあの子の様に黒くて大きな犬が良いと、思考が飛行訓練から遠ざかっていたサフィニアであるが後ろからの声に意識は現実へと引き戻される。
「流石に飛行訓練となると君お得意の図書館も役に立たないな!」
ファミリーネームで呼ばれたサフィニアが緩慢な動きで振り向くと腕を組み意地の悪い笑みを浮かべたザカリアスが立っていた。
サフィニアの周りにいた女子生徒はザカリアスの姿を目視するなり彼に対して冷たい視線を向ける。
魔法薬学の授業以来何かとサフィニアに突っかかってくるザカリアスは他の生徒にも棘のある言動が多く、とうとう先日には一人の女子生徒を泣かせてしまった事で女子達から目の敵にされていた。
「そうね。こればかりはセンスが物をいうだろうからいくら本を読んでも上手く飛べるかは分からないわね」
サフィニアの肯定とも言える言葉にザカリアスは気分を良くしたのか笑みを深める。
そんな彼の表情が気に入らないのか「そういう貴方はどうなの」と女子達から声が上がるとザカリアスは嬉々と自分の飛行術について語った。
ホグワーツに入学してから何度も似た話を聞いて来たサフィニアは得意げに話すザカリアスを置いて何時もの様に図書館に行こうと同級生の一団から離れる。
一団の後方で事態を見ていたハンナ・アボットとスーザン・ボーンズに何処へ行くのか尋ねられたサフィニアは本を掲げると借りた本を返しに図書館へ行く事を告げた。
「ついでに箒の乗り方についての本も探してくるわ」
「あら、サフィニア。ザカリアスにはああ言ってたのに」
「確かにああ言ったけど決して知識が無駄になる事はないだろうから」
行って来ますと寮を出るサフィニアにスーザンは呆れた顔をしていたがハンナは笑って見送ってくれた。
最早図書館の常連となりつつあるサフィニアはまっすぐ館内のカウンター迄向かうと借りていた本を出して返却の手続きを進めてもらう。
サフィニアの顔を見るなり司書のマダム・ピンスは「また貴女」と呆れた顔をするのでサフィニアは笑顔と挨拶で応じる。
日頃から館内での私語に厳しい人物であるため特に会話は無く返却の手続きが済んだ事を確認すると本棚の方へと足を向け歩いた。
寝る前と空き時間の読書用にと何冊か本を抱えたサフィニアは本命の箒の乗り方についての本を探す。
幾ら学校内の図書館と言えどその蔵書量は独立した図書館に引けを取らずサフィニアはひたすら思いつく本棚を巡った。
そしてとうとうクィディッチに関連した本棚を見つけたサフィニアはそれらしい本を取っては捲り、戻してまた手に取りを繰り返す。
手の届きやすい下の段にはサフィニアが思う様な本は無くその上の棚に目を向ける。
ふと、一番高い棚に【クィディッチ今昔】と書かれた本を見つけたサフィニアはそれを取ろうと手を伸ばすが何とか指先が触れるか触れないかで掴む事が出来ない。
一度本棚から離れて脚立か梯子がないかサフィニアは探しに出るがどれも使用中であった。
大人しく本棚に戻ったサフィニアは取れない本の背表紙を一度睨むとその場で飛び上がり、両手で本棚の端に掴まる。
これで本を掴めば取れると考えたサフィニアであるが悲しいかな、根っからのインドア派であるサフィニアには本棚に飛びつく事が出来ても片手を本に伸ばしつつもう片手で自身の体を支える程の筋肉はなかった。
本棚の端を掴み体を支えていた両手が片手になった途端、サフィニアの体は床へと吸い込まれる様に落ちる。
サフィニアがぶら下がった本棚から床まではそんなに距離はない。
着地に失敗しても尻餅をつく程度で済むだろうとサフィニアは抵抗も何もせぬまま落ちた。
「危ない!」
想像したお尻への衝撃は無く、けれど体の自由がきかない。
それに先程の声はと、考えていたサフィニアはお腹に回された腕に気付く。
サフィニアはその腕を追って振り向くと茶髪に灰色の瞳を持つ青年が眉を八の字にして立っていた。
「ごめん。君が本棚から落ちるのを見て思わず」
セドリック・ディゴリーと名乗った青年は過程がどうあれサフィニアを後ろから抱える様な形で抱きとめた事に謝罪をする。
助けてもらった上に助けてくれた相手に謝らせているこの状況にサフィニアは勢い良く頭を横に振るうとセドリックにお礼を述べる。
「おかげで痛い思いもせずに済みました。ありがとうございますセドリック先輩」
「先輩、ああ君もハッフルパフ生か」
サフィニアの顔とローブの胸元に施された穴熊の刺繍を見てセドリックは1年生か尋ねて来るのでサフィニアは首肯して名乗る。
すると既にサフィニアの事を知っていたのかセドリックは不快にならない程度の視線で暫くサフィニアを見ると一人、納得した様な顔をした。
「知っているよ君の事は」
上級生であるセドリック自身を知る理由は生き残った男の子の従姉妹だからだろうかとサフィニアは思ったがそうでは無かった。
彼曰く食事と就寝、授業以外は図書館に通い、何十冊と本を読む勉強熱心な姿が上級生の間でちょっとした話題になっており、それがセドリックの耳にも入っていたらしい。
「赤毛の女子生徒だって聞いていたから、ここは暗くて一目では見ては分からなかったけど」
セドリックの話を聞く限り変な生徒扱いされていない事にサフィニアは安堵の息を吐く。
「それでどうしてあんな危ない事をしたんだい」
そこでサフィニアはこうしてセドリックと話すきっかけを思い出した。
サフィニアは結局本棚に飛び付き、落ちるという危ない目に合っても取れなかった本を指差す。
「あの本を取りたくて」
「あの本を?ちょっと待ってて」
そう言ったセドリックはサフィニアから見て易々と言った様子で飛び上がるとどうしても取れなかった本を簡単に取った。
どうぞ、と差し出された本を受け取りサフィニアはセドリックにお礼言う。
クィディッチ今昔というタイトルにセドリックはクィディッチ好きなのか尋ねるがサフィニアは否と首を振るうた。
「これになら箒の乗り方が載っているかと思いまして」
セドリックの頭に寮の談話室に掲示された飛行訓練の始まりを告げるお知らせが浮かんだ。
授業迄に本を使っての予習を考えたのだろうとサフィニアの行動に当たりを付けたセドリックは噂違わぬ勤勉振りに笑みを零す。
「初めての飛行訓練を迎える君にクィディッチの選手である僕からのアドバイスを贈るよ」
セドリックの言葉は唐突であったがサフィニアは即座に反応をすると鞄からメモ用紙とペンを取り出して構える。
「箒に上手く乗る方法は、」
日が変わるとどの寮の1年生も話題は初めての飛行訓練で、魔法族出身の生徒達は入学当初に一度はしたであろう家で箒に乗った時の話を持ち出し誰構わずに話した。
一定数の生徒が集まる食事時にその話題は特に多く、サフィニアとハリーはロンの箒に乗ってハングライダーにぶつかりそうになった話やシェーマスの田舎での箒の体験話を耳に胼胝が出来る位聞いた。
サフィニアは入れ替わり同じ話をするロンとシェーマスにうんざりしてお皿の上のグリンピースをフォークで突っつくがハリーはそうでは無いらしい。
飛行訓練が楽しみで仕方がないハリーは何度も聞いた筈の二人の話をその都度新鮮な反応で返し楽しそうに聞いた。
ハリーがそんな反応で返すからこの二人は同じ話を止めないのではと気が付くサフィニアは向かいの席に座るディーンと目が合う。
マグル生まれだとディーンが公言していた事を思い出したサフィニアは彼も自分達同様にロンとシェーマスから何度も同じ話を聞いたのだろうと察して彼に同情めいた視線を送る。
しかもディーンは二人と同室である事も思い出したサフィニアは労わりの気持ちを込めて彼の空いたグラスに飲み物を注いだ。
サフィニアの労わりの気持ちを表す様になみなみグラスに注がれたそれをディーンが一気飲みをしていると毎朝の恒例であるふくろう便が天井より入って来た。
様々な大きさ色、模様の梟が届け先の生徒の元へと飛んで行く。
そんな中、一際目立つ白梟がサフィニアとハリーの前に降り立つ。
ハリーの飼うヘドウィグである。
先日、入学して初めての手紙をハリーの手紙と共にヘドウィグに頼んでプリペッド通りで暮らす両親とダドリー宛に送ったのだ。
事前に梟を使えば手紙荷物が送れると説明してあった為かヘドウィグは手紙と小包を咥えていた。
それをサフィニアが外し、ハリーはヘドウィグを撫でると朝食に用意されていたパンとベーコンの切れ端を差し出す。
ヘドウィグを飼い始めてそんなに日は経っていないが彼女は飼い主であるハリーは勿論、サフィニアにもよく懐いてくれていた。
頭をサフィニアの腕に擦り付けるヘドウィグにお礼を言って撫でると満足したのか羽搏きふくろう小屋へと戻って行く。
その姿を見えなくなる迄見送るとサフィニアはヘドウィグが運んでくれた小包を開けた。
送った手紙にあの味が恋しいと書いた所為かダドリーからチョコレートバー等の市販されているお菓子の数々、ペチュニアからは自家製ハーブティの茶葉が入っていたのでそれをサフィニアは自分とハリー用に二等分にして分ける。
ハリーは自分宛の封筒から手紙を取り出し読んでいてくすりと笑いを漏らした。
「どうしたのハリー」
「伯父さんってば面白いんだ。サフィニアに近づく男にはみんな魔法で豚の尻尾でも付けてやれって」
サフィニアはハリー宛の手紙に態々そんな事を書いたのかと呆れたがハリーは相手に豚の尻尾を付けるというバーノンの発想が面白かったらしくお腹を抱えて笑っていた。
そして話はそんな魔法があるのかという話題になったのだが気付けばサフィニアの向かいの席のシェーマスとロンはサフィニアから視線を逸らし、サフィニアの隣の席に座るネビルに至っては自分のお尻を隠して「豚の尻尾は嫌だ。止めて」とハリーに懇願する始末でサフィニアとハリーはそんな魔法もあるのかと魔法のバリエーションの多さに閉口した。
届いたお菓子を鞄に仕舞い、入れ替わりでペンと青いメモ用紙を取り出したサフィニアはドラコ宛に渡したい物があるのでお昼に図書館で会えませんか?と書くと杖を手に取り呪文を唱える。
すると机に置かれただけの紙はみるみる内に形を変えた。
「鳥だ!」
隣に座るネビルが目を輝かせて言った通り大きな二枚の羽で宙を浮き出した紙の青い鳥はサフィニアの周りを一周二周と回ると生徒達の頭に当たらないぎりぎりの高さでスリザリンのテーブルがある方へと飛んで行った。
今のは何なのか尋ねるロンにサフィニアは手紙を届けたい相手に手紙が飛んで行く魔法だと説明する。
「その魔法は知ってるけど呪文が多くなかったか?」
そう言ったのはシェーマスで、彼の問いにサフィニアは悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「ご指摘の通り、さっきの呪文は従来の物に合わせて届け先の相手以外が手紙を開いた時に文字を書くのに使ったインクがその人に向かって顔にかかる様に呪文が加えてあるの」
本当は爆発位させたかったのだと零すサフィニアに以前の会話も合ってロン達は発想がいちいち物騒だと驚怖する。
唯一サフィニアの発言を隣で聞いていても動揺も見せず紅茶を飲んでいたハリーはサフィニアらしいなと呟いた。
とうとうその日が訪れた。
飛行訓練の初日を迎えた朝もふくろう便は変わらずやって来た。
机の至る所から家族からの手紙や荷物、稀に怒声も聞こえるがこの時間は相変わらず賑やかである。
サフィニア達が座る机にもふくろうは来ており、クィディッチ今昔を手にしたハーマイオニーの話す飛行のコツを聞いていたネビルの前に降り立っためんふくろうは小さな小包を置くとすぐに飛び立つ。
送り主が自身の祖母で分かるとネビルは嬉々として包装を剥ぎ取り中身を取り出した。
明るい天井に向かって掲げられたガラス玉をネビルは思い出し玉と呼んだ。
名前を知っているだけに使い方も知っているのかネビルは誰に向かってでもなく思いだし玉の説明をするのだがその玉はネビルの説明通り、ガラスの球体内部をみるみる内に赤い煙で満たしていく。
そんな思い出し玉に戸惑いを見せるネビル。
何を忘れているのか懸命に頭を傾げて考えている間に思い出し玉はちょうどネビルの側を歩いていたドラコに奪われ、彼の手の中できらきらと輝いた。
「ロングボトム、何を忘れたのか分からないんじゃこの道具を持ってても意味がないんじゃないのか」
「マルフォイ!それをネビルに返せ!!」
勢いよく立ち上がり、荒い息を鼻から出しながらドラコに向かって突き進むロンに遅れて立ち上がったサフィニアとハリーは二人の間に体を滑り込ませてロンの宥めに入った。
「ロン落ち着いてよ」
「止めるなよハリー!マルフォイがネビルの思い出し玉を盗ったんだぞ」
腕捲りをしたロンはハリーを押し退けてドラコに向かってかかろうとするがハリーに加勢したサフィニアが迫るロンの胸板を押して道を阻む。
「ロン!兎に角落ち着いて!こんな人の目がある所で喧嘩をする気?!
ドラコも思い出し玉が気になったんならちゃんとネビルに断りをかけて!」
ハリーとサフィニアが力を合わせてロンを押し返すと跳ね返されたロンを受け止めたディーンとシェーマスが声掛けを行い宥めに入る。
教員席からもこの様子よく見えていたのだろうマグゴナガルがローブの裾を摘んで駆けて来た。
「貴方達、一体何事です」
喧嘩かと訝しげな視線を向けるマグゴナガルにロンが口を開きかけた所をサフィニアの目配せに応えたシェーマスがロンの口を手で塞ぐ。
サフィニアは笑みを浮かべて一歩前へと進み出るとネビル宛に届いた思い出し玉をみんなが珍しがり騒いでしまっただけだと決して嘘ではない説明をした。
一度はサフィニアの説明に納得しかけたマグゴナガルであるが視界にドラコの姿を捉えると再び疑念を持つ。
「ミスターマルフォイ。貴方はどうしてここにいるのです。ここはグリフィンドールのテーブルですよ」
そのグリフィンドールのテーブルにドラコ以外にも他寮の、ハッフルパフ寮所属のサフィニアがいるのだがその事をマグゴナガルは忘れているのかわざと見逃しているのか分からない。
しかしグリフィンドールのテーブルにスリザリン生がいて何も起こらない訳が無いというマグゴナガル考えにドラコは察して自身がずっと抱えていた包みを前に出した。
「僕は先程家から沢山のお菓子が届いたのでハリーとサフィニアにもお裾分けをと思い持って来ただけです」
「わあ、ドラコそれってこの前言っていたお菓子かい?」
「そうだハリー。母上に話したら早速送ってくれたのでお裾分けだ」
ドラコはハリーに包みを渡すと残った方をサフィニアにも差し出す。
サフィニアはドラコにお礼を言えば彼はこの前のお礼だと言う。
「お礼なんて、市販のお菓子だったのに」
「マグルのお菓子を食べる機会なんてそうそうないからな。想像していたより美味しかった。また機会があれば頂きたいぐらいだ」
先日、家より届いたお菓子をドラコにお裾分けしていたサフィニア。
何処にでも売っている市販品の為良い所のお坊ちゃんであろう彼の舌には合わないかと危惧していたサフィニアであるがドラコの言葉にサフィニアは喜んで見せた。
並んで和やかに会話をするサフィニアとドラコの姿に今度こそマグゴナガル何でも無かったのだと納得してくれたのかあまり騒ぎ過ぎない様にとだけ注意をして教員席に戻って行く。
「どうしてサフィニアもハリーもそんな奴を庇うんだよ!!マルフォイはネビルの思い出し玉を盗ったんだぞ」
マグゴナガルに一度注意された手前あまり大きな声では無かったがロンは相変わらずディーンとシェーマスに体を押さえ込まれながら訴えた。
「裏切り者!」「それでもグリフィンドール生かよ!」と、ドラコを庇うハリーが余程ショックだったのかロンは主にハリーを責め立てる。
そんなロンにサフィニアとハリーは互いの顔を見合わせるとロンへと向き直って首を傾げた。
「庇うって言うか騒ぎになったら大変だろうし」
「盗ったって言うけどもう思い出し玉はネビルの手元に戻っているしね」
サフィニアが指差す先には祖母から贈られた思い出し玉を手に困惑顔のネビル。
ドラコの手によりネビルから攫われた思い出し玉はロンが騒ぎ出す前にはネビルの手に戻されていた。
「多分だけどあのままロンが騒いでたらきっと君だけがマグゴナガルに叱られてたぜ」
ディーンの耳打ちにロンは唇を噛んで黙り込んだ。
もう騒ぐ気は無いのか大人しく席に着くロンの隣にハリーは腰を下ろす。
「お礼なんて言わないぞ」
「良いよ。僕が勝手にやった事だからね」
二人を取り巻く空気に険悪さが失せた事に安堵したサフィニアは騒ぎの一端であるドラコに一言言おうと振り向くとそこにドラコの姿は無くなっており、逃げられたと理解したサフィニアは顔を顰めた。
その日、レイブンクローとの合同で行われた飛行訓練は特に問題も騒ぎも無く終わった。
何かあったと言えばザカリアス・スミスがサフィニアが立つ横に立ってマダム・フーチの鋭い黄色い目を盗んでは色々と言って来た位である。
箒に乗るのが恐いか?という問いから始まり聞いてもいないのに箒に乗った自身の武勇伝、マダム・フーチがいるというのに自身が指導をしてやっても良いとザカリアスは鼻を高くして言っていたがサフィニアは一言も彼の言葉を聞いていなかった。
聞いていないどころかザカリアスが自分の隣に立っている事にも気付いていなかったサフィニアはひたすら図書館で会ったセドリックの言葉を思い出していた。
「箒に乗って空を飛ぶ事を恐がらないで」
箒に上手く乗るアドバイスとしてそう教えられたサフィニアはマダム・フーチが笛を吹く迄の間恐がらない様にひたすらに空を飛んだら風が気持ち良いだろう、高い所から見る景色はきっと素晴らしいと、頭に言い聞かせて恐怖から意識を逸らす。
笛の音と共に生徒達は皆、地面を強く蹴り浮かび上がった。
誰の箒も暴走する事なく見事全員浮かび上がった光景にマダム・フーチは満足気な笑みを浮かべると今度は前屈みになって降りてくる様に指示を出す。
そこから暫くマダム・フーチは生徒一人一人に箒の乗り方について指導を入れた。
サフィニアもマダム・フーチから浮かび上がった際に体のぐらつきが目立つから箒の柄をしっかり握る様に言われて返事と共に頷く。
そして隣の生徒へと移動したマダム・フーチはその生徒に飛ぶ前に指導したにも関わらずまた間違った箒の握り方をしていたと注意していた。
「貴方はたかが箒の握り方と思っているのでしょうがそのたかがで命を落とすかもしれないのですよ」
マダム・フーチにここまで言わせる危ない握り方とはどんなものなのか気になって顔を上げたサフィニアはそこでやっと隣に立つ生徒がザカリアスであると気が付く。
マダム・フーチの鋭い眼光に視線を逸らしていた彼と目が合うなり渋面になるザカリアスにサフィニアはこのまま目を合わせていてはまた絡まれかねないとそっぽを向いた。
それから暫く上昇と下降の練習が続き、授業の終わりが近付いた頃、マダム・フーチは箒を使っての自由行動を許すと皆は喜んで空へと飛んで行く。
皆が思い思いに空へと上がる中、サフィニアも箒の柄を掴み空へ上がろうと構えていると教師以外からは余り呼ばれないファミリーネームで呼び止める声。
見ればザカリアスが厳しい顔付きで先程より近い距離で立っている。
先程、マダム・フーチに注意を受けていた自分を見て笑っていただろうと言いがかりをつけてくるザカリアスにうんざりしたサフィニアは否定をするとすぐさま空へと上昇した。
話も終わらぬ内に地上置いていかれたザカリアスはすぐ様箒を掴むとサフィニアを追いかける様に空へと浮かぶ。
地上から見るのとは違った景色に感動するのも束の間此方へと向かってくるザカリアスに気付いたサフィニアは彼から離れようとした時、箒に乗ったザカリアスは一人騒ぎ始めた。
「おい、何でそっちに曲がるんだ!言う事を聞け!」
喚くザカリアスに周りを飛んでいた生徒達も何事かと彼を注視する。
どうやらザカリアスが進みたい方向より箒が勝手に左へとずれてしまうらしくサフィニアに向かって飛んでいたのであろうザカリアスの跨る箒は今や何処へ向かっているのか少しずつ左に曲がりながら飛んで行く。
そんな箒にザカリアスは喚くのだがまさか箒が勝手に左へ左へ飛んで行っている事など知らない生徒達はそれが彼の奇行の様に見えて一体彼は何をしているのだろうと呆然としていた。
サフィニアはザカリアスの言動からフレッドとジョージより以前から聞いていた癖のある箒の話を思い出す。
きっと彼はその話に出て来たどうしても少し左に行ってしまう箒が当たったのだろうとサフィニアは思った。
ザカリアスの乗った箒がどんどん湖の方へと飛んで行くのを見ているとマダム・フーチが授業の終わりを告げ、地上へ降りた者から箒を返却し城へ戻る様に言うのでサフィニアはザカリアスが箒と格闘している内にさっさと地上へ戻り城へと駆け込む。
サフィニアとしては何も問題も騒ぎも無く飛行訓練の授業は終わった。
ハッフルパフとレイブンクローの合同で行われる飛行訓練に誰とも無く溜息を零す。
運動不振迄行かずも得意と迄は言えないサフィニアもその誰ともの一人で、新学期早々に校庭で箒を乗り飛ばす先輩達の姿を思い出し頭に浮かべた。
あんなにスピードは出なくて良い、ゆっくりゆったり安全運転でと、想像した所で夏休みに自分の双子の兄が近所に住むフィッグおばあさんを貰ったばかりのレース用の自転車で轢いてしまうという衝撃的事件を思い出す。
大事には至らなかったが元々足を骨折させていた上に自転車に轢かれたフィッグおばあさんの代わりにサフィニアとハリーとダドリーの三人はお詫びにはならないが彼女の飼う猫達の世話を暫くした。
彼女の飼う猫はどの子も利口で可愛かった。しかし自分は犬派だ。飼うならあの子の様に黒くて大きな犬が良いと、思考が飛行訓練から遠ざかっていたサフィニアであるが後ろからの声に意識は現実へと引き戻される。
「流石に飛行訓練となると君お得意の図書館も役に立たないな!」
ファミリーネームで呼ばれたサフィニアが緩慢な動きで振り向くと腕を組み意地の悪い笑みを浮かべたザカリアスが立っていた。
サフィニアの周りにいた女子生徒はザカリアスの姿を目視するなり彼に対して冷たい視線を向ける。
魔法薬学の授業以来何かとサフィニアに突っかかってくるザカリアスは他の生徒にも棘のある言動が多く、とうとう先日には一人の女子生徒を泣かせてしまった事で女子達から目の敵にされていた。
「そうね。こればかりはセンスが物をいうだろうからいくら本を読んでも上手く飛べるかは分からないわね」
サフィニアの肯定とも言える言葉にザカリアスは気分を良くしたのか笑みを深める。
そんな彼の表情が気に入らないのか「そういう貴方はどうなの」と女子達から声が上がるとザカリアスは嬉々と自分の飛行術について語った。
ホグワーツに入学してから何度も似た話を聞いて来たサフィニアは得意げに話すザカリアスを置いて何時もの様に図書館に行こうと同級生の一団から離れる。
一団の後方で事態を見ていたハンナ・アボットとスーザン・ボーンズに何処へ行くのか尋ねられたサフィニアは本を掲げると借りた本を返しに図書館へ行く事を告げた。
「ついでに箒の乗り方についての本も探してくるわ」
「あら、サフィニア。ザカリアスにはああ言ってたのに」
「確かにああ言ったけど決して知識が無駄になる事はないだろうから」
行って来ますと寮を出るサフィニアにスーザンは呆れた顔をしていたがハンナは笑って見送ってくれた。
最早図書館の常連となりつつあるサフィニアはまっすぐ館内のカウンター迄向かうと借りていた本を出して返却の手続きを進めてもらう。
サフィニアの顔を見るなり司書のマダム・ピンスは「また貴女」と呆れた顔をするのでサフィニアは笑顔と挨拶で応じる。
日頃から館内での私語に厳しい人物であるため特に会話は無く返却の手続きが済んだ事を確認すると本棚の方へと足を向け歩いた。
寝る前と空き時間の読書用にと何冊か本を抱えたサフィニアは本命の箒の乗り方についての本を探す。
幾ら学校内の図書館と言えどその蔵書量は独立した図書館に引けを取らずサフィニアはひたすら思いつく本棚を巡った。
そしてとうとうクィディッチに関連した本棚を見つけたサフィニアはそれらしい本を取っては捲り、戻してまた手に取りを繰り返す。
手の届きやすい下の段にはサフィニアが思う様な本は無くその上の棚に目を向ける。
ふと、一番高い棚に【クィディッチ今昔】と書かれた本を見つけたサフィニアはそれを取ろうと手を伸ばすが何とか指先が触れるか触れないかで掴む事が出来ない。
一度本棚から離れて脚立か梯子がないかサフィニアは探しに出るがどれも使用中であった。
大人しく本棚に戻ったサフィニアは取れない本の背表紙を一度睨むとその場で飛び上がり、両手で本棚の端に掴まる。
これで本を掴めば取れると考えたサフィニアであるが悲しいかな、根っからのインドア派であるサフィニアには本棚に飛びつく事が出来ても片手を本に伸ばしつつもう片手で自身の体を支える程の筋肉はなかった。
本棚の端を掴み体を支えていた両手が片手になった途端、サフィニアの体は床へと吸い込まれる様に落ちる。
サフィニアがぶら下がった本棚から床まではそんなに距離はない。
着地に失敗しても尻餅をつく程度で済むだろうとサフィニアは抵抗も何もせぬまま落ちた。
「危ない!」
想像したお尻への衝撃は無く、けれど体の自由がきかない。
それに先程の声はと、考えていたサフィニアはお腹に回された腕に気付く。
サフィニアはその腕を追って振り向くと茶髪に灰色の瞳を持つ青年が眉を八の字にして立っていた。
「ごめん。君が本棚から落ちるのを見て思わず」
セドリック・ディゴリーと名乗った青年は過程がどうあれサフィニアを後ろから抱える様な形で抱きとめた事に謝罪をする。
助けてもらった上に助けてくれた相手に謝らせているこの状況にサフィニアは勢い良く頭を横に振るうとセドリックにお礼を述べる。
「おかげで痛い思いもせずに済みました。ありがとうございますセドリック先輩」
「先輩、ああ君もハッフルパフ生か」
サフィニアの顔とローブの胸元に施された穴熊の刺繍を見てセドリックは1年生か尋ねて来るのでサフィニアは首肯して名乗る。
すると既にサフィニアの事を知っていたのかセドリックは不快にならない程度の視線で暫くサフィニアを見ると一人、納得した様な顔をした。
「知っているよ君の事は」
上級生であるセドリック自身を知る理由は生き残った男の子の従姉妹だからだろうかとサフィニアは思ったがそうでは無かった。
彼曰く食事と就寝、授業以外は図書館に通い、何十冊と本を読む勉強熱心な姿が上級生の間でちょっとした話題になっており、それがセドリックの耳にも入っていたらしい。
「赤毛の女子生徒だって聞いていたから、ここは暗くて一目では見ては分からなかったけど」
セドリックの話を聞く限り変な生徒扱いされていない事にサフィニアは安堵の息を吐く。
「それでどうしてあんな危ない事をしたんだい」
そこでサフィニアはこうしてセドリックと話すきっかけを思い出した。
サフィニアは結局本棚に飛び付き、落ちるという危ない目に合っても取れなかった本を指差す。
「あの本を取りたくて」
「あの本を?ちょっと待ってて」
そう言ったセドリックはサフィニアから見て易々と言った様子で飛び上がるとどうしても取れなかった本を簡単に取った。
どうぞ、と差し出された本を受け取りサフィニアはセドリックにお礼言う。
クィディッチ今昔というタイトルにセドリックはクィディッチ好きなのか尋ねるがサフィニアは否と首を振るうた。
「これになら箒の乗り方が載っているかと思いまして」
セドリックの頭に寮の談話室に掲示された飛行訓練の始まりを告げるお知らせが浮かんだ。
授業迄に本を使っての予習を考えたのだろうとサフィニアの行動に当たりを付けたセドリックは噂違わぬ勤勉振りに笑みを零す。
「初めての飛行訓練を迎える君にクィディッチの選手である僕からのアドバイスを贈るよ」
セドリックの言葉は唐突であったがサフィニアは即座に反応をすると鞄からメモ用紙とペンを取り出して構える。
「箒に上手く乗る方法は、」
日が変わるとどの寮の1年生も話題は初めての飛行訓練で、魔法族出身の生徒達は入学当初に一度はしたであろう家で箒に乗った時の話を持ち出し誰構わずに話した。
一定数の生徒が集まる食事時にその話題は特に多く、サフィニアとハリーはロンの箒に乗ってハングライダーにぶつかりそうになった話やシェーマスの田舎での箒の体験話を耳に胼胝が出来る位聞いた。
サフィニアは入れ替わり同じ話をするロンとシェーマスにうんざりしてお皿の上のグリンピースをフォークで突っつくがハリーはそうでは無いらしい。
飛行訓練が楽しみで仕方がないハリーは何度も聞いた筈の二人の話をその都度新鮮な反応で返し楽しそうに聞いた。
ハリーがそんな反応で返すからこの二人は同じ話を止めないのではと気が付くサフィニアは向かいの席に座るディーンと目が合う。
マグル生まれだとディーンが公言していた事を思い出したサフィニアは彼も自分達同様にロンとシェーマスから何度も同じ話を聞いたのだろうと察して彼に同情めいた視線を送る。
しかもディーンは二人と同室である事も思い出したサフィニアは労わりの気持ちを込めて彼の空いたグラスに飲み物を注いだ。
サフィニアの労わりの気持ちを表す様になみなみグラスに注がれたそれをディーンが一気飲みをしていると毎朝の恒例であるふくろう便が天井より入って来た。
様々な大きさ色、模様の梟が届け先の生徒の元へと飛んで行く。
そんな中、一際目立つ白梟がサフィニアとハリーの前に降り立つ。
ハリーの飼うヘドウィグである。
先日、入学して初めての手紙をハリーの手紙と共にヘドウィグに頼んでプリペッド通りで暮らす両親とダドリー宛に送ったのだ。
事前に梟を使えば手紙荷物が送れると説明してあった為かヘドウィグは手紙と小包を咥えていた。
それをサフィニアが外し、ハリーはヘドウィグを撫でると朝食に用意されていたパンとベーコンの切れ端を差し出す。
ヘドウィグを飼い始めてそんなに日は経っていないが彼女は飼い主であるハリーは勿論、サフィニアにもよく懐いてくれていた。
頭をサフィニアの腕に擦り付けるヘドウィグにお礼を言って撫でると満足したのか羽搏きふくろう小屋へと戻って行く。
その姿を見えなくなる迄見送るとサフィニアはヘドウィグが運んでくれた小包を開けた。
送った手紙にあの味が恋しいと書いた所為かダドリーからチョコレートバー等の市販されているお菓子の数々、ペチュニアからは自家製ハーブティの茶葉が入っていたのでそれをサフィニアは自分とハリー用に二等分にして分ける。
ハリーは自分宛の封筒から手紙を取り出し読んでいてくすりと笑いを漏らした。
「どうしたのハリー」
「伯父さんってば面白いんだ。サフィニアに近づく男にはみんな魔法で豚の尻尾でも付けてやれって」
サフィニアはハリー宛の手紙に態々そんな事を書いたのかと呆れたがハリーは相手に豚の尻尾を付けるというバーノンの発想が面白かったらしくお腹を抱えて笑っていた。
そして話はそんな魔法があるのかという話題になったのだが気付けばサフィニアの向かいの席のシェーマスとロンはサフィニアから視線を逸らし、サフィニアの隣の席に座るネビルに至っては自分のお尻を隠して「豚の尻尾は嫌だ。止めて」とハリーに懇願する始末でサフィニアとハリーはそんな魔法もあるのかと魔法のバリエーションの多さに閉口した。
届いたお菓子を鞄に仕舞い、入れ替わりでペンと青いメモ用紙を取り出したサフィニアはドラコ宛に渡したい物があるのでお昼に図書館で会えませんか?と書くと杖を手に取り呪文を唱える。
すると机に置かれただけの紙はみるみる内に形を変えた。
「鳥だ!」
隣に座るネビルが目を輝かせて言った通り大きな二枚の羽で宙を浮き出した紙の青い鳥はサフィニアの周りを一周二周と回ると生徒達の頭に当たらないぎりぎりの高さでスリザリンのテーブルがある方へと飛んで行った。
今のは何なのか尋ねるロンにサフィニアは手紙を届けたい相手に手紙が飛んで行く魔法だと説明する。
「その魔法は知ってるけど呪文が多くなかったか?」
そう言ったのはシェーマスで、彼の問いにサフィニアは悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「ご指摘の通り、さっきの呪文は従来の物に合わせて届け先の相手以外が手紙を開いた時に文字を書くのに使ったインクがその人に向かって顔にかかる様に呪文が加えてあるの」
本当は爆発位させたかったのだと零すサフィニアに以前の会話も合ってロン達は発想がいちいち物騒だと驚怖する。
唯一サフィニアの発言を隣で聞いていても動揺も見せず紅茶を飲んでいたハリーはサフィニアらしいなと呟いた。
とうとうその日が訪れた。
飛行訓練の初日を迎えた朝もふくろう便は変わらずやって来た。
机の至る所から家族からの手紙や荷物、稀に怒声も聞こえるがこの時間は相変わらず賑やかである。
サフィニア達が座る机にもふくろうは来ており、クィディッチ今昔を手にしたハーマイオニーの話す飛行のコツを聞いていたネビルの前に降り立っためんふくろうは小さな小包を置くとすぐに飛び立つ。
送り主が自身の祖母で分かるとネビルは嬉々として包装を剥ぎ取り中身を取り出した。
明るい天井に向かって掲げられたガラス玉をネビルは思い出し玉と呼んだ。
名前を知っているだけに使い方も知っているのかネビルは誰に向かってでもなく思いだし玉の説明をするのだがその玉はネビルの説明通り、ガラスの球体内部をみるみる内に赤い煙で満たしていく。
そんな思い出し玉に戸惑いを見せるネビル。
何を忘れているのか懸命に頭を傾げて考えている間に思い出し玉はちょうどネビルの側を歩いていたドラコに奪われ、彼の手の中できらきらと輝いた。
「ロングボトム、何を忘れたのか分からないんじゃこの道具を持ってても意味がないんじゃないのか」
「マルフォイ!それをネビルに返せ!!」
勢いよく立ち上がり、荒い息を鼻から出しながらドラコに向かって突き進むロンに遅れて立ち上がったサフィニアとハリーは二人の間に体を滑り込ませてロンの宥めに入った。
「ロン落ち着いてよ」
「止めるなよハリー!マルフォイがネビルの思い出し玉を盗ったんだぞ」
腕捲りをしたロンはハリーを押し退けてドラコに向かってかかろうとするがハリーに加勢したサフィニアが迫るロンの胸板を押して道を阻む。
「ロン!兎に角落ち着いて!こんな人の目がある所で喧嘩をする気?!
ドラコも思い出し玉が気になったんならちゃんとネビルに断りをかけて!」
ハリーとサフィニアが力を合わせてロンを押し返すと跳ね返されたロンを受け止めたディーンとシェーマスが声掛けを行い宥めに入る。
教員席からもこの様子よく見えていたのだろうマグゴナガルがローブの裾を摘んで駆けて来た。
「貴方達、一体何事です」
喧嘩かと訝しげな視線を向けるマグゴナガルにロンが口を開きかけた所をサフィニアの目配せに応えたシェーマスがロンの口を手で塞ぐ。
サフィニアは笑みを浮かべて一歩前へと進み出るとネビル宛に届いた思い出し玉をみんなが珍しがり騒いでしまっただけだと決して嘘ではない説明をした。
一度はサフィニアの説明に納得しかけたマグゴナガルであるが視界にドラコの姿を捉えると再び疑念を持つ。
「ミスターマルフォイ。貴方はどうしてここにいるのです。ここはグリフィンドールのテーブルですよ」
そのグリフィンドールのテーブルにドラコ以外にも他寮の、ハッフルパフ寮所属のサフィニアがいるのだがその事をマグゴナガルは忘れているのかわざと見逃しているのか分からない。
しかしグリフィンドールのテーブルにスリザリン生がいて何も起こらない訳が無いというマグゴナガル考えにドラコは察して自身がずっと抱えていた包みを前に出した。
「僕は先程家から沢山のお菓子が届いたのでハリーとサフィニアにもお裾分けをと思い持って来ただけです」
「わあ、ドラコそれってこの前言っていたお菓子かい?」
「そうだハリー。母上に話したら早速送ってくれたのでお裾分けだ」
ドラコはハリーに包みを渡すと残った方をサフィニアにも差し出す。
サフィニアはドラコにお礼を言えば彼はこの前のお礼だと言う。
「お礼なんて、市販のお菓子だったのに」
「マグルのお菓子を食べる機会なんてそうそうないからな。想像していたより美味しかった。また機会があれば頂きたいぐらいだ」
先日、家より届いたお菓子をドラコにお裾分けしていたサフィニア。
何処にでも売っている市販品の為良い所のお坊ちゃんであろう彼の舌には合わないかと危惧していたサフィニアであるがドラコの言葉にサフィニアは喜んで見せた。
並んで和やかに会話をするサフィニアとドラコの姿に今度こそマグゴナガル何でも無かったのだと納得してくれたのかあまり騒ぎ過ぎない様にとだけ注意をして教員席に戻って行く。
「どうしてサフィニアもハリーもそんな奴を庇うんだよ!!マルフォイはネビルの思い出し玉を盗ったんだぞ」
マグゴナガルに一度注意された手前あまり大きな声では無かったがロンは相変わらずディーンとシェーマスに体を押さえ込まれながら訴えた。
「裏切り者!」「それでもグリフィンドール生かよ!」と、ドラコを庇うハリーが余程ショックだったのかロンは主にハリーを責め立てる。
そんなロンにサフィニアとハリーは互いの顔を見合わせるとロンへと向き直って首を傾げた。
「庇うって言うか騒ぎになったら大変だろうし」
「盗ったって言うけどもう思い出し玉はネビルの手元に戻っているしね」
サフィニアが指差す先には祖母から贈られた思い出し玉を手に困惑顔のネビル。
ドラコの手によりネビルから攫われた思い出し玉はロンが騒ぎ出す前にはネビルの手に戻されていた。
「多分だけどあのままロンが騒いでたらきっと君だけがマグゴナガルに叱られてたぜ」
ディーンの耳打ちにロンは唇を噛んで黙り込んだ。
もう騒ぐ気は無いのか大人しく席に着くロンの隣にハリーは腰を下ろす。
「お礼なんて言わないぞ」
「良いよ。僕が勝手にやった事だからね」
二人を取り巻く空気に険悪さが失せた事に安堵したサフィニアは騒ぎの一端であるドラコに一言言おうと振り向くとそこにドラコの姿は無くなっており、逃げられたと理解したサフィニアは顔を顰めた。
その日、レイブンクローとの合同で行われた飛行訓練は特に問題も騒ぎも無く終わった。
何かあったと言えばザカリアス・スミスがサフィニアが立つ横に立ってマダム・フーチの鋭い黄色い目を盗んでは色々と言って来た位である。
箒に乗るのが恐いか?という問いから始まり聞いてもいないのに箒に乗った自身の武勇伝、マダム・フーチがいるというのに自身が指導をしてやっても良いとザカリアスは鼻を高くして言っていたがサフィニアは一言も彼の言葉を聞いていなかった。
聞いていないどころかザカリアスが自分の隣に立っている事にも気付いていなかったサフィニアはひたすら図書館で会ったセドリックの言葉を思い出していた。
「箒に乗って空を飛ぶ事を恐がらないで」
箒に上手く乗るアドバイスとしてそう教えられたサフィニアはマダム・フーチが笛を吹く迄の間恐がらない様にひたすらに空を飛んだら風が気持ち良いだろう、高い所から見る景色はきっと素晴らしいと、頭に言い聞かせて恐怖から意識を逸らす。
笛の音と共に生徒達は皆、地面を強く蹴り浮かび上がった。
誰の箒も暴走する事なく見事全員浮かび上がった光景にマダム・フーチは満足気な笑みを浮かべると今度は前屈みになって降りてくる様に指示を出す。
そこから暫くマダム・フーチは生徒一人一人に箒の乗り方について指導を入れた。
サフィニアもマダム・フーチから浮かび上がった際に体のぐらつきが目立つから箒の柄をしっかり握る様に言われて返事と共に頷く。
そして隣の生徒へと移動したマダム・フーチはその生徒に飛ぶ前に指導したにも関わらずまた間違った箒の握り方をしていたと注意していた。
「貴方はたかが箒の握り方と思っているのでしょうがそのたかがで命を落とすかもしれないのですよ」
マダム・フーチにここまで言わせる危ない握り方とはどんなものなのか気になって顔を上げたサフィニアはそこでやっと隣に立つ生徒がザカリアスであると気が付く。
マダム・フーチの鋭い眼光に視線を逸らしていた彼と目が合うなり渋面になるザカリアスにサフィニアはこのまま目を合わせていてはまた絡まれかねないとそっぽを向いた。
それから暫く上昇と下降の練習が続き、授業の終わりが近付いた頃、マダム・フーチは箒を使っての自由行動を許すと皆は喜んで空へと飛んで行く。
皆が思い思いに空へと上がる中、サフィニアも箒の柄を掴み空へ上がろうと構えていると教師以外からは余り呼ばれないファミリーネームで呼び止める声。
見ればザカリアスが厳しい顔付きで先程より近い距離で立っている。
先程、マダム・フーチに注意を受けていた自分を見て笑っていただろうと言いがかりをつけてくるザカリアスにうんざりしたサフィニアは否定をするとすぐさま空へと上昇した。
話も終わらぬ内に地上置いていかれたザカリアスはすぐ様箒を掴むとサフィニアを追いかける様に空へと浮かぶ。
地上から見るのとは違った景色に感動するのも束の間此方へと向かってくるザカリアスに気付いたサフィニアは彼から離れようとした時、箒に乗ったザカリアスは一人騒ぎ始めた。
「おい、何でそっちに曲がるんだ!言う事を聞け!」
喚くザカリアスに周りを飛んでいた生徒達も何事かと彼を注視する。
どうやらザカリアスが進みたい方向より箒が勝手に左へとずれてしまうらしくサフィニアに向かって飛んでいたのであろうザカリアスの跨る箒は今や何処へ向かっているのか少しずつ左に曲がりながら飛んで行く。
そんな箒にザカリアスは喚くのだがまさか箒が勝手に左へ左へ飛んで行っている事など知らない生徒達はそれが彼の奇行の様に見えて一体彼は何をしているのだろうと呆然としていた。
サフィニアはザカリアスの言動からフレッドとジョージより以前から聞いていた癖のある箒の話を思い出す。
きっと彼はその話に出て来たどうしても少し左に行ってしまう箒が当たったのだろうとサフィニアは思った。
ザカリアスの乗った箒がどんどん湖の方へと飛んで行くのを見ているとマダム・フーチが授業の終わりを告げ、地上へ降りた者から箒を返却し城へ戻る様に言うのでサフィニアはザカリアスが箒と格闘している内にさっさと地上へ戻り城へと駆け込む。
サフィニアとしては何も問題も騒ぎも無く飛行訓練の授業は終わった。