マグル生まれの魔法使い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
金曜日の正午。
特に示し合わせた訳でも無いのに図書館で偶然にもハーマイオニーと会ったサフィニアは何時もの様にグリフィンドールの授業の様子を彼女に尋ねた。
グリフィンドールは午前中に初めての魔法薬学の授業があったらしくハーマイオニーは授業の様子を話してくれた。
「魔法薬学は絶対工程を間違えちゃ駄目よ。本当に悲惨な事になるから」
聞けばネビルが薬を作る最中、火を止めてから入れる材料を火のついた状態で鍋に投入した為鍋が溶け、失敗した魔法薬が辺り一帯に飛び散り怪我人も出たらしい。
その授業ではおできを治す薬を作っていたが誤った工程を行なった為に治す筈の薬はおできを生む薬になり、それを一番近くで被ったネビルは今も医務室なのだとか。
「後、貴女の従兄弟も大変だったわよ」
「ハリーが?」
ハリーは何がどう大変だったのかハーマイオニーは教えてくれなかったがサフィニアはすぐに知った。
昼食の為大広間に入り、何時もの様にハリーの横の席に着いた所でハリーから話を切り出して来たのだ。
「サフィニア聞いてよ!」
挨拶もそこそこにハリーは今日の授業であった事、魔法薬学での事を話した。
「スネイプの奴まるで僕を目の敵にでもするかの様に何かにつけて減点、減点って!」
「ハリー、先生を呼び捨てにするのはどうかと思うわ」
サフィニアに呼び方を指摘されたハリーは小さな声で「スネイプ先生」と言い直す。
素直に言い直したハリーに満足のサフィニアは話の続きを促した。
「授業の始めには嫌味ったらしく僕を英雄殿とか呼んで難しい質問してくるし」
「けどハリー!君ってばスネイプがした三つの質問の内、最後のは答えられてたよな」
二人の会話に入って来たロンは最後の質問でハリーが答えた時のスネイプの顔がとても愉快でその顔はまるで鳩が豆鉄砲を食った様な顔だったらしいのだが質問の合間合間に詰られたハリーは落ち込み、俯いていてスネイプのそんな顔を見損ねていた。
「僕には魔法薬学は無理だ」
「まだ始まったばかりなのに」
サフィニアは机に突っ伏したハリーの背中を撫でて宥めてみるが余り効果は無い。
双子の兄であるダドリーを宥めるのには母親であるペチュニアより得意だと自負しているサフィニアであるがハリーはダドリーより癇癪を起こす事が少なかった為宥めようにも宥め方がいまいち分からなかった。
向かいに座るロンに助けを求めようとサフィニアは顔を上げるが目が合うなり両手を広げられて首を横に振られる。
実はロンもサフィニアが来るまでハリーをあの手この手で慰め宥めようとしたのだが上手くいかなかったのだ。
「取り敢えずお昼を食べましょハリー。貴方も魔法薬学の授業で疲れているだろうし」
少しでも嫌な事を忘れさせようとサフィニアは昼食を勧めた。
机に突っ伏したままのハリーにお皿を渡すように言えば取り皿が差し出されるのでその皿と自分の皿にチキンが挟まれたサンドイッチを一切れずつとサラダ、トマトスープをカップによそう。
よそったトマトスープをハリーの側に置けば匂いに誘われたのか緩慢な動きでハリーは起き上がる。
「ここの授業って始めての事ばっかりだから質問されても答えられない事だってあるわよ」
「そうそう。それに君はみんなが分からない質問に一つだけ答えてた。それだけでも凄いよ」
フォークを掲げ、笑いながら尊敬の念を伝えて来るロンにハリーは頬を掻くとちらりと横目でサフィニアを見た。
「あれはよくサフィニアが本を読みながら呟いてたからだよ。たまたまなんだ」
「僕なんかパーシーが横で呪文を呟いてても覚えられないけどな」
やっぱり君は凄いとソーセージを食みながら感心するロンはハリーがサフィニアの呟きを一度聞いただけで覚えたと思っているが実はそうではない。
一定の周期で何度も同じ教科書を読んでいたサフィニアが寝る直前になってもその音読学習を止めなかった為、眠りの淵までサフィニアの呟きを何度も何度も聞いていたハリーの頭にはその読み上げていた一部が記憶に残っていた。
因みにもうすぐ離れ離れの生活だから残りの休みの間は三人一緒に寝ようと提案したダドリーもであるがマグルの世界で求められる知識では無いので彼の記憶の片隅に置かれた知識はこの先日の目を見る事は無い。
「そういえば私、この後ネビルのお見舞いに行こうと思うの」
ハリーの午後からの予定を尋ねればハリーは申し訳なさそうな顔をしてこのあと森番であるハグリットの所に行くのだと言った。
ハグリットと言われてサフィニアが思い出したのはホグズミード駅での事だ。
ランプ片手に新入生を誘導していたハグリットはハリーを目視するなり感激の声を上げた。
ハリーの成長とホグワーツへの入学を大いに喜ぶとまるで赤子でも抱き上げるかの様にハリーを軽々と空へ掲げて回って見せた。
一回転をしてハリーを地面に下ろしたハグリットはハリーと、サフィニアにも謝罪をした。
彼曰く二人の学用品購入に付いて行くのは当初ハグリットの予定だったのだが用事がありその役をスネイプに代わってもらったのだと言う。
ハグリットはそれはもう申し訳なさそうに、そして残念がってもいたが、サフィニアは其処までのやりとりを思い出しておかしいのだと呟く。
「何がおかしいのサフィニア?」
「おかしいのよハリー。ハグリットはホグズミード駅で私達の学用品購入に付いて行けなくて残念がってたけど私は見たのよ。グリンゴッツ魔法銀行でゴブリンとやりとりをするハグリットの姿を」
ハリーとスネイプがハリーの両親が遺したというお金を下ろしに行っている間にサフィニアはマグルの貨幣を魔法界のお金に換金していた。
その際隣には大きな巨人がいてサフィニアは驚いたのだが今ならその巨人がハグリットであると分かる。
ハグリットはあの学用品購入時にダイアゴン横丁いたのだ。
行き先が同じなら学用品購入ついでに用事も出来たのではとサフィニアは思うのだがハリーはそう思わない様でハグリットは銀行に寄ったのがついででその後用事があったのだろうと言った。
食事が終わる頃にはハリーの気持ちもかなり落ち着いており、昼食を終えたサフィニアとハリー、ロンの三人は大広間の前で別れた。
ハグリットの小屋へと向かう二人に手を振って見送りサフィニアは一旦ハッフルパフ寮へと向かう。
部屋で鞄の中身を入れ替えるとそれを抱えて寮を出る。
地下から地上階へと上がる階段で見覚えのあるホワイト・ブロンドの髪を見つけたサフィニアは階段を駆け上がり相手に声を掛けた。
「ドラコ!」
「ああ、サフィニアか」
振り向いたドラコはサフィニアにこれから図書館に行くのか尋ねるので肯定した。
ドラコの背後には立派な体躯のスリザリン生が二人。
その二人がドラコと一緒にいるのは何度か目にした事があるが名前を知らない事に気付いたサフィニアは自ら名乗ると二人に手を差し出す。
にこにこと微笑むサフィニアは二人からの自己紹介を待つが二人はサフィニアを何度か見ると小声で話しており何も返って来ない。
一向に自分に対して喋らない二人にサフィニアは首を傾げているとドラコが二人を指差して彼等の名前を告げた。
そしてそのまま追い払う様に二人に何処かへ行く様に言うと二人はそれに従う様にゆったりとした足取り階段を登り切り、中庭の方へと歩いて行く。
「二人は良かったの?彼等と何処かへ行く予定だったんじゃ」
「僕が図書館に行くのに奴等が勝手に付いて来ただけだ。
クラッブとゴイルと図書館に行くより君と一緒の方が遥かに有意義だよ」
「そう言われるとちょっと嬉しい」
そう言ってほんのり頬を染め、照れて見せたサフィニアにドラコは何か思いついたのか口の端を吊り上げると足を一歩引き、恭しく頭を下げる。
「図書館へ御一緒しても?」とまるでダンスにでも誘うかの様に尋ねて来たドラコに笑みを零してサフィニアは彼の誘いを喜んで受け入れる。
でもその前に寄りたい所があるというサフィニアにドラコは首を傾げた。
「ネビル怪我は大丈夫?!」
勢いよく医務室に入るサフィニアにドラコは驚いた。
すぐに校医であるマダム・ポンフリー叱咤が飛んでくると医務室の扉の外でドラコは耳を塞いで身構えるが待てども何も起こらない。
どうやらマダム・ポンフリーは不在らしくドラコが医務室を覗けばそこにはサフィニアとベッドに腰掛けるネビルの姿しかなく安心したドラコは一息吐いて医務室へと入った。
「ハーマイオニーから貴方が医務室に行ったと聞いてお見舞いに来たの」
「ありがとうサフィニア。
君はハッフルパフ寮生なのに他寮の僕のお見舞いなんて優しいね」
「友達のお見舞いに何処の寮とか関係ないわよ」
「ね、ドラコ」と突然話を振られたドラコ、
スリザリン生であるドラコの名にネビルの二人は驚いた。
医務室に置かれた薬品の数々を興味深げに見ていたドラコの姿を視界に捉えたネビルはベッドから転げ落ちるのではという位に再度驚いて見せる。
「ど、どうしてマルフォイ。君が、」
「サフィニアと図書館に行く途中付き合わされただけだ」
大変不本意だ、という顔をしたドラコはサフィニアの隣に立つとおできの赤い跡がうっすら顔に残るネビルの顔を見て鼻で笑う。
「へえ、授業の時よりは少しはマシになったみたいだな」
ベッドの上いたネビルはじろじろと自身の顔を観察するドラコから顔を逸らす。
それでも不躾な視線を外さないドラコにサフィニアは口を挟んだ。
「もうドラコったらそこは傷の治りが早くて良かった、でしょ。素直じゃないな」
「え、」
「違う!僕は・・・〜!!先に図書館へ行く」
サフィニア発言にネビルが呆然としていればドラコはみるみる内に顔を赤くしてますますネビルを驚かせた。
反論もままならぬ内にドラコは踵を返して医務室の扉へと歩いて行く。
そんなドラコに慌てて待つ様に言いながらサフィニアは抱えていた鞄を開けると中からノートと本を取り出してネビルに渡した。
「これ、授業のノートと今回の課題の参考になりそうな本。
授業の進み具合は今のところ一緒だから多分使えると思うわ」
「あ、ありがとう」
「また一緒に課題をしましょうねネビル」
サフィニアはネビルの肩を軽く叩くと既に医務室を出たドラコを追って駆け足で医務室から出て行く。
医務室に一人残ったネビルはサフィニアの言葉を反芻させる。
「友達、また一緒に」
「あら、ロングボトム」
サフィニアと入れ替わりで医務室に入って来たマダム・ポンフリーはネビルの顔を見るなり近付いて彼の額に自身の手を当てる。
「貴方顔が真っ赤ですよ。風邪かしら」
マダム・ポンフリーは自身の額の熱とネビルの額の熱を比べるが差違はない。
身体の調子でおかしなところはないかマダム・ポンフリーは尋ねるがネビルはまるで夢心地の様子で彼女の問いに答え無いのでマダム・ポンフリーはただひたすらに頭を傾げるしか無かった。
図書館に着いてもドラコは怒っていた。
マダム・ピンスが館内で目を光らしているので大きな声を出さないがサフィニアの医務室での発言にドラコは怒っている。
「僕がロングボトムの身を心配する訳無いだろう」
「だって私にはネビルのおできの治りが早くて安心した様に聞こえたんだもの」
「それは君の耳がおかしい」
「失礼ね。私の耳は何時も絶好調よ」
不機嫌さが滲んで来たサフィニアの声にこのままでは話が平行線を辿るに察したドラコは突然思い出した風を装い話を無理矢理魔法薬学の話題に変えた。
サフィニアもこのままでは良くないと思っていたので彼の持ち出した話題に乗りかかる。
「材料を刻む時なんかまるでお菓子作りをしているみたいで楽しかったわ」
「僕はお菓子作りはした事がないから分からないけど確かに楽しかった。
角ナメクジの茹で方が完璧だとスネイプ先生に褒められたしね」
教室にいる生徒が一度は注意される中、唯一スネイプに褒められたドラコはその時の事を鼻高々に語った。
サフィニアもその箇所は授業中に注意されていたのでドラコから茹で方のコツを聞き出すと持って来ていた教科書に書き加える。
書き終えたサフィニアは羽根ペンを机に置くと溜息を吐いた。
「溜息なんて君らしくないな」
ドラコがその浮かない顔色と溜息の訳を聞くとサフィニアは魔法薬学の授業に対しての不安を吐露する。
杖さえあれば呪文の復習が出来る呪文学や変身術、教科書や図書館の本で予習復習の出来る筆記メインの授業と違い魔法薬学は寮や談話室、広間での予習と復習が出来ない。
授業中に悪い所を指摘されてもそれを次の授業迄に直す事が出来無いのだ。
サフィニアなりに授業中に指摘された所は教科書にメモを書くなりして次回の授業同じ轍は踏まない様に心掛けているし、次の授業に向けて教科書以外の本を読むなど予習をしているがやはり実際に薬草や鍋を使っての練習復習、予習が無くては心許ない。
そこに昼食でのハリーの話である。
興味があり現在サフィニアの中では暫定一位の好きな教科である魔法薬学で昼間のハリー様に叱られて減点でもされてしまったらと不安を口にするサフィニアにそうだなと、一緒に思い悩む振りをしながらもドラコは午前中の授業の事を思い出す。
授業中の出来事をスリザリン贔屓に見ても正直ドラコは「一体、ハリーはスネイプ先生に何をしたんだ」と頭を傾げる程に何かしらの私情を感じられるものだった。
が、魔法薬学が好きだというサフィニアを気遣いドラコは気休めに言葉をかけるがサフィニアの溜息は止まない。
「魔法薬の調合の練習が出来たらどんなにいいか」
「それはそれは、勉強熱心な事ですな」
茶化す様な言葉にサフィニアは思わず唇を尖らせ、言葉を返す。
「だって一番好きな教科ですし。頑張りたいじゃ無いですか」
サフィニアの言葉を未だ信じていないのか何処か試す様な声を漏らすと
「ならば来週の金曜。夕食が済み次第、魔法薬学の教室へ来るがいい。特別に教室の使用を許可する」
と言った。
窓硝子越しに外の景色をぼんやりと眺めていたサフィニアは棒読みに喜んで見せる。
それから少し間を置いてドラコではない誰かと話していた事に気付いたサフィニアは勢いよく振り向くと分厚い本を片手にスネイプが立っていた。
ドラコも今の今まで気付かずにいたらしくサフィニアと同じく固まっている。
「スネイプ先生、今の話は本当ですか?」
「我輩が冗談を言う様に見えるかね」
スネイプの返答にそうは見え無いと言う言葉をサフィニアは何とか飲み込むとだんだんと頬を紅潮させ、喜色を浮かべる。
サフィニアは教科書と筆記用具以外に持ち物は何を持って伺えばいいのか尋ねた。
鍋も薬草も全て教室の物を使う事が許され、監督役としてスネイプが付き、魔法薬学に関する質問なら受付けるという破格の待遇にサフィニアの隣に座って聞いていたドラコは椅子から立ち上がると手を挙げて己の参加の意思を示す。
「僕も参加させて下さい」
「参加も何もサフィニア・ダーズリーが自主学習で教室を使用するのを我輩は見張るだけだ」
「だったら僕も自主学習に教室を使わせて下さい」
「構わん。勉学に励む気のある者の妨げになる気はない」
スネイプ了承を得たドラコとサフィニアは顔を合わせると微笑み合う。
二人で、主にサフィニアが喜び声を上げはしゃいでおり、そんなサフィニアの頭の上にスネイプは分厚い本を乗せた。
彼は乗せるなりすぐに手を離すのでバランスも取れず頭から落ちて来た本をサフィニアは受け止めると表紙を一読し頁を捲る。
「しかし材料費も安いものではない。
そこで君達には教室の物を使った自主学習を許す代わりに授業とは別に課題を与える。
この本についてのレポートを来週の金曜自主学習の前に提出するように」
元気よく返事を返すサフィニアに対しドラコは課題が増えた事に顔を歪めた。
いくら一年生と言えど授業の度に課題は沢山出ていて今でも提出期限迄にと必死に課題をこなしている状態なのにそこにまた課題が増える。
しかもドラコは二年生から受けられるクィディッチの選抜を目指して箒の練習を考えていたのでこれ以上課題が増えてしまっては考えていた箒の練習も難しい。
課題が追加されても喜ぶ表情が曇らないサフィニアと対照的なドラコの表情に気付いたスネイプは課題が嫌なら無理に参加する事もないと自主学習を止める事を勧めるがドラコは否と答えた。
「やります。僕、やります」
「良いのかね。いくら自寮の生徒とはいえ我輩は追加の課題を取り止めたりしないぞ」
サフィニアから分厚い本を受け取ったドラコは本を開いてぱらぱらと頁を捲りすぐに閉じる。
余りの文字の量とその頁数の多さに目眩を覚えたドラコであるが隣に座るサフィニアが本の表紙を撫でながら来週が楽しみだと言うので何とか意識は保つとスネイプに向かって言い切った。
「大丈夫です。この本の内容に関したレポートですよね。来週の金曜日には必ず提出します」
特に示し合わせた訳でも無いのに図書館で偶然にもハーマイオニーと会ったサフィニアは何時もの様にグリフィンドールの授業の様子を彼女に尋ねた。
グリフィンドールは午前中に初めての魔法薬学の授業があったらしくハーマイオニーは授業の様子を話してくれた。
「魔法薬学は絶対工程を間違えちゃ駄目よ。本当に悲惨な事になるから」
聞けばネビルが薬を作る最中、火を止めてから入れる材料を火のついた状態で鍋に投入した為鍋が溶け、失敗した魔法薬が辺り一帯に飛び散り怪我人も出たらしい。
その授業ではおできを治す薬を作っていたが誤った工程を行なった為に治す筈の薬はおできを生む薬になり、それを一番近くで被ったネビルは今も医務室なのだとか。
「後、貴女の従兄弟も大変だったわよ」
「ハリーが?」
ハリーは何がどう大変だったのかハーマイオニーは教えてくれなかったがサフィニアはすぐに知った。
昼食の為大広間に入り、何時もの様にハリーの横の席に着いた所でハリーから話を切り出して来たのだ。
「サフィニア聞いてよ!」
挨拶もそこそこにハリーは今日の授業であった事、魔法薬学での事を話した。
「スネイプの奴まるで僕を目の敵にでもするかの様に何かにつけて減点、減点って!」
「ハリー、先生を呼び捨てにするのはどうかと思うわ」
サフィニアに呼び方を指摘されたハリーは小さな声で「スネイプ先生」と言い直す。
素直に言い直したハリーに満足のサフィニアは話の続きを促した。
「授業の始めには嫌味ったらしく僕を英雄殿とか呼んで難しい質問してくるし」
「けどハリー!君ってばスネイプがした三つの質問の内、最後のは答えられてたよな」
二人の会話に入って来たロンは最後の質問でハリーが答えた時のスネイプの顔がとても愉快でその顔はまるで鳩が豆鉄砲を食った様な顔だったらしいのだが質問の合間合間に詰られたハリーは落ち込み、俯いていてスネイプのそんな顔を見損ねていた。
「僕には魔法薬学は無理だ」
「まだ始まったばかりなのに」
サフィニアは机に突っ伏したハリーの背中を撫でて宥めてみるが余り効果は無い。
双子の兄であるダドリーを宥めるのには母親であるペチュニアより得意だと自負しているサフィニアであるがハリーはダドリーより癇癪を起こす事が少なかった為宥めようにも宥め方がいまいち分からなかった。
向かいに座るロンに助けを求めようとサフィニアは顔を上げるが目が合うなり両手を広げられて首を横に振られる。
実はロンもサフィニアが来るまでハリーをあの手この手で慰め宥めようとしたのだが上手くいかなかったのだ。
「取り敢えずお昼を食べましょハリー。貴方も魔法薬学の授業で疲れているだろうし」
少しでも嫌な事を忘れさせようとサフィニアは昼食を勧めた。
机に突っ伏したままのハリーにお皿を渡すように言えば取り皿が差し出されるのでその皿と自分の皿にチキンが挟まれたサンドイッチを一切れずつとサラダ、トマトスープをカップによそう。
よそったトマトスープをハリーの側に置けば匂いに誘われたのか緩慢な動きでハリーは起き上がる。
「ここの授業って始めての事ばっかりだから質問されても答えられない事だってあるわよ」
「そうそう。それに君はみんなが分からない質問に一つだけ答えてた。それだけでも凄いよ」
フォークを掲げ、笑いながら尊敬の念を伝えて来るロンにハリーは頬を掻くとちらりと横目でサフィニアを見た。
「あれはよくサフィニアが本を読みながら呟いてたからだよ。たまたまなんだ」
「僕なんかパーシーが横で呪文を呟いてても覚えられないけどな」
やっぱり君は凄いとソーセージを食みながら感心するロンはハリーがサフィニアの呟きを一度聞いただけで覚えたと思っているが実はそうではない。
一定の周期で何度も同じ教科書を読んでいたサフィニアが寝る直前になってもその音読学習を止めなかった為、眠りの淵までサフィニアの呟きを何度も何度も聞いていたハリーの頭にはその読み上げていた一部が記憶に残っていた。
因みにもうすぐ離れ離れの生活だから残りの休みの間は三人一緒に寝ようと提案したダドリーもであるがマグルの世界で求められる知識では無いので彼の記憶の片隅に置かれた知識はこの先日の目を見る事は無い。
「そういえば私、この後ネビルのお見舞いに行こうと思うの」
ハリーの午後からの予定を尋ねればハリーは申し訳なさそうな顔をしてこのあと森番であるハグリットの所に行くのだと言った。
ハグリットと言われてサフィニアが思い出したのはホグズミード駅での事だ。
ランプ片手に新入生を誘導していたハグリットはハリーを目視するなり感激の声を上げた。
ハリーの成長とホグワーツへの入学を大いに喜ぶとまるで赤子でも抱き上げるかの様にハリーを軽々と空へ掲げて回って見せた。
一回転をしてハリーを地面に下ろしたハグリットはハリーと、サフィニアにも謝罪をした。
彼曰く二人の学用品購入に付いて行くのは当初ハグリットの予定だったのだが用事がありその役をスネイプに代わってもらったのだと言う。
ハグリットはそれはもう申し訳なさそうに、そして残念がってもいたが、サフィニアは其処までのやりとりを思い出しておかしいのだと呟く。
「何がおかしいのサフィニア?」
「おかしいのよハリー。ハグリットはホグズミード駅で私達の学用品購入に付いて行けなくて残念がってたけど私は見たのよ。グリンゴッツ魔法銀行でゴブリンとやりとりをするハグリットの姿を」
ハリーとスネイプがハリーの両親が遺したというお金を下ろしに行っている間にサフィニアはマグルの貨幣を魔法界のお金に換金していた。
その際隣には大きな巨人がいてサフィニアは驚いたのだが今ならその巨人がハグリットであると分かる。
ハグリットはあの学用品購入時にダイアゴン横丁いたのだ。
行き先が同じなら学用品購入ついでに用事も出来たのではとサフィニアは思うのだがハリーはそう思わない様でハグリットは銀行に寄ったのがついででその後用事があったのだろうと言った。
食事が終わる頃にはハリーの気持ちもかなり落ち着いており、昼食を終えたサフィニアとハリー、ロンの三人は大広間の前で別れた。
ハグリットの小屋へと向かう二人に手を振って見送りサフィニアは一旦ハッフルパフ寮へと向かう。
部屋で鞄の中身を入れ替えるとそれを抱えて寮を出る。
地下から地上階へと上がる階段で見覚えのあるホワイト・ブロンドの髪を見つけたサフィニアは階段を駆け上がり相手に声を掛けた。
「ドラコ!」
「ああ、サフィニアか」
振り向いたドラコはサフィニアにこれから図書館に行くのか尋ねるので肯定した。
ドラコの背後には立派な体躯のスリザリン生が二人。
その二人がドラコと一緒にいるのは何度か目にした事があるが名前を知らない事に気付いたサフィニアは自ら名乗ると二人に手を差し出す。
にこにこと微笑むサフィニアは二人からの自己紹介を待つが二人はサフィニアを何度か見ると小声で話しており何も返って来ない。
一向に自分に対して喋らない二人にサフィニアは首を傾げているとドラコが二人を指差して彼等の名前を告げた。
そしてそのまま追い払う様に二人に何処かへ行く様に言うと二人はそれに従う様にゆったりとした足取り階段を登り切り、中庭の方へと歩いて行く。
「二人は良かったの?彼等と何処かへ行く予定だったんじゃ」
「僕が図書館に行くのに奴等が勝手に付いて来ただけだ。
クラッブとゴイルと図書館に行くより君と一緒の方が遥かに有意義だよ」
「そう言われるとちょっと嬉しい」
そう言ってほんのり頬を染め、照れて見せたサフィニアにドラコは何か思いついたのか口の端を吊り上げると足を一歩引き、恭しく頭を下げる。
「図書館へ御一緒しても?」とまるでダンスにでも誘うかの様に尋ねて来たドラコに笑みを零してサフィニアは彼の誘いを喜んで受け入れる。
でもその前に寄りたい所があるというサフィニアにドラコは首を傾げた。
「ネビル怪我は大丈夫?!」
勢いよく医務室に入るサフィニアにドラコは驚いた。
すぐに校医であるマダム・ポンフリー叱咤が飛んでくると医務室の扉の外でドラコは耳を塞いで身構えるが待てども何も起こらない。
どうやらマダム・ポンフリーは不在らしくドラコが医務室を覗けばそこにはサフィニアとベッドに腰掛けるネビルの姿しかなく安心したドラコは一息吐いて医務室へと入った。
「ハーマイオニーから貴方が医務室に行ったと聞いてお見舞いに来たの」
「ありがとうサフィニア。
君はハッフルパフ寮生なのに他寮の僕のお見舞いなんて優しいね」
「友達のお見舞いに何処の寮とか関係ないわよ」
「ね、ドラコ」と突然話を振られたドラコ、
スリザリン生であるドラコの名にネビルの二人は驚いた。
医務室に置かれた薬品の数々を興味深げに見ていたドラコの姿を視界に捉えたネビルはベッドから転げ落ちるのではという位に再度驚いて見せる。
「ど、どうしてマルフォイ。君が、」
「サフィニアと図書館に行く途中付き合わされただけだ」
大変不本意だ、という顔をしたドラコはサフィニアの隣に立つとおできの赤い跡がうっすら顔に残るネビルの顔を見て鼻で笑う。
「へえ、授業の時よりは少しはマシになったみたいだな」
ベッドの上いたネビルはじろじろと自身の顔を観察するドラコから顔を逸らす。
それでも不躾な視線を外さないドラコにサフィニアは口を挟んだ。
「もうドラコったらそこは傷の治りが早くて良かった、でしょ。素直じゃないな」
「え、」
「違う!僕は・・・〜!!先に図書館へ行く」
サフィニア発言にネビルが呆然としていればドラコはみるみる内に顔を赤くしてますますネビルを驚かせた。
反論もままならぬ内にドラコは踵を返して医務室の扉へと歩いて行く。
そんなドラコに慌てて待つ様に言いながらサフィニアは抱えていた鞄を開けると中からノートと本を取り出してネビルに渡した。
「これ、授業のノートと今回の課題の参考になりそうな本。
授業の進み具合は今のところ一緒だから多分使えると思うわ」
「あ、ありがとう」
「また一緒に課題をしましょうねネビル」
サフィニアはネビルの肩を軽く叩くと既に医務室を出たドラコを追って駆け足で医務室から出て行く。
医務室に一人残ったネビルはサフィニアの言葉を反芻させる。
「友達、また一緒に」
「あら、ロングボトム」
サフィニアと入れ替わりで医務室に入って来たマダム・ポンフリーはネビルの顔を見るなり近付いて彼の額に自身の手を当てる。
「貴方顔が真っ赤ですよ。風邪かしら」
マダム・ポンフリーは自身の額の熱とネビルの額の熱を比べるが差違はない。
身体の調子でおかしなところはないかマダム・ポンフリーは尋ねるがネビルはまるで夢心地の様子で彼女の問いに答え無いのでマダム・ポンフリーはただひたすらに頭を傾げるしか無かった。
図書館に着いてもドラコは怒っていた。
マダム・ピンスが館内で目を光らしているので大きな声を出さないがサフィニアの医務室での発言にドラコは怒っている。
「僕がロングボトムの身を心配する訳無いだろう」
「だって私にはネビルのおできの治りが早くて安心した様に聞こえたんだもの」
「それは君の耳がおかしい」
「失礼ね。私の耳は何時も絶好調よ」
不機嫌さが滲んで来たサフィニアの声にこのままでは話が平行線を辿るに察したドラコは突然思い出した風を装い話を無理矢理魔法薬学の話題に変えた。
サフィニアもこのままでは良くないと思っていたので彼の持ち出した話題に乗りかかる。
「材料を刻む時なんかまるでお菓子作りをしているみたいで楽しかったわ」
「僕はお菓子作りはした事がないから分からないけど確かに楽しかった。
角ナメクジの茹で方が完璧だとスネイプ先生に褒められたしね」
教室にいる生徒が一度は注意される中、唯一スネイプに褒められたドラコはその時の事を鼻高々に語った。
サフィニアもその箇所は授業中に注意されていたのでドラコから茹で方のコツを聞き出すと持って来ていた教科書に書き加える。
書き終えたサフィニアは羽根ペンを机に置くと溜息を吐いた。
「溜息なんて君らしくないな」
ドラコがその浮かない顔色と溜息の訳を聞くとサフィニアは魔法薬学の授業に対しての不安を吐露する。
杖さえあれば呪文の復習が出来る呪文学や変身術、教科書や図書館の本で予習復習の出来る筆記メインの授業と違い魔法薬学は寮や談話室、広間での予習と復習が出来ない。
授業中に悪い所を指摘されてもそれを次の授業迄に直す事が出来無いのだ。
サフィニアなりに授業中に指摘された所は教科書にメモを書くなりして次回の授業同じ轍は踏まない様に心掛けているし、次の授業に向けて教科書以外の本を読むなど予習をしているがやはり実際に薬草や鍋を使っての練習復習、予習が無くては心許ない。
そこに昼食でのハリーの話である。
興味があり現在サフィニアの中では暫定一位の好きな教科である魔法薬学で昼間のハリー様に叱られて減点でもされてしまったらと不安を口にするサフィニアにそうだなと、一緒に思い悩む振りをしながらもドラコは午前中の授業の事を思い出す。
授業中の出来事をスリザリン贔屓に見ても正直ドラコは「一体、ハリーはスネイプ先生に何をしたんだ」と頭を傾げる程に何かしらの私情を感じられるものだった。
が、魔法薬学が好きだというサフィニアを気遣いドラコは気休めに言葉をかけるがサフィニアの溜息は止まない。
「魔法薬の調合の練習が出来たらどんなにいいか」
「それはそれは、勉強熱心な事ですな」
茶化す様な言葉にサフィニアは思わず唇を尖らせ、言葉を返す。
「だって一番好きな教科ですし。頑張りたいじゃ無いですか」
サフィニアの言葉を未だ信じていないのか何処か試す様な声を漏らすと
「ならば来週の金曜。夕食が済み次第、魔法薬学の教室へ来るがいい。特別に教室の使用を許可する」
と言った。
窓硝子越しに外の景色をぼんやりと眺めていたサフィニアは棒読みに喜んで見せる。
それから少し間を置いてドラコではない誰かと話していた事に気付いたサフィニアは勢いよく振り向くと分厚い本を片手にスネイプが立っていた。
ドラコも今の今まで気付かずにいたらしくサフィニアと同じく固まっている。
「スネイプ先生、今の話は本当ですか?」
「我輩が冗談を言う様に見えるかね」
スネイプの返答にそうは見え無いと言う言葉をサフィニアは何とか飲み込むとだんだんと頬を紅潮させ、喜色を浮かべる。
サフィニアは教科書と筆記用具以外に持ち物は何を持って伺えばいいのか尋ねた。
鍋も薬草も全て教室の物を使う事が許され、監督役としてスネイプが付き、魔法薬学に関する質問なら受付けるという破格の待遇にサフィニアの隣に座って聞いていたドラコは椅子から立ち上がると手を挙げて己の参加の意思を示す。
「僕も参加させて下さい」
「参加も何もサフィニア・ダーズリーが自主学習で教室を使用するのを我輩は見張るだけだ」
「だったら僕も自主学習に教室を使わせて下さい」
「構わん。勉学に励む気のある者の妨げになる気はない」
スネイプ了承を得たドラコとサフィニアは顔を合わせると微笑み合う。
二人で、主にサフィニアが喜び声を上げはしゃいでおり、そんなサフィニアの頭の上にスネイプは分厚い本を乗せた。
彼は乗せるなりすぐに手を離すのでバランスも取れず頭から落ちて来た本をサフィニアは受け止めると表紙を一読し頁を捲る。
「しかし材料費も安いものではない。
そこで君達には教室の物を使った自主学習を許す代わりに授業とは別に課題を与える。
この本についてのレポートを来週の金曜自主学習の前に提出するように」
元気よく返事を返すサフィニアに対しドラコは課題が増えた事に顔を歪めた。
いくら一年生と言えど授業の度に課題は沢山出ていて今でも提出期限迄にと必死に課題をこなしている状態なのにそこにまた課題が増える。
しかもドラコは二年生から受けられるクィディッチの選抜を目指して箒の練習を考えていたのでこれ以上課題が増えてしまっては考えていた箒の練習も難しい。
課題が追加されても喜ぶ表情が曇らないサフィニアと対照的なドラコの表情に気付いたスネイプは課題が嫌なら無理に参加する事もないと自主学習を止める事を勧めるがドラコは否と答えた。
「やります。僕、やります」
「良いのかね。いくら自寮の生徒とはいえ我輩は追加の課題を取り止めたりしないぞ」
サフィニアから分厚い本を受け取ったドラコは本を開いてぱらぱらと頁を捲りすぐに閉じる。
余りの文字の量とその頁数の多さに目眩を覚えたドラコであるが隣に座るサフィニアが本の表紙を撫でながら来週が楽しみだと言うので何とか意識は保つとスネイプに向かって言い切った。
「大丈夫です。この本の内容に関したレポートですよね。来週の金曜日には必ず提出します」