マグル生まれの魔法使い
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組み分け帽子の歌が終わると早速組み分けが始まった。
ファミリーネームの頭文字からアルファベット順で生徒が呼ばれては四寮の何れかに組み分けされて行く。
「サフィニア・ダーズリー」
とうとう自身の名前が呼ばれて一緒に並んでいたハリーやドラコ、ロンへ小さく手を振ると先の生徒同様に椅子へと腰を下ろす。
頭に組み分け帽子が被せられサフィニアの視界は真っ暗になった。
見た目が見た目だっただけに黴臭そうだと失礼な事を考えていたサフィニアであるがいい意味で期待が裏切られ安堵する。
「やれやれ失礼なお嬢さんだ」
組み分け帽子が喋る事はここまでの組み分けで分かっていた事であるが今の帽子の言葉に驚いてサフィニアは思わず自身の口を押さえた。
失礼な考えを知らず知らずの内に口から漏らしていたのかと慌てれば帽子は否と言う。
何でも帽子は喋らなくても被った者の考えている事が分かるらしい。
そんなハイスペックな帽子に今度は素直に賞賛を思えば帽子は嬉しそうにサフィニアへ礼を言った。
「さて、組み分けを再開しよう」
組み分け帽子はサフィニアの頭の上で悩んだ。
サフィニアにはハッフルパフとレイブンクローへの適正を感じ取ったのだが何方が良いのか測りかねている。
二寮も候補に挙がり喜んでいるが先程までのドラコとロンの会話を思い出しサフィニア帽子に尋ねた。
「スリザリンとグリフィンドールかい?そうかうーん・・・そうだなあ」
どうやらそっちの寮に適正があるかというとそうでもないらしく帽子は悩んだ。
唸り声と共に悩み続ける帽子に何だか申し訳なくなってきたサフィニアは別にどの寮でも良いだろうと楽観的に考える事にした。
「その二寮が難しいならハッフルパフにしてもらえませんか」
心優しい人物が寮生に選ばれるハッフルパフなら双子の兄が心配する虐めも無いだろう。
実際、寮の説明をダドリーにした際彼は四寮の概要を聞いて「レイブンクローって賢い奴が行く所なの?なんか目を付けられると陰険な虐めに逢いそうだからそこは止めとけよ」と言われている。
対してハッフルパフは高評価だったのでそこに組み分けられれば心配性なダドリーも安心だろうとサフィニアは思った。
帽子は最後までレイブンクローでなく良いのかと尋ねてきたがやんわりと断ると声高らかに叫んだ。
「ハッフルパフ!」
右側のテーブルから拍手が聞こえた。
帽子にお礼を告げて立ち上がるとマクゴナガルがあちらへ行きなさいとサフィニアの背中を押す。
少し振り向いてハリー達がいる辺りに向かって小さく手を振るとハリーは笑顔で振り返してくれたがドラコとロンは何処か複雑な表情を浮かべている。
ハッフルパフ生が座る長机に向かえば上級生や同級生達から歓迎を受けた。
自己紹介も程々に組み分けの続きを見ていてばドラコは列車で言っていた通りスリザリンに、列車で会ったハーマイオニーはグリフィンドールに、そしてハリーの番となった。
マグゴナガルに呼ばれた瞬間、広間は静まり返り、そして広間は先程とは違った騒がしさでいっぱいとなる。
教師も上級生も同級生達も、一部の同級生は広間の騒々しさに戸惑ってはいるが周りの者達から説明でも受けたのか暫しの耳打ちの後好奇の目でハリーを見つめていた。
椅子に座ったハリーに帽子が被せられ誰もが固唾を飲んで組み分けの結果を今か今かと待つ。
顔を覆う程大きな帽子を被せられたハリーは口元だけ見えており時折口が動いている事から組み分け帽子と話しているらしいのだがサフィニアの席からでは帽子とハリーが何を喋っているのか分からない。
帽子が緩慢に動きハリーの組み分けを広間いっぱいに叫んだ。
「グリフィンドール!!」
瞬間、グリフィンドール寮の席からとても大きな歓声上がる。
何処からか聞き覚えのある声で「ポッターを取った!ポッターを取った!」と楽しそうな声が聞こえた。
ハリーはグリフィンドールの席に着く時サフィニアの方を見て申し訳無さそうな顔をしていたが彼が気にしない様にサフィニアは微笑んでいた。
適正な寮としてハッフルパフとレイブンクローが挙げられた時からサフィニアはハリーと寮が離れる気がしていたのだ。
「先程からハリー・ポッターに熱い視線を送っているが彼とはどういう関係なんだい」
隣に座っていた上級生に尋ねられサフィニアはハリーと従姉妹なのだと告げれば上級生は大袈裟に「わお!」と驚いて見せた。
ハリーの後も組み分けが続き、ロンは帽子を被る手前で「グリフィンドール!」と組み分けされ最後の生徒の組み分けが無事に終わる。
片付けられる組み分け帽子と入れ替わりでダンブルドアが立ち上がると彼は入学の祝いと挨拶もそこそこに彼の合図で目の前には沢山のご馳走が現れた。
驚いて目を丸くしたのはサフィニアだけでなく他の同級生も同様で、そんな彼らの反応を笑いながら上級生は食事の世話を焼いた。
「あ、スネイプさん」
取り皿にサラダとローストビーフを少々盛り付けたサフィニアはあれこれ他の料理を進めてくる上級生や同級生と攻防を繰り広げながら教員席に座りクィレルと話す人物に気が付く。
「スネイプ先生をご存知なんだね」
「スネイプさ、先生はどの教科を担当されているんですか?」
サフィニアの呟きを拾った上級生に尋ねれば「魔法薬学」と返って来て、学用品を買いに行ったあの日魔法に興味があると言ったサフィニアにそれに関連した書籍をいくつも見繕ってくれた事に納得した。
しかし上級生言葉はそれだけで終わらずスネイプに対する黒い噂を聞かされる。
「スネイプ先生はクィレル先生が受け持つ闇の魔術に対する防衛術の教授の座を狙っている」
「つまり二人はライバル」
「ライバルって・・・ライバルになるのか?」
スネイプクィレル、二人の関係性を表す言葉に悩む上級生を他所にサフィニアはダイアゴン横丁でクィレルに会った時のスネイプの素っ気なさを思い出し温かな表情で教師陣の席に座るスネイプを見つめた。
結局周りの勧めも虚しく食事は少量のサラダとローストビーフを少しずつ、デザートに葡萄を2〜3粒摘んだだけでサフィニアのホグワーツに来て初めての晩餐は終了する。
デザートが綺麗に片付けられた広間でダンブルドアからの注意喚起と連絡の後、ホグワーツの校歌を皆で思い思いに歌うと1年生は監督生の指示に従い大広間に出た。
集団の最後尾にいたサフィニアは呼び止められて振り向くとそこにはハリーがいて、数時間振りの従兄弟の姿に喜色の色を浮かべる。
お互い話したい事はこの数時間で山程あるが今はのんびり話している暇もない。
「明日の朝食一緒に食べようよ」
「嬉しい。じゃあ明日、グリフィンドールのテーブルにお邪魔するわね」
「席は僕が確保しておくから任せといて!」
朝食を共にする約束をしてサフィニアとハリーは別れた。
階段をハリーが登って暫く、上級生の怒る声が聞こえたが地下へと下るサフィニアには何が起こっているのか分からないし確かめる術も無い。
ピーブスがどうのと先程と同じ上級生の声が聞こえハリーが怒られた訳ではないのだと安心する。
「此処を2回程叩くと寮への入り口が現れるが間違えると熱々のビネガーが掛けられるから気を付けるように」
監督生から寮の入室方法を聞いてサフィニアは叩く場所とそのリズムを何度も頭に思い浮かべ刻んだ。
他の同級生達も熱々のビネガーを掛けられるのは嫌だと上級生の言った事を何度も反芻させている。
「大丈夫!熱したビネガーを掛けられた者は年に数人しかいないから!ほら、寮に入って」
笑う監督生に対し少なくても年に数人は被害にあっている事に笑えない面々。
そんな彼らに寮へ入るよう監督生は促し、寮へと足を踏み入れる。
前面には大きな暖炉。
室内の調度品は温かみのある色で纏められ此処が地下だという事を忘れてしまう程に室内は明るい。
監督生から寮内の注意事項を説明され、次いで部屋割りが発表された。
通常5人部屋の寮は人数調整でサフィニアの部屋はサフィニアを含めて3人、他の部屋も定員割れしている。
自室の場所を確認したサフィニアは未だ喋る同級生を尻目に一人自室へと向かう。
サフィニアに割り当てられたベットの側には列車に置かれていた筈の荷物が全て揃っており、全生徒の荷物をどうやって運んだのだろうとサフィニアは疑問に思いながら荷物を片付ける。
お風呂に入り歯を磨いて、明日の準備をしたサフィニアはベットの中で本を開くと数行読んでそのまま眠りについた。
寮が地下の為清々しい朝というか天気も時間も分からない。
重い瞼を擦りながら父親から強請りに強請って譲ってもらった手巻きの懐中時計で時間を確認すれば朝食にはまだまだ早い時間である。
しかしサフィニアはベッドから起き上がるとルームメイトを起こさない様に身支度を整えて寮から出た。
地下の廊下に出ると厨房が近いのか美味しそうな匂いが漂っており、朝食を楽しみに思いながら階段を登って地上へと上がる。
日の出前という事で地上へと上がっても薄暗さは地下と変わらず廊下に等間隔で灯された光源を頼りにサフィニアは薄暗い城内を探索した。
目指すは図書館で早起きな絵画の住人の道案内を頼りに眠る階段を登り、時折授業で使う教室の場所を確認しながら漸く図書館迄辿り着く。
道案内を買って出てくれた老人の人物画に礼を言って別れ、図書館へと入った。
やっと朝日が登ったのか室内は仄かに明るくサフィニアは魔法史の棚を見つけるとそこから二十世紀の魔法大事件の本を筆頭に何冊か取り出し一番明るい窓際の席で本を開いた。
得意の速読で活字を追い、一冊読んでは右に寄せ、また一冊読んではを繰り返し本の山が無くなると本を元の場所へと戻して新しい本を机に積み上げる。
図書館に置かれた魔法史の本は古代や中世について記述した物が多くサフィニアが知りたい近世、ハリーとその両親について書かれたものはあっても一行を満たすか満たさないかのものだった。
「1981年10月31日」、「生き残った男の子」、どれも似た記述でサフィニアは読んでいた本を閉じると椅子の背凭れに深く凭れて溜息を吐く。
「情報量が少な過ぎる」
どれもこれも突然赤ん坊が闇の帝王を倒したやったね!と童話の締めの感覚で終わっており如何して赤ん坊が闇の帝王と迄呼ばれたヴォルデモートを倒したのか、そもそも予言の影響でヴォルデモートに狙われる事となったポッター夫妻が何故あっさり居場所を見つかって殺されてしまったのか、大事な事がどの本にも書かれていない。
だらしなく椅子に凭れて図書館の天井を見上げていたサフィニアの顔に影がかかる。
気付いたサフィニアは体制はそのままに首だけを動かして影の元を追えば昨晩の宴会で見た図書館の司書マダム・ピンスが呆れた顔で立っていた。
彼女の口から朝食がもうすぐ始まっていると告げられてサフィニアは慌てて立ち上がると積み上げた本を抱え込み本棚へと走った。
背後から「本の扱いは丁寧に!」と厳しい声が飛んで来て返事をすれば「図書館では静かに!」とまた声が飛んたので今度は返事をせずに本を棚へと戻す。
一冊だけ読んでいない本があったのでその本はカウンターに移動していたマダム・ピンスに頼んで貸出の手続きを済ますとサフィニアは図書館を小走りで後にした。
やはり背後からマダム・ピンスの叱責の声が聞こえた気がするが図書館を出るなり小走りから駆け足で走っていたサフィニアには彼女の声は遠く何に対しての叱責なのかまでは分からない。
分厚い本と鞄を小脇に抱えたサフィニアは行きと同様の道順を辿り、階段は一段飛ばして下った。
早々に朝食を済ましたのであろう生徒とすれ違いながらサフィニアは大広間に飛び込むと目的の人物を探した。
髪色では判別が難しい為彼のトレードマークとも言えるくしゃくしゃの頭を探していれば赤色が目立つテーブルからサフィニアを呼ぶ声と共に手が上がり、サフィニアはその手目掛けて走った。
「ごめんねハリー!図書館で本に夢中になってて」
ハリーが昨晩の言葉の通り席を確保していてくれたのだろう一人分空いた彼の隣に荷物と本を置くとハリーとは反対の席に座る生徒に断りを入れてサフィニアは腰を下ろす。
グリフィンドール生が朝食を摂る席に平気な顔をして座る他寮であるサフィニアに驚いていたが構わずサフィニアはテーブルから自分とハリー用に朝食を取り分けた。
律儀に待っていてくれたハリーの取り皿に半分に分けたオムレツにベーコンを一切れ、茹でた野菜を少々とパンも半分に分けて乗せる。
その皿に乗せられた量を見て二人分の牛乳を注いでいたハリーは「こんなに食べられないよ」よ笑う。
「なんだハリーはサフィニアを待ってたのか」
「おはようロン」
今迄朝食に夢中でサフィニアが来た事に気付いてなかったのかベイクドビーンズのソースを頬に付けたロンは驚きの声を上げる。
「おはようサフィニア。ところでここはグリフィンドールのテーブルだぜ?」
ハッフルパフのテーブルはあっちと指差すロンにサフィニアは微笑みで応えてハリーが淹れた牛乳を一口含んだ。
「別に畏まった食事でも無いし特にどのテーブルがどの寮のものって決まってる訳でも無いし問題ないでしょ?」
「それに駄目だったら先生が注意に来てるよ」
サフィニアの言葉に合わせハリーの援護にロンもサフィニアを気にしていたグリフィンドール生も納得したのか口を噤む。
「なかなか来ないからそうかなって思ってたんだ。気になる本はあった?」
「それはもう沢山!一体どれから手をつけようか迷うぐらい」
魔法史の棚を探す途中で何度目的を忘れて別の本を手に取りそうになった事か。
しかしサフィニアには今一番知りたい事があった為不承不承ながら魔法史の棚を探した。
しかし他の本の誘惑を絶って迄探した本達ではサフィニアの疑問は解消されるどころか積もるばかりである。
ハリーの話を聞きながらサフィニアは小さく溜息を吐く。
背後から上級生だろうか、ひそひそと話し声が聞こえる。
ハリーは話していて気付いていないが「生き残った英雄」、「例のあの人」という言葉からハリーについて話しているのがサフィニアには分かった。
後方から向けられる不躾な視線にサフィニアは不快感が拭えず思わず口に含んだフォークを噛んだ。
「それで酷いんだよあの組み分け帽子。僕もサフィニアと同じハッフルパフが良いって言ってるのに聞いてくれないんだ」
「あら、そうなの。だからハリーの組み分け迄時間が長かったのね」
早い者だと帽子を被る手前で組み分けられているというのにハリーの組み分けはとても長かった。
サフィニアの席の近くに座っていた上級生はあまりの長さに「あの英雄が組み分け困難者?」と戸惑っていた。
結局どうやって決まったのかサフィニアが尋ねればハリーはフォークを咥えて頬を膨らませる。
「ハッフルパフに入りたい僕の意見を無視して帽子がグリフィンドールって」
「押し通されたのね」
無理に押し通されただけにハリーの中で未だ組み分けに納得していないのか眉を八の字に下げて悲しげに皿の上のにんじんを見つめていた。
どうして自分がグリフィンドールに組み分けされたのか分からないと言うハリーの耳元にサフィニアは唇を寄せる。
「あのね。私もある人から聞いたんだけどね」
思い出すのはダイアゴン横丁に行った帰りのバスでの会話。
話していたのはスネイプであるが何と無くハリーがスネイプに対して苦手意識を持っているのを感じていた為、彼の名前は伏せる。
「ハリーのお父さんもお母さんもグリフィンドール生だったんだって」
「父さんと母さんが?」
「うん、それにハリーは私から見て勇敢な人だと思う」
だから組み分け帽子はハリーをグリフィンドールに組み分けたのだと言えばハリーは先程より良い顔色をしていた。
頬に赤みが差した顔色が良くなったハリーに牛乳のお代わりは必要か尋ねれば元気な返事が返ってくる。
グラスに牛乳を注ぐサフィニアに今度はハリーが唇を寄せた。
「僕、グリフィンドールで頑張ってみる」
牛乳を注ぎ終えたグラスをハリーの前に置いて空いた右手をハリーが握るのでサフィニアは応援する気持ちを込めて握り返す。
「よっ!ご両人」
「朝から仲がよろしい事で」
突然肩が重くなり背後を窺えば見覚えのある顔、その顔と同じ顔がハリーの方にもある。
ロンが「フレッド!ジョージ!」と呼んだ事で昨日ホグワーツ特急でお世話になった双子だと思い出す。
「仲良く朝食摂るのは良いけど時間も気にしないとな」
「のんびり食べてると初日早々に先生方に大目玉くらうぜ」
フレッドとジョージは机の大皿に乗った林檎を一つずつ取るとさっさと大広間から出て行く。
そこで大広間に残った生徒が少ない事に気がついたサフィニアが制服のポケットに入れていた懐中時計で時間を確かめると流石にこれ以上のんびりしている場合じゃないと分かりサフィニアはまだ皿にオムレツを残したハリーとたくさん食べていたにも関わらずまだ果物の大皿に手を伸ばすロンを急かした。
慌てて残っていたオムレツを飲み込んだハリーが苦しみ出したのでサフィニアは牛乳の入ったグラスを渡して飲むよう勧め、頬いっぱいに苺を詰めてなお葡萄に手を伸ばすロンには流石に止めるよう止める。
「朝から凄いねロン」
「こんなのまだ序の口だよ」
聞いてもいないのに朝食に食べた物をつらつらと答えるロンに聞いていたサフィニアは
彼の食事量に驚き、想像して思わず口元を押さえた。
サフィニアからしたら食べ過ぎて気持ち悪くなる量であるが実際ロンが食べた量は平均よりちょっと多いぐらいである。
「それじゃあね。ハリー、ロン」
「またねサフィニア」
「じゃあね」
三人は連なり大広間を出ると授業に出席する為別れた。
ファミリーネームの頭文字からアルファベット順で生徒が呼ばれては四寮の何れかに組み分けされて行く。
「サフィニア・ダーズリー」
とうとう自身の名前が呼ばれて一緒に並んでいたハリーやドラコ、ロンへ小さく手を振ると先の生徒同様に椅子へと腰を下ろす。
頭に組み分け帽子が被せられサフィニアの視界は真っ暗になった。
見た目が見た目だっただけに黴臭そうだと失礼な事を考えていたサフィニアであるがいい意味で期待が裏切られ安堵する。
「やれやれ失礼なお嬢さんだ」
組み分け帽子が喋る事はここまでの組み分けで分かっていた事であるが今の帽子の言葉に驚いてサフィニアは思わず自身の口を押さえた。
失礼な考えを知らず知らずの内に口から漏らしていたのかと慌てれば帽子は否と言う。
何でも帽子は喋らなくても被った者の考えている事が分かるらしい。
そんなハイスペックな帽子に今度は素直に賞賛を思えば帽子は嬉しそうにサフィニアへ礼を言った。
「さて、組み分けを再開しよう」
組み分け帽子はサフィニアの頭の上で悩んだ。
サフィニアにはハッフルパフとレイブンクローへの適正を感じ取ったのだが何方が良いのか測りかねている。
二寮も候補に挙がり喜んでいるが先程までのドラコとロンの会話を思い出しサフィニア帽子に尋ねた。
「スリザリンとグリフィンドールかい?そうかうーん・・・そうだなあ」
どうやらそっちの寮に適正があるかというとそうでもないらしく帽子は悩んだ。
唸り声と共に悩み続ける帽子に何だか申し訳なくなってきたサフィニアは別にどの寮でも良いだろうと楽観的に考える事にした。
「その二寮が難しいならハッフルパフにしてもらえませんか」
心優しい人物が寮生に選ばれるハッフルパフなら双子の兄が心配する虐めも無いだろう。
実際、寮の説明をダドリーにした際彼は四寮の概要を聞いて「レイブンクローって賢い奴が行く所なの?なんか目を付けられると陰険な虐めに逢いそうだからそこは止めとけよ」と言われている。
対してハッフルパフは高評価だったのでそこに組み分けられれば心配性なダドリーも安心だろうとサフィニアは思った。
帽子は最後までレイブンクローでなく良いのかと尋ねてきたがやんわりと断ると声高らかに叫んだ。
「ハッフルパフ!」
右側のテーブルから拍手が聞こえた。
帽子にお礼を告げて立ち上がるとマクゴナガルがあちらへ行きなさいとサフィニアの背中を押す。
少し振り向いてハリー達がいる辺りに向かって小さく手を振るとハリーは笑顔で振り返してくれたがドラコとロンは何処か複雑な表情を浮かべている。
ハッフルパフ生が座る長机に向かえば上級生や同級生達から歓迎を受けた。
自己紹介も程々に組み分けの続きを見ていてばドラコは列車で言っていた通りスリザリンに、列車で会ったハーマイオニーはグリフィンドールに、そしてハリーの番となった。
マグゴナガルに呼ばれた瞬間、広間は静まり返り、そして広間は先程とは違った騒がしさでいっぱいとなる。
教師も上級生も同級生達も、一部の同級生は広間の騒々しさに戸惑ってはいるが周りの者達から説明でも受けたのか暫しの耳打ちの後好奇の目でハリーを見つめていた。
椅子に座ったハリーに帽子が被せられ誰もが固唾を飲んで組み分けの結果を今か今かと待つ。
顔を覆う程大きな帽子を被せられたハリーは口元だけ見えており時折口が動いている事から組み分け帽子と話しているらしいのだがサフィニアの席からでは帽子とハリーが何を喋っているのか分からない。
帽子が緩慢に動きハリーの組み分けを広間いっぱいに叫んだ。
「グリフィンドール!!」
瞬間、グリフィンドール寮の席からとても大きな歓声上がる。
何処からか聞き覚えのある声で「ポッターを取った!ポッターを取った!」と楽しそうな声が聞こえた。
ハリーはグリフィンドールの席に着く時サフィニアの方を見て申し訳無さそうな顔をしていたが彼が気にしない様にサフィニアは微笑んでいた。
適正な寮としてハッフルパフとレイブンクローが挙げられた時からサフィニアはハリーと寮が離れる気がしていたのだ。
「先程からハリー・ポッターに熱い視線を送っているが彼とはどういう関係なんだい」
隣に座っていた上級生に尋ねられサフィニアはハリーと従姉妹なのだと告げれば上級生は大袈裟に「わお!」と驚いて見せた。
ハリーの後も組み分けが続き、ロンは帽子を被る手前で「グリフィンドール!」と組み分けされ最後の生徒の組み分けが無事に終わる。
片付けられる組み分け帽子と入れ替わりでダンブルドアが立ち上がると彼は入学の祝いと挨拶もそこそこに彼の合図で目の前には沢山のご馳走が現れた。
驚いて目を丸くしたのはサフィニアだけでなく他の同級生も同様で、そんな彼らの反応を笑いながら上級生は食事の世話を焼いた。
「あ、スネイプさん」
取り皿にサラダとローストビーフを少々盛り付けたサフィニアはあれこれ他の料理を進めてくる上級生や同級生と攻防を繰り広げながら教員席に座りクィレルと話す人物に気が付く。
「スネイプ先生をご存知なんだね」
「スネイプさ、先生はどの教科を担当されているんですか?」
サフィニアの呟きを拾った上級生に尋ねれば「魔法薬学」と返って来て、学用品を買いに行ったあの日魔法に興味があると言ったサフィニアにそれに関連した書籍をいくつも見繕ってくれた事に納得した。
しかし上級生言葉はそれだけで終わらずスネイプに対する黒い噂を聞かされる。
「スネイプ先生はクィレル先生が受け持つ闇の魔術に対する防衛術の教授の座を狙っている」
「つまり二人はライバル」
「ライバルって・・・ライバルになるのか?」
スネイプクィレル、二人の関係性を表す言葉に悩む上級生を他所にサフィニアはダイアゴン横丁でクィレルに会った時のスネイプの素っ気なさを思い出し温かな表情で教師陣の席に座るスネイプを見つめた。
結局周りの勧めも虚しく食事は少量のサラダとローストビーフを少しずつ、デザートに葡萄を2〜3粒摘んだだけでサフィニアのホグワーツに来て初めての晩餐は終了する。
デザートが綺麗に片付けられた広間でダンブルドアからの注意喚起と連絡の後、ホグワーツの校歌を皆で思い思いに歌うと1年生は監督生の指示に従い大広間に出た。
集団の最後尾にいたサフィニアは呼び止められて振り向くとそこにはハリーがいて、数時間振りの従兄弟の姿に喜色の色を浮かべる。
お互い話したい事はこの数時間で山程あるが今はのんびり話している暇もない。
「明日の朝食一緒に食べようよ」
「嬉しい。じゃあ明日、グリフィンドールのテーブルにお邪魔するわね」
「席は僕が確保しておくから任せといて!」
朝食を共にする約束をしてサフィニアとハリーは別れた。
階段をハリーが登って暫く、上級生の怒る声が聞こえたが地下へと下るサフィニアには何が起こっているのか分からないし確かめる術も無い。
ピーブスがどうのと先程と同じ上級生の声が聞こえハリーが怒られた訳ではないのだと安心する。
「此処を2回程叩くと寮への入り口が現れるが間違えると熱々のビネガーが掛けられるから気を付けるように」
監督生から寮の入室方法を聞いてサフィニアは叩く場所とそのリズムを何度も頭に思い浮かべ刻んだ。
他の同級生達も熱々のビネガーを掛けられるのは嫌だと上級生の言った事を何度も反芻させている。
「大丈夫!熱したビネガーを掛けられた者は年に数人しかいないから!ほら、寮に入って」
笑う監督生に対し少なくても年に数人は被害にあっている事に笑えない面々。
そんな彼らに寮へ入るよう監督生は促し、寮へと足を踏み入れる。
前面には大きな暖炉。
室内の調度品は温かみのある色で纏められ此処が地下だという事を忘れてしまう程に室内は明るい。
監督生から寮内の注意事項を説明され、次いで部屋割りが発表された。
通常5人部屋の寮は人数調整でサフィニアの部屋はサフィニアを含めて3人、他の部屋も定員割れしている。
自室の場所を確認したサフィニアは未だ喋る同級生を尻目に一人自室へと向かう。
サフィニアに割り当てられたベットの側には列車に置かれていた筈の荷物が全て揃っており、全生徒の荷物をどうやって運んだのだろうとサフィニアは疑問に思いながら荷物を片付ける。
お風呂に入り歯を磨いて、明日の準備をしたサフィニアはベットの中で本を開くと数行読んでそのまま眠りについた。
寮が地下の為清々しい朝というか天気も時間も分からない。
重い瞼を擦りながら父親から強請りに強請って譲ってもらった手巻きの懐中時計で時間を確認すれば朝食にはまだまだ早い時間である。
しかしサフィニアはベッドから起き上がるとルームメイトを起こさない様に身支度を整えて寮から出た。
地下の廊下に出ると厨房が近いのか美味しそうな匂いが漂っており、朝食を楽しみに思いながら階段を登って地上へと上がる。
日の出前という事で地上へと上がっても薄暗さは地下と変わらず廊下に等間隔で灯された光源を頼りにサフィニアは薄暗い城内を探索した。
目指すは図書館で早起きな絵画の住人の道案内を頼りに眠る階段を登り、時折授業で使う教室の場所を確認しながら漸く図書館迄辿り着く。
道案内を買って出てくれた老人の人物画に礼を言って別れ、図書館へと入った。
やっと朝日が登ったのか室内は仄かに明るくサフィニアは魔法史の棚を見つけるとそこから二十世紀の魔法大事件の本を筆頭に何冊か取り出し一番明るい窓際の席で本を開いた。
得意の速読で活字を追い、一冊読んでは右に寄せ、また一冊読んではを繰り返し本の山が無くなると本を元の場所へと戻して新しい本を机に積み上げる。
図書館に置かれた魔法史の本は古代や中世について記述した物が多くサフィニアが知りたい近世、ハリーとその両親について書かれたものはあっても一行を満たすか満たさないかのものだった。
「1981年10月31日」、「生き残った男の子」、どれも似た記述でサフィニアは読んでいた本を閉じると椅子の背凭れに深く凭れて溜息を吐く。
「情報量が少な過ぎる」
どれもこれも突然赤ん坊が闇の帝王を倒したやったね!と童話の締めの感覚で終わっており如何して赤ん坊が闇の帝王と迄呼ばれたヴォルデモートを倒したのか、そもそも予言の影響でヴォルデモートに狙われる事となったポッター夫妻が何故あっさり居場所を見つかって殺されてしまったのか、大事な事がどの本にも書かれていない。
だらしなく椅子に凭れて図書館の天井を見上げていたサフィニアの顔に影がかかる。
気付いたサフィニアは体制はそのままに首だけを動かして影の元を追えば昨晩の宴会で見た図書館の司書マダム・ピンスが呆れた顔で立っていた。
彼女の口から朝食がもうすぐ始まっていると告げられてサフィニアは慌てて立ち上がると積み上げた本を抱え込み本棚へと走った。
背後から「本の扱いは丁寧に!」と厳しい声が飛んで来て返事をすれば「図書館では静かに!」とまた声が飛んたので今度は返事をせずに本を棚へと戻す。
一冊だけ読んでいない本があったのでその本はカウンターに移動していたマダム・ピンスに頼んで貸出の手続きを済ますとサフィニアは図書館を小走りで後にした。
やはり背後からマダム・ピンスの叱責の声が聞こえた気がするが図書館を出るなり小走りから駆け足で走っていたサフィニアには彼女の声は遠く何に対しての叱責なのかまでは分からない。
分厚い本と鞄を小脇に抱えたサフィニアは行きと同様の道順を辿り、階段は一段飛ばして下った。
早々に朝食を済ましたのであろう生徒とすれ違いながらサフィニアは大広間に飛び込むと目的の人物を探した。
髪色では判別が難しい為彼のトレードマークとも言えるくしゃくしゃの頭を探していれば赤色が目立つテーブルからサフィニアを呼ぶ声と共に手が上がり、サフィニアはその手目掛けて走った。
「ごめんねハリー!図書館で本に夢中になってて」
ハリーが昨晩の言葉の通り席を確保していてくれたのだろう一人分空いた彼の隣に荷物と本を置くとハリーとは反対の席に座る生徒に断りを入れてサフィニアは腰を下ろす。
グリフィンドール生が朝食を摂る席に平気な顔をして座る他寮であるサフィニアに驚いていたが構わずサフィニアはテーブルから自分とハリー用に朝食を取り分けた。
律儀に待っていてくれたハリーの取り皿に半分に分けたオムレツにベーコンを一切れ、茹でた野菜を少々とパンも半分に分けて乗せる。
その皿に乗せられた量を見て二人分の牛乳を注いでいたハリーは「こんなに食べられないよ」よ笑う。
「なんだハリーはサフィニアを待ってたのか」
「おはようロン」
今迄朝食に夢中でサフィニアが来た事に気付いてなかったのかベイクドビーンズのソースを頬に付けたロンは驚きの声を上げる。
「おはようサフィニア。ところでここはグリフィンドールのテーブルだぜ?」
ハッフルパフのテーブルはあっちと指差すロンにサフィニアは微笑みで応えてハリーが淹れた牛乳を一口含んだ。
「別に畏まった食事でも無いし特にどのテーブルがどの寮のものって決まってる訳でも無いし問題ないでしょ?」
「それに駄目だったら先生が注意に来てるよ」
サフィニアの言葉に合わせハリーの援護にロンもサフィニアを気にしていたグリフィンドール生も納得したのか口を噤む。
「なかなか来ないからそうかなって思ってたんだ。気になる本はあった?」
「それはもう沢山!一体どれから手をつけようか迷うぐらい」
魔法史の棚を探す途中で何度目的を忘れて別の本を手に取りそうになった事か。
しかしサフィニアには今一番知りたい事があった為不承不承ながら魔法史の棚を探した。
しかし他の本の誘惑を絶って迄探した本達ではサフィニアの疑問は解消されるどころか積もるばかりである。
ハリーの話を聞きながらサフィニアは小さく溜息を吐く。
背後から上級生だろうか、ひそひそと話し声が聞こえる。
ハリーは話していて気付いていないが「生き残った英雄」、「例のあの人」という言葉からハリーについて話しているのがサフィニアには分かった。
後方から向けられる不躾な視線にサフィニアは不快感が拭えず思わず口に含んだフォークを噛んだ。
「それで酷いんだよあの組み分け帽子。僕もサフィニアと同じハッフルパフが良いって言ってるのに聞いてくれないんだ」
「あら、そうなの。だからハリーの組み分け迄時間が長かったのね」
早い者だと帽子を被る手前で組み分けられているというのにハリーの組み分けはとても長かった。
サフィニアの席の近くに座っていた上級生はあまりの長さに「あの英雄が組み分け困難者?」と戸惑っていた。
結局どうやって決まったのかサフィニアが尋ねればハリーはフォークを咥えて頬を膨らませる。
「ハッフルパフに入りたい僕の意見を無視して帽子がグリフィンドールって」
「押し通されたのね」
無理に押し通されただけにハリーの中で未だ組み分けに納得していないのか眉を八の字に下げて悲しげに皿の上のにんじんを見つめていた。
どうして自分がグリフィンドールに組み分けされたのか分からないと言うハリーの耳元にサフィニアは唇を寄せる。
「あのね。私もある人から聞いたんだけどね」
思い出すのはダイアゴン横丁に行った帰りのバスでの会話。
話していたのはスネイプであるが何と無くハリーがスネイプに対して苦手意識を持っているのを感じていた為、彼の名前は伏せる。
「ハリーのお父さんもお母さんもグリフィンドール生だったんだって」
「父さんと母さんが?」
「うん、それにハリーは私から見て勇敢な人だと思う」
だから組み分け帽子はハリーをグリフィンドールに組み分けたのだと言えばハリーは先程より良い顔色をしていた。
頬に赤みが差した顔色が良くなったハリーに牛乳のお代わりは必要か尋ねれば元気な返事が返ってくる。
グラスに牛乳を注ぐサフィニアに今度はハリーが唇を寄せた。
「僕、グリフィンドールで頑張ってみる」
牛乳を注ぎ終えたグラスをハリーの前に置いて空いた右手をハリーが握るのでサフィニアは応援する気持ちを込めて握り返す。
「よっ!ご両人」
「朝から仲がよろしい事で」
突然肩が重くなり背後を窺えば見覚えのある顔、その顔と同じ顔がハリーの方にもある。
ロンが「フレッド!ジョージ!」と呼んだ事で昨日ホグワーツ特急でお世話になった双子だと思い出す。
「仲良く朝食摂るのは良いけど時間も気にしないとな」
「のんびり食べてると初日早々に先生方に大目玉くらうぜ」
フレッドとジョージは机の大皿に乗った林檎を一つずつ取るとさっさと大広間から出て行く。
そこで大広間に残った生徒が少ない事に気がついたサフィニアが制服のポケットに入れていた懐中時計で時間を確かめると流石にこれ以上のんびりしている場合じゃないと分かりサフィニアはまだ皿にオムレツを残したハリーとたくさん食べていたにも関わらずまだ果物の大皿に手を伸ばすロンを急かした。
慌てて残っていたオムレツを飲み込んだハリーが苦しみ出したのでサフィニアは牛乳の入ったグラスを渡して飲むよう勧め、頬いっぱいに苺を詰めてなお葡萄に手を伸ばすロンには流石に止めるよう止める。
「朝から凄いねロン」
「こんなのまだ序の口だよ」
聞いてもいないのに朝食に食べた物をつらつらと答えるロンに聞いていたサフィニアは
彼の食事量に驚き、想像して思わず口元を押さえた。
サフィニアからしたら食べ過ぎて気持ち悪くなる量であるが実際ロンが食べた量は平均よりちょっと多いぐらいである。
「それじゃあね。ハリー、ロン」
「またねサフィニア」
「じゃあね」
三人は連なり大広間を出ると授業に出席する為別れた。