マグル生まれの魔法使い
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「例のあの人って誰ですか?」
スネイプさん、と続く筈だったサフィニアの言葉はスネイプの大きな手で口を塞がれもがもがと音に留まる。
杖を購入した後、書店前でスネイプと合流したハリーとサフィニアであるが手を繋ぐ二人同様に二人の腹の虫も仲が良かったらしく二人のお腹は盛大に音を立てた。
長期休みという事でペチュニアによる規則正しい生活のおかげで正午ぴったりに昼食を取っていた二人。
時刻は何時もの二人ならとっくに昼食を食べているであろう時間である。
スネイプは二人の腹の虫の音を無視して書店に足を踏み入れかけるが二人の虫の音がその大きな音で抗議する。
「書店で教科書の購入の前に昼食とする」
彼の言葉に今度は腹の虫だけでなくハリーとサフィニアも歓声を上げた。
三人が向かったのは大通りの側にテラス席を設けているカフェで、さっそくテラス席に座ろうとする二人だったがテラスに射し込む陽射しを嫌がったスネイプに二人揃って首根っこを掴まれ店内奥の薄暗い席に腰を下ろす。
「それだけで足りるのかね」
注文した商品が運ばれて来てスネイプは呆れて零した。
二人の前には一人前のサンドイッチ四切れと南瓜パイが一切れ。
サフィニアが慣れた手付きでパイを半分に分けると片方をサンドイッチの皿に、サンドイッチを二切れを空いたパイの皿へと移す。
魔法界のカフェメニューに困惑した二人であるがスネイプの評価を信じて注文した冷たいかぼちゃジュースで喉を潤していた二人は首肯する。
「今日は沢山歩いたから何時もより食べてるぐらいです」
「食べ切れなかったらハリー手伝ってくれる?」
「僕じゃ無理だよ」
こんな時にダドリーがいればなと零す二人であるが二人の食の細さの原因は彼にもある。
サフィニアは生まれつき食が細く、ハリーは平均的であったが度々彼の周りで起こる不思議な事にペチュニアやバーノンは躾として夕食抜きの罰を与える内に食はみるみる内に細くなった。
夕食が与えられないハリーの分を誰が食べるのかというと生まれつき大食漢であるダドリーで、ある日を境にダドリー家でその罰を行われる事はなくなったがその時には食が細くなったハリーが一人前を食べ切れないようにダドリーも一人前では満足出来ない。
勿論サフィニアも一人前は食べ切れない食の細さ。
そんな二人の食の細さに目を付けたダドリーは二人から食事を分けてもらい、ペチュニアの目を盗んでは二人の食事を殆ど食べて、としている内に二人の食の細さはどうにもならない事になってしまった。
スネイプは溜息を吐き、自身が頼んだランチについていたサラダを二人の前に出す。
「それだけでは栄養が足りなさ過ぎる。せめてサラダで栄養を摂りたまえ」
「スネイプさん私達そんなに食べれません」
朝から歩きっぱなしで何時もよりお腹空いているからとパイを頼んだがそれも食べきれるかと話していた二人である。
幾らサラダと言え無理だと言う二人の言い分にスネイプは聞く耳も持たず紅茶を啜る。
「それらを食べ切れない場合書店での自由行動は無しだ」
譲歩しないという風に無言で食事を始めたスネイプに二人は絶望の色で顔を見合わせる。
サフィニアは書店での自由行動の為、ハリーはサフィニアの為に慌て食事を始めた。
そしてサフィニアの「そういえば」という言葉で冒頭に戻る。
テーブル越しに伸びて来たスネイプの大きな手で口どころか鼻まで塞がれたサフィニアは息苦しさにもがいた。
ハリーの助けもあって口と鼻を塞いでいたスネイプの手が離れると久しぶりの呼吸が出来たサフィニアは深々と椅子に凭れて深呼吸をする。
「その名を一体何処で聞いた」
「オリバンダーの店で、僕の選んだ杖はこの傷を付けた例のあの人が持つ杖と兄弟杖だと」
自身の前髪を上げ額に走る稲妻型の傷をハリーが指差すとスネイプ不機嫌な顔は益々酷くなった。
食事を終えたスネイプは持っていたフォークとナイフを置くと紅茶を飲み一息つく。
「言葉の通りだ。
名前を言うのも世間で憚られる程強大な力を持っていた例のあの人はポッターの両親を殺害し、赤子だった君を死の呪文で呪い殺そうとした。
が、何故か逆に例のあの人が倒され君の額にはその時の呪いの影響だろうその稲妻型の傷が残った」
サフィニアはペチュニアと話していた際にハリーの両親が悪い魔法使いに殺されたという話を思い出す。
「つまり僕の杖は両親の敵と兄弟杖、という事ですか」
スネイプはハリーの質問には答えなかったがそういう事だろうとサフィニアは思ったし彼の無言をハリーは肯定と受けたのか食べかけだったサンドイッチを放置して俯いている。
サフィニアは温くなったかぼちゃジュースを飲みながら例のあの人の事を、ハリーの両親の事を考えた。
あの嵐の夜までハリーと同様にサフィニアもハリーの両親は自動車事故で亡くなったと思っていた。
しかし実際には例のあの人と呼ばれる魔法使いに殺されていて、にも関わらずその時一緒にいた赤子のハリーは生き延びている。
何故、如何してとサフィニアの頭に疑問が次々に浮かび上がる。
ホグワーツの教師であるスネイプの口から強大と評される魔法使いは何故ハリー両親は襲われなければなかったのか。
何故、ハリーはそんな恐ろしい魔法使いの呪い勝てたのか。
浮かぶ疑問からまた新たな疑問が生まれサフィニア頭を占めていく。
「ところで何時迄そうしているつもりかね?書店での買い物は諦めるのですかな」
新聞を広げ読んでいたスネイプは横目で二人の皿に残った料理を見て言った。
先程の話からハリーも何やら考え込んでいたのか互いの皿に残った料理の残量に変化はない。
家に帰る時間もある為何時迄もゆっくりしていられないと言うスネイプにサフィニアとハリーはまたも慌てて残った料理を口に放り込んだ。
「お腹いっぱいで気持ちが悪い」
「僕もだよ」
食事の手を暫く止めていたが為かその間に腹が膨れ、そこへ最後に料理を慌てて放り込んだ所為で二人の胃の中は大荒れである。
如何してこの場にダドリーがいないのか二人は悔やむがいれば食事代を出してくれたスネイプの財布が空になっていたのではと二人は思う。
近頃ダイエットをさせられているダドリーは常に食べ物に飢えていてペチュニアの目の届かない所で物足りない食事量を埋めるように買い食いや盗み食いを行なっているのだ。
その食べる勢いは掃除機が如し、ダドリーの前に食べ物を置けば凄い勢いで彼のお腹の中へと吸い込まれていく。
カフェのお洒落な量では一体幾ら食べれば彼の胃袋は満たされるのか。
同じ事をハリー考えていたのか二人同時に笑い声が漏れた。
顔を付き合わせ笑う二人に会計を済ませたスネイプは訝しげな顔で見るが何も言わず書店へと足を進める。
スネイプを追い掛け、歩いてしばらくフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に辿り着いた一行。
書店の中に入り恍惚の表情を浮かべたサフィニアはスネイプの制止も聞かぬ内に書店の奥へと姿を消す。
そのあまりの素早さにスネイプは咄嗟の反応が出来ず飛び出すサフィニアを捕まえようとした彼の手は虚しく宙を掴んだ。
「彼女は何時もこうなのかね」
暫しの気まずい無言の後、そう尋ねたスネイプにハリーは頷く。
「僕の従姉妹がすみません」
「教科書は私の方で揃えておく。
従姉妹殿には1時間後書店の入り口に集合と伝えておけ」
そう言ってホグワーツの教科書指定の書籍が並んだコーナーへと歩いて行くスネイプの背を見送り、ハリーはサフィニアが消えた方へと足を進めた。
「遅い」
苛ついた口調で零したスネイプの横でハリーは縮こまっていた。
言っていた時間になってもサフィニアが集合場所である書店の入り口に現れないのである。
「ポッター、貴様はあの従姉妹殿に集まる時間と場所を伝えたのかね」
「!伝えました・・・けど、」
言外にハリーの伝達ミスを疑うスネイプにハリーは顔を上げて確かに伝えた事を説明するがそんなハリーの表情は浮かない。
「正直、本に夢中になったサフィニアには何を言っても無駄な事はあります」
ハリーは確かに手に取った本をパラパラとめくっていたサフィニアに集合時間と場所を伝え、了承の返事を聞いた。
しかしその反応はサフィニアが極稀にやらかす『聞いてもいないのに反射で言葉を返す』その様にも見えた。
自宅で家族に対して極稀ながらそんな対応をするサフィニアであるがまさか出先で、しかも赤の他人であるスネイプがいる時にやらかすとはハリーも想定していなかった。
サフィニアの性格を分かっていながらこの事態に責任を感じたハリーはスネイプに声をかけサフィニアを探しに書架の海へと航海に出ようとするがスネイプに首根っこを掴まれ止められてしまう。
「待て、貴様迄戻らなくなっては厄介だ。我輩が行く」
スネイプはハリーにそこで荷物を見ているよう厳しく言いつけると建ち並ぶ本棚の奥へと消える。
クィディッチを中心とした娯楽、料理園芸、文学文庫とスネイプは覗くがサフィニアの姿は無く、次に覗いた学術専門書の棚にサフィニアはいた。
スネイプは通路から声をかけるがまるで聞こえていないのかサフィニアは手に持つ書籍から顔を上げる様子が無い。
舌打ちを漏らしたスネイプはわざと大きな靴音を立ててサフィニアの背後に立ち再度声をかけた。
「サフィニア・ダーズリー」
地を這うように低く、周りに迷惑をかけないそこそこ大きな声でサフィニアを呼ぶがやはり無反応。
苛ついたスネイプは脳天に一発手刀を落とそうか思案するが赤毛を見ている内にその考えは霧散していく。
その代わりにサフィニアの頭頂部を片手で掴むと、ギリギリと力を込めた。
流石に痛覚迄は無視できなかったサフィニアは掴まれた頭部に悲鳴を上げて、そこでやっと自身の頭部を掴んだスネイプの存在に気がついた。
「ポッターから集合時間を聞いていたと思うが、サフィニア・ダーズリーは今が何時かご存知かね」
集合時間にハリーとスネイプがサフィニアを待って数分、それからスネイプがサフィニアを探しに出て数十分。
かれこれ約束の時間から30分は経とうとしていた。
スネイプの様子から何やら察したサフィニアは苦笑いの後小さな声でスネイプに謝罪をする。
「これらはまだ未会計だろ。購入するならさっさと支払いを済ましてきたまえ」
そう言いながらスネイプはサフィニアの横に積まれた本の中で一番重厚な装丁の本を手に取る。
「魔法薬学に興味がおありで?」
それはスネイプも何度か読んだ事のある魔法薬学についての本であった。
内容は専門用語が多く初心者には小難しい内容であるが分かるものが見れば造詣が深く、スネイプも魔法薬学についてのおすすめの書籍を尋ねられば勧める本の内に入れる程に気に入っている本である。
「変身術や呪文学にも興味がありますが今の所一番興味があるのは魔法薬学です」
というのもたまたま開いた魔法薬学の書籍で痩身薬の頁を見つけたサフィニアは自身の余計な一言で強制ダイエットを強いられている双子の兄と父親を思い出し熱心にその薬の頁を読んだ。
始めは訳の分からない材料や思わず悲鳴を上げたくなるほど衝撃な材料に慄いたサフィニアであるがいざ作り方になるとまるで科学の実験の様で面白い。
しかも魔法界の薬は惚れ薬のようならしいものから変身したい相手の髪の毛を入れて作る変身薬と幅が広くサフィニアの知的好奇心を大いに唆った。
興奮でほんのりと頬を紅潮させて今から授業が楽しみで仕方がないというサフィニアにスネイプは一度頷くと側の棚から数冊の本を手に取るとサフィニアに手渡した。
「そこまで言うのなら授業迄にその本達に目を通しておく事だ。読んで無駄にはならない」
「ありがとうございます!あ、でも」
「何だね」
渡された本を抱きしめて表情を暗くさせたサフィニアにスネイプが尋ねればお金が足りないと告げた。
「ならばこの積み上がった書籍から必要のないものを省くしかあるまい」
自身が勧めた書籍は購入させる事で決定しているのかスネイプはサフィニアの横に積み上がった書籍を一冊ずつ手に取り選別を始めた。
彼の独断と偏見による選考なのか山様に積まれた本が「要る」「要らない」「学ぶには早すぎる」とスネイプの一言で選別される。
スネイプは本の中でも特に汚れて表紙の題目が読めない本を手に取ると数頁捲りサフィニアに尋ねる。
「この内容は魔法界に伝わる童話を集めたものだが全てルーン文字だ。読めるのかね?」
「マグルの図書館でルーン文字についての書籍を読んだので一応読めます」
サフィニアの返答にスネイプは片眉を上げたがそれだけで、その本を購入予定の本の上に重ねる。
結局、サフィニアが魔法界のフィクション喜劇小説と思って買おうとしていた「バンパイアとのバッチリ船旅」や「泣き妖怪バンジーとのナウな休日」、ハリーとその両親について調べようと思って選んだ「近代魔法史」や「闇の魔術の興亡」等は顔を顰めたスネイプにより必要ないと却下された。
「私はこれらの本を棚に戻してくるから君はさっさと購入して来たまえ。会計を済ませたら今度こそ書店の入り口に集合だ」
ハリーの時とは違い確かに返事を返したサフィニアは本を抱えてお会計へと走った。
初めての魔法界探索に加え本を沢山購入出来たサフィニアは帰り道のバスの中でも笑顔だった。
それに対しサフィニアより幾許か体力がある筈のハリーは一日中歩き回った事と気苦労で疲れ果て、横丁から出る手前で購入した白い梟の入った籠を抱き締めて眠っていた。
「スネイプさん。私は何処の寮に入るべきだと思いますか」
行き道同様に静かなスネイプにサフィニアは尋ねた。
書店で立ち読みしたホグワーツに関する書籍に載っていた四つの寮。
ホグワーツに入学する寮の生徒は何れかの寮に入り七年間学ぶらしいのだがサフィニアは自身が一体どの寮が向いているのか検討がつかない。
「君は、・・・ポッターの両親はグリフィンドールだった。そのポッターと従兄弟なのだからグリフィンドールが妥当だろう」
「グリフィンドールですか」
ああ、と情けない声を出したサフィニアにスネイプは「何かね?」と顔を向ける。
「書店で見た本にグリフィンドールに選ばれる生徒には勇気、勇敢とあったので」
優れた才知を求めるスリザリンと同様に「ありえない」と思った寮であった。
かと言って残りの二寮に入れるだけの才覚があるかと言われればサフィニアは首を傾げる。
そもそもホグワーツ自体が優秀な魔法使い、魔女を育てる学校である為入学する生徒も勿論優秀な子供達が集まり。
となると生徒はいずれかの寮に振り分け出来るのだろうがサフィニア自身困った時に不思議な事は起こったがそれは数える程度しかなく、本当に自分はホグワーツに入学出来るだけの素質があるのか疑わしく感じ始めていた。
「私がホグワーツに入学するのは間違い、なんて事無いですよね」
「サフィニア・ダーズリーの名前はポッター同様に産まれた時から入学者名簿に載っている。何も間違いでは無い」
スネイプの言葉を聞いてサフィニアは安心する。
「さて、そろそろバスは目的地に着く。間抜け面で寝こける英雄殿をそろそろ起こさなくてはな」
バスが緩やかに速度を落としていく。
外は薄暗く景色が分かりにくいがよくよく目を凝らせば自宅のすぐ近くまで来ている事が分かる。
ゆらりと立ち上がり、幸せそうな顔で眠るハリーの前に立ったスネイプは構えた手を鋭くハリーの脳天へと振り下ろした。