呪術
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空からゆっくりと落ちてくる雪、赤くなった鼻に吐くと白くなる息。寒さで震える手指を擦り付けてはまた息を吐く。___季節は冬。今日は12月25日。つまりは世間一般的にクリスマスと呼ばれる日である。
えぇ、世間一般的には、ね。
「クリスマスに仕事で残業とかふざけてんのかあのクソ上司め...元々少ない髪の毛が年明けと同時に無くなる呪いをかけてやるからな...」
既に暗くなったオフィスに残るのは私ただ1人。自分で溜めた分の仕事は定時ギリギリで終わってさぁ後は帰るだけ!...だったはずが。
彼氏持ちの同期には
「ごめーん柊さん!今日デートで早くあがりたいの〜」
と仕事を押し付けられ、2つ歳下の後輩には
「おっ、先輩ちょうどいい所に!ちょっとこれ頼まれてください!」
とそこにいたからという謎の理由で仕事を押し付けられ、入社したばかりの新人君が絶対に5分で終わるだろそれ!と思わずにはいられないただのコピーの仕事を上司指示でなぜか肩代わりし、最後にはトドメだと言わんばかりに
「優秀な君にクリスマスプレゼントだ!」
はっはっはとさながらサンタ気取りで置いていったのは最高にいらない追加の仕事。散々である。クリスマスなんてクソ喰らえ。
「大体あの同期のやつめ、デートで仕事押し付けるってなんだよ。私だって彼氏いたらお前に仕事押し付けて即デートだわ!」
...とまぁ、実際問題いないのだからこうしてフリーでクリぼっちな私がターゲットにされて、こうも仕事を押し付けられまくっている訳なんだけども。
何回目かわからない溜息をつきながらもようやく最後の仕事が終わると、私は盛大に「アァァ終わったー!!」と大きい声を出し勢いよくPCの電源を落とし、コピーした紙をクリップに纏めて上司の机に叩き置く。雑?そんなの知らん。
私は自分のロッカーに掛かったコートを素早く着てタイムカードを切ると早足で外に出る。室内との温度差に1度ぶるりと震えたが振り払うようにマフラーを巻き、まだ暖かさが残った右手でスマホを取り出すとある人へと電話をかける。プルルと鳴っていた音は3コールで止まり、携帯の向こうから落ち着いたテノール声で『はい』と聞こえた。
「もしもし柊です。今仕事終わったんです。愚痴大会開きたいので飲みに行きませんか」
イライラしてる私の声が面白かったのか、耳の向こうで『フッ』と笑い声が聞こえたので少しムッとしたが、『いいですよ、すぐにそちらに向かいます』と返事が来たので仕方なく笑ったことは許すことにした。
(七海side)
「お疲れ様です」
「七海君!お疲れ様!先に始めちゃって申し訳ないとは思うんだけど早速私の愚痴聞いて」
「まだ私は着席もしていないのですが......すみません生1つお願いします。それからこの焼き鳥の盛り合わせを」
横目でちらりと彼女のテーブルの上の空きグラスの数を確認すると、上着をハンガーにかけて一先ずお冷を持ってきた店員にビールを注文した。
「もうさー、クリスマスだかなんだか知らないけどみんな予定ありすぎじゃない?それにクリスマスっていうイベントがあるんだったら全員平等に定時に帰らせるべきでしょ」
「そうですね。そもそも定時であがる事に不平等がある事に意味がわかりませんが」
「それな。ナナミンその通り!枝豆あげちゃう」
「柊さん、ナナミンはやめてください。枝豆は貰いますが」
喋りながらも飲むペースの落ちない彼女に「水、そろそろ飲んだ方がいいのでは?」と先程店員に貰った自分のお冷を渡そうとしたら彼女は「今飲んでるウーロンハイは実質ウーロン茶。つまりソフドリ。つまり水でもあるので大丈夫です」と訳の分からない事を言われ溜息をついた。後でバレないように自分のお冷とすり替えよう。
「はぁ。...それで?貴方はこんなクリスマスというイベント日に私を呼んで酒を飲んで愚痴大会がしたかっただけですか」
「......えへへ」
「まったく、笑えばいいとか思ってます?私もそう簡単にワンコールで来られるほど暇ではないんですが」
「でもナナミン来てくれたもん」
「......ですからナナミンはやめてください」
彼女の呂律も危うくなってきた頃、時計で時間を確認し、そろそろお開きにした方が良さそうだと思った私はテーブルに突っ伏している彼女を軽く揺すり起きるように声をかける。先程伝票を確認した際に気づいたのだがこの女思ったよりも飲んでいた。普段あまり酔った姿を見たことがないと思っていたが今日はいつも以上の量を飲んでいたらしい。通りで愚痴が止まらない訳だ。
「ほら、私の肩を貸してあげますから。立てます?」
「んぅ、立てます。というかお金。お会計、しないと」
「おや、会計のことを考える理性はあったんですね」
「はぁ〜?ばかにしてるだろぉ。おらぁ、いくらだぁ。ナナミンの分まで奢ってやんよぉ!」
「残念ですが既に会計済みです。奢られたのは貴方の方ですよ。ほら、歩けますか?」
「なんだってぇ〜私が払う〜」
「いいから。...はぁ、手を引いた方が早そうだ」
一応千鳥足にはなっていないようなので、一言すみませんと詫びをいれてから彼女の手を取りお店の外に出る。流石に時間も遅いからか来た時よりも冷えるな、とアルコールの回った頭の隅で考える。
「うー、さぶ...。ななみ、手」
「はい?」
「手、つなご。さむい」
「......構いませんが、後で記憶がないとか言わないでくださいね」
自分よりも一回りも二回りも小さい手を取り、繋いだ手を自分の着てきたコートに突っ込んでやると彼女は嬉しそうに笑い、「ポッケの中あったかい〜」と頬を染めた。呑気な女だ、と思ったが悪くは無いなとも思う。
駅に向かって歩いている途中、ふと彼女の手がきゅ、と私の指を掴んだのでチラリと彼女を見ると何かを言いたそうに下を向いたり私を見たりを繰り返した。
「どうしましたか。落ち着きのない子供のようです」
「う...。な、ななみその、あのね」
「...はい」
クリスマスだからかこんな時間でもまだ賑わいを見せる大通りを歩きながら、ポツリと俯いた彼女が白い息を吐きながら呟いた。周りの声や音が騒々しい中聞き逃さないように目線より下にいる彼女の声に集中する。
「確かに仕事の愚痴もあったけど、でも、今日会いたいなって思ったのも、話したいなって思ったのも、な、七海だからだよ。その...誤解のないよう言っておくと、誰でもいい訳じゃないから、ね」
ポケットに入れた手が少しずつ熱を持ち温まるのを直接感じる。私の視線からじゃ俯いた柊さんの表情はわからないが、耳やマフラーのちょっとした隙間から見える首元が赤いのを見て思わずフッ、と笑ってしまう。
「もー、また笑ってる」
「すみません。あまりにも可愛らしいことを言われたので」
「...やっぱバカにしてるでしょ」
ぷく、と頬を膨らませる彼女が可愛らしくて思わずまた笑ってしまうが、これ以上は拗ねてしまうな、と空いている片方の手で柊さんの頭をそっと撫でた。
「もう、今度は子供扱いですかー」
「いえ、してませんよ。...柊さん」
「えっ、は、はい」
「私は貴方に特別視されてると考えても?」
「!!えと、その...まぁ...」
「ところで今日はクリスマスですね」
「え、急に話変わるじゃん...」
まだ熱を持ったままの手をポケットから抜いて外の空気に晒すと、そのまま彼女の手を口元に移動させ指先に軽く唇を落とす。わかりやすいほど真っ赤になった彼女はまるで魚のように口をパクパクとさせて「えぁ」だの「うなっ」だの、よくわからない言葉を連呼している。
「まだ日付は変わっていませんし、残りの時間も私が頂いても構わないですよね」
確信を持って言った言葉に彼女はさらに赤くなる。そのうち湯気でも出てくるのでは?と私はまた笑った。
蚊でも泣いたかのような小さな声で「ひゃい...」と返事をしたのを合図に、私はもう一度彼女の手をポケットに入れて夜の街を歩き出した。
...駅とは逆の方向に向かっていることに、彼女は気づくだろうか。
「メリークリスマス、雪乃さん」
えぇ、世間一般的には、ね。
「クリスマスに仕事で残業とかふざけてんのかあのクソ上司め...元々少ない髪の毛が年明けと同時に無くなる呪いをかけてやるからな...」
既に暗くなったオフィスに残るのは私ただ1人。自分で溜めた分の仕事は定時ギリギリで終わってさぁ後は帰るだけ!...だったはずが。
彼氏持ちの同期には
「ごめーん柊さん!今日デートで早くあがりたいの〜」
と仕事を押し付けられ、2つ歳下の後輩には
「おっ、先輩ちょうどいい所に!ちょっとこれ頼まれてください!」
とそこにいたからという謎の理由で仕事を押し付けられ、入社したばかりの新人君が絶対に5分で終わるだろそれ!と思わずにはいられないただのコピーの仕事を上司指示でなぜか肩代わりし、最後にはトドメだと言わんばかりに
「優秀な君にクリスマスプレゼントだ!」
はっはっはとさながらサンタ気取りで置いていったのは最高にいらない追加の仕事。散々である。クリスマスなんてクソ喰らえ。
「大体あの同期のやつめ、デートで仕事押し付けるってなんだよ。私だって彼氏いたらお前に仕事押し付けて即デートだわ!」
...とまぁ、実際問題いないのだからこうしてフリーでクリぼっちな私がターゲットにされて、こうも仕事を押し付けられまくっている訳なんだけども。
何回目かわからない溜息をつきながらもようやく最後の仕事が終わると、私は盛大に「アァァ終わったー!!」と大きい声を出し勢いよくPCの電源を落とし、コピーした紙をクリップに纏めて上司の机に叩き置く。雑?そんなの知らん。
私は自分のロッカーに掛かったコートを素早く着てタイムカードを切ると早足で外に出る。室内との温度差に1度ぶるりと震えたが振り払うようにマフラーを巻き、まだ暖かさが残った右手でスマホを取り出すとある人へと電話をかける。プルルと鳴っていた音は3コールで止まり、携帯の向こうから落ち着いたテノール声で『はい』と聞こえた。
「もしもし柊です。今仕事終わったんです。愚痴大会開きたいので飲みに行きませんか」
イライラしてる私の声が面白かったのか、耳の向こうで『フッ』と笑い声が聞こえたので少しムッとしたが、『いいですよ、すぐにそちらに向かいます』と返事が来たので仕方なく笑ったことは許すことにした。
(七海side)
「お疲れ様です」
「七海君!お疲れ様!先に始めちゃって申し訳ないとは思うんだけど早速私の愚痴聞いて」
「まだ私は着席もしていないのですが......すみません生1つお願いします。それからこの焼き鳥の盛り合わせを」
横目でちらりと彼女のテーブルの上の空きグラスの数を確認すると、上着をハンガーにかけて一先ずお冷を持ってきた店員にビールを注文した。
「もうさー、クリスマスだかなんだか知らないけどみんな予定ありすぎじゃない?それにクリスマスっていうイベントがあるんだったら全員平等に定時に帰らせるべきでしょ」
「そうですね。そもそも定時であがる事に不平等がある事に意味がわかりませんが」
「それな。ナナミンその通り!枝豆あげちゃう」
「柊さん、ナナミンはやめてください。枝豆は貰いますが」
喋りながらも飲むペースの落ちない彼女に「水、そろそろ飲んだ方がいいのでは?」と先程店員に貰った自分のお冷を渡そうとしたら彼女は「今飲んでるウーロンハイは実質ウーロン茶。つまりソフドリ。つまり水でもあるので大丈夫です」と訳の分からない事を言われ溜息をついた。後でバレないように自分のお冷とすり替えよう。
「はぁ。...それで?貴方はこんなクリスマスというイベント日に私を呼んで酒を飲んで愚痴大会がしたかっただけですか」
「......えへへ」
「まったく、笑えばいいとか思ってます?私もそう簡単にワンコールで来られるほど暇ではないんですが」
「でもナナミン来てくれたもん」
「......ですからナナミンはやめてください」
彼女の呂律も危うくなってきた頃、時計で時間を確認し、そろそろお開きにした方が良さそうだと思った私はテーブルに突っ伏している彼女を軽く揺すり起きるように声をかける。先程伝票を確認した際に気づいたのだがこの女思ったよりも飲んでいた。普段あまり酔った姿を見たことがないと思っていたが今日はいつも以上の量を飲んでいたらしい。通りで愚痴が止まらない訳だ。
「ほら、私の肩を貸してあげますから。立てます?」
「んぅ、立てます。というかお金。お会計、しないと」
「おや、会計のことを考える理性はあったんですね」
「はぁ〜?ばかにしてるだろぉ。おらぁ、いくらだぁ。ナナミンの分まで奢ってやんよぉ!」
「残念ですが既に会計済みです。奢られたのは貴方の方ですよ。ほら、歩けますか?」
「なんだってぇ〜私が払う〜」
「いいから。...はぁ、手を引いた方が早そうだ」
一応千鳥足にはなっていないようなので、一言すみませんと詫びをいれてから彼女の手を取りお店の外に出る。流石に時間も遅いからか来た時よりも冷えるな、とアルコールの回った頭の隅で考える。
「うー、さぶ...。ななみ、手」
「はい?」
「手、つなご。さむい」
「......構いませんが、後で記憶がないとか言わないでくださいね」
自分よりも一回りも二回りも小さい手を取り、繋いだ手を自分の着てきたコートに突っ込んでやると彼女は嬉しそうに笑い、「ポッケの中あったかい〜」と頬を染めた。呑気な女だ、と思ったが悪くは無いなとも思う。
駅に向かって歩いている途中、ふと彼女の手がきゅ、と私の指を掴んだのでチラリと彼女を見ると何かを言いたそうに下を向いたり私を見たりを繰り返した。
「どうしましたか。落ち着きのない子供のようです」
「う...。な、ななみその、あのね」
「...はい」
クリスマスだからかこんな時間でもまだ賑わいを見せる大通りを歩きながら、ポツリと俯いた彼女が白い息を吐きながら呟いた。周りの声や音が騒々しい中聞き逃さないように目線より下にいる彼女の声に集中する。
「確かに仕事の愚痴もあったけど、でも、今日会いたいなって思ったのも、話したいなって思ったのも、な、七海だからだよ。その...誤解のないよう言っておくと、誰でもいい訳じゃないから、ね」
ポケットに入れた手が少しずつ熱を持ち温まるのを直接感じる。私の視線からじゃ俯いた柊さんの表情はわからないが、耳やマフラーのちょっとした隙間から見える首元が赤いのを見て思わずフッ、と笑ってしまう。
「もー、また笑ってる」
「すみません。あまりにも可愛らしいことを言われたので」
「...やっぱバカにしてるでしょ」
ぷく、と頬を膨らませる彼女が可愛らしくて思わずまた笑ってしまうが、これ以上は拗ねてしまうな、と空いている片方の手で柊さんの頭をそっと撫でた。
「もう、今度は子供扱いですかー」
「いえ、してませんよ。...柊さん」
「えっ、は、はい」
「私は貴方に特別視されてると考えても?」
「!!えと、その...まぁ...」
「ところで今日はクリスマスですね」
「え、急に話変わるじゃん...」
まだ熱を持ったままの手をポケットから抜いて外の空気に晒すと、そのまま彼女の手を口元に移動させ指先に軽く唇を落とす。わかりやすいほど真っ赤になった彼女はまるで魚のように口をパクパクとさせて「えぁ」だの「うなっ」だの、よくわからない言葉を連呼している。
「まだ日付は変わっていませんし、残りの時間も私が頂いても構わないですよね」
確信を持って言った言葉に彼女はさらに赤くなる。そのうち湯気でも出てくるのでは?と私はまた笑った。
蚊でも泣いたかのような小さな声で「ひゃい...」と返事をしたのを合図に、私はもう一度彼女の手をポケットに入れて夜の街を歩き出した。
...駅とは逆の方向に向かっていることに、彼女は気づくだろうか。
「メリークリスマス、雪乃さん」
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