第一章 シンデレラ・シンドローム
パンプスの足音がなるべく兄弟に聞こえぬよう、ゆっくりとした足取りで後を追っているうちに、ふと、わたしはなにをしているのだろうと今更のように胃が痛くなる。
恵野駅東口から歩くことおよそ十分。商店街を抜けて閑静な通りに入った。丹羽兄弟がやって来たのは古いお寺だった。寺の周りに生い茂る草花の前に住職が座り込んでいて、背中を丸めて手入れをしている。
「こんちは」と両手をズボンに突っ込んだ兄が挨拶し、「お邪魔します」と弟が軽く会釈をする。住職は顔を上げぬまま「おう、おう」と言って手を挙げる。生き生きと伸びきった草は、膝をついた住職の坊主頭に掠りそうなほどだ。
兄弟が中へ入っていく。
絵里は離れたところで立ち往生するしかなかった。いくらなんでもこれ以上深追いするのはまずい。すでに半分ストーカーだ。
だが、ここにおそらく丹羽美咲の墓がある。弟が口にしていた「久しぶりに三人集まれる」は、そういう意味であろう。
なぜ八ツ星町から五つも駅が離れた恵野に、彼女の墓があるのかは不明だが――。
どうする。本当なら、なにも見なかったことにして立ち去るべきだ。
だけど……。
丹羽青年の惨劇を目の前で見てしまった身として、絵里もまた、丹羽美咲の存在を無視できるはずがなかった。ましてや美咲の命を奪ったのは、今なお逮捕されていない連続殺人鬼だった。丹羽美咲の遺体が発見されたニュースもずいぶんテレビなどで報道されていた。できることならいつか、彼女の墓に一度手を合わせに、と考えていた。しかし身内に黙ってするのは、さすがに気が引ける。
ここで兄弟が墓参りを終えるのを待ってから墓地へ入るか。それでは住職に怪しまれる可能性が高い。
違う遺族を装って入るのが一番、バレずに済む気がする。
でも、それでいいのか? そんなコソコソ、野次馬みたいな真似。
絵里は恋に生きてきた女だが、決して感情だけで動く性格ではないと自負している。ここで引き返したら自分が納得できるかできないか、姑息なことをして後悔するかしないか――なんでも一旦思案してから決めるようにしてきた。だから鴫原から、君は優柔不断だとたまに注意されることもあった。
しかしその鴫原との結婚もそうだ。この人とだったら幸せになれるかもしれないと、衝動一本ではない決断をできたから、24年続いたと思っている。結果、永遠の愛にはならなかったが。
丹羽家があの事件後どうなってしまったのか、赤の他人の絵里には知る術もなければ、知る権利もないだろう。
「あ、ちょっとちょっと」住職の呑気な呼びかけを振り切り、絵里は足早で奥の墓地へ突き進む。わたしはやっぱり美咲さんのお墓に手を合わせたい。ほんとに、それだけでも。
寺院はたくさんの樹に囲まれている。奥に向かうにつれて背の順のように徐々に木が高くなっていく。神聖な墓地を守る格子のようだ。幼い頃に通っていたバレエ教室の庭を思い出した。先生の自宅が教室の上にあり、同じように緑に囲まれていた。綺麗好きだった先生は教室の中も建物の周りも、自宅と同じように清潔にしていて、バレエを辞めるまでの十六年間、あそこは第二の家みたいだった。
今は冬だから、木にはあまり葉がついていないが、雑草のほうはマメな住職のおかげで無駄にぼうぼう生い茂っていない。美しく手入れされている。
ざく、とパンプスが土を削る。
絵里は肩をそびやかし、後ずさりをしかけた。
「なにか用ですか?」
丹羽弟がそこに立っていた。
墓地の手前だ。弟は絵里よりも身長が高いものの、いささか上目遣いな感じでこちらを睨む。鉄のような無機質な黒目を前に、絵里はなにも言えなくなる。
奥から兄の丹羽青年が出てきて、まず絵里に気づいた。それから弟のほうを見た。
「ついてきていたのは、わかってたんだ」と弟が言う。「うちの姉さんの事件の取材とか、残念だけど今は全部お断りしてるんです。それと、興味本位の野次馬も。たまに、どこかから嗅ぎつけてきて、俺たちや親に接触してくるヤツがいるので。あれから何年も経ってるのに」
「わたしは、あの、」
「事件に首突っ込みたいだけの人なら、俺たちが話すことは、特にありませんから」
尖った声だった。はっきりとした敵意が滲んでいる。やはり引き返すべきだったのだ、こんなバカな真似をするものではなかった――。
「どこからつけてきたんですか? 駅からですか!」
「お姉さんさ」
すると丹羽青年が、たった今眠りから目を覚ました人のようにゆっくりと目をしばたかせて言った。「いつも同じ電車乗ってた人っすよね」
驚いた。認識されていたのか。
「今日久しぶりに見たなーと思ってた。火曜日にさ、俺がここ来るときにさ、いつも一緒の時間に乗ってたの。一年ぐらい前までだったかな」弟を宥めるようにして、それからまた絵里を見る。「話したこととかはなかったけど、俺、知ってましたよ」
丹羽青年の声は、どこまでも、棘がない。圧もない。しかし、抑揚もない。
「ヒトを尾行してるときってどんな気分っすか?」
薄笑いが、絵里を刺す。
バクバクする心臓で「ごめんなさい」と謝る絵里は、このまま背中を向けて逃げてしまおうかと思いかけた。すると丹羽青年が再び無表情に戻り、
「いえ、すんません。責めてるわけじゃない。ただの興味で聞いてみただけ」
首を軽く左右に振る。怯えないでいいですよ、と示すようだ。「俺の悪い癖です。気にしないで」
「……でも、勝手に尾けてきたのは、本当のことだから」
「どうしてここまで来たんですか? ただの墓地ですよ」
「ただの、じゃないでしょう」
丹羽青年はまばたきをしなくなる。弟の口元がまた微かにゆがむ。
「五年前の事件のときから、あなたを知っていました。その場にいたから。わたしは、しぎ――いえ、島崎絵里と申します。ずっと美咲さんの事件、忘れられなくて。わたし事件後も、あなたが同じ電車に乗ってどこかに」いや、どこかではなく、ここだったのだ。「……行ってるのを、知ってたの。わたしもずっと同じ時間の同じ電車で、叔父のところに通っていたから」
舌がもつれそうになる。日本中を騒然とさせた殺人鬼による犠牲者、その遺族である兄弟に、不躾なお願いをしようとしているこの状況が――自分で招いた状況にも関わらず――悪夢の中にいるようだと絵里は錯覚した。それくらいに足元が覚束なく、鼓動が一律でないリズムを刻んでいた。しかし、もう引き返せない。
「わたし、美咲さんのお墓にせめてお参りだけでもしたいってずっと考えてたの。でも話しかけられなかった。その代わりに、あなたが毎週火曜日に、必ず姿を見せてくれることに安心してた。あなただけでも……無事で、生きてくれてるんだって。余計なお世話なのは承知してるわ」
「事件のときにも乗り合わせていたとは、わからなかった。俺あんまり覚えてないんですよ」
「あのときは、だって……覚えてなくっても無理ないわ」
「そうっすね」
丹羽青年の胸が動いた。鼻で大きくため息をついたようだった。今のは失言だっただろうか。事件の記憶を掘り返すな、と弟に忠告されたばかりなのに。
「悪いけど、墓には入ってこないでください。美咲に会ってくれるというならせめてウチん家の仏壇で、お願いします」
「えっ」
「かーくん」弟が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。「マジなの?」
「どうせウチの住所は五年前に割れてるんで。報道陣が勝手に来たりしてね。知り合いとか、美咲の友達とか、全部ウチで線香上げてもらってます。ウチ、八ツ星町なんすけど、来ますか?」
思いもよらない言葉だ。
「このお人好し」
弟がそう低くつぶやいたが、「べつにいいだろ線香ぐらい」と頭をぽりぽり掻く丹羽青年は、特に不愉快そうではない。本当に数多くの人が、事件後に美咲のもとを訪ねているのだろう。いっそ事務的な対応ですらあると思った。
「今、オレと弟が二人で住んでるんで、汚いっすけど。おねえさん家、どこっすか。この近く?」
今は八ツ星町のビジネスホテルが家です、とは言えない。「露瀬のあたりだけど……」
「ああ、じゃあ近いじゃないですか。恵野まで来て、なんもできずに追い返されても虚しいでしょ」
「……かーくん、ウチ今ほんとに汚いけど」
「か、構わないわ! お線香あげさせてもらったら、すぐにお暇するから」
「だってよ」
兄がそう言うと、弟は、口の中の二酸化炭素を転がすようにわずかに動かしたあとで、「まあかーくんが言うなら」と承諾した。
腕時計は10時半を指している。先ほどとは逆方向へ走る電車の中は、一層乗客が減っていた。行きと違って、座席も空いていたので、絵里と丹羽兄弟は並んで座っていたのだが、誰も口を開かない。
まるでさっき朝日が昇ったばかりかのように、明と暗が半々に混ざり合って溶けたあとみたいな薄く仄かな光が、電車の床に注がれている。先ほどより空の雲が多くなっている。午後は雨予報だと今朝のテレビの天気予報で言っていたのを、絵里は思い出した。電車の窓はきっちりと締めてあるはずなのに、肌寒い空気がどこからか流れ込んで車内を満たしているのではないかと思った。
「ごめんなさい、わたしやっぱり、出過ぎたことをしてるわよね」
丹羽青年は目を開けた。
五年前の5月30日。電車内に響いた丹羽青年の悲鳴が周囲を凍りつかせた。今、あのときの青年が自分のとなりに目を閉じながら黙って座っていて、これから殺された妹の遺影に会わせてくれるという。しかも、弟も連れて。わたしはなんて図々しいお願いをしたのか。今まで何人もの知り合いが美咲の仏壇を訪れたとはいえ、絵里は丹羽家の知り合いでもなんでもない、完全な他人である。
そんな人間に、無残な事件に巻き込まれた妹のことを急に掘り返されたのだ。弟が警戒を隠さないのも当たり前だった。兄の本音はどうなのだろう。
「わたしのような他人に関わってほしくないのなら、正直に言って。それならわたしは次の露瀬で降りるわ」
「そんな必要ありません」
答えたのは丹羽青年の向こう隣に座る弟だった。
「かーくんがいいと言ったんだから、いいんですよ。そんなに気にしないでください」
淡々と任務をこなす仕事人のようだ。「さっきも言いましたが、この人はこう見えてお人好しなんです。怖いくらいだ」
「べつにお人好しじゃない」兄の反論には力がなく、それどころか眠たげだ。また目を閉じた。ひだまりの猫のように彼は大人しい。「ただ美咲に会いたいというだけだろ」
「そういって近づいてきた野次馬みたいなヤツを、一体何回見てきたと思ってるんだよ、俺たち」
「十回くらいかな」
「身分を詐称した記者やカメラマンも含めたら、もっとだ」
「独占取材とかいって、勝手に雑誌に載せられたこともあったよな。美咲の高校時代のクラスメートつって、オレたちと仏壇の前で喋った内容を、全部記事にされた」そこでようやく丹羽青年がニヒルに笑う。「懐かしいな」
「そんなこと、あったの?」
思わず絵里は声を上げていた。
「記者があなたたちを騙して、取材許可も得ていないのに書いたってこと?」
「そうです」
「……ひどい」
怒りがこみ上げる。自分の顔が上気していることに絵里は気づかなかった。丹羽青年がちらりとこちらを一瞥した。
美咲のことのみならず、事件の傷が癒えていない家族のことまで勝手にネタとして扱うなど、許されることではない。この世のすべての記者がそうではないだろうが、そこまで姑息な手段は、神経を疑う。
「そういうヤツだってゴロゴロいるんすよ、普通に」
「話をしたいのなら、せめて堂々と取材を申し込めばいいのに」
「そうするんすか? あなたなら」丹羽青年が静かに問う。
「わたしが記者だったら、そうするわ」絵里は歯切れよく答えた。それは心からの言葉だった。
足の上に両手を投げ出して座る丹羽青年は少しの間絵里を見つめていた。それから床に目を落として「くくっ」と喉で笑うのだった。余計な感情の混ざり気がない、軽くて単純な笑い方だった。
「まー落ち着いてくださいよ。ここ電車ン中っすよ。……って、オレが言うのもなんだけど」
という青年の言葉には誰も反応できない。
電車は大きな土手沿いの川をちょうど通り過ぎたところだ。
「ねえ、あなたたちの名前は?」
「丹羽和磨」
兄がそう名乗った。「弟は祐希人。俺の五つ下」
「歳いくつ?」
「俺は31です。お前何歳だっけ?」
「26だよ」
祐希人が低くつぶやく。長い脚の上で両手を組んでいる。モデルばりの高身長の美形の男がわずかな前傾姿勢で座っていると、妙な威圧感がある。彼はまた喋らなくなる。
26歳。事件当初の和磨の年齢だ。
「事件当時のニュースとか記事で、俺たちの名前くらい、ちょくちょく出てたと思いますけど。見てないんすか」
父親の丹羽拓郎の名前は、テレビのニュースで放映していた遺族会見で見たのを覚えている。長身で屈強な、プロレスラーみたいな男性であった。嗚咽を押し殺し、言葉少なに犯人への憎しみを低く言い募るその姿を絵里は当時、まともに直視できなかった。ネット記事なども積極的に探せる精神状態でもなかった。
それを話すと、「ふうん」と和磨は顎を引いた。
「ごめんなさい、なにも知らなくて……」
「なにも知らないでいてくれてるほうが、俺たちにとっては、ありがたいですよ」
和磨の、大きくもなく小さくない目が初めて絵里の顔に、まともに向けられた。
「他人の人生を不必要に調べて、見抜いて意見して同情した気分になってるヤツらに比べたら何百倍もマシです」
色白で細身だが、顔の輪郭は男性らしく無骨に角ばっている。首も結構がっしりしていて、よく見るとそこそこ男前だ。そのぼうっとした目つきも彼の過去をまったく知らない人間からしたら、色気すら感じ取るかもしれない。五年前に比べると、より大人っぽくなったが、物事を達観するその静かな瞳は春の木漏れ日のようにあたたかいようにも、冬の空気の如くおそろしく冷え切っているようにも見えた。
「もう八ツ星町に着きますよ」
そうつぶやいて立ち上がったのは祐希人だった。
「もう? 眠たいなあ、立ちたくねえなあ」
「かーくん行くよ。子どもかよ」
はじめて、祐希人が、うっすらと微笑を浮かべる。端正な顔が、さらに輝きを放って見える。
そして「島崎さんも行きましょう」と、そっけないながらも声をかけてくれた。
もともと紳士的な性格なのか。電車を降りてからも絵里や和磨に対し、「お先にどうぞ」「かーくん階段、気を付けてよ」といった細やかな気遣いの言葉を忘れなかった。その態度には無理がなく、自然と口から出ているみたいだった。のんびり屋な兄を持つからこそ、彼は常に周りを見て動かずにはいられないところがあるのかもしれない。鴫原にはこういうところはあまりなかった。
この子は美濃部に近いタイプだ。その甘いマスクの裏に、どんな感情を隠し持っているのかイマイチ読めないところも含めて。
彼らの住むマンションには駅から歩いて十五分ほどで着いた。
閑静な住宅街の奥に立つそのマンションは八階建てで、丹羽家の自宅は四階にあった。自分が三歳のとき、つまりまだ祐希人が生まれる前からずっとここに住んでいるんだと和磨が説明をした。「親は今、自宅から離れてるんすけどね」
「え? じゃあどこに?」
「身体がよくなくて。伯母がいろいろ世話をしてくれてるんで、そっちン家にいます。かかりつけの病院も伯母ン家のすぐ目の前なんですよ。俺と祐希人は普通に仕事してるから、迷惑かけたくないって、親父がね。つっても伯母のところも近いから、よく様子に見に行くんすけど」
それは、両親ふたりともが? それとも父親だけがひとり伯母の家に世話になっているのか? ならば母親は?
それ以上は聞けない。
「あ、ちょっと待って。廊下と和室だけ少し片づける」
和磨がそう言ってドアを閉めたので、祐希人と二人きりになってしまった。
沈黙が続く。
「あの、祐希人くん……」
後ろを振り返ると、祐希人が小さなミラーを、ジャケットの内ポケットから出しているところだった。
そこからが驚かされた。鏡の角度を変えながら、目元にかかる前髪をいじったり、鏡の位置を遠ざけたり近づけたりして、絵里のほうなど一切目もくれず、自分の顔を真剣に覗き込んでいるのだ。しかも恋人に夢中になるときのような熱視線を鏡の中の自分に注いでいるものだから、絵里は唖然としている他なかった。
口角が上がってすらいる。先ほど、彼が電車の中で兄に向けた微笑みよりももっと、慈愛に満ちた目で、己に見惚れている。彼と同年代の女子が見たら、いくら顔がイケメンでも、寒気を覚えるのではないか。
「祐希人くん?」
おそるおそる呼んでみた。
祐希人は我に返ったようだ。
「ああ」と、鏡をポケットにしまった。「つい自分の顔が気になって。見始めたら夢中になって、あなたがいることさえ忘れていた」
「もう家に着いたんだから、中に入ってからでもよかったんじゃないの?」
「待てなかったんです」
「あら、それともわたしに見られていると思って?」絵里としては、若い男の子をからかう程度のことだった。「心配しなくってもあなたみたいな若い男の子に、いまさらわたしもときめいたりはしないわ。それに、十分かっこいいんだから、いちいち気にする必要ないわよあなた」
祐希人は兄に比べて、堂々とまっすぐ姿勢よく立つ。誠実そうなストレートの黒髪は後ろがすっきりと短く、前髪は最近の若い男子の流行りっぽく、長めに下ろしている。瞳ははっきりしているほうだが大きすぎず、唇も薄くなく厚すぎず、全体的にパーツのバランスがいい。眉毛の濃さは兄と似ているが、元より眉毛そのものが整っているため、それが凛々しさと優しさが織り交ぜた親しみやすい雰囲気を演出する。決してチャラくなさそうなのもポイントが高い。
これで性格に難がなければ、さぞモテモテなのだろうが。
「……そういうことではないです」
イケメンが大きな黒目を見開き、きょとんとする様子とはこんなにも、かわいらしいのか。だがその形のいい唇が放った言葉に絵里は、度肝を抜かれることになる。
「島崎さん、俺はべつに人から見られたくて自分の顔を気にしているのではありません。むしろなにも感じない。確かに俺のルックスを褒めてくれる人は星の数ほどいますけど、他人からの評価に興味はない」
どういう意味だ?
「俺ってすごく顔がいいでしょう?」
ドアが開く。
「だから俺は自分自身が恋人みたいなものなんです。それだけですよ」
「うす、お待たせしました、どーぞ」
和磨が顔を出した。
恵野駅東口から歩くことおよそ十分。商店街を抜けて閑静な通りに入った。丹羽兄弟がやって来たのは古いお寺だった。寺の周りに生い茂る草花の前に住職が座り込んでいて、背中を丸めて手入れをしている。
「こんちは」と両手をズボンに突っ込んだ兄が挨拶し、「お邪魔します」と弟が軽く会釈をする。住職は顔を上げぬまま「おう、おう」と言って手を挙げる。生き生きと伸びきった草は、膝をついた住職の坊主頭に掠りそうなほどだ。
兄弟が中へ入っていく。
絵里は離れたところで立ち往生するしかなかった。いくらなんでもこれ以上深追いするのはまずい。すでに半分ストーカーだ。
だが、ここにおそらく丹羽美咲の墓がある。弟が口にしていた「久しぶりに三人集まれる」は、そういう意味であろう。
なぜ八ツ星町から五つも駅が離れた恵野に、彼女の墓があるのかは不明だが――。
どうする。本当なら、なにも見なかったことにして立ち去るべきだ。
だけど……。
丹羽青年の惨劇を目の前で見てしまった身として、絵里もまた、丹羽美咲の存在を無視できるはずがなかった。ましてや美咲の命を奪ったのは、今なお逮捕されていない連続殺人鬼だった。丹羽美咲の遺体が発見されたニュースもずいぶんテレビなどで報道されていた。できることならいつか、彼女の墓に一度手を合わせに、と考えていた。しかし身内に黙ってするのは、さすがに気が引ける。
ここで兄弟が墓参りを終えるのを待ってから墓地へ入るか。それでは住職に怪しまれる可能性が高い。
違う遺族を装って入るのが一番、バレずに済む気がする。
でも、それでいいのか? そんなコソコソ、野次馬みたいな真似。
絵里は恋に生きてきた女だが、決して感情だけで動く性格ではないと自負している。ここで引き返したら自分が納得できるかできないか、姑息なことをして後悔するかしないか――なんでも一旦思案してから決めるようにしてきた。だから鴫原から、君は優柔不断だとたまに注意されることもあった。
しかしその鴫原との結婚もそうだ。この人とだったら幸せになれるかもしれないと、衝動一本ではない決断をできたから、24年続いたと思っている。結果、永遠の愛にはならなかったが。
丹羽家があの事件後どうなってしまったのか、赤の他人の絵里には知る術もなければ、知る権利もないだろう。
「あ、ちょっとちょっと」住職の呑気な呼びかけを振り切り、絵里は足早で奥の墓地へ突き進む。わたしはやっぱり美咲さんのお墓に手を合わせたい。ほんとに、それだけでも。
寺院はたくさんの樹に囲まれている。奥に向かうにつれて背の順のように徐々に木が高くなっていく。神聖な墓地を守る格子のようだ。幼い頃に通っていたバレエ教室の庭を思い出した。先生の自宅が教室の上にあり、同じように緑に囲まれていた。綺麗好きだった先生は教室の中も建物の周りも、自宅と同じように清潔にしていて、バレエを辞めるまでの十六年間、あそこは第二の家みたいだった。
今は冬だから、木にはあまり葉がついていないが、雑草のほうはマメな住職のおかげで無駄にぼうぼう生い茂っていない。美しく手入れされている。
ざく、とパンプスが土を削る。
絵里は肩をそびやかし、後ずさりをしかけた。
「なにか用ですか?」
丹羽弟がそこに立っていた。
墓地の手前だ。弟は絵里よりも身長が高いものの、いささか上目遣いな感じでこちらを睨む。鉄のような無機質な黒目を前に、絵里はなにも言えなくなる。
奥から兄の丹羽青年が出てきて、まず絵里に気づいた。それから弟のほうを見た。
「ついてきていたのは、わかってたんだ」と弟が言う。「うちの姉さんの事件の取材とか、残念だけど今は全部お断りしてるんです。それと、興味本位の野次馬も。たまに、どこかから嗅ぎつけてきて、俺たちや親に接触してくるヤツがいるので。あれから何年も経ってるのに」
「わたしは、あの、」
「事件に首突っ込みたいだけの人なら、俺たちが話すことは、特にありませんから」
尖った声だった。はっきりとした敵意が滲んでいる。やはり引き返すべきだったのだ、こんなバカな真似をするものではなかった――。
「どこからつけてきたんですか? 駅からですか!」
「お姉さんさ」
すると丹羽青年が、たった今眠りから目を覚ました人のようにゆっくりと目をしばたかせて言った。「いつも同じ電車乗ってた人っすよね」
驚いた。認識されていたのか。
「今日久しぶりに見たなーと思ってた。火曜日にさ、俺がここ来るときにさ、いつも一緒の時間に乗ってたの。一年ぐらい前までだったかな」弟を宥めるようにして、それからまた絵里を見る。「話したこととかはなかったけど、俺、知ってましたよ」
丹羽青年の声は、どこまでも、棘がない。圧もない。しかし、抑揚もない。
「ヒトを尾行してるときってどんな気分っすか?」
薄笑いが、絵里を刺す。
バクバクする心臓で「ごめんなさい」と謝る絵里は、このまま背中を向けて逃げてしまおうかと思いかけた。すると丹羽青年が再び無表情に戻り、
「いえ、すんません。責めてるわけじゃない。ただの興味で聞いてみただけ」
首を軽く左右に振る。怯えないでいいですよ、と示すようだ。「俺の悪い癖です。気にしないで」
「……でも、勝手に尾けてきたのは、本当のことだから」
「どうしてここまで来たんですか? ただの墓地ですよ」
「ただの、じゃないでしょう」
丹羽青年はまばたきをしなくなる。弟の口元がまた微かにゆがむ。
「五年前の事件のときから、あなたを知っていました。その場にいたから。わたしは、しぎ――いえ、島崎絵里と申します。ずっと美咲さんの事件、忘れられなくて。わたし事件後も、あなたが同じ電車に乗ってどこかに」いや、どこかではなく、ここだったのだ。「……行ってるのを、知ってたの。わたしもずっと同じ時間の同じ電車で、叔父のところに通っていたから」
舌がもつれそうになる。日本中を騒然とさせた殺人鬼による犠牲者、その遺族である兄弟に、不躾なお願いをしようとしているこの状況が――自分で招いた状況にも関わらず――悪夢の中にいるようだと絵里は錯覚した。それくらいに足元が覚束なく、鼓動が一律でないリズムを刻んでいた。しかし、もう引き返せない。
「わたし、美咲さんのお墓にせめてお参りだけでもしたいってずっと考えてたの。でも話しかけられなかった。その代わりに、あなたが毎週火曜日に、必ず姿を見せてくれることに安心してた。あなただけでも……無事で、生きてくれてるんだって。余計なお世話なのは承知してるわ」
「事件のときにも乗り合わせていたとは、わからなかった。俺あんまり覚えてないんですよ」
「あのときは、だって……覚えてなくっても無理ないわ」
「そうっすね」
丹羽青年の胸が動いた。鼻で大きくため息をついたようだった。今のは失言だっただろうか。事件の記憶を掘り返すな、と弟に忠告されたばかりなのに。
「悪いけど、墓には入ってこないでください。美咲に会ってくれるというならせめてウチん家の仏壇で、お願いします」
「えっ」
「かーくん」弟が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。「マジなの?」
「どうせウチの住所は五年前に割れてるんで。報道陣が勝手に来たりしてね。知り合いとか、美咲の友達とか、全部ウチで線香上げてもらってます。ウチ、八ツ星町なんすけど、来ますか?」
思いもよらない言葉だ。
「このお人好し」
弟がそう低くつぶやいたが、「べつにいいだろ線香ぐらい」と頭をぽりぽり掻く丹羽青年は、特に不愉快そうではない。本当に数多くの人が、事件後に美咲のもとを訪ねているのだろう。いっそ事務的な対応ですらあると思った。
「今、オレと弟が二人で住んでるんで、汚いっすけど。おねえさん家、どこっすか。この近く?」
今は八ツ星町のビジネスホテルが家です、とは言えない。「露瀬のあたりだけど……」
「ああ、じゃあ近いじゃないですか。恵野まで来て、なんもできずに追い返されても虚しいでしょ」
「……かーくん、ウチ今ほんとに汚いけど」
「か、構わないわ! お線香あげさせてもらったら、すぐにお暇するから」
「だってよ」
兄がそう言うと、弟は、口の中の二酸化炭素を転がすようにわずかに動かしたあとで、「まあかーくんが言うなら」と承諾した。
腕時計は10時半を指している。先ほどとは逆方向へ走る電車の中は、一層乗客が減っていた。行きと違って、座席も空いていたので、絵里と丹羽兄弟は並んで座っていたのだが、誰も口を開かない。
まるでさっき朝日が昇ったばかりかのように、明と暗が半々に混ざり合って溶けたあとみたいな薄く仄かな光が、電車の床に注がれている。先ほどより空の雲が多くなっている。午後は雨予報だと今朝のテレビの天気予報で言っていたのを、絵里は思い出した。電車の窓はきっちりと締めてあるはずなのに、肌寒い空気がどこからか流れ込んで車内を満たしているのではないかと思った。
「ごめんなさい、わたしやっぱり、出過ぎたことをしてるわよね」
丹羽青年は目を開けた。
五年前の5月30日。電車内に響いた丹羽青年の悲鳴が周囲を凍りつかせた。今、あのときの青年が自分のとなりに目を閉じながら黙って座っていて、これから殺された妹の遺影に会わせてくれるという。しかも、弟も連れて。わたしはなんて図々しいお願いをしたのか。今まで何人もの知り合いが美咲の仏壇を訪れたとはいえ、絵里は丹羽家の知り合いでもなんでもない、完全な他人である。
そんな人間に、無残な事件に巻き込まれた妹のことを急に掘り返されたのだ。弟が警戒を隠さないのも当たり前だった。兄の本音はどうなのだろう。
「わたしのような他人に関わってほしくないのなら、正直に言って。それならわたしは次の露瀬で降りるわ」
「そんな必要ありません」
答えたのは丹羽青年の向こう隣に座る弟だった。
「かーくんがいいと言ったんだから、いいんですよ。そんなに気にしないでください」
淡々と任務をこなす仕事人のようだ。「さっきも言いましたが、この人はこう見えてお人好しなんです。怖いくらいだ」
「べつにお人好しじゃない」兄の反論には力がなく、それどころか眠たげだ。また目を閉じた。ひだまりの猫のように彼は大人しい。「ただ美咲に会いたいというだけだろ」
「そういって近づいてきた野次馬みたいなヤツを、一体何回見てきたと思ってるんだよ、俺たち」
「十回くらいかな」
「身分を詐称した記者やカメラマンも含めたら、もっとだ」
「独占取材とかいって、勝手に雑誌に載せられたこともあったよな。美咲の高校時代のクラスメートつって、オレたちと仏壇の前で喋った内容を、全部記事にされた」そこでようやく丹羽青年がニヒルに笑う。「懐かしいな」
「そんなこと、あったの?」
思わず絵里は声を上げていた。
「記者があなたたちを騙して、取材許可も得ていないのに書いたってこと?」
「そうです」
「……ひどい」
怒りがこみ上げる。自分の顔が上気していることに絵里は気づかなかった。丹羽青年がちらりとこちらを一瞥した。
美咲のことのみならず、事件の傷が癒えていない家族のことまで勝手にネタとして扱うなど、許されることではない。この世のすべての記者がそうではないだろうが、そこまで姑息な手段は、神経を疑う。
「そういうヤツだってゴロゴロいるんすよ、普通に」
「話をしたいのなら、せめて堂々と取材を申し込めばいいのに」
「そうするんすか? あなたなら」丹羽青年が静かに問う。
「わたしが記者だったら、そうするわ」絵里は歯切れよく答えた。それは心からの言葉だった。
足の上に両手を投げ出して座る丹羽青年は少しの間絵里を見つめていた。それから床に目を落として「くくっ」と喉で笑うのだった。余計な感情の混ざり気がない、軽くて単純な笑い方だった。
「まー落ち着いてくださいよ。ここ電車ン中っすよ。……って、オレが言うのもなんだけど」
という青年の言葉には誰も反応できない。
電車は大きな土手沿いの川をちょうど通り過ぎたところだ。
「ねえ、あなたたちの名前は?」
「丹羽和磨」
兄がそう名乗った。「弟は祐希人。俺の五つ下」
「歳いくつ?」
「俺は31です。お前何歳だっけ?」
「26だよ」
祐希人が低くつぶやく。長い脚の上で両手を組んでいる。モデルばりの高身長の美形の男がわずかな前傾姿勢で座っていると、妙な威圧感がある。彼はまた喋らなくなる。
26歳。事件当初の和磨の年齢だ。
「事件当時のニュースとか記事で、俺たちの名前くらい、ちょくちょく出てたと思いますけど。見てないんすか」
父親の丹羽拓郎の名前は、テレビのニュースで放映していた遺族会見で見たのを覚えている。長身で屈強な、プロレスラーみたいな男性であった。嗚咽を押し殺し、言葉少なに犯人への憎しみを低く言い募るその姿を絵里は当時、まともに直視できなかった。ネット記事なども積極的に探せる精神状態でもなかった。
それを話すと、「ふうん」と和磨は顎を引いた。
「ごめんなさい、なにも知らなくて……」
「なにも知らないでいてくれてるほうが、俺たちにとっては、ありがたいですよ」
和磨の、大きくもなく小さくない目が初めて絵里の顔に、まともに向けられた。
「他人の人生を不必要に調べて、見抜いて意見して同情した気分になってるヤツらに比べたら何百倍もマシです」
色白で細身だが、顔の輪郭は男性らしく無骨に角ばっている。首も結構がっしりしていて、よく見るとそこそこ男前だ。そのぼうっとした目つきも彼の過去をまったく知らない人間からしたら、色気すら感じ取るかもしれない。五年前に比べると、より大人っぽくなったが、物事を達観するその静かな瞳は春の木漏れ日のようにあたたかいようにも、冬の空気の如くおそろしく冷え切っているようにも見えた。
「もう八ツ星町に着きますよ」
そうつぶやいて立ち上がったのは祐希人だった。
「もう? 眠たいなあ、立ちたくねえなあ」
「かーくん行くよ。子どもかよ」
はじめて、祐希人が、うっすらと微笑を浮かべる。端正な顔が、さらに輝きを放って見える。
そして「島崎さんも行きましょう」と、そっけないながらも声をかけてくれた。
もともと紳士的な性格なのか。電車を降りてからも絵里や和磨に対し、「お先にどうぞ」「かーくん階段、気を付けてよ」といった細やかな気遣いの言葉を忘れなかった。その態度には無理がなく、自然と口から出ているみたいだった。のんびり屋な兄を持つからこそ、彼は常に周りを見て動かずにはいられないところがあるのかもしれない。鴫原にはこういうところはあまりなかった。
この子は美濃部に近いタイプだ。その甘いマスクの裏に、どんな感情を隠し持っているのかイマイチ読めないところも含めて。
彼らの住むマンションには駅から歩いて十五分ほどで着いた。
閑静な住宅街の奥に立つそのマンションは八階建てで、丹羽家の自宅は四階にあった。自分が三歳のとき、つまりまだ祐希人が生まれる前からずっとここに住んでいるんだと和磨が説明をした。「親は今、自宅から離れてるんすけどね」
「え? じゃあどこに?」
「身体がよくなくて。伯母がいろいろ世話をしてくれてるんで、そっちン家にいます。かかりつけの病院も伯母ン家のすぐ目の前なんですよ。俺と祐希人は普通に仕事してるから、迷惑かけたくないって、親父がね。つっても伯母のところも近いから、よく様子に見に行くんすけど」
それは、両親ふたりともが? それとも父親だけがひとり伯母の家に世話になっているのか? ならば母親は?
それ以上は聞けない。
「あ、ちょっと待って。廊下と和室だけ少し片づける」
和磨がそう言ってドアを閉めたので、祐希人と二人きりになってしまった。
沈黙が続く。
「あの、祐希人くん……」
後ろを振り返ると、祐希人が小さなミラーを、ジャケットの内ポケットから出しているところだった。
そこからが驚かされた。鏡の角度を変えながら、目元にかかる前髪をいじったり、鏡の位置を遠ざけたり近づけたりして、絵里のほうなど一切目もくれず、自分の顔を真剣に覗き込んでいるのだ。しかも恋人に夢中になるときのような熱視線を鏡の中の自分に注いでいるものだから、絵里は唖然としている他なかった。
口角が上がってすらいる。先ほど、彼が電車の中で兄に向けた微笑みよりももっと、慈愛に満ちた目で、己に見惚れている。彼と同年代の女子が見たら、いくら顔がイケメンでも、寒気を覚えるのではないか。
「祐希人くん?」
おそるおそる呼んでみた。
祐希人は我に返ったようだ。
「ああ」と、鏡をポケットにしまった。「つい自分の顔が気になって。見始めたら夢中になって、あなたがいることさえ忘れていた」
「もう家に着いたんだから、中に入ってからでもよかったんじゃないの?」
「待てなかったんです」
「あら、それともわたしに見られていると思って?」絵里としては、若い男の子をからかう程度のことだった。「心配しなくってもあなたみたいな若い男の子に、いまさらわたしもときめいたりはしないわ。それに、十分かっこいいんだから、いちいち気にする必要ないわよあなた」
祐希人は兄に比べて、堂々とまっすぐ姿勢よく立つ。誠実そうなストレートの黒髪は後ろがすっきりと短く、前髪は最近の若い男子の流行りっぽく、長めに下ろしている。瞳ははっきりしているほうだが大きすぎず、唇も薄くなく厚すぎず、全体的にパーツのバランスがいい。眉毛の濃さは兄と似ているが、元より眉毛そのものが整っているため、それが凛々しさと優しさが織り交ぜた親しみやすい雰囲気を演出する。決してチャラくなさそうなのもポイントが高い。
これで性格に難がなければ、さぞモテモテなのだろうが。
「……そういうことではないです」
イケメンが大きな黒目を見開き、きょとんとする様子とはこんなにも、かわいらしいのか。だがその形のいい唇が放った言葉に絵里は、度肝を抜かれることになる。
「島崎さん、俺はべつに人から見られたくて自分の顔を気にしているのではありません。むしろなにも感じない。確かに俺のルックスを褒めてくれる人は星の数ほどいますけど、他人からの評価に興味はない」
どういう意味だ?
「俺ってすごく顔がいいでしょう?」
ドアが開く。
「だから俺は自分自身が恋人みたいなものなんです。それだけですよ」
「うす、お待たせしました、どーぞ」
和磨が顔を出した。