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家族へ



「じじい....じじい....っ」



詩は顔をくしゃくしゃにして泣いた。

こんなに泣くのはいつぶりだろう。

こうして、感情を表に出すのが苦手で。

瞳を通してそんな感情を見破られてしまいそうなのが怖くて。

伸ばした前髪。

もう、そんなの関係なかった。

今まで堰き止めていた感情が、あふれ出してとまらない。

苦しい。

つらいよ。

助けて...

何度も心の中で叫んだ。

どうして今さら...

こんな気持ちを思い出させるのか...

家族なんて...

家族なんて、学園にいる仲間だけで十分だったはずなのに...

どうしてこうも...

追い求めてしまうのだろう...欲してしまうのだろう...







気が付けば、両親が詩の肩を抱いて一緒に泣いていた。

背中に感じる温もり。

手から伝わる熱い体温。

ずっとずっと....

欲しかったものだ。






また拒絶されるかもしれない、それが怖かった。

だけど、家族との再会は想像していたのとは違った。

すごく、温かいものだった。






「ごめんなさい....っ

ひとりにして、ごめんなさい....っ」

母は何度も謝り続けた。







「この手紙をよんで、すぐに僕たちは詩のいる学園に向かった。

しかし、会うことは許されなかった。

今の今まで、一度たりとも...

そればかりか、理由もわからず隔離や転居をさせられる日々。

手紙も何度も送ったが、届く望みもうすいとわかった...」

父はそう、震えながら言う。

「詩が今どうしているかもわからなかった。

元気にしているか、それだけでも知りたかった...っ

これだけは本当だ。

この15年間、詩のことを考えなかった日はないよ」






知らなかった、そんなこと...

両親が学園に来ていたことも、手紙を送っていたことも...

会いたがっていたことも....





何も知らずに、ずっとずっと、ひとりだと思っていた。

クラスメイトが一生懸命、覚えたての字で手紙をかいているのをみても、自分はなんて書いたらいいかわからなくて...

結局何も、書けなかった。

届いていたとも思えないけれど...

家族という存在自体、自分には無縁のものと諦めていた。





15年間、すれ違っていた。

間違いを直すチャンスすら、なかった。




それが今日...

苦しんできた呪縛から、やっと解き放たれる。

遅すぎたかもしれない。

時が経ちすぎた。

埋まらなかったこの15年間を埋めるには、まだまだ時間がかかるのかもしれない。

でも、今日の一歩は確かに大きなものだった。








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