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家族へ



詩を預かって、詩との生活がはじまった。




琴が、詩を受け入れられないことは悲しいことだった。

そして、自分のせいでもあった。





でも、これだけは言いたい、琴。

詩を、アリスを...恐れないでほしい。

詩はとてもあたたかい子じゃ。

寒い日は、琴が風邪をひいていないかと心配し、

美味しいものを食べた時は、琴にも分けると言って、自分の分を残した。

いつか迎えに来てくれると信じて、神社の玄関先の掃除をかって出た。





アリスがあるとかないとか、関係ない。

詩を、詩自身をみてほしい。

息子として、愛してほしい。

大事なものを見失い、傷つけてほしくない。

血のつながった家族。

私たちのもとに生まれおちた奇跡を、光を、どうか手放さないでほしい。

詩を、抱きしめてほしい。

愛情の知らない哀しい子にはなってほしくない。

どうかこのまま、まっすぐに育ってほしい。





式神のアリスと分かった以上、これから先詩の進む道は決して平たんではない。

苦しくて、つらくて、立ち上がれない時...

たくさんあると思う。

でもそんな時、支えになるのは愛情だ。

誰かが自分を愛してくれたということが、暗く深い闇の中で、ひとつの希望になる。

諦めずに、走り続けられる。

私も、そうだったから...







琴、たくさん寂しい思いもさせた。

辛い思いもさせた。

本当に、申し訳なかった。

でもそれ以上に、私は妻と琴を愛した。

家族の笑顔を見ている時は幸せだった。

琴、悲しみに呑み込まれすぎずに、明るい方向を向くのを忘れないで。






そして詩。

そのアリスを、式神のアリスを愛せているか?

まわりに仲間はたくさんいるか?

仲間に関しては、心配あるまいな。

その式神というアリスは、昔からどういうわけか、人を惹きつけた。

どうか自分を恐れずに、仲間を信じて、そのアリスを正しく使ってほしい。

詩を忘れてしまう、この老いぼれを許してくれ。

成長した詩をみたかった。

いろいろなこと、教えてやりたかった。

また、“じじい”と呼んでほしかった。

目の前で明るく、笑う姿がみたかった。






こんなふうに、強がって恰好をつけているが、

本当は、忘れたくない...

忘れたくない、忘れたくない。

忘れてしまうことが怖くて仕方ない。





ずっと、覚えていたい。





でも、時はきたようだ。

行かなくては...

私が伝えたかったこと、忘れないでほしいことを最後にひとつだけ。






家族を、愛している。






東雲 時







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