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幾度となく、呼びかけ続けたその名前。
意思はないとわかっても、届いてほしかったから。
ただそれだけの気持ちでその名を呼んだ。
呼び続けた。
思い出してほしかった。
兄のことを....
「クイナ!!!」
詩がそう言った時だった。
クイナの青い瞳から、涙がこぼれ落ちる。
詩ははっとする。
式神の攻撃は止まないが、確かに今、みたのだ。
見間違えなはずがない。
そして、何も発することのなかった口が動いた。
「たす...けて....」
翔も月も、はっとした。
まさか、意識が...っ
詩の呼びかけに、応えた....
「クイナーーーー!!!!」
詩の一際大きな声。
「今助けるからーーー!!!」
みると、クイナの顔は、涙にぬれていた。
表情が、瞳の明るさが、確かにあった。
「たす....けて....
ちからが....とまらないの....
だれも....だれも傷つけたくないのに....っ」
意識に反して動くからだ。
勝手に、人を傷つけるアリス...
なんなの....これは....っ
私は、どうなってしまうの....?
助けて、助けてお兄ちゃん....っ
クイナの消え入りそうな、悲痛な叫びは、詩の胸に刺さる。
今までの攻撃の、何より痛かった。
戻ってこい、戻ってこい....俺の式神...
「式神は、俺のアリスだ....っ!!!
違う身体で、俺じゃない身体で、勝手に暴れてんじゃねーー!!!」
その言葉と同時に、クイナの左胸が、強く、青く光る。
はっとするクイナ。
詩が付きだした手の中、そこに青い光は吸い込まれていく。
幻想的な光だった。
間もなくその光は消える。
ふっと、クイナの力が抜け、詩は急いで抱きとめる。
「大丈夫、気絶してるだけだ....」
まじかでみて、改めてその幼さを思い知る。
こんな小さな子が、なぜ、こんなに苦しまなきゃいけないのか....
心が張り裂けそうに痛い。
でもこれで、クイナを縛るものはなくなった。
左胸はぽっかりと空洞になっていた。
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