幼子の胸
詩と翔は、ケインたち子どもたちに施設外の安全な場所を教えてそこへ行くように指示した。
「月さん!
東側の部屋、ロック解除できる?」
詩と翔は全速力で向かいながら言う。
「ええ、今やってるけど...
その部屋の情報は鍵がかかってわからない。
何が出るかわからないわ」
月の言葉に、詩はふっと笑う。
「大丈夫。
行かないなんて選択肢ないから」
翔はふと笑って、詩には地獄の果てまでついて行ってしまうんだろうなと、思うのだった。
東の部屋は、たぶんこの施設で一番セキュリティーが高い。
密閉された頑丈な扉。
「開けるわ」
月の言葉とともに開いたそこに、詩と翔は躊躇なく飛び込んだ。
暗く、天井が高い広い部屋。
3階ほどの高さには、人が歩ける程度の道と手すりがあった。
明かりは青白いライトだけ。
中が、見えづらかった。
しかし、目を凝らすと見えてくる。
入口とは反対側に、半円状に並ぶ椅子のような大きな機械。
10機ほどあるが、そのうち、6つに人影があった。
それはあの、戦場の映像でみた、アリス兵たちそっくりだった。
先ほどの子どもたちとは違い、全身黒の頑丈そうなスーツ。
そこから無数にのびるコードのような線は、椅子につながれている。
皆、一様に首をうなだれていた。
「気をつけろ詩...
この子たちに、もう意思はないかも...」
翔の言葉が響く。
あの戦闘映像をみたら、誰でもそう思うだろう。
自分よりもはるかに強大な戦車に、迷いなく突っ込んでいくあの姿。
普通の人間...ましてや子どもなんて、できることじゃない。
詩もそれは、頭に入れていた。
でも、それでも....
そんなこと...信じたくなかった...
「クイナちゃん、クイナちゃん....?
ケインが、君のお兄ちゃんが...心配してる。
一緒に、家に帰ろう」
詩の呼びかけ、一瞬ぴくっと反応した気がした。
しかしそれはいい反応とは思えなかった。
一斉に頭をそろえて、詩と翔を見つめる瞳。
その目は、何も移していないかのように暗かった。
とても、人間の目とは、思えなかった。
そして、それが合図だった。
「詩!
翔くん!
それはもう、人間じゃない!
対戦車ようの兵器よ!!
手を抜いたらこちらがやられるわ!!」
そんな月の声と共に、6人...いや、6体がそろって攻撃態勢に入った_______
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