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家族へ



ー私はこれから、アリスによって記憶を消される。





国の機密事項、アリスに関する記憶すべてだ...

そこに関しては何も、抵抗はない。

このアリスの危険性と自分の立場を十分理解しているがゆえ、最善の判断だと納得している。

アリスとは多彩なもので、人の記憶から、いろいろな情報を引き出すものもある。

無抵抗の老人から、そんなのは容易い。

よからぬことを考える者の手に情報が渡ることはあってはならないのだ。





ただ、記憶を消す後遺症で、他の記憶にも影響を与えてしまうらしい。

そして、同じアリスである孫の記憶も、消されるという。

孫を守るとはいえ、私が最後にできることとはいえ、さすがに、寂しい。

家族の記憶も、なくなってしまうかもしれない。





でも、忘れることが、私ができる最後の、家族を守る手段だ。





私は死ぬまで、このアリスと共に生き、家族を守ると決めている。

それだけは譲れないものだ。





だから、すべてを忘れてしまう前に、こうして私の言葉を残しておきたかった。

愛する家族へ、こんな身勝手ですまない。





琴と、そして今は亡き妻には、とても苦労をかけた。

私は、家庭をもってからも、国の任務を断り切れずに、何度か要請に応えていた。

そのせいもあり、幾度となく家族を危険な目に合わせてしまったし、居住地も安定せず、不自由な思いもさせた。

いつしか琴は、そんな私を避けるようになった。

当然だと、思った。

“なんのために戦うの”

“なんで私たちは狙われてるの”

“なんで友だちはみんな、私たちを避けるの”

そうきかれ、答えてやることができなかった。

自分の仕事やアリスを話すことで、琴にもしものことがあったら...

そんな気持ちが大きくて、私は何も話さないことを選んだ。

たとえ、愛する娘に恨まれても....

それが家族を守る最善の方法だと思ったから...






琴が高校を卒業するころ、妻は亡くなった。

琴は、私に“あんたのせいだ”と言った。

何も、言えなかった。

度重なる環境の変化、いつ私が帰れるかもわからぬ任務、心労が重なっていたのかもしれない。

もともと病弱だった妻のそばにずっといてあげられなかった。

琴の悲しみが痛いほど伝わった。

それから私たちは、別々に暮らす選択をした。

琴に会わぬこと、それがせめてもの償いだと思った。

私がいると、つらいことばかり思い出させてしまう。





もう、会うことは許されない...そう思っていた。

私はそれから、任務をほぼすべて断り、ひっそりと慎ましく暮らすことにしたのだ。





そんな時、琴から連絡がきた。

“詩を預かってほしい”と。




結婚し、孫が生まれていたことも知らなかった。

その孫が、同じ式神のアリスを宿していることも、さらに驚いた。

複雑な気持ち...それもあったが、嬉しいことにかわりなかった。

そして、私は琴が生まれたときのことを思い出した。





アリスをもたないということに、安心を覚えたのは嘘じゃない。

ああ、この子は苦しい道を歩まなくてすむ....

そう思った。

でも、そんなことは関係ないんだ。





琴も、詩も、生まれてきてくれたこと。

ただそれだけで、尊く、祝福されるべきことなんだ。

アリスがあってもなくても、命の重さは変わらない。

これから先、また家族が増えてゆくかもしれない。

そのたびに私は、アリスの有無に関係なく、心から祝福し、嬉しく思うだろう。





琴、詩...

生まれてきてくれて、ありがとう____









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