幼子の胸
「さっそくなんだけど、このアリススーツってなんなの?
説明してくれる?ケイン」
詩はスーツを指さして言った。
ケインは頷く。
「僕らにも仕組みはわかんないんだけど、これを着るだけで、僕らみたいなアリスじゃない人間も、アリスを使えるようになるらしいんだ」
そんな、まさか...
翔は驚く。
「ここは実験施設みたいで、僕らにあったアリスが見つかり次第、戦場へ送られる。
戦地へ行くことは、名誉なことだって...
選ばれたら家族にたくさんお金が行って、裕福に暮らせるって...
そう言って僕らは強制的に招集されたんだ」
「そんなこと...」
詩は、あたりを見渡す。
純粋な瞳が、詩を見つめ返す。
「まだ、小さい子だっているのに...っ
ケイン、お前だってまだ若いのに!」
うん、とケインをはじめとしたみんな、悲しそうな顔をする。
「ここにいるのは、なぜか10歳から18歳の子ども。
なぜか大人は選ばれない...
そして、選ばれて戦地へ行ったアリス兵たちは、誰一人戻ってきてない...」
詩と翔の脳裏に、あの映像が浮かんだ。
北軍に撃ち落される、南軍の兵士たち...
あれはみんな....
「家族のため、国のため、平和に暮らすためって言われたけど...
全然戦争、終わらなくて...」
そう言って女の子は泣き出す。
「毎日毎日こわくて....」
「お兄ちゃんは選ばれて帰ってこなかった...」
詩は唇を噛み締める。
なんなんだ、なんなんだ、この戦いは....っ
誰が、幸せになるんだ....っ
「でも、詩や翔が助けに来てくれたっ」
ケインは、ぱっと、歯を見せて笑う。
「僕たちの、希望だよ...ありがとうっ」
「そんな、俺たちは何も...」
詩は首を振るが、ケインやみんなは、ありがとうと、2人に感謝を伝え続けた。
「念のためきくけど、ここにいるのはこれで全員か?」
翔は見渡す。
ざっと100余名くらいだった。
ケインの顔が、暗く沈む。
「妹がいる...たぶん...
クイナって言うんだ。
青い目がきれいな...」
え、翔は詩へ目配せする。
「いや、ここ以外に子どもなんて...」
詩は言って、はっとする。
「まさか、東側のあそこか....?」
「僕たちは施設内のことは何もわからないけど、兵士たちが話してるのをきいたんだ。
“クイナの実験が成功しそうだ”って。
“この施設からも優秀な兵器を出せる”って。
クイナは1週間前に、選ばれて、ここを去った」
それはつまり、クイナもあのアリス兵にされるということを指していた。
そして、さらに聞きたくないことまで聞いてしまった。
他にも、ここと同じような施設が存在する可能性。
あの南軍の兵力を思い出せば頷ける。
100人程しかいないとわかった瞬間から想定はしていた。
事態は一刻を争そうようだった。
ケインによると、他にも1週間前後で選ばれた子どもたちがいるらしかった。
その子どもたちが皆、東側の隔離部屋にいることはまずまちがいなさそうだった。
「ケイン、妹のことも助けるよ」
「ほんとに!」
ぱっと希望にあふれる瞳。
「ああ、大丈夫...
俺たち、強いから」
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