戦争のアリス
ハン軍曹は、その見た目どおり戦争屋さんといった感じだ。
大きな体、そして修羅場をくぐりぬけてきた目、野心を隠さないその態度。
すべてが軍人の鏡とでもいおうか...
「知っての通り、我々は南軍と戦争中だ。
...アリスへの価値観が違ったことがことの発端だった」
「アリスの価値観..?」
翔は思わずつぶやく。
「ああ。
南軍は、アリスを使った行き過ぎた人体実験を行っている。
北軍はそれには反対なのだ」
「人体実験だと...?」
詩の顔は厳しくなる。
「ああ。
わしらも戦争にアリスを使うが、南軍のそれは比じゃない。
アリスの数が、異常に多い。
そしてさらに、異様なほどにその力が強いのだ」
ハン軍曹の指示で、戦いの記録を収めた映像が映る。
まさに戦禍の真っただ中だった。
北軍は戦車や大型の武器がメインに見えるが、南軍はどこか様子がおかしい。
戦闘機の大群にみえたそれは、よく見ると人間だった...
空を飛びながら様々な攻撃をしかけてくる。
それも一人の人間から、最低3種類の異なる攻撃が繰り出されていた。
「どういうことだ...」
翔もじっとその映像を見入る。
あっと思った時には、北軍の武器が南軍のアリスたちを捉え、まるでゲームの中のように次々と撃ち落とされる。
両軍とも、多大な犠牲を出していた。
「今見てもらった通りだ。
普通の考えじゃ、できないことだ」
「お互いな..」
詩の低い声、ハンは聞こえぬふりをする。
「こんなに多くのアリスを用意すること、それも複数のアリスを所持するなどありえない」
ここは、詩も翔も同意見だった。
「人の手、あるいはなんらかのアリスが加わっていると考えて間違いない。
日本政府によると、日本のアリスストーンの売買先が南軍だと...
そこで確信したのだよ。
今回はその、実験施設や関連施設を襲撃する。
そこにおのずと、君たちの探すものもあるだろう」
なるほどなと、翔は利害の一致の意味を理解した。
しかし、隣の詩は未だに険しい顔。
「ひとつ、聞いていいですか」
詩は静かに言う。
ハンは頷く。
「...戦争に、アリスは必要ですか」
ハンはうすら笑った。
「愚問だな。
もちろん、戦争にアリスは必要だ。
アリスこそ、国力だ___」
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