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ヒーロー



バタン...っ




車のドアがしまり、間もなく車はエンジン音とともに走り出した。

その瞬間に、車内には奏の泣き声が響いた。

まだ6歳の、幼い男の子。

家族との急な別れが、悲しくないはずがなかった。

でも、最後の最後まで、大好きな家族を心配させたくなかったから...笑顔で...

泣き出しそうなのをこらえながら...くしゃくしゃな顔をして...

お別れを言った。

ぽんぽんっと、詩はその小さな頭をなでる。

奏はずっとずっと、その詩の膝の上に頭を押し付け、泣いていた。







走り去る、車。

ああ、行ってしまう...

あの時...詩との別れを思い出す。

車が去ったあと、あの時も涙が止まらなくて...

「これでよかった、これでよかった....」

自分に言い聞かせながら、でも悲しくて、弱い自分を受け入れられなくて、泣くことしかできなかった。






「奏!奏!!」

何度もその名を呼んで、車を追いかけた。

さっき、別れのあいさつはしたのに...

でも自分はやっぱり弱いまま...

けっきょく奏も...守れなかった...

行かせてしまった。

父、トキの手紙を読んで、奏だけは、奏だけは守ろうと誓ったのに....





そんな震えて座り込む琴の肩を、夫が支えた。

舞も、「ママ..」と言って抱きしめる。





「奏の...奏の、成長を...

ずっと見続けたかった...っ

あの子がどんなふうに大人になっていくのか、見ていたかった...っ

...いつか、こうなってしまうのが怖くてしかたなかった。

また、また私は手放してしまう...って」

うんうん、と夫はやさしく頷く。

「大丈夫だよ...琴...

今は、詩が戻ってきてくれた。

詩が、君のお父さんが、また家族の絆をつなげてくれた。

琴...

詩がいるよ。

詩がまた、僕たちをつなげてくれる。

僕たちの希望だよ...」

その言葉にまた、琴の目から涙が溢れた____









学園へ向かう車内。

静かだった。

助手席の鳴海は、そっとミラーで後ろの2人を確認する。

泣き疲れて、詩の膝で眠る奏。

詩もまた、疲れたのか眠っていた。

その兄弟の姿が微笑ましかった。







詩...

君は、ほしいものを手に入れられたかい?

ずっと切望していた家族と...その愛...

急にそれが手からあふれるように沸いて...

そしてとてつもなく重いことを知って..

君はさぞかしびっくりしてるんだろう。



...そう、家族ってあたたかいんだ。

重くて、重くて、あったかい。

またひとつ守るものが増えたみたいだけど...

これは、負担なんかじゃないね。

君をこれからも、もっともっと強くするものだ...









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