ヒーロー
詩のところに、手当を終えた舞がやってくる。
「大丈夫か?
ケガ...」
舞はうん、と頷く。
「怖い思いをさせてごめんな。
でもこれからは、舞と、父さん母さん...
結界ってアリスでずっと守ってもらえることになったから、もう心配しなくて大丈夫」
奏が学園に行くことと、詩が国の任務を担うという条件のもと、詩の家族は国が責任をもって守ることになった。
もちろん、私生活には影響のない範囲。
今までよりも狙われることは格段に減るだろうし、自由度も高まる。
「お兄ちゃんが、守ってくれたの?」
舞は、奏といる両親のほうを向く。
「俺と、奏がね」
見慣れたこの笑顔。
だけど、不安で...
「ねぇ...私たちを守るために...
お兄ちゃん、無理...しないよね?」
舞の、泣き出しそうな顔に、はっとする。
「大丈夫、大丈夫。
俺は、舞たちが笑ってくれればそれでいいんだから。
無理とかしてない...
学園にだって、頼りになる仲間はたくさんいる」
ひとりじゃない、そう伝えたかった。
「お兄ちゃん、私...
お兄ちゃんのこと、化け物って思ってないよ」
その言葉に、さっきの男たちの言葉を思い出す。
舞には少し、見せすぎたかもしれない...
「舞...ずっと、ずっとそばにいれなくてごめんな...
急に現れて、また俺は行かなきゃいけない....
それも、奏を、舞の弟を連れて...
わけわかんなよな。
理解、できるわけがないよな....
話してあげられないことばかりで、ごめん....」
詩の顔が、申し訳なさで歪む。
しかし舞は、ううん、と首を振った。
「正直、アリスのことは、私にもわからないことだらけだけど...
お兄ちゃんのアリスも、奏のアリスも、私は怖くないよ...っ
だって、私を守ってくれたから...っ
きっと、おじいちゃんのもそうだったんだね」
舞は、ふわっと笑った。
兄の真似をしてみた。
こんな感じで、笑っていたと、思い出して。
「だから私は、式神のアリス、大好きだよ」
舞の笑顔に見入ってしまう詩。
救われた気持ちになる。
あんなふうに戦ったあと、こんな気持ちになれるなんて...
「ありがとう」
照れくさくて、目を合わせられなかった。
ミルクティー色の髪を通して、そっと舞のことをみた。
「お兄ちゃん、助けに来てくれてありがとう!」
ーすぐに助けに行く!
舞がどこにいても、俺がすぐに助けにいくよ
あの言葉どおりだった。
お兄ちゃんは、私のヒーローだ____
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