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ヒーロー



「これだけ騒ぎになったんだ。

奏くんはすぐに学園に強制送還だね」

アリス犯罪対策組織が到着し、それと一緒に鳴海も来ていた。

今は舞を襲った男たちを拘束し終えたところ。

詩は一旦、家族と離れた場所で手当てを受けているところだった。





「うん...

確かに急で...奏には酷なことだよ...

だからもう少しだけ、奏と両親を一緒にいさせてやりたい」

詩の視線の先、奏と両親は最後の別れを惜しんでいた。

「でも、君のそのケガ、さすがに隠し通せないでしょ。

...奏くんのアリスだろ」

「...違うよ」

詩は静かに言った。

その瞳は、またひとつ、何かを守ると決意した目だった。

詩はどうやら、奏のアリスの暴走については隠し通すつもりらしい。

そんなの、遅かれ早かれバレるに決まってる...

でも、自分と同じアリスをもった弟が、どんな境遇で学園生活を送るか、詩にはわかっているから...

少しでも、自分よりも...明るい道をまっすぐ歩いてほしいから...

そんな、詩の気持ちがわかるから、鳴海は黙った。

もうこれ以上、詩に言うことはなかった。

きっとあのアリスを正面で受けた時、幼い自分と重ねたのだろう...

そしてあの頃...

誰ひとりとして受け止めきれなかった、その、強すぎる孤独な力を...

今日、全身全霊で受け止めた。

きっと、奏と一緒に、詩はあの頃の自分も一緒に受け止めたに違いない...

心配する奏...痛くないよと笑う詩。

詩は、痛みさえも強い力にかえてみせる...

奏をみると、鳴海もそうやって小さな詩を思い出した。

この、小さな詩の弟...枢木 奏。

式神のアリス、東雲家の血筋。

彼に、どんな未来が待っているのだろうか...

決して平たんではないその道を、どんな仲間と共に歩んでいくのだろうか...

不安や心配はなくならないが、その成長が、教師として、楽しみであり、期待でもあった。






「はじめまして、枢木 奏くん。

アリス学園の教師、鳴海です。

みんなからはナルって呼ばれてるから、よろしくね」

そう、笑顔で奏の前に目線を合わせた。

奏は、少し緊張しているようだった。

でも、うん、と頷く。

「先生...」

笑顔で、うんそうだよーと言う鳴海。

詩に顔は似てるけど、かわいいなと、思っていた時だった。




「なんか、ヘン。

おかまっぽーい。

顔ちかいし」




そう言った奏に、笑いをこらえきれずにころげまわる詩。

ずずずっと、鳴海の顔から笑みが消える。

前言撤回。

やはり、同じ血の流れる兄弟。

「な、鳴海先生っおさえておさえて!

スマイル!スマイル!

親御さんがすぐそばにいますから...っ」

いつの間にいた副担先生が、必死に鳴海をとめるのだった。

その様子をみて、詩はぐっと親指をたてて、奏と笑い合った。






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