兄妹
琴も舞も、思わず目をつむってしまった。
シアター内は、静まりかえった。
そして、今まで感じていた大量の式神の気配がないことに気づく。
それからそっと、目を開けた。
そこに、式神はひとつもなくなっていた。
まるで、何事もなかったかのように....
だけど、目の前には、膝から崩れ落ちる奏。
そしてその前には、男たち...
ではなく、詩の姿。
はっと、琴は口を覆う。
詩もやがて、膝をついた。
その姿は、服がはりさけ傷だらけ、ボロボロだった。
ごふっと、血を吐きだす詩。
まさか、あの式神をすべて....受けた...?!
そんなことしたら...だって...っ
誰よりも早く、奏が走り出す。
「兄ちゃんっ兄ちゃんっ
なんで...っ
ごめんなさっ
僕、兄ちゃんのこと....っ」
ぱっと、抱きつく詩。
だけどもう、詩にはその声もきこえているかどうか...
ほら...倒れてしまう...
そう思った時だった。
がしっと、奏を抱きとめる傷だらけの詩の腕。
よかった...
舞は、ほっと胸をなでおろす。
奏も、詩の腕の中でその顔を見上げる。
「兄ちゃん、兄ちゃん...っ
よがったぁぁぁ。
死んじゃったかと、思ったぁ」
わんわんと泣き叫ぶ奏。
しかし詩は、傷だらけの顔で笑っていた。
「怖かったな、もう、大丈夫だぞ...」
安心した奏は、ずっとずっと泣き続けた。
「ぼっぼく...っ
兄ちゃんにっ」
アリスを向けてしまった、
傷つけてしまった...
大好きな人なのに...っ
詩は言いたいことがわかるようで、うんうんと頷く。
「奏、ほら、顔上げて」
奏が、涙にぬれた顔で詩を見上げ、少し驚いた顔をする。
それは、さっきまであった傷が、なくなっていたから。
「ほら、大丈夫だろ?」
詩は笑う。
「式神の攻撃は俺には効かないよ。
傷ついても、ほら、すぐ治る」
詩が腕の傷をみせると、すっともとの皮膚に戻るところだった。
奏は、目をぱちぱちさせる。
「でも、痛かったでしょ...?」
「これくらい、俺は平気...っ
俺、つよいからなっ」
自信満々の兄。
その、強い腕の中に、僕はいるんだ....
「それに、ほとんどの式神は俺の中で吸収できた。
...奏が、一点に攻撃をしぼってくれたから」
だから痛くないよ、ぽんぽんっと、詩は奏の頭をなでる。
詩はあの一瞬で奏の式神を体中ですべて受け止め、体内へと取り込んでいた。
数も数だったため擦り傷は免れなかったが、式神のつくった傷はすぐに治った。
「大活躍だったぞ、奏?
だからもう泣くなって」
詩はそう言って笑った。
だけど奏は、何か決意したような目をしていた。
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